ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第二十六話

赤城をかすめるように飛んで行ったウォーロックは、そのままガリア上空のネウロイの巣に進路を取っていた。

 

「早速来ましたわ」

 

 宮藤達が眺める中、黒い雲間から一機のネウロイが出現する。

 

 大きさは300mほど、ウィッチならば複数で対応しなければ撃墜することは難しい。しかし――

 

「! なんだと!」

 

 坂本が魔眼で見ているなか、ウォーロックは無数のビームをヒラリとかわすと、機首からネウロイと同じ赤いビームを放ち、ネウロイを一撃で葬り去った。

 

「す、すごい……」

 

 短期間ながらネウロイと戦い続けてきた宮藤にもわかる、ウォーロックの凄さ。確かにあのような機体が量産されれば多くの人の命が救われる――宮藤もそう感じずにはいられなかった。

 

「……いや、待て!」

 

 戦闘が終わったと思った坂本は、異変に気付く。黒い雲間から新たにネウロイが2機、3機……どんどん増えていく。

 

「なんだこれは! いままでのネウロイの攻撃パターンとは明らかに違う!」

 

 やがて何十ものネウロイがウォーロックの周りを旋回し始めた。まるでウォーロックを囲う檻の様に――

 

 

 

 

 

「ネウロイの総数不明! ウォーロックの処理能力の限界を既に超えています!」

 

 基地の管制室では、蜂につつかれたような騒ぎが起きていた。先ほどまでは勝利を確信し、勝ち誇っていた副官も表情を歪ませている。

 

「……コアコントロールシステムを稼働させろ」

 

 そんな中、マロニーは冷静に対処を下す。しかしそれは研究員達によって却下された。

 

「駄目です! コントロールするには共鳴したコアが最低でも5つは必要です! 使用できません!」

 

「なに……!」

 

 突然警報が鳴り始めた。

 

「どうした!」

 

「そ、それが……コアコントロールシステムが勝手に動き始めました!」

 

「なんだと!?」

 

 悲鳴のように叫ぶ兵士の報告に、マロニーは驚愕した。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 基地にほど近い廃屋で、バルクホルンは机の上に置いてあった資料を手に取っていた。

 

「何これ? 数字ばっかり……」

 

 覗き込むように見ていたエーリカはその資料が数字ばかりだと気付くと、途端に興味を失う。

 

「なるほど……、マロニーはこんなことまで……」

 

「ミーナ、これはなんなんだ? どうやら何かの報告書だということはわかるんだが……」

 

 バルクホルンは、厳しい顔で別の資料を読んでいたミーナに顔を向ける。

 

「これは啓一郎が独自に調査を行っていたものよ。情報統制の厳しいはずだったから、この情報を持ち出すのは苦労したと思うわ」

 

「ちょっと待ってくれ! 上坂だと!?」

 

 ミーナの口から出た人物に驚愕するバルクホルン。そんな彼女に、ミーナは微笑みを浮かべた。

 

「ええ、……マロニー一派が何か企んでいることはだいぶ前から掴んでいたのだけど、容易に尻尾を出さなかったからこちらから仕掛けることにしたのよ。最も、私も彼らが簡単に啓一郎のことを引き入れるとは思わなかったけど」

 

「だからって……なぜ上坂なんだ?」

 

「それは……」

 

 ミーナの発言は、エーリカの叫びによって遮られる。

 

「見て! ネウロイが!」

 

「なに?」

 

 バルクホルンは廃屋にあった、場違いのような高性能ペリスコープを覗き込み――驚愕した。

 

「なんだと!?」

 

「どうしたの? トゥルーデ」

 

「ネウロイが……同士討ちしている?」

 

「なんですって!?」

 

 さすがのミーナも驚く。

 

「まさかこれもウォーロックのせい……」

 

「それはわからないわ。とにかく、すぐに基地に行きましょう!」

 

「わかった!」

 

 ミーナ達は、基地に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「すごい……ネウロイが同士討ちしている……」

 

 突然起動し始めたコアコントロールシステムに、最初はこの場にいる全員が慌てたが、それが正常に稼働していることを稼働すると、司令部にホッとした空気が流れた。

 

「予想以上の成果だな」

 

「ええ、これが量産されれば、我々は世界のイニシアチブを握れます」

 

 副官がそう言い終わると、モニター上に映っていたネウロイが全ていなくなり、ウォーロックだけが表示されていた。

 

「ネウロイ殲滅完了しまし……これはっ!?」

 

「どうした!」

 

 モニター監視員の顔が驚愕に変わる。途端に鳴り響く警報。

 

「こちらの……こちらの制御を受け付けなくなりました!」

 

「ウォーロック、付近にいた扶桑艦隊に向け、進路を転換!」

 

「ネウロイ、暴走しています!」

 

 次々と上がる、兵士達の悲鳴。

 

「このままでは扶桑艦隊が危険です! 至急ウォーロックの停止を!」

 

「駄目だ! 貴重な0号機が海中に没してしまう!」

 

「ですが、このままでは……!」

 

「くっ……!」

 

 悔しそうな表情を浮かべ、上官に視線を向ける副官。

 

「……背に腹は代えられん。ウォーロック強制停止システム、稼働準備!」

 

 上官であるマロニーはしばらく黙っていたが、顔を上げると、非情な決断を下した。

 

 

 

 

 

「終わった……のか……?」

 

 ネウロイの同士討ちを見ていた坂本達は、まだ自分が見た物を信じられないというように呆けている。

 

「あっ、ウォーロックが来た」

 

 基地に帰還しようとしていたウォーロックは、突然進路を変更すると、遣欧艦隊上空でホバリングをする。

 

「……挨拶にでも来たのかな?」

 

「まさか、無人機ですわよ」

 

 しばらく上空にとどまるウォーロック。次の瞬間、ウォーロックは両腕を広げた。

 

「なっ!?」

 

 胸の前に赤い光を集めるウォーロック。それは明らかに宮藤達の乗っている赤城を狙らっている。

 

「くっ……!」

 

 放たれる野太いビーム。それは赤城に着弾するはずだった――

 

「……えっ?」

 

 身構えていたにもかかわらず、いつまでたっても来ない衝撃。宮藤達は恐る恐る顔を上げる。

 

「あ、あれは……!」

 

 ウォーロックと赤城の、ちょうど中間地点に煌く梵字のシールド。

 

 501の隊員達を裏切ったはずの男、上坂啓一郎がそこにいた。

 

 

 

 

 

(……くそ、危惧していたことが起きてしまったか)

 

 ウォーロックから放たれる強力なビームをシールドで防ぎながら、上坂は悔しそうに顔を歪めていた。

 

 ウォーロック――

 

 それは、偶然ネウロイのコアを鹵獲することが出来たことで始まり、ネウロイのコアを文字通り“核”とし、ネウロイに対抗できる――言い換えるならば、ネウロイ同士で争わさせるようにするための計画。その研究の過程で誕生したのがウォーロックだった。

 

それはウィッチを必要としない、人類の新たなる刃として期待されていたが、同時に開発当初から暴走が懸念されてもいた。当たり前である。ネウロイのコアという、人類がまだ解明していない物体を使用するのだから。

 

 当然その対抗策として、さまざまな暴走防止対策が施されていたが……残念ながら、目の前の現状を見る限り、それらは全く役に立たなかったようだ。

 

 上坂は背負っていた二丁の銃をほおり投げ、宙に浮かべる。人類期待の無人戦闘機が暴走し始めたいま、それを止められるのはこの場にいる彼しかいない。

 

「この計画に加担した以上、自分の手で尻拭いせんとな」

 

 静かにそうつぶやくと、漆黒と化したウォーロックに攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

「……戦っている」

 

 宮藤が茫然と見上げる空では、漆黒と化したウォーロックと上坂が死闘を繰り広げている。

 

 宙に浮く2丁の機関銃と右手の機関銃、計3丁の機関銃で包囲するように攻撃を仕掛ける上坂。自慢の火力と機動性で翻弄するウォーロック――いや、ネウロイ。

 

「……悔しいですわ」

 

 彼女の隣にいたペリーヌが、悔しそうにつぶやく。

 

「私達にも戦う力があるにもかかわらず、こうして下から見上げるしかないなんて」

 

「……うん」

 

 かつて彼と共に肩を並べて戦った空。しかし、今は鋼鉄の翼を奪われ、ただ見上げることしかできない。

 

「私達は、なにもできないのか……」

 

 坂本が打ちひしがれていた。その時――

 

「きゃあっ!」

 

「くっ!」

 

 ウォーロックが放ったビームが流れ弾になり、赤城の至近距離で海面を叩く。盛大な水飛沫を上げた波が、そのまま赤城を襲った。

 

「いたたたた……さ、坂本さん!」

 

「少佐!?」

 

 転倒したものの、すぐに立ち上がった宮藤とペリーヌは、坂本が車椅子ごと倒れていることに気付き、慌てて駆け寄ろうとする。

 

(あれ……?)

 

 しかし、宮藤はある者を見つけると、茫然と立ち尽くした。

 

「大丈夫ですか、少佐!」

 

「ああ、大丈夫だペリーヌ」

 

 ペリーヌに抱え起こされる坂本。そして、ふと宮藤が立ち尽くしていることに気付く。

 

「どうかしたか、宮藤……!」

 

 坂本は、宮藤の視線の先を辿ると驚愕した。

 

 横倒しになった車椅子――先ほどまで坂本が使っていた車椅子の座席下の場所から、ふちが黒く、全体的に白い筒状のものが飛び出していたからだ。

 

「あれは……まさか!」

 

 零式艦上戦闘脚二一型甲――扶桑皇国海軍の主力ストライカーユニットであり、坂本と宮藤が愛用していた機体である。

 

 機番号からして、それは坂本の機体。しかし当の本人もこの場に自分のストライカーがあることに驚いていた。

 

「なぜここに? ……いや、そんなことを考えるのは後だ!」

 

 こうしている間にも、上空では戦闘が続いている。一見すると分からないが、徐々に上坂が押され始めている。そう長くは持たないだろう。坂本は二人に告げた。

 

「艦隊が退避するまで、私が出撃して時間を稼ぐ!」

 

 ペリーヌは驚愕し、坂本を止めようとする。

 

「無茶ですわ、少佐! それなら私が……!」

 

「ペリーヌは零式を使ったことが無い。この機体を熟知しているのは私だけだ」

 

「ですが……」

 

「……なら、私が行きます」

 

 ずっと黙っていた宮藤が、口を開く。

 

「宮藤?」

 

「私なら坂本さんほどではないですけど、ずっと零式を使用していました。私なら戦えます!」

 

 たしかに宮藤ならペリーヌよりも、零式をうまく使えるだろう。だが坂本も譲らない。

 

「駄目だ。これは上官の決定だ」

 

「坂本さん……坂本さんは死ぬ気です! そんなの私、嫌です!」

 

「……!」

 

 坂本は、宮藤に自分の心を読まれたことに驚いた。

 

「私、死ぬってことは諦めるってことだと思うんです。でも、わたしは諦めたくない、守りたいんです!」

 

「守りたい……か」

 

 坂本は静かにつぶやき、目をつぶる。

 

 そして――

 

「宮藤、出撃準備だ!」

 

 坂本は、命じた。

 


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