弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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聖杯戦争開催/表1

 

 

衛宮士郎は夜の帰り道を走っていた。明らかに人間離れした闘いを繰り広げる二人の人外と、その闘いを見守る同級生。

落ちていた枝を踏むと言うマンガのような出来事で見つかり、青い槍兵に心臓を突かれ、死んだはずだった。しかし、士郎は何故か目を覚ました。傍らには赤い宝石のペンダント。

何故?と考える余裕もなく士郎は自分へ逃げ帰ってた。

「お帰り、士郎。まるで死んだ後生き返ったみたいな顔をしてるね。」

「ただいま、お前はたまに見透かしたような事を言うよな。」

家に帰れば、創名がいつもとだいたい変わりない様子で迎えてくれた。いつもと違うのは生理的嫌悪感をもたらすような、気味の悪い蟲入りのビンを持っている所だ。

「なんだよ、その気味の悪い蟲は?」

「魔術的な500年は生きてる蟲だよ。これ捕まえるために、1000万の魔力遮断礼装を買ったんだよ?」

士郎は創名の言葉にため息を吐く、創名が切嗣の魔術的な遺産をやりくりして増やしているのは知っていたが、虫一匹の為にそんな額を使うほどとは思っていなかった。

士郎は知らない事だが、創名は外道の魔術師を殺し、回収した研究を魔術協会に売る事で一財産を築いている。1000万は大した出費ではない。

人間のうめき声に似た鳴き声をあげる蟲を見ながら、創名は薄く笑う。憐れむ様であり、嘲笑する様でもあった。

「ねぇ、とても正義感の強い人がいて、その人が記憶を失って沢山の悪行を行ったとしよう。その人は記憶を取り戻した時、自分が悪行を行っていた事をどう感じるんだろうね?」

「そりゃ、ショックなんじゃないか?」

「だよね。それが、『この世全ての悪の廃絶』なんて理想を掲げた人で、行った悪行がおぞましくて醜悪で最悪だったりしたら、そのショックは自我が崩壊してうめくだけの生きる屍に成るぐらい酷いだろうね。」

そう言って、創名はうめくように鳴き続ける蟲から視線を外し、士郎を見る。

「ところで、その胸どうしたの?服は破れてるし、血は着いてるし、傷は有るけど治ってるし……」

「あ、これは……」

創名に言われ自分が体験したことを思い出す。弟の不可思議な言葉で思考の外に行ってしまっていたようだ。

見たことをどう説明しようか、巻き込んでしまわないか、と考えている間に、創名の指が心臓を貫いた傷跡を撫でる。

「何コレ、びっくりするぐらいの呪いだね。治癒すんのにどんだけ魔力掛けたんだろ?」

「治してくれたのはお前じゃないのか。」

人を助けといて知らないふりは創名がよくやることだ、現場を見た後先回りして士郎より早く帰ってきたのかと思ったが、顔を見る限り違うようだ。

「普段なら何とかなるけど、今日は魂の修復に、重症二人の治療で魔力がそんなに残ってないんだ。」

その内2つは自分のせいなんだけどね、とうそぶいて肩を竦めた。

「今日拾った重症の人はウチに居るから、明日からご飯1人分多くしてね。」

「分かった」

ここで病院に連れて行け、とか言わないのが士郎である。

改めて、士郎が学校での事を話そうとした時、二人の魔術回路に警報が響いた。これは切嗣が張った結界で敷地内に敵意ある者が侵入した場合、衛宮に連なる魔術師に魔術的感覚を持って知らせる物だ。

「死せる者は冥府にあれ!」

警報とほぼ同時に士郎の背後に現れた影に、創名は取り出した銃の引き金を詠唱と共に引く、それは切嗣の相棒といえる『トンプソン・コンテンダー』の後継、『アンコール』

放たれた銀の魔弾は侵入者の頭を狙い、その頬を掠めるのみに終わった。しかし、それにより出来た一瞬の隙で士郎は前転するように身を投げ出し、槍による一撃を回避した。

「矢避けの加護と対魔力を突発して、俺に傷を負わすとはやるじゃねーか、坊主」

「ないわ〜、あれでそれだけの傷とか、割りに合わないにも程がある。」

突然現れた青い槍兵(ランサー)の頬の傷を拭いながらの言葉に創名の顔が引きつる。先ほど放った弾丸は聖銀の十字架を溶かして作った弾丸に、司教クラスが祝詞を刻んだ一級品の対魔の弾丸であり、詠唱により死者を冥府に送る、悪霊払いの方向性を持たせた物でいくら英霊でもゴーストライナーである以上、かなりのダメージを与えられるはずだった。

しかし、無情にも対魔力をすり抜けて、唯の弾丸以下程度のダメージしかないようだった。それでも、英霊を傷付けると言う偉業だが、1ダースにつき製作費200万なんだから、もっと効いてよと思う創名だった。

「(土蔵に逃げるよ。あそこにはこの時期限定で使える凄いのがある)」

「(そんなの有ったのかよ、あそこ)」

双子、正確に言えばオリジナルとコピーの関係故に二人の間に強く存在する縁をラインにした念話で逆転の策を話す。創名の言う凄いのとは、勿論サーヴァント召喚用の魔方陣である。

創名は服の裾から縮められた三段ロッドを取りだし、士郎に投げ渡す。

「(背中見せんな。戦いながら引くから死ぬなよ)起きろ!」

「(分かってる。前衛は任せろ)トレース・オン」

創名の詠唱と共に銀の砂塵がランサーの視界を覆い、ソコに三段ロッドを強化した士郎が一撃を繰り出す。

「甘ぇよ!」

「ぐぅ……ッ!」

だが、相手は英霊だ目眩まし程度では埋められない力の差がある。カウンターで腹に蹴りを入れられ、士郎は土蔵の前まで吹き飛ばされる。

「(そのまま、土蔵に。入れば発動する)復元始め」

創名の念話に従い、立ち上がる士郎に、追撃を行おうとしたランサーは、銀の砂塵が創名の元に集まり、一振りの蛇剣と成ったのを見て、警戒を移す。

蛇剣とは、地を這う蛇のように刀身が曲がりくねった剣のことで通常の剣より深い傷を与えやすい。

「お前ら、魔術師の癖に結構やるじゃねーか。もしかしたら、お前らのどっちかが七人目だったのかもな」

ランサーが軽口を叩き始めた時、士郎が倒れ込むように土蔵に入る。それを見て、創名はにこやかに笑った。

「だったかも、じゃなくて士郎が『そう』なんだよ。今、この時から!」

創名の言葉と同時に、土蔵から魔力と黄金の光が溢れる。

この瞬間から聖杯戦争は開催される。

 






そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!」
「いえー、てこれ毎度やんの?」
「さて、今回は創名の投影について補足しようか」
アヴェくんの言葉をスルーする先生、サーヴァントを無視、そんなとこまで父に似なくてもいいだろうに…
「創名の投影が純粋な投影魔術とは違うのは士郎と同じだね、ただ創名はその源泉の性質上全て壊れた状態で投影されてしまうんだ。それが銀の砂塵だね。」
「あれってわざわざ修復魔術掛けてんだろ?消費魔力って半端無いんじゃ…」
「そう、だから創名は礼装や銃火器を戦闘に使ってる訳」
それも半端なく金使ってるよなーとアヴェくんがボヤく
「まぁ出てきたのが『アンコール』なのは作者の趣味、『トンプソン・コンテンダー』に後続があるって知って使いたくてしょうがなかったらしいよ」
「その結果、『アンコール』ねじ込む為に戦闘のシーン書き直して、バゼッ…じゃなくてアイツの出番の削除かよ」
「……」
「弓兵をやっと出せる!とか言ってたクセにー」
囃すアヴェくんに先生は銃口を向ける。
「え?もしかして銀の弾丸?いやいや、俺が喰らうとシャレになんないって!悪霊のカテゴリだよ俺!?」
「ば ー ん 」
無様に逃げ回るアヴェくんとそれを狙う先生
次は聖杯戦争開催/表2でお会いしましょう。

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