ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第二十七話

501基地、管制室――

 

 かつてはネウロイの情報を集め、戦闘中のウィッチ達にそれを送る役目を受け持っていたその部屋は、ウォーロック制御のために、様々な機器が置かれている。

 

 だが、その部屋を掌握していたマロニーの部下達はバルクホルンによって叩きのめされ、ミーナ達の手に戻っていた。

 

「……事実を捻じ曲げた官邸への報告書、偽情報のマスコミへのリーク、本来私達に支給されるはずだった物資の隠ぺいや予算の目的外使用……ずいぶんと色々となさったようですね」

 

 相変わらず管制室の一段高い所に立つマロニーに対し、隣にいるミーナは基地近くの廃屋で手に入れた資料を突きつける。その顔には怒りが込められていた。

 

「……それが必要だったからだ。人類にとってな」

 

「貴様……!」

 

 静かに瞠目しながら告げるマロニーに掴み掛ろうとするバルクホルンだが、それをミーナが制する。

 

「確かに、ネウロイを倒すテクノロジーを得られれば人類のためになるでしょう。ですが、だからといって私達を陥れ、ウィッチを排除しようとすることが人類のためになるとは思えません」

 

「それがなるのだよ。ミーナ中佐」

 

「……えっ?」

 

 ミーナは呆け、気付く。目の前にいるマロニーは、部隊の解散を宣言した時の彼と、雰囲気が全然違うことに。

 

 マロニーは、静かに語り始めた。

 

「……各国軍の中には、君達が思っている以上にウィッチを快く思っていない者達が多い。彼らはウィッチを排除し、人類を危機に陥れてまで権力に縋る。――当然連合国軍内部にも。そんな彼らは、ある時、君達を超える力を持つことが出来るかもしれないものを手に入れてしまったのだ」

 

「ネウロイのコア、ですね?」

 

「そうだ。これを解析すれば、ウィッチ以上の力を持てると彼らは思ったのだ」

 

「……まさか」

 

 ミーナは、マロニーが言わんとすることに気付いた。

 

「私は危惧した。もしネウロイのコアが暴走したら、我々にはなすすべがなくなるではないかと。……だから私はこの計画に賛成した」

 

「なぜそのことを危惧していながら、計画に賛同なんか……!」

 

「――その計画を、確実に失敗に追い込むため」

 

「!」

 

 ミーナの告げた言葉に、バルクホルンは驚く。

 

「違う。確かに失敗の確率は高いが、成功しないとも限らない計画だった。私は失敗した時のために保険をかけるため、この計画の責任者となったのだ」

 

「まさか、上坂大尉を簡単に引き入れたのも……」

 

「そうだ。もしウォーロックが暴走した際、確実に撃墜できる戦力が必要だった。そのために私は上坂大尉に手伝ってもらったのだよ」

 

「例え情報が洩れても?」

 

「それは心配していない。チャーチル閣下は結果を重視する方だ。ウォーロックがウィッチ以上に戦果を上げれば、例え情報が洩れても、もみ消してくれると考えていたからな」

 

マロニーは続ける。

 

「そして、もし計画が失敗し、ウォーロックが暴走した場合、扶桑皇国の諜報組織“明石機関”きってのエースでもある上坂大尉に処理してもらう予定だった。命令も聞かず、感情のままに動く君達ウィッチに頼めんからな」

 

「明石……機関……?」

 

 次々と明らかになってくる上坂の本当の姿に、戸惑いを隠せないバルクホルン。だが、ミーナは初めから知っていたのか、全くと言って良いほど動じていなかった。

 

「確かにそうですね。彼ならばこの計画を秘密処理に片づけることなど朝飯前でしょうし」

 

「ああ。――最も、今では秘密もへったくれもないがな」

 

「? それはどういう……」

 

「大変だよ! ミーナ」

 

 その時、ずっと窓の外を眺めていたエーリカが叫ぶ。それを聞いたマロニーが、静かに告げる。

 

「先ほども言っただろう? ウォーロックには暴走する危険があると。そして今、上坂大尉は我々の尻拭いをするために……」

 

「ウォーロックとケイイチローが戦ってる!」

 

「なんですって!?」

 

「ミーナ!」

 

 驚愕の声を上げるミーナ。バルクホルンとエーリカは一目散に格納庫に向けて走り始め、ミーナもそれに続こうとして――はたと立ち止まり、マロニーに顔を向けた。

 

 マロニーは肩をすくませながら言う。

 

「格納庫には整備が完了したストライカーが暖機状態で置いてある。――心配しなくていい。計画が失敗した今、誰かが責任を取らなければならないからな。私は逃げも隠れもせんよ」

 

 しばらくマロニーを睨みつけていたミーナだったが、彼に向かって敬礼をすると、バルクホルン達の後を追った。

 

「……上坂大尉は君達ウィッチにとって必要な存在だ。彼を……彼を助けてやってくれ」

 

 マロニーのつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 

 基地から少し離れた空域で、上坂は暴走するウォーロックと死闘を繰り広げている。

 

 眼下では空母赤城を含む扶桑艦隊が、全速力で退避していた。しかし上空から見ていると、先ほどからほとんど位置が変わっていない様に感じる。上坂はそんな彼らに流れ弾が行かないようシールドでビームを防ぐが、そろそろ魔法力が限界に近づいて来ている。

 

 既に物体浮遊(ポルターガイスト)で多重攻撃を行っていた機関銃は弾が切れ、手元にある12.7mm機関銃もそろそろ弾薬が心ともなくなってきた。幸い妖刀“黒耀”があるため、攻撃手段がなくなることは無いが、ウォーロックの強力な攻撃では近づくことすら出来ない状態である。

 

(……もし、この場に501が……あいつらがいてくれれば……!)

 

 ない物ねだりだということわかっている。いくら必要だったとはいえ、自ら決意しておいて今更だとわかっている。だが、それでも思わずにはいられなかった。

 

 ――と、その時。

 

「……!」

 

 突然別方向から、ウォーロックに銃弾が降り注ぐ。上坂に狙いを定めていたウォーロックはその攻撃でひるんだのか、一旦彼から距離を取った。

 

「今のは……」

 

 上坂は銃撃のあった方向に視線を移す。

 

「大丈夫ですか! 上坂さん」

 

 ――そこには零式戦闘脚を履いた、宮藤の姿があった。

 

「宮藤……!? なんでここに……」

 

 上坂は驚愕する。赤城にはストライカーユニットを搭載していないと聞いてため、赤城に乗っていたはずの宮藤がここに駆けつけてくるとは思わなかったからだ。

 

 暫く呆けていた上坂だったが、すぐに我に返る。

 

「なぜここに来た! 宮藤!」

 

「私にできることをしたいんです!」

 

「お前はこの薄汚い戦場に立つべきじゃない! 帰れ!」

 

 この戦いは、人間の強欲によって引き起こされたもの。そんな戦いに彼女達を――ひたすらに真っ直ぐな彼女達を巻き込ませるわけにはいかない。だが――

 

「そんなの……そんなの勝手に決めないでください!」

 

「!」

 

 恐らく彼の前で、初めて宮藤が怒鳴る。

 

「私は戦いたいからここにいるんです! 私は後悔したくないんです! お願いです! 一緒に戦わせてください!」

 

「……宮藤」

 

 上坂はしばらく黙り込んでいたが、ややあと微かに微笑んだ。

 

「……後悔だけはするなよ」

 

「――はいっ!」

 

「宮藤さんだけじゃないわよ。啓一郎」

 

「ミーナ中佐!」

 

 二人が振り返ると、そこには他の隊員達がいた。第501統合戦闘航空団勢揃いである。

 

「……なんでここに」

 

「……あなたのことは全てこの子達に話したわ。――それでも、あなたと共に戦いたいと言ってくれたの」

 

「…………」

 

 上坂は皆を見回す。

 

 ――ここにいる全員、微笑んでいる。

 

「……まったく。首を突っ込みたがる奴ばかりだな」

 

「それがウィッチよ。啓一郎」

 

 ミーナへの返事の代わりに、上坂は軽く肩をすくめる。彼女はそれを了解と受けとった。

 

「ねえ見て!」

 

 エーリカが声を上げながら指さす。

 

 彼女の指さす方向はガリア。未だ上空に巣食うネウロイの巣から、おびただしい数のネウロイが向かって来ていた。

 

「なんて数だ……」

 

「ふん、今の私達なら大した数ではないな」

 

「まっ、なんとかなるんじゃな~い?」

 

「ハルトマンの言う通りだ。ウィッチに不可能はない!」

 

「そうです! 私達は絶対勝てます!」

 

「みんな……」

 

 これだけの数の敵を前にしながらも、彼女達は戦意を失っていない。ミーナはかすかに微笑むと、気を引き締めた。

 

「――さあみんな。最後の戦いよ」

 

 11人のウィッチの前には、ガリアから大挙してやってくるネウロイ。そして、ウォーロック。

 

「全機、目標はウォーロック! 攻撃開始!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

「行くぞ! ルッキーニ!」

 

「は~い!」

 

 まず先陣を切ったのはシャーリーとルッキー二。シャーリーがスピードを生かしてネウロイを翻弄し、隙をついてルッキーニが体当たり。これによって早くも一機を撃墜した。

 

「私達も負けていられるか!」

 

「よ~し! 頑張っちゃうぞ~!」

 

 シャーリー達に負けじとバルクホルンとエーリカも一機のネウロイに狙いを定め、集中砲火を浴びせる。

 

「サーニャ、大丈夫カ?」

 

「うん、エイラと一緒なら、大丈夫」

 

 サーニャはエイラの未来予知を借り、効果的に皆の援護する。

 

「リーネさん。後ろは任せましたよ」

 

「わかりました! ペリーヌさん」

 

 ペリーヌは前に出て、固有魔法”電撃”で周囲のネウロイを掃討し、残ったものはリーネが的確に打ち抜いていく。

 

「みんなさすがね」

 

「ああ、これだけのネウロイを圧倒するとは……」

 

 たった11人のウィッチがネウロイの大群を圧倒している――ウィッチ達が乱舞する後には、白い破片となったネウロイの残骸が空中に舞う。

 

「……でも、このままではジリ貧だわ。早くウォーロックを撃墜しないと……」

 

 ミーナは隊員達が暴れているさらに奥――ネウロイを操っているためか、さっきから全く動かないウォーロックを睨む。

 

「あそこまで近づけたら……」

 

 今なら簡単にウォーロックを撃墜できるだろうが、大型ネウロイの大群が彼女達の侵入を阻み、とてもではないが近づけそうにない。

 

「美緒、突っ込むとか言わないでね」

 

「それはわかってるさ。私とてむざむざと死にたくはない」

 

「あの……!」

 

 ミーナ達の近くにいた宮藤が、口をはさむ。

 

「私に行かせてください!」

 

 ミーナは一瞬驚いた顔になったが、すぐに表情を引き締めた。

 

「駄目です。あなたじゃこのネウロイの大群を突破するのは難しいし、もし突破してもウォーロックと戦える技量があるとは思えないわ」

 

「でも……!」

 

「はっはっはっ!」

 

 なお食い下がろうとした宮藤だったが、突然坂本が大笑いした。

 

「みっ、美緒?」

 

「いいじゃないか、ミーナ」

 

 宮藤を一番よく知っていると自認する坂本は、宮藤に助け舟を出す。

 

「ここのところの宮藤の伸びは凄いものがある。それに他の皆は他のネウロイに忙殺されて他に手を回せない。――どうだ、宮藤に賭けてみるのも悪くはない」

 

「……まったく、扶桑の魔女って……」

 

 呆れながらも苦笑するミーナ。一拍おいて、全隊員に通信を繋いだ。

 

「全隊員に通達。ウォーロック撃墜のために宮藤さんが向かいます。各隊員は彼女の道を開いてください」

 

『宮藤が!?』

 

『りょうかーい!』

 

『頑張ってね! 芳佳ちゃん』

 

「聞いての通りだ。……頑張れよ、宮藤」

 

「はいっ!」

 

 坂本に見送られ、宮藤がネウロイの合間を縫いながら、ウォーロックに向かっていった

 


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