弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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衛宮創名の一日/表

 

 

創名が地下室から出てくると、士郎が部屋の中でパズルを片付けようと悪戦苦闘していた。

「創名、一昨日片付けたばっかりだろ!」

「自分の部屋の自浄能力にかかれば、こんな物だよ。」

「自浄じゃなくて汚染だろ、この前買った収納ボックスは?」

「雷画じいちゃんにあげた。コンクリート入れて、海に沈めるんだって。」

それに入れられるのは果たしてコンクリートだけなのか、それ以前に、そう言うのに使われるのはドラム缶ではないのか?

いろいろツッコミたいが、ここでつっこめば鮮やかに話しがそらされるのは、10年一緒に暮らしていれば判りきった事だ。

士郎が、ツッコミと追究で迷い、黙った一呼吸の間に、創名は部屋の襖を開けていた。

「朝ごはん出来たんでしょ?早く行かないと、腹をすかした虎が暴走するよ」

「あぁ、そうだな早く行かないと…って、待て創名!」

士郎の声を無視して、軽やかに居間を目指す創名の後ろ姿に、士郎はため息をもらす。

創名に部屋を片せ、と言うのは飯をタカりにくるお隣の虎に、落ち着きを持てと言うのと同じくらいに無理な話なので元から期待していない。ただ、年々自分達の姉貴分である藤村大河に似てきているような気がして、虎が増えるのを阻止したいだけなのだが…

「「士郎、早く早く〜!!」」

居間から聞こえた仲良く揃った声に、もう遅いかも知れないと士郎は再びため息をついた。

 

今日の朝食は、焼き鮭を中心の和食だった。

「うま、うま」

「もぐもぐ」

「創名、おかずばかり食べるな、藤ねぇは人のご飯を狙うな。」

行儀良くから外れた食べ方をする二人に士郎から注意がでる。大河だけならしょうがないなぁ、で済ますが創名もなのだ。虎化ダメゼッタイの意志の下、出来る限り阻止しなければならない。

父親か母親のように二人を注意する士郎を見て、間桐桜が笑いをこぼす。

「む、桜からもなんとか言ってくれよ。虎は1人で十分だって」

「トラ言うな!!」

「うふふ、先生も創名先輩も先輩を困らせちゃダメですよ。」

桜が笑いながら言った言葉に、創名がニヤリと唇を歪ませる。

「ん〜、気付いてるかな〜?今の言葉、何だか『お父さんを困らせないの』とかお母さんチックだった。いつ士郎はこんな可愛い女の子と結婚したのかな?」

「え?あ!私そんなつもりじゃなくて、その…」

創名にからかわれて真っ赤になる桜、アワアワと言葉にならない弁解を繰り返している。

「そうだぞ、創名。俺にはもったいない、桜はもっといい人がいるさ。ごめんな桜、嫌なら遠慮せずに言っていいんだぞ?」

「……ダメだ。この唐変木、早くなんとかしないと。」

真顔で言った士郎と、ちょっとへこんでいる桜を見て創名は呟いた。

少し気まずくなった食卓が、再び賑やかさを取り戻すのは、大河が創名の玉子焼きを強奪した後でだった。

 

創名は基本的に1人で登校する。教師である大河とはもちろん、帰宅部であり、士郎のように人助けをするわけでもないので、士郎と桜とは別に家を出る。といっても1年生の頃は一緒に登校していて、1人で登校するようになった理由は可愛い後輩の恋の応援である。

「自分的にゃ藤ねぇとくっつくのが自然なんだけどね」

姉属性の無い兄を嘆きながら登校する創名の耳に、前を歩く同級生の会話が入ってくる。

「……で、罰として体育倉庫の整理をしろって言われてさぁ、今日は放課後デートの予定だったんだぜ?」

「あのセンセ言うこと古いよなぁ、そんなに嫌なら衛宮兄に押し付けろよ、アイツ頼めばやってくれるって」

「あぁ、なんたって穂群原のブラウニーだしな」

そんなことを言って笑う三人に創名は音も無く近寄って行き、兄に押し付ける事を提案した男子の肩を叩く

「少し時間有るよね?」

士郎はそのお人好しさから穂群原のブラウニーと呼ばれているが、創名は兄に厄介事を押し付ける者への容赦の無さから、穂群原のグレムリンと呼ばれている……

「うん、その三人だよ。何か急にお腹痛くなったらしくて、何か拾い食いしたのかもね。……うん、ありがと藤ねぇ。」

十分後、電話ボックスから学校に電話する創名と、ボックスの外で外傷も無いのにぐったりしている三人の姿が有った。

「遅刻の連絡はしといてあげたから安心して、じゃ、これに懲りたら自分の嫌な事を他人に押し付けようなんてしないでね。」

力無く頷く三人に手を振り、創名は登校を再開した。

 

創名は自分のクラスである2年A組に入り、鞄を机に置くと兄がいて、仲の良い友人が多くいるC組に向かうため、教室から出ようとする。その時、C組のドアから友人であり、この学園の生徒会長でもある柳洞一成が顔を見せる。

「ああ、良かった今来たところか」

「そうだけど、どうしたの?2年A組(敵のホーム)にまで来るなんて」

一成と犬猿の仲である遠坂凛、部活動の予算などでよく対立する美綴綾子などがいるクラスだ。簡単な用事なら後で創名がC組に顔を出した時に済ますだろう。

「いやな、うちの寺の者が料理を教えて欲しいといっていたので伝えに来たのだ。」

しかし、一成の用事はそんな物だった。ちなみに、創名も士郎並みに料理が出来るが、得意なジャンルは手間要らずで美味しい物であり、士郎とは料理についてでよく激突する。

「ふーん、じゃあ、今週中には行くって伝えておいて」

「了解した。伝えておこう。……げげっ!!」

「ん、どうした?…あぁね」

急に叫ぶ一成の視線を追い、赤を見つけて納得する。一成の天敵が登校してきたのだ。

「おはよう、遠坂さん」

「おはよう、衛宮くんそれに生徒会長も」

「……いつもと登校時間がずれているが、今度は何を企んでいる?」

確かに、遠坂さんは何時もはもっと早い時間に登校してるよね。と言う創名の呟きに一成の凛に向ける視線の鋭さが増す。

「失礼ね…私は普通に登校しただけよ。それより、同じクラスの衛宮くんはともかく、違うクラスのあなたがどうして私の登校時間を知っているのかしら?」

「知れたこと、お前と言う悪が生徒に魔の手を伸ばせぬようにだ」

「ずいぶんな言い草ね…」

凛は腕を組み、やれやれと首を振る。

「そうだよ一成、こんなに可愛いのにそんな言い方はどうかと思う」

「創名!?目を覚ませ!その女は、猫の皮を被った悪魔だぞ!?」

「だからだよ!猫可愛いじゃん、自分猫派だし」

「衛宮くん、それは私が猫被ってると言いたいのかしら?」

創名が漏らした言葉に、猫被ってる状態の凛でも額に怒りマークを浮かべそうになる。

一成に凛、それになぜか創名まで加わって無言での圧力勝負となり、一般人では近寄れない雰囲気となる。

「お前たち、何をしている?もうすぐHRが始まるぞ」

三人のにらみ合いを終わらせたのはA組担任の葛木宗一郎だった。彼を尊敬する一成と表向きは優等生の凛は、席につけと言う言葉に逆らえず、戦いは終結した。

そして、最後の平穏な日常が始まる。聖杯戦争を目前にし、僅かに影を落としながら…

 





もっと色んなキャラを出したいのに……
余談ですが、一成とか友人は衛宮兄弟を名前で言い分けしてます。二人とも衛宮呼びでは分かりにくいので

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