ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記   作:軍曹

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ここ最近大学のレポートに追われる毎日……いかん、執筆が進んでいない。


第六話

「扶桑に戻る? なんで今頃?」

 

 先ほど、ミーナに呼ばれて執務室に来た上坂は、坂本が一旦扶桑に戻るということを告げられ、驚いた。

 

 その驚きは当然だというように、坂本は苦笑いしながら話を続ける。

 

「いや、実は扶桑で有望なウィッチが見つかったという連絡があってな。それで私がスカウトしに行くことになったんだ」

 

「スカウトって……。それじゃあブリタニア防衛はどうするんだ?」

 

 上坂の言う通り、501はブリタニア防衛の一翼を担っていて、ガリア方面からのネウロイ侵攻を防いでいる。

 

 しかし、現状は戦闘統合団の定数である14人にも届かず、綱渡り的部隊運営が続いている。そんな中で副隊長である坂本が抜けるのは、非常に問題だった。

 

「それは問題ないわ」

 

 だが、ミーナはその対応策を練っていたのか、一枚の書類を机の引き出しから取り出すと、上坂に差し出した。

 

 上坂はその書類を受け取り、パラパラとめくる。

 

「リネット・ビショップ軍曹…… 新たな補充か」

 

「ええ、そうよ」

 

「なるほど……。これなら確かに人数が増えて楽にはなるな。……だが新人か」

 

 上坂は苦い顔をする。実戦では、新人――特に初実戦時の死傷率が極端に高く、ましてや501は、ブリタニア防衛の中でも激戦区に投入されることが多く、そのため性格はともかくとして、隊員達の腕は非常に高い者が中心だ。

 

 そんな中に右も左もわからない新人隊員を入れると、自信を無くしてしまうのではないかという懸念があった。

 

「まあ確かにそれは問題だけど…… そこは啓一郎が何とかやって頂戴」

 

「……俺に押し付ける気満々だな」

 

 上坂は半ばあきらめた声で、恨めしそうにミーナを睨む。ミーナは苦笑いし、坂本はすまなそうな顔をした。

 

「すまないな。本当なら私が新人の教育をすべきなんだが……」

 

「……まあいいさ。それに、他の奴に教官なんて出来ないだろうしな」

 

 上坂は、規則に厳しい者や、自分の夢に向かって突っ走っている者、戦闘では頼りになるのに日常生活ではむしろ足を引っ張り続けている者を思い浮かべた。

 

そんな奴らに教育を任せたら、さらに大変なことになるな、絶対――。

 

 上坂は、将来の自分に負担がかからないよう教育せねばと、半分本気で考えた。

 

 

 

 

 

(どうして私がこんなところにいるんだろう……?)

 

 ブリタニア空軍所属、リネット・ビショップ軍曹は、心の中でつぶやいていた。

 

 自分の所属することになった第501統合戦闘航空団は、祖国であるブリタニアの防衛の一翼を担う多国籍精鋭部隊であり、各国の名だたるエース達が名を連ねている。

 

(それに……)

 

 リーネの訓練教官である、上坂啓一郎と名乗った、世界でも珍しい男性ウィッチを見る。

 彼の右頬には横に走る大きな傷があり、ほとんど変わらない表情と鋭い目つきで、男性とあまり接点がなかったリーネにとって、少し苦手な存在だった。

 

 それだけならばまだしも、彼は欧州のウィッチの間では有名で、曰く「百機のネウロイに囲まれても生還した」、「自信を盾にしてまでも避難民を救った」など、凄まじい伝説がある。

 

 そんなすごくて怖い人に、よりによって射撃訓練の指導を受けている――。 気が弱いリーネにとって、それはあまりにも大きなプレッシャーだった。

 

「よし、リーネ、撃ってみろ」

 

「はっ、はい!」

 

 リーネは慌てて伏せ、銃を構えると、1kmほど離れた海上に浮かんでいる標的に照準を合わせる。

 

 リーネの使用している銃は、ボーイズMk.1対装甲ライフル。 ボトルアクション式の大型狙撃銃である。その銃の使用する弾丸の口径は13.9mm。この銃以外ではほとんど使われることのない大型の弾丸だ。

 

 リーネは、その弾丸を標的に命中させるべく、全神経を集中させ、息を止める。そして――

 

轟音――。

 

 音速のおよそ三倍の速さで放たれた弾丸は、待機を切り裂き―― 標的の右側30㎝の所を通過した。

 

「……っ!」

 

「……外れたな。もう一回」

 

 焦るリーネの横で、上坂は淡々と告げる。

 

 リーネはもう一度照準器を覗き込み、今度は連続して発砲する。だが、その弾丸は標的に当たることなく、虚しく周囲を通過する。

 

(どうして……!?)

 

 射撃をするにつれて焦るリーネ。彼女はむきになって射撃を続けようとしたが、

 

「待て」

 

 上坂の一言。その言葉を聞いた途端、リーネはハッと我に返る。

 

「これ以上続けても駄目だ。今日はこれまでにする」

 

「でもっ……!」

 

 リーネは食い下がろうとした。だが、反論する前にその勢いがなくなる。その様子を黙っていた上坂は、ため息をついた。

 

「……訓練が早く終わったからな、リネット。ちょっと着いて来い」

 

 そういうと、上坂は踵を返して格納庫へ歩いていく。

 

「あっ、あの……!」

 

 リーネは慌てて上坂の後を追った。

 

 

 

 

 

 銃を片づけ、上坂の後に付いて行ったリーネが着いた先は、食堂の厨房だった。

 

 上坂は厨房に着くなり、入口付近にかかっていたエプロンを二つ取り、そのうちの一枚をリーネに投げてよこす。

 

「それを着ろ」

 

「あ、あの……」

 

 それを受け取ったリーネは何か言おうとしたが、その前に上坂はさっさと倉庫に入ってしまう。しばらくして、彼は籠いっぱいにジャガイモやニンジンを入れて戻ってきた。そして台所にそれを置くと、包丁とまな板を取り出して、リーネの目の前に差し出した。

 

「ほれ、カレーを作るから、野菜切るの手伝ってくれ」

 

「は、はあ……」

 

 リーネがおずおずと受け取ると、上坂はもう一つ包丁を取り出して、籠の中のジャガイモを手に取り、器用に皮をむき始めた。

 

「…………」

 

 しばらく呆然としていたリーネだったが、やがて上坂と同じように野菜の皮をむき始める。その動作は上坂と比べても、劣るとも勝らないほど上手だった。

 

「ほう。なかなかやるじゃないか」

 

 上坂も、その腕に感心する。

 

「そんな……。普通ですよこれくらい」

 

 だが、家庭で家事を手伝っていたリーネにとって、これ位は造作もないことだ。だが、上坂はそれに反論した。

 

「……その普通のことを、ウチの奴らはできないんだがな。全く……」

 

「…………」

 

 上坂はブツブツと愚痴を言っているが、リーネの耳にその言葉は入って来ておらず、彼女はただ黙々と野菜の皮むきをしている。

 

 しばらくして、二人は皮むきを終えた。そして、上坂はリーネに料理を教えるためにゆっくりと、丁寧に彼女に教えていく。

 

「本当ならば俺が出来れば良いんだが…… なにせこのところ書類が多くてな……」

 

「は、はぁ……」

 

 少しばかり虚ろな目になった上坂を見て、リーネは彼の苦労に、少しばかり同情しながら、心の中で人間味がある人だなと思っていた。

 

先ほどの訓練の時とは打って変わって、不器用ながらも感情を表し、口元には笑みを浮かべている。そして、料理をするときは、非常に楽しそうにしていることから、外見から想像できないが、料理が好きなのだろう。リーネは思わずクスリと笑ってしまった。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、なんでも」

 

 そういったやり取りをしていると、鍋に放り込んだ野菜がだいぶ煮込まってきて、カレーのルーを作る段階となった。

 

 上坂は、台所の棚から香辛料の入った瓶を、いくつか取り出し、鍋に振り掛けた。

 

「カレーっていうのは、こうやっていくつものスパイスを混ぜ合わせて作るんだ。この中には辛さだけでなく、時には甘み、酸味なども加えると、よりおいしくなる。色々なスパイスを混ぜることにより、より味わいが深くなっていくんだ」

 

「へぇー、そうなんですか」

 

 リーネは上坂の解説を聞き、感心する。カレーは元々インドの伝統料理だが、ブリタニアにも普及しており、これまでにも何度か食べたことはある。だが、カレーというものがどうやって作られたのかは知らなかったので、非常に勉強になった―― と、彼女はハッと気付く。

 

「気付いたようだな」

 

 上坂は、リーネの顔を見て、満足そうにうなずく。

 

「……スパイスにも、やはり主役というものはある。だが、それだけでなく、他のスパイスを混ぜることにより、よりおいしく、味に深みが増すんだ」

 

「…………」

 

 上坂が言いたいのは、部隊運営にはエースだけではなく、その人を支える人たちも重要だということなのだろう。リーネはそれをわかっていたつもりであったが、支える人たちの重要性を、改めて感じた。

 

「……ま、人間関係なんてスパイスみたいに単純じゃないけどな。まあ参考までに言ったまでだ」

 

 リーネの呆けた表情を見て、上坂は鍋をゆっくりかき混ぜながら、苦笑する。

 

 上坂のその笑顔――。不器用ながらも、どこか温かみのある笑顔を見て、リーネは、いつの間にか彼に対する苦手意識が無くなっていた。

 

 

 

 




執筆の進行度は、そろそろ劇場版が終わるところですね。それが終わったら、いよいよオリジナル話に入ります。

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