今回はプロローグ(仮)です
義妹ちゃんがラスボスルート1
「ちょっと、よろしいかしら?」
聖杯戦争を乗り越え、春と共に新しい住人達との生活が始まった衛宮邸。新学期の始業式の後に衛宮邸に集まって過ごしていた魔術師達の穏やかな時間は、嫁をいじめる姑が発するような、棘と毒によって構成されたように聞こえる言葉によって凍りついた。
その言葉の発信源は卓袱台でお茶を啜っていた着物姿の少女。年は10代の半ば、短く切り揃えられた黒髪は艶やかに輝き、少女の美しい顔を引き立てている。この少女こそ前世に衛宮創名を持つ生まれ変わりの少女、蒼崎キズナだ。
(橙子と創名の共通の友人と言うか、橙子の下で働いていた特殊な魔眼を持った女性をモデルに作られた体であり、15歳の状態という形で製作したために、モデルの女性の婚約者からは写真を撮られまくったり、その写真を見た彼女実家の方々から大量に着物を貰ったりというイベントが発生したが今回は置いておく)
生まれ変わってから二ヶ月が過ぎ、周囲も少女になったキズナに慣れた頃に彼女は冒頭の台詞を吐いたのだった。言葉を向けられたのは、セイバー、凛、桜の3人。向けられた3人は突然の呼び掛けに対応出来ずに固まり、向けられていない者も固まってしまっている。
「ん?あぁ、ちょっと言ってみたくてさ。丁度、3人に用事があったから言っちゃったんだよ。」
「あ、あぁ。そうなんだ。で、どんな用かしら?」
「うん、ちょっと待ってね。」
凛の問いに曖昧に頷いた後、キズナは士郎の方へと向く。
その表情は今までと打って変って、自分が犯した罪を懺悔する信者のように神妙な表情だった。
「士郎、実は、士郎達が学校に行っている間にオーブンを・・・」
「オーブンに何をした!?」
意味深気に途切れた言葉に士郎が全力で問いただす。アーチャーも掃除の手を止めてキズナを注視する。
しかし、キズナはうっすらと笑みを浮かべるだけで何も言わない。その笑みに何かを察したのか、士郎とアーチャーが台所へと駆けていく。それを見送りながら、キズナは部屋の四隅にルーン文字が’刻まれた石を投げた。
「
よし、それで用事なんだけどね。」
「ちょっと待ってください、その用事って先輩とアーチャーさんを追い払って、結界を張ってからじゃなきゃ言えないような内容なんですか!?」
「そうです!一体何を企んでるのですか!?」
キズナの余りにも唐突な行動に桜とセイバーが叫ぶが、問われた本人は気にした素振りもなく話を続ける為に口を開く。
「自分は別に士郎達が居ても良いんだけど。まぁ、士郎が居ない方が話しやすい内容ではあるかなぁ。」
「一体何をしようってのよ?」
「何って・・・恋バナですよ?」
予想外過ぎる言葉に凛を始め、ピキーンと音を立てて3人が固まる。逃げ出そうとした慎二とアヴェ君は目を輝かせたイリヤによって捕獲された。
「アサシン、アレを出して。」
キズナの言葉と共に卓袱台に古びた手鏡が出現する。気配を遮断したアサシンの仕業である。創名からキズナへと契約を移したアサシンは普段は姿を隠しつつキズナのサポートを行っているのだが、サポートを通り越して身の回りの世話を焼く爺やのようになっており、アサシン(真)ではなく、ブラウニー(真)となる日も近いのではないだろうか。
そのアサシン(爺や)が置いた手鏡をキズナが手に取り、正面に座った三人へと鏡面を向ける。薄汚れた鏡面に映るのは呆気にとられた桜とセイバー、この鏡が何かを察してキズナに飛び掛かって阻止しようとする凛と、それを抑えるアサシンの姿だった。
「
呪文によりそれが一体何かを察したときには遅かった。鏡より光が溢れ、今まで映っていたものとは別の物が入り込む、それは鏡に写真のように写り続ける凛達と、それぞれの横に出るピンク色の長いバーが映り込んでいた。(アサシンのみ青色の短いバーである)
「ふむふむ、やっぱり三人互角かぁ。面倒だと言いたい所だけど、面白くなってきたね。」
「ちょっと、人に無断でいきなり礼装使っといてその言い様はどう言った了見よ!アンタ!?」
真っ赤になって叫ぶ凛には鏡の正体とその映っている物が分かっているようだ。
この鏡は礼装であり、お伽噺にも登場する『問いに答えを返す鏡』の一種だ。日本にも死者の生前の真実を映す浄瑠璃の鏡などがあるが、この手鏡は元々の有った魔鏡を改造され、その機能を限定的にしたもので、映った対象の特定の人物への好意の種類と大きさをバーの長さや色によって表すという、ギャルゲーの好感度チェッカーのような存在に変えられた憐れな鏡なのだ。
言うまでもなく、バーが長ければ長いほど好意は大きく、ピンク色は恋心を表している。対象は更に言うまでもなく衛宮士郎である。
その事を着物を着た和風美少女に告げられ、凛達はパニックへと陥った。
誤解だ、間違いだ。記憶を失うか命を失うか選べなど、混乱のあまり意味の無い言葉が口から次々に飛び出ていたが、キズナはそれらを聞き流し、不機嫌そうに言う。
「何で、何で誰も押し倒すとか、そういう事してないんですか!?アンタらそれでも魔術師か!?英雄か!?
凛さん桜さん、士郎に魔術教えるとか言って色々機会は有ったでしょう?セイバーさんも、魔力が足りてないとかいって丸め込めたでしょう!?」
「なに言ってんのよ!?」
「見てて焦れったいんですよ!住んでる家で恋のトラブルはーと。なんていい迷惑ですからね!
いっそ誰かとくっついて貰った方が見てる方の被害は少ないかと思いまして。」
いつの間にか継ぎ足された湯飲みを卓袱台に叩き付けながらキズナが叫ぶ。ちょっとした事で頬を赤らめる魔術師、首を傾げる鈍感。それを見て暗く笑う虚数元素の魔術師、機嫌がいいと勘違いする唐変木。食欲と乙女心が入り交じる英霊、よく食べることは良いことだと抜かす朴然仁。
最初は微笑ましく見ていたが、連日続いた上に進展が一切無ければ流石にキレる。馬に蹴られるのと、このまま静観して焦れったさに身悶えするのとで、キズナは迷いなく前者を選んだのだ。
キズナが今までの出来事を一つ一つと言っていく内に、騒いでいた三人は目を逸らし、イリヤとアヴェくんは強く頷き、慎二はこの会話の中心でありながら此処には居ない友人を思い涙しながらも内心で責めた。せめてもう少し察しが良ければ・・・
「ここで誰かの思いが他の人より大きければその人を応援するつもりだったんですけど、全員互角。
この状況でのお三方への過度の干渉は禍根を残すことになるでしょうね。」
「なんか、すみません。キズナさん。」
ため息を吐くキズナに桜は頭を下げるが、横から見ていたイリヤはキズナの口が僅かに笑みを象っているを見逃さなかった。彼女の元弟は、一番簡単な方法が潰れたからと言って諦めるような神経をしていない。何か考えているのは確定事項である。
「三人への干渉は禍根を・・・ッ、まさかっ!?」
「キズナぁ!ケーキを焼いてただけならそう言えよ。あと何だよデコレーションは任せたって。仕上げを人に投げるな」
イリヤが名探偵のように何かを閃いた時、キズナは結界を解除したのか、台所に仕掛けてあった
結界は防音や意識を逸らさせる物だったので、居間で行われていたやり取りは気づかれていない。
「ねぇ、士郎。結婚してくれない?」
「おう、良いぞ。」
その士郎にキズナが何でも無いように言い、士郎も何でも無いように返事をした。
居間の空気が液体窒素に入れ替わった様に冷え切り、凍りつく。
誰もが目の前で交わされたやり取りの訳が分からずリアクションもとれていない。
イリヤのみがやっぱりかと、悔しげに呟いている。
「にしても、いきなりどうしたんだよ?」
「いや、今の自分の名前って蒼崎キズナじゃん。何か違和感あってさ。衛宮って名字に戻りたいなぁって思ったんだよ。」
「あぁ、何だ。そう言う事なら別に構わないぞ。」
キズナは生まれ変わったとはいえ士郎の弟であり、未だに士郎にとっては身内である。士郎は身内のやることを他人の迷惑に成ることではないなら止めない。この『結婚して』を言ったのが凛や桜、セイバーだったら、俺何かにそんなことを言ってからかうなよ、とか。もっとちゃんとした好きな人に言うんだ。などと言われるだろうが、言ったのはキズナである。何か考えがあるんだろうと受け入れられてしまっている。
「まぁ、戸籍じゃ士郎が17、自分が15に成ってるから、婚姻届け出せるまで1年ぐらいあるし、士郎の卒業までにどっちかに恋人出来なかったらってことで良い?」
「ああ、いいぞ。」
約束を交わした後、キズナは嘲笑いながら居間にいた面々を見る。一言も発さなくても、言いたいことは士郎を除く全員が理解した。
「(さぁ、カウントダウンが始まったぞ。死に物狂いで
さもなくばお前達の思い人は、卒業と同時に人生の墓場送りになるぞ。
キズナは捨て身の
この日この時、ヒロイン達の前に
義妹ちゃんがラスボスルート:卒業までの一年で士郎を攻略出来なければゲームオーバー。イリヤとカレンの妨害を潜り抜け、慎二やアヴェくんの助力を受けながら攻略を目指す。
ゲームオーバーは
こんなノリで始まる後日談です。気に入って頂けたら嬉しいです。