弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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今回は補足コーナーは無しです


魔術師の会合

 

 

アーチャーのガントレッドに見覚えがあった。アレは自分が現在作っている礼装の完成形だ。

元から士郎に渡す為に作っている物だから、士郎の果てと言える英霊エミヤが持っているのは全くおかしくない。しかし、それがもたらす事実は、

アーチャーは自分がいる並行世界で英霊となった/自分が道を創るのに邪魔に成りうる

存在であると言うことだ。

その瞬間、凛に照準を合わせようと動こうとする左腕を押さえる。

違う、まだ大丈夫。アレは違うとは言え、士郎だ。

「(やはりお前は、“そう”なんだな)」

不意に聞こえた念話。オリジナルとコピーと言う因縁を利用したパスを通じて、聞こえてきたのは哀しみと諦めを含んだ声。

ほんの刹那な出来事だが、何かが決定的になってしまった気がした。いや、衛宮創名が行き着く先は、あの月下の約束から決まりきっている、惜しんではいけない。

「こんばんは、衛宮くん。随分なご挨拶ね。」

「遠坂、大丈夫か?急にこの女の子が…」

「…サーヴァントを知らない?それともとぼけている?」

恐らくアーチャーからであろう念話に、自分が気を取られている間に士郎達の話しが進んでいく。

端的に全員の主張を言うと

士郎:聖杯戦争?サーヴァント?なんだそれ?

凛:衛宮くん魔術師だったのね。聖杯戦争を知らない?何の冗談よ?それ

アーチャー:マスターに丸投げ

セイバー:斬らせろ

サーヴァント達は色々言っていたが、意訳したらこんな感じだろう。

まぁ、どういうわけか衛宮家(ウチ)で士郎に聖杯戦争について説明すると言うことになったようだ。

 

聖杯戦争、それは始まりの御三家(自分的には御三家と言うより誤算家)アインツベルン、マキリ、遠坂によって始められた戦争。七人のマスターと七騎のサーヴァントを用意し、殺しあう。マスターには御三家をはじめとした魔術師が、サーヴァントにはクラスと言う枠にはまった英霊がつとめる。

最後の一組となったマスターとサーヴァントには賞品として、万能の願望器である聖杯が与えられる。

と言うのが表向き、実際はサーヴァント達の魂を集め、それが英霊の座に還る力を利用し、根源への道を世界に穿つ大魔術儀式。だが、それが一度も成功せず第五次まで来てるのが誤算家たる由縁である。しかも、第三次では、アインツベルンの反則によって呼び出されたサーヴァント、アヴェンジャーによって聖杯の透明な魔力(中身)が黒く染まり、あらゆる願いを破滅の方向でしか叶えられないポンコツになってしまっている。それでも根源に至るにはあまり問題が無く、マキリやアインツベルンは気にしていないようだが……

凛が、表向きの部分(つまり凛が知る限り)を士郎に説明し終わり、殺しあいと言うことに士郎が思いっきり抵抗を感じているようで、眉間にしわが出来ている。

「で、衛宮創名くんは質問とか無いみたいだけど、もしかして知ってた?」

「うん、元から衛宮(ウチ)は普通の当主は士郎で、魔術師としての当主は自分だからね。もっとも、養子だから家伝来の魔術は無いんだけどね。」

自分がそう答えると、凛は拳を握りしめ、軽く震えている。

さて、ここで怒ってるのかと聞くのと、寒いのかと聞くの、どちらも楽しい爆発が見れそうで迷ってしまう。

「どうして、それを早く言わないのよ!!」

「いや、言うより先に説明を始めたのは遠坂さんだよ?」

迷っている間に爆発してしまった。左腕の魔術刻印が光り、ガントを撃たんとしている。

「止めておけマスター、キミのミスだ。」

「五月蝿いわね!分かってるわよ、それぐらい。」

アーチャーが止めに入ってくれたお陰で、今着ている鋼糸を編み込んだ服の防御力を身をもって試す、と言う事態は避けられた。

士郎が咎めるように見てくる。自己紹介より先に説明するように、士郎を念話で急かしたのを責めているようだ。

「改めて、自己紹介をしようか。自分は衛宮創名、衛宮の当主と言うより、先代が残した魔術関連の遺産の管理者で、必要最低限の知識が有るだけだね。

あ、そういえば、今ちょっと怪我人を保護しててね。魔術師だけどマスターじゃないから、斬りかかったりしないでね。」

士郎の視線をスルーし、嘘が混ざった自己紹介を行う。確かに魔術師としての衛宮切嗣の遺産を管理していて、衛宮の魔術については必要最低限を知っているだけだ。しかし、自分は魔術師殺しとしての衛宮切嗣の技術の後継である。この聖杯戦争の為に力も蓄えている。知っている人からすれば、嘘だらけだがこの場にいる人間で、自分の行いを知っている者は居ない。知っているとしたら、怪我人だが、今は出てこないだろう。

「俺は、衛宮士郎。使える魔術はほとんど無いけど、一応魔術師だ。」

「……セイバーです。」

「遠坂凛よ。遠坂六代目当主」

「アーチャーだ。」

全体的にフレンドリーから程遠い自己紹介をへて、これからの事の話しとなる。

「で、衛宮くん達はどうするの?魔術知識がある弟くんにマスターを譲る?」

「いや、俺がやる。創名に危ない事はして欲しくないし…」

凛の質問に答えた士郎は、何かを思い付いたような顔をしている。この戦争を止めるとか考えてるのだろう。全く、人をダシにしないで欲しい。

「そう、じゃぁ、監督役に報告に行きましょう。セイバーで七騎が揃ったはずだから聖杯戦争が始まるわ。」

凛はそう言って、士郎を促すが自分がそれを呼び止める。

「遠坂さん、魔術師としての貴女と、マスターとしての貴女を見込んで頼みたい事がある。」

「何かしら、私に頼むって事は対価がいるわよ?」

「勿論分かってる。頼みたい事は、士郎に魔術師としての常識を教えてやって欲しいんだ。2、3日で良いからさ。士郎は、養父の方針で魔術をほとんど教えられてないし、自分も人に教えられるレベルじゃ無い。」

事実上の一時休戦を依頼する頼みに、凛は険しい顔をして、対価は?と訪ねる。自分はポケットから一冊の手帳を取り出す。

「第四次聖杯戦争でマスターだった衛宮家先代、衛宮切嗣が残した、切嗣が参加した聖杯戦争について書いた手記」

勿論、出した手記はフェイク、聖杯戦争について書いてあるが、それは聖杯戦争の表向きの進行だけで、聖杯戦争の本当の目的、大聖杯や小聖杯について、聖杯の汚染と戦争の終盤に何があったかなど、核心については書かれていない物だ。だが、先代が言峰綺礼に殺害されたせいで、聖杯戦争についての資料があまり残っていない遠坂家には十分な価値があるだろう。

「……引き受けることにするわ、証文(スクロール)は?」

「不要でしょ、破られたなら遠坂の誇りはその程度だったと言うことで…」

「言ってくれるじゃない。」

挑発のような自分の言葉に、凛は鮮やかに笑い、手記を受け取り、士郎とアーチャー、セイバーを引き連れ、監督役が待つ教会へと出発していった。

「もう出てきたら?バゼットさん。」

「そうしようと思っていたところです。ハーヴェスト。」

ふすまを開けて浴衣を着た女性が姿を見せる。バゼット・フラガ・マクレミッツ、魔術協会において、指折りの戦闘力を誇る執行者であり、現存する宝具の担い手。……左腕を奪われた今はどれだけ戦闘が可能かは不明だが、万全の状態なら今回参加しているマスターの中でも、一二を争う。

ランサーの召喚者だが、左腕ごと令呪を奪われて、死にかかってる所を治療し連れてきたのだ。

彼女とは、以前外道の封印指定の魔術師を狩った時に、ターゲットが被りちょっとした殺しあいを演じてからの仲である。ついでにいえば、ハーヴェストと言うのは魔術協会での自分の悪名である。

「凄いですね、明日の朝まで眠るように麻酔の多めにしたのにもう起きてるなんて」

「通りで身体が重いと思いました。」

それだけで済んでるとか、人間辞めてると思ったが、すでに彼女の間合い、下手な事を言って殴られるのは嫌だったので、口を閉ざす。

「それにしても意外でした。ハーヴェスト、貴方がこの街に居たこともですが、貴方に兄を思いやるなど…」

「あはは、バゼットさん、自分の事をどう思っているんですか?」

「血も涙も無く、誇りさえ持た無い魔術師殺しだと思っていました。」

バゼットさんが言った事は、自分の魔術師殺しとしてのスタンスだったので何も返さずに曖昧に笑う。

「それで、私に何を望むのですか?協会でも強欲と呼ばれる貴方が、何の意図もなく私を助けたとは思えません。」

「心外だな、と言いたい所ですけど当たりです。バゼットさんに兄の守護をお願いしたかったんです。」

バゼットさんの目を見て言う。バゼットさんは小さく頷いた。

「いいでしょう。片腕で何処までいけるか分かりませんが、全力を尽くします。」

「ありがとう。バゼットさん。」

「いえ、命を救われたからにはそれぐらいでは安い程です。

それにしても、お兄さんを大切にしているのにですね。……だからこそ分からない、私が令呪を奪われた。その下手人について貴方が知らないとは思えない。なのに何故、貴方は兄が彼の元へ行くのを、止めなかったのですか?」

バゼットさんの問いかけに自分は再び笑み浮かべて応えた。

 

 


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