ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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第二十四話

 宮藤芳佳軍曹の脱走――

 

 その知らせを聞いた隊員達の反応は様々だった。

 

 やるなあとつぶやく者、馬鹿者と怒る者、それぞれさまざまだが、全員が分かったことが一つだけあった。それはこのことがマロニーの耳に入るとまずいということだ。

 

(でも、その大前提は崩れてしまっている……)

 

 先ほど司令部から直通電話があり、宮藤に対する撃墜命令が下ったからだ。

 

(やはり何処かで情報が漏れている……いえ、今はそんなこと考えてる暇はないわ)

 

 ミーナは格納庫でストライカーを履きながら、自分のすべきことを確認する。

 

(私達がやらなければいけないのは、まず宮藤さんをこちらで確保すること! そうすればマロニーも容易には手を出せないわ!)

 

「ミーナ!」

 

 格納庫へ上坂が駆けこんでくる。先ほどのブリーディングには来ていなかったが、恐らく他の仕事をしていたのだろう。いくら彼でも宮藤の脱走を予想することなどできなかったはずなのだから。

 

「啓一郎は残って! 基地のことお願い!」

 

「……わかった!」

 

「さあ、出撃するわよ!」

 

「了解!」

 

 ミーナは出撃するバルクホルン、エーリカ、シャーリー、ルッキーニと共に、大空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

「……いた!」

 

 昨日と同じところに来た宮藤は、そこに昨日の人型ネウロイがいることを確認した。

 

 あちらも宮藤を見つけたのか、ある程度まで近づいてくる。

 

(……やっぱり確かめないと、ネウロイと分かり合えるのかどうか)

 

 やらない後悔より、やる後悔の方がまし――。それが、宮藤を脱走させる決断を指せた言葉。

 

 宮藤は人型の前でホバリングする。人型は少し彼女と対面すると、背中を向けて移動し始めた。

 

「あっ! 待って!」

 

 人型の向かう先は、巨大な渦を描く黒い雲――ガリアを覆うネウロイの巣だ。

 

「……雲の廊下みたい」

 

 宮藤はその光景に感動する。それが敵の本拠地であることはわかっているが、彼女は恐れず、そのまま中に入っていった。

 

 

 

 

 

「……入っちゃった」

 

 茫然とつぶやくシャーリー。今まで幾度となくあの巣を破壊しようとして、そして近づくこと知ら出来ずに失敗してきたにもかかわらず、宮藤は当たり前のように巣の中に入っていった。

 

「奴らの罠か!?」

 

「いえ、それはわからないけど……」

 

 ミーナは追おうとしようとするバルクホルンを止める。

 

「……今は彼女を信じましょう」

 

 

 

 

 

「これは……どういうこと……?」

 

 宮藤は、ネウロイから見せられた映像に困惑した。

 

 最初は青い海と白い雲に覆われた天体――地球。

 

 続いて空を飛ぶネウロイと、それを迎撃する戦闘機。

 

 シールドを張り、ネウロイに肉薄する一人のウィッチ――それは宮藤も知っている、坂本だった。

 

 場面は変わり、地面に落ちたコアを囲む白い服を着た集団。

 

 そしてどこかの工場らしき場所で、暗闇に光る人型の機械――

 

「ねえ、これはいったい何なの? どうしてこの映像を私に見せるの?」

 

 宮藤は隣にいる人型に話しかける。が、返事はない。ただ、ネウロイはすっと手を伸ばした。

 

 ゆっくりとその手を掴もうとする宮藤。

 

 二人の手があと数センチで触れると思った時――

 

 人型は何かを察知したのかと思うと、姿を消した。

 

 

 

 

 

 ミーナ達は突然現れた人型に驚きながらも、すぐに戦闘態勢を整え、散開する。しかし、人型はそれに反応せず、ただじっとブリタニア本土を見続ける。

 

「いったいなにが……」

 

 ミーナが呟いた時だった。

 

 突然現れた銀色の飛行体。それは猛スピードで人型に近づくと、機首についていた機関砲を撃った。

 

 機関砲弾を回避した人型は、両手を変形させ、飛行体目掛けてビームを放つ。だが飛行体はそれを軽々躱すと、人型に変形する。

 

「なんですって!?」

 

 ミーナが驚く中、その機体は両手を胸の前で合わせると、ネウロイと同じ赤いビームを放った。

 

「ビームだって!?」

 

 驚愕するルッキーニ。放たれたビームはそのまま人型を一瞬で消し去り、後方にあった巣を貫いた。

 

「なんて威力だ!」

 

「あいつ、強いぞ!」

 

 バルクホルンとハルトマンは緊張した面持ちで謎に機体を睨みつける。だが、それは人型を撃墜すると、何処かへと去っていった。

 

「なんだったんだ、あれ……」

 

 茫然とそれが消えて行った方向を見続けるシャーリー。

 

「あっ! 芳佳!」

 

 ビームの衝撃で気を失ったのか、落ちていく宮藤を見つけたルッキーニは、彼女を追った。

 

 

 

 

 

「すまんな、ペリーヌ。わざわざ看病してもらって」

 

「いえ、これ位当然ですわ」

 

 同じころ、基地の病室では、坂本とペリーヌが話をしていた。

 

「しかし……宮藤が脱走とはな……」

 

「まったく、あの子ったら……」

 

 さすがのペリーヌも、坂本の前では宮藤を豆狸とは呼ばない。

 

「ははは、まああいつはああいう奴だからな。だからこそ、私も早く治して復帰せねば……」

 

 しかし、その言葉は途中で遮られた。突如完全武装した兵士達が病室に入ってきたからだ。

 

「なっ! なんですの、あなた達は!」

 

「何事だ!」

 

 銃を向けられ、坂本達が身構えると中尉の肩章をつけたブリタニア人らしき指揮官が入ってきた。

 

「坂本美緒少佐、ペリーヌ・クロステルマン中尉。我々は手荒な真似はしたくありません。どうか一緒に来ていただけますか? ――ああ、坂本少佐、あなたには車椅子を用意しましたから大丈夫ですよ」

 

 指揮官は、優雅な微笑みを湛えながら一礼した。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 宮藤を確保し、基地に帰還したミーナ達の目に飛び込んできたのは、兵士達に囲まれた隊員達と、その中心に立つ壮年の男性――

 

「ご苦労だった、ミーナ中佐」

 

「……まるでクーデターのようですわね、マロニー閣下」

 

 マロニーを睨みつけるミーナ。マロニーは勝ち誇るように書類を突きつける。

 

「事例に基づく正式な配置転換だ。この基地は私の配下である第一特殊強襲部隊、通称ウォーロックが引き継ぐことになった」

 

「ウォーロック?」

 

 眉をひそめるミーナ。

 

 その時マロニーの後ろに、先ほどの謎の機体が降りてくる。

 

「そう、これこそがネウロイ研究の結晶! 魔女でなくともネウロイと戦える最強の兵器、ウォーロックだ!」

 

 彼は両手を広げ、そう叫んだ。

 

「……相変わらず、趣味が悪いですわね」

 

「なんとでも言うがいい。……まあこれまでブリタニアを守ってきたことは感謝しよう。だが、このウォーロックがある限り、君たちは必要としないのだよ」

 

「つまり……」

 

 ミーナは、分かっていてても尋ねずにはいられなかった。

 

「そうだ、本日をもって第501統合戦闘航空団は解散する!」

 

「そんな……」

 

 力なくつぶやく宮藤。

 

「閣下、基地内の制圧完了しました」

 

 その時、マロニーの後ろから声を掛けた人物がいた。

 

 その人物の右頬には、見慣れた傷がある。

 

「おお、そうか。ご苦労だったな」

 

 その言葉を、当たり前のように受け止めるマロニー。

 

「えっ?」

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

 隊員達は今更ながらに、その人物が自分達の周りにいなかったことに気付く。

 

 本来501は全部で12人――だが、今は11人しかいない。

 

「……どういうことだ」

 

 バルクホルンはマロニーの隣にいる人物を睨みつける。

 

「どういうことだ上坂ぁ!」

 

 ――扶桑皇国陸軍、上坂啓一郎大尉。

 

彼はマロニーの傍に立っていた。

 

 

 




最近フミカネさんがんばっていますなぁ(ファンとしてありがたや~

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