基地に警報が鳴り響く。ネウロイがガリア方面からの侵攻が確認されたのだ。
「敵は高度6000! ロンドンへ向けて時速200マイルで侵攻中! 先行して敵を待ち伏せて!」
「了解!」
ミーナの号令一下、隊員達は自分のストライカーユニットに足を滑らせる。薄暗い格納庫内が青白い光に照らされ、明るくなるその中心には銃を背負い、戦闘準備を整えたウィッチ達が待機していた。
「全部隊、発進!」
懸架台からウィッチ達がそれぞれ大空へと飛び上がっていく。その数8――。ミーナとサーニャは基地に待機している。
現在指揮を執っている副隊長の坂本を先頭に、ウィッチ達は進撃していった。
「いたぞ」
坂本は左目についていた眼帯を外し、はるか遠方にいるネウロイを発見する。上坂も使い魔によって強化された視力で前方を見るが、まだ発見できていない。
「確認できない。どのくらいの大きさだ?」
「恐らく300m級。ブリタニア方面では特に珍しくないやつだ」
「ふむ……」
改めて前方を見やる。すると芥子粒ぐらいの大きさだが、黒い物体がこちらに向かって来ているのが確認できた。
「……デカブツか……。これではあまり戦闘機動は役に立たんな」
「ああ。ありったけ近づいて弾を叩きこむ。ここではほとんどこの戦法だ」
両手にMG42を持ったバルクホルンが同意する。
「よし、バルクホルンとハルトマンが先行してくれ」
「りょうか……って! おい! リベリアン!」
「おーす! 先に行ってるぞー」
「とっつげ~き!」
坂本の命令を聞かず、シャーリーとルッキー二が一気に増速する。そのままネウロイに一直線に向かっていった。
「くっ……私達も行くぞ! ハルトマン!」
「りょうかーい!」
少し遅れてバルクホルンとエーリカも突撃して行く。
「全くあいつら……! 全機攻撃開始! 奴の頭を抑えるぞ!」
坂本は苦虫を噛み潰しながら、作戦を変更して攻撃を開始した。
「……フム」
しかし上坂は、全員の能力を確認したかったため、今回は戦闘に参加せず、少し離れた上空から観察することに決めていた。事実今回は戦闘に参加しないことを坂本とミーナには伝えており、二人からも了承を得ている。
まず最初にシャーリーとルッキー二がネウロイの上方から逆落としにダイブする。それを防がんと体表の赤い部分から無数のビームを発射するが、二人はバレルロールでそれをかいくぐり、それぞれBARとM1919の引き金を引く。
二つの銃口から発射された7.62mm銃弾がネウロイの表面装甲を削り、ビームの発射口を破壊していく。とはいってもネウロイは再生能力があるので短時間で再生してしまうだろう。
その脇をシャーリーとルッキー二が降下していく。それを追うようにしてネウロイの下部から大量のビームが彼女達を狙う。しかし二人は紙一重でこれをかわしていった。
ネウロイが二人に気を取られている隙に、今度は前方からバルクホルンとエーリカがMG42を発砲した。先ほどよりも少しだけ直径の大きい7.92mm弾が装甲を削っていく。ネウロイはまるでハエを追い払うかのようにあらゆる方向に向けてビームを放つ。
「きゃあ!」
「オイコラ! アブナイじゃないか!」
そのうちの一発が続けて攻撃しようとしていたエイラとペリーヌの脇をかすめ、二人は慌てて回避行動をとった。
「うるさい! さっさと攻撃せんか!」
「なんだとー!」
「おまえら! ケンカしている場合じゃないだろう!」
バルクホルンとエイラがお互いに睨み合う。それを見た坂本が声を荒げた。
「全く、堅物軍人はこれだから」
「命令違反のリベリアンには言われたくない!」
「……何やっているんだあいつらは」
戦場であるはずなのにもかかわらず喧嘩を始めた彼女達を見て、上坂は呆れ果てる。確かに個人個人の技能は高いものだが、戦闘に一番重要であるはずの連携が全く取れていない。こうしている間にもネウロイはロンドンに向けて機首を進めているし、削っていた表面装甲もすでに修復されている。さっきの攻撃が無駄になっていた。
「……仕方ないな」
上坂はそうつぶやくと、手に持っていたMG15/20の安全装置を外し、一気に急降下を開始する。
大型で表面上に無数のビーム発射口を持つネウロイに対抗する手段――それは上空から逆落としに急降下する一撃離脱戦法――。
上坂は教科書通りの綺麗な機動を描きながら、ネウロイの鼻先に向かって降下する。ネウロイは上坂に気付き、先ほどと同じくビームを撃ち放つ。上坂はそれを避けようとせず、前方にシールドを張った。
幾十本もの火線が上坂のシールドに当たり、上坂の降下速度が落ちる。それを見計らってか、背中に背負っていた二丁のMG42を空中に放り投げた。
「――ゆけ」
短くつぶやくと、放り投げられた二丁の銃の周りが青く光り始め、重力に逆らって空中に制止。そしてネウロイの下部に潜り込んだ。
ネウロイの下部に潜り込んだ二丁の銃は超至近距離から銃撃を浴びせ、ネウロイの表面装甲を砕いていく、さらに上坂は手に持っていたMG15/20の引き金を引く。
上下からの挟み撃ち射撃――
本来ならば連携して初めてできる機動を、上坂は固有魔法を駆使して一人で行う。さすがのネウロイも上下から受ける銃撃によって表面装甲を削られ、攻撃手段がなくなった。
――いまだ。
上坂は持っていたMG15/20を背負うと、腰に差していた扶桑刀「黒耀」を抜く。
黒く輝く刀身が、上坂の魔法が込められることによって赤く妖しく光り始めた。
「――唸れ、雲耀――」
ネウロイと交差した瞬間、上坂は目にもとまらぬ速さで刀を振り下ろす。
そのまま降下を続ける上坂の上空には先ほどと変わらずに飛行するネウロイの姿――と。
ズ―――――
ネウロイの中心部分から縦に線が入り、左右がズレる。一瞬遅れてネウロイは白い破片となり、黒い巨体は大空から消えた。
「……ふん」
上坂は振り返りもせず、つまらなそうに刀を鞘に納めた。
「おいし~!」
食堂にルッキーニの歓声と、チーズの香りが広がる。
戦闘が終わり、帰還した後そのまま夕食の時間になった。
そこで出されたのはグラタン。上坂が帰還後厨房にこもり、丹精を込めて作り上げた逸品だ。
程よくとろけて焦げたチーズの中にマカロニと鶏肉、玉ネギやブロッコリーを入れたそれは、ルッキーニほどではないが、皆に高評価を受けている。
「やっぱり、ケイイチローのご飯は最高だねー、ホント」
そう言いながらエーリカは器を抱え込んで、勢いよく頬張る。
「ああ。上坂の料理を食べると、不思議と力が湧いてくるな」
普段からあまり食に興味が無い……というより、必要な栄養さえ取れていれば問題ないと公言するバルクホルンでさえ、素直に賞賛している。
「あたしは結構味の濃い物が好きなんだけど……イチローのは薄そうでしっかりと味が効いていてうまいな」
「濃厚なチーズにしっかりと、でも柔らかく煮込まれた鶏肉……素晴らしいですわ」
「それはよかった。お代わりもあるからどんどん食べろ」
上坂の料理を食べたことが無かったシャーリーとペリーヌから褒められて、上坂は頬を緩める。だが内心では先ほどの戦闘のことについて考えていた。
(……こうして見ると、普段の生活の中では特に大きな問題は見当たらない…… だが今回の戦闘では全くと言っていいほど連携が取れていなかった。……なぜだ?)
生活面でいがみ合うということは、ここ数日観察した中では、バルクホルンとシャーリーが少々やったぐらいで、特に問題では無いと判断していた。
むしろ共同生活を送るという点では、お互いが助け合ったりしている場面もみられるため、非常に友好的な雰囲気である。
だがひとたび戦闘になると命令違反、独断専行が横行して簡単に倒せる敵も時間がかかってしまう。
今日のネウロイも、この部隊の実力ならば海上で撃破できたはずなのに、内陸の方まで侵入を許してしまった。
(……今回の様に敵が一体ならまだ問題ない……だが、もし複数で来られると現状のままではブリタニアを守りきれない……)
ブリタニアは欧州奪還のためにとても重要な拠点だ。ここをネウロイに蹂躙されてしまったら人類は欧州を失い、結果的にアフリカ方面、オラーシャ方面に多大な負担をかけることになる。そうなってしまうと……。
(やはり部隊内の連携訓練を重点的に行わないとな……ヤレヤレ、また仕事が増えるな……)
上坂はため息をつくと、グラタンを口に含んだ。
そういえばねんどろいどのバルクホルンが発売延期になってしまいましたね……仕方ない、AGPのでも買おうかな……