続き投下
兄からの伝言
sideサイ
昔からいろんなところを生き延びてきた自分でもこのような光景を見るのは初めてやなあ。
まともな生活してるならこういう光景も見ることはあるのかもしれないが、頭首殿の妹は比較的にまともな人生?を送ってるから普通なのかもしれないけど。
「い、いいですか!?黒ウサギは干ばつに備えて”魃”の情報を収集してきてほしいと頼んだのです!!情報とは巣を作ってる場所、身体の大きさなどを言うのです!!なのになんでッ!!どうしてッ・・・・・・!?いったい誰が”魃”を倒して来いなんて言いましたッ!!?」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省してます」」」
「黙らっしゃい!!」
いや、天下の往来で倒した二十尺ほどの”魃”の傍らで説教とか普通の光景ではないか。
日照りを呼び込む神獣”魃”―――正確には神格を失い、それでも天に帰ろうとし続け世代を重ねてただの怪鳥へと成り下がった”魃”。神気を失ったとはいえ、あの三人の
頭首殿の言う通り、推定6桁上位から5桁下位の実力を持っていると見ていいだろう。敵に回すとそこそこ手古摺るかもしれないという言葉には半信半疑だったが。なるほどペルセウス程度なら辛勝できそうだ。
「いや~。黒ウサギちゃんは相も変わらず元気やねえ」
サウザンドアイズに”魃”を売る交渉が終わったようなので、適当に話しかける。
話しかけた瞬間に女性陣は誰だこの人と首を傾げたのに対して、男の子は表面上はヤハハと笑っていてるが警戒心を持っていつでも動けるように立ち位置を調整する。
なるほど。ペルセウスの件での復讐を警戒してるのか。頭の回る子だねえ。実際、抜けた奴が逆恨みで復讐しようとしてうちの頭首殿に潰されてるし、正しい警戒だ。
「サイ様!?どうしてこちらに!?」
「呼び捨てでええよ?様付けされるような奴やないしねえ」
女性陣は黒ウサギの知り合いという事で、警戒心がほとんどなくなったな。対して、男の子は警戒レベルが一段階下がったといった所か。過去に人間同士の騙し合いでもしてたんやろうか?
「うちの頭首殿からの伝言を伝えに来ただけや。伝えたら帰るから安心してや」
「お兄様からの伝言ですか!?」
「ちょっと待て黒ウサギ。俺らにも紹介しろわけがわからん」
「そうね。とりあえず黒ウサギのお兄さんの所の人だってのはわかるけど」
「自己紹介するべきだ」
別に仲良くする気はないから伝えるだけ伝えて、帰ろうと思ってたのに面倒なことになってきたなあ。
「自己紹介がまだやったな。わいはサイ。”黄昏”ってそこのウサギちゃんの兄が頭首をやってるコミュニティのもんや。よろしくしてな。十六夜ちゃんに飛鳥ちゃん、そして耀ちゃん」
「こっちのことは知ってるってわけか」
「そう睨まんでくれ。ペルセウスが降格した後始末わいらがしたんやで?ゲームで勝って後始末せんから本当に大変だったんや。
喜び半分、怒り半分と言った所だったがこいつらに教える必要はないだろう。
「後始末?」
「大したことやないで?5桁の組織がノーネームに負けたからあっちこっちでパワーバランスを維持しようとビビってたバカを大人しくさせただけで」
この機にペルセウスに追撃して二度と立ち上がれないようにしようとする奴らとか、決起した
「あの・・・・・・お兄様が怒ってるのでございますか?」
上目遣いでこっちを見上げる
純粋に兄に怒られるかもしれないと怯えてるように見えて、それよりも兄に会いたいという気持ちが再燃しているあたり結構な重症。
「いや?怒ってへんで?黒ウサギちゃんへの伝言は『よくもやったな。お兄ちゃんはうれしいぞコンチクショウ』やと」
「そうですか・・・・・・。お兄様が・・・・・・えへへ」
「おーい?黒ウサギ?大丈夫か?」
ありゃま。褒められただけでトリップしてる。
明らかに桃色の雰囲気を出しててすごく離れたい。いや、頭首殿は昔みたいにいい子いい子とか抱きしめたりしないと思うけどな?考えるのは自由やけど。
「あれって褒められてるのかしら?」
「ツンデレっぽく褒めてるゲントは実はツンデレ?」
「ただのシスコンじゃないか?黒ウサギはブラコンっぽいし」
「・・・・・・(ツンデレ?シスコンブラコン?それってなにかしら?)」
ああそうだ。この三人にも言っとかないといけなかったんやった。
「そっちの三人にも伝言や。『ペルセウスは箱庭の中でも
「ハッ!上から目線だな。すぐに追いついてやるから覚悟しとけって伝えとけ」
「あら十六夜君そこは追い越してやるでしょ?」
「首を洗って待っとけやコラ」
若者は元気があってええなあ。
こんなに直球に勝つって言われたのはいつ以来やろうか?
「はは、伝えとくで。それともう一つ『うちの妹は才能はあるがポンコツでな。よろしく頼む』だとさ」
その言葉を聞いて誰ともなくポワポワしてる黒ウサギを見る。
「やっぱりお兄様には―――えへへ」
「「「「・・・・・・」」」」
「あれ?皆さま?どうしたのでございますか?」
全員の何とも言えない視線に気がついたのか慌ててるが。
うん。
「ほんまに頼むな?昔はあれがより酷くてメッチャ攫われかけてたりしてたんやから」
「安心してくれ。ちゃんと見張っとこう」
「そうね。一人にしないようにしましょう」
「レティシアが黒ウサギの居場所を常に確認してたのがわかる気がする」
レティシアさんも大変やねえ。心配して帰った自分のせいで
「皆さま!?なんでそんな決意を!?黒ウサギは子供じゃないんですよ!」
いや、一番子供やで。
少なくともこの中では。
「まあ、それは置いといて。あんたらノーネームは魔王退治を請け負うそうやな?」
こっちの真面目な雰囲気を察してか、ようやく真面目な雰囲気になる。
「ああ。魔王の事でお困りならノーネームのジン=ラッセルまでってな」
「ふーん。本気なんやな?名前を売りたいなら他の方法だってあるだろうに」
「うちの旗を取り戻すためだ。魔王相手には目立つくらいでちょうどいい」
本気で旗を取り返すつもりなんやな。
どこの魔王が旗を奪ったのかわからないから魔王を退治していって、旗を奪った魔王を釣り出そうって魂胆か。
「そうかい。ならこれを渡しとくわ」
「これは・・・・・・!?”火龍誕生祭”の招待状でございますか!?」
「路銀も渡しとくで?片道分やけどな」
「おい。いきなりなんだ?説明しろ」
「大したことないで?とある筋からそこに魔王が出るって情報が入った。その祭りには有力なコミュニティが集まるから名を売るには最適やろ」
「それは本当でございますか!?」
本当やでーっと軽くあしらって、簡単に”火龍誕生祭”の説明をする。
「だいたいわかった。だが、なんでそこまでする?」
「ん?頭首殿もそろそろノーネームの支援を辞めようと思ってるらしいからその試験と言った所や。実力があるなら独り立ちさせる。無理そうなら潰して吸収するって事らしい。ま、" "が潰れてから今まで裏で手助けしてたんやからな」
それのためやと目で示せば、納得したように頷く。約一名理解してないようだが、それは仕方がない。というかなんでここまで鈍いんだ。
「白夜叉だけじゃなかったのか・・・・・・」
「あれに裏工作とか出来んからな。それじゃ伝えたからそれじゃあねえ」
返事も聞かずにさっさと立ち去る。
さっさと戻って、頭首殿のお手伝いに戻りますかね。
魔王召喚の為にね。