弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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本日2度目の更新です、読み飛ばしにご注意下さい

そして、実質の最終話です。駆け足になりましたが、ようやく完結させられそうです


終結

 

炎が溢れる世界に剣戟が響く。

二人の少年が互いに剣を振るい、ぶつかり、弾く。

剣が砕けようとも一人は再び剣を構築し、一人は砕けた剣を瞬時に修復させる。

 

()は剣で出来ている。」

「体は剣で出来ている!」

 

互いに同じだけの剣を振るい、同じだけの傷を負っている。固有結界の制限展開によって傷を修復出来るはずの創名は、詠唱と共に体に起きる違和感によって魔力が散らされ、思うような効果が出ないことに舌打ちをした。

 

「お前と俺、元は同じなんだろ?根元を同じくする心象風景を持つもの同士なら、互いに干渉する。」

「遠坂さんの入れ知恵かな?」

「ああ、そうだ。他にもお前と会うときの為に色々準備してきた。」

 

共感魔術、丑の刻参りが代表されるように相手と近似したものに影響を与える事で、目的のモノにまで影響を及ぼす呪いの基本。それを利用し、士郎は固有結界の魔術をわざと失敗することで、士郎自身のコピーである創名の固有結界に由来する魔術を妨害しているのだ。

魔術の失敗はどれだけ気を付けたところで術者へのダメージが避けられない為に、乱用こそ出来ないが創名の切り札とも言える魔術の幾つかを不発へと追いやることに成功していた。

けれど、同じ事は創名にも出来る。士郎が固有結界を展開しようとすれば創名も妨害することが出来る。創名の優位は消え、拮抗したまま切り合いへともつれ込む。

幾筋の剣線が走り、互いに距離をとる。鏡写しのように傷を負いながら、それでも、どちらも折れる気はないのだと悟らせる眼光だ。

 

「ねぇ、士郎。こっちから誘っといてなんだけどさ、”此処”まで来れるとは思ってなかったんだよね。」

 

何気なく言葉を出したように笑いながら創名は言った。それが、どうしても納得できないのだという気持ちを滲ませて。

創名の疑問は正当な物だ。此処へ士郎が来る(創名と本気で対峙合する)事の無いように、創名は立ち回っていたのだから。

衛宮士郎の周囲の人間が魔術の世界に巻き込まれないように他者を巻き込むキャスターは潜り込んで破滅させ、士郎が覚悟を決める切っ掛けになる慎二は早々にその意識を変革させ、成長を促す『敵』である綺礼やゾォルゲンは敵として相対する前に排除した、士郎が救おうと力を求める理由である少女達は、苦しむ理由を取り除き、誰か一人の為に動かないようにする鎖に変えた。

 

そうして、衛宮士郎が歩む物語を滅茶苦茶にした。

 

だからこそ、この場面(創名との対峙)において、迷いを捨てきれずに、覚悟を固めきれないはずだった。

何より士郎は攻める戦いも、守る戦いも、本当の全力を出す事はない。士郎自身も気付いていないが、彼は本来救う為の戦いでこそ限界を超えた力を発揮する。

どんなに戦っても救える者の居ない戦いでは限界程度の力しか振るえず、それは創名にとって簡単に対処可能なレベルでしか無い。

そのはずなのに、何故、創名の観測に置いて、警戒度を引き上げざるを得ない程の覚悟と決意を持ってやって来たのか?それが理解出来ず首を捻る。

 

「何故この場に立っていられる?この場には救える人間は誰も居ない、終わった地獄、ただ問う為だけの場所。自分には理解できない。」

「・・・救える人間ならいる。」

創名の問いかけに士郎は不機嫌そうに答えた。

「どこに?誰を救う気なのさ?」

「分からないんだな、創名。

 俺は、お前を救いに此処に来た。」

 

士郎の言葉に創名は呆気に取られたように笑みを消し、次に眉をしかめた。そこにあるのは、戸惑いと怒りと、別の何かが混ざった感情だ。一番近い言葉を探すなら不愉快、次に近い言葉は嬉しさ。複雑すぎる感情は小さな呟きと共に誰にも届かず消えた。

そうして、次に浮かんだのは無表情のようでながら、何かを堪えるように見える奇妙な表情だった。

 

「てっきり、もうちょっとマシな答えが帰ってくると思ってたよ。驚いたって言いたい所だけど残念。」

「何がだ。」

「自分は士郎の敵にさえ成れないのかな?」

 

堪えているのは激情だった。無表情の仮面の下にあったのは怒り、失望、許せない裏切りに会った少年の顔だったのだ。

敵だと憎まれる事を望んでいた。悪だと断罪される事を願っていた。それなのに、『救うべき』だと思われていることが受け入れられなかった。

どう思われていようと、創名が行う事は変わらない。だからこそ、創名は士郎に憎まれていたかった。この地獄を再生する創名を救おうだなんて馬鹿なこと(人のようなこと)を考えていて欲しくなかった。

だって、創名は最後に士郎に殺されることで目的を達するのだから・・・

ただ一人の為の絶対悪(アンリ・マユ)を殺して後悔する姿なんて望んでいないが故に、創名は激怒する。

 

「この世界の問い掛けの答えなんて、キミには出しようが無いんだ!自分を殺さなければ聖杯が完成したときには手遅れになる。それなのに、救うなんて戯言を吐ける!正義の味方になるって言う約束は、覚悟は嘘だったのかよ!?」

 

冬木中央公園に展開された固有結界は詠唱だ。繰り返し続け、密度を増し、やがて完成する魔術儀式。完成したらアサシンに自害させ、聖杯を完全な形で起動させる。この儀式がいつ終わるかは創名とアサシンしか知らず、士郎達には余裕など或はずがない。それなのに、創名を救おうなど考えるのは、最悪の神へと変生した創名が殺す人々を見捨てる行為だ。それは、正義の味方がして良いことではないと創名は吠える。

創名の突然の激昂の意味を理解したのか、鏡に写った虚像に合わせるように士郎も感情を高ぶらせ、声を上げた。

 

「違う!俺は切嗣(爺さん)に約束した!正義の味方になるって!

 その約束を違えるつもりも、曲げるつもりもない!」

 

もはや何度目かわからない交錯、剣撃の音と怒声が混じり炎に煽られて空へと昇る。

 

「それなら、自分を殺してみろ!それが出来ないならそこでじっとしていろ!自分が士郎を正義の味方にしてみせる!」

「違う!それで正義の味方になったとして、それは、俺が爺さんに約束した、俺が憧れた『正義の味方』じゃない。」

「そうやって、理想を追って、重荷を負って、そして沈む!そんな自殺志願者を、破綻者を『正義の味方』とは言わない!」

 

創名の剣を受け止めながら、士郎はその顔が誰かに似ていると感じた。士郎と同じ顔のはずの創名の顔、表情が自分達の養父に似ていると感じた。士郎が知っているのは、何かを悟ったような、何かを諦めたような穏やかな父親だ。けれど、今の創名はきっと、正義の味方を諦めきれなかった頃の士郎の知らない衛宮切嗣に似ているのだろうと思ったのだ。

理想を追って、それに破れ、妥協をして、妥協こそが最良の手段だと断じた悲しい男。

10を助ける為に1を捨て、100を守るために10を殺す。

それを是とした嘆きの果て。

悲しんではいけない/1は必要な犠牲だった

嘆いてはいけない/10の死者は生きる事さえを許されなかった

100、1000、10000。何処までも多数を救う為に少数の犠牲を強いて擦りきれた彼と創名が重なった。

 

「・・・あぁ、そっか。創名。お前にとっての『正義の味方』はオヤジなんだな。」

「っ!」

 

士郎の呟きに、創名は飛び退る。まるで、強烈な一撃を受けたように顔色を変えている

 

「許せなかったのか、衛宮切嗣が正義の味方じゃないことに。だから、俺がお前を切り捨てて、お前の言う正義の味方になれば、切嗣もまた、正義の味方になる。」

「そうだよ。切嗣は自分にとっての正義の味方だった。本人が違うって言っても、世界が違うって言っても!だって、あんなに、頑張ってたのにさ、報われなかった。そんなの間違っているだろう?」

 

士郎の言葉に、諦めたように頷き、創名は言った。

今現在、生きている人間の中で衛宮切嗣という人物にもっとも深く、もっとも長く関わってきたのは、イリヤスフィールでも士郎でもなく、創名だ。それが故に許せなかったのだろう。やるせなかったのだろう。正義の味方を諦めて、そのまま去っていった父親が。

 

「正義の味方を目指して、求めて、最後に聖杯にまで『縋って』。その答えがこの世界!」

全てが燃える世界を示し、創名は叫ぶ。

「そんなの、あんまりじゃないか。」

だからこそ、創名はこの世界を問い掛ける世界だと定義した。本来、この世界は一つの答えだ。衛宮切嗣(正義の味方を目指した男)が苦しみ、放浪したあげくに辿り着いてしまったモノだ。けれど、創名は思ったのだ。

 

こんな救いようの無い物が、正義を求めた末の答えなんて認めない

 

だから、切嗣が原因の一端を担った悲劇に意味を持たせた。正義の味方の誕生の物語においての役割を与える為に。

創名は、自身の目的を変える事はできない。けれど、その過程なら選ぶことができる。だから、選び抜いた。このクライマックスを、士郎を正義の味方にすることで多くの願いを叶えるために。

士郎は目を瞑り、考える。創名の叫びから、自身と自身の養父、その最期。そして口を開いた。

「確かに、間違ってる。頑張っても報われないのは嘘だ。

 でも、爺さん報われてた。いや、今も報われている。」

「何を言ってるんだよ。」

「だって、創名は爺さんの為にここまでしたんだろう?自分の為に頑張ってくれる奴がいるんだ。爺さんは報われてる。」

 

創名の思いも分かる。けれど、衛宮切嗣の最期はあの月夜で正しかったのだ。切嗣の心は救われていたのだと思う。

 

「それでも、たった一人だ!」

 

叫びながら距離を詰め、斬撃を繰り出す。感情のままに振るわれた剣は士郎でも軽々と受けれるほどに鈍く、士郎が押されそうなほど重かった。

 

「ああ、そうかも知れない!けど、勘違いするな!俺もそうだ!」

 

剣を弾く、切りつける。受ける、止める、流す、突く、避す。思いをぶつけ合うように互いの剣を交わす。

 

「俺やお前だけじゃない!

 俺達が切嗣の後に続いたように、

 俺の後に続く者がいるなら!お前の後に続く者がいるなら!それは切嗣が始まりだ!」

士郎は創名の声に負けぬ程声を上げる。世界よ聞くが良い、これが衛宮士郎(正義の味方に至る者)の答えだというように。

「辛いのも、悲しいのも、憎いのも当たり前だ!だけど、」

 

「それを他人に当て付けるのは間違っている。それは、悪だ。それを俺の弟に悪を押し付けないでくれ。

 創名はどうしようも無い奴だけど、悪い奴じゃないんだ。」

 

それは答えであり、懇願だった。正義の味方ではなく、未だ正義の味方に成れない衛宮士郎の言葉。

未熟で曖昧な何処にでもある願い。だからこそ、誰もがそれに共感する。

士郎の願いと共に、地獄で響いていた苦痛の声と助けを乞う声が止まり、それを上げていた死者達が灰となって消えていく。残ったのは燃え盛る街と生者の二人だけだった。

 

「あははっ、卑怯じゃないかな。答えを出せって言われて、そんなこと言う?普通。」

「答えは出せないってお前が言ったんじゃないか。」

 

呆然と呟く創名に士郎は笑って言う、創名の勝利条件は崩れた。しかし、創名は諦めてない、それを士郎も分かっている。

 

「まだ、どうにか出来るんだろう?だから俺に止め方を教えた。」

「そうかもね。」

 

士郎が諦めないのと同様に、創名は諦めない。そんな所ばかり似た二人は今までより距離を取る。互いの本当の切り札を切るのが分かったからであり、正面から迎え撃つ為の準備だ。

 

「刻まれた終演よ。創痕をなぞれ。」

「令呪に於いて命じる。寄越せ!アーチャー!」

 

創名の詠唱によって現れたのは、全体に罅が入った輝く聖剣。それは、10年前に終演の幕を引いた物であり、この炎の悪夢の引き金を引いた物。過去に刻み付けられた傷からトレースされた出来損ないの偽聖剣。人の身に余るものを、死者の消えた固有結界の補助を受け、聖杯の魔力を回し、一瞬の為のみに具現させる。紛れもない歪んだ奇跡を手に創名は笑う。

対して、士郎は令呪が輝き一画欠け、そしてその手には幻想のように美しい鋼の剣が握られている。それは、創名が生み出した剣を雛形にした未来の聖剣、邪神を討った正義の味方が振るった悲しき幻想。本来の持ち主である英霊エミヤが投影した宝具を令呪によって転移させた、其処に至っていない担い手と未来の彼が振るう剣、セイバーとアーチャー、遠坂と士郎、サーヴァントを入れ換えて契約をし直すという奇策によって実現した正義の希望。

 

創痕刻むー(エクスカリバー)

正義を誓うー(エクカリバー)

 

二人は剣を正眼に構え、振りかぶる。片や継ぎ接ぎの聖剣、片や未だ届かぬ聖剣、出力は五分。

創名の手の中で聖剣が、汚染された聖杯の魔力に悲鳴を上げる。剣を握った士郎の腕が、今はまだ相応しくないと軋む。しかし、二人には関係ない。この1振りで全てが決まる。

そして、その時がやって来る。

 

終幕の剣(スカード)!」

勝利の剣(チューニング)!」

 

星の極光を思わせる輝きと、闇を切り裂く旭光の輝きが創名と士郎の間でぶつかり、光を散らす。世界の終わりと言われればそれであるように見え、世界の始まりだと言われればそれにも納得できるような、破壊的でそして神々しい光の奔流は、どの様な存在さえ見通せない程の強い輝きを刹那に起こして消えていく。

 

其処に有ったのは、夜空の下の公園とその地面に膝をつけた創名、そしてふらつきながらも自身の両足で立っている士郎だった。

 

「俺の勝ちだ。創名。」

「そして、自分の敗北かな。」

「約束だ。帰るぞ。」

 

清々しく笑いながら士郎が言う、創名もそれ笑顔で答える。

戦闘中だった凛達が士郎達に気づき歓声を上げた。

 

その瞬間に動いた者とその動きを知っていた者が居た

 

ターン!音にすればそれは在り来たりなチープな音だった。

実際にそれが銃声だと即座に気づけた者は居なかった。

その音と同時に創名の胸が弾け、紅く染まらなければ銃声だとしても気にする事はなかったかもしれない。

創名が崩れ、地面に倒れ伏すまで誰も動けなかった。

倒れ伏す創名に士郎は駆け寄る。聖杯の心臓ごとの破壊、現実として認識しているはずなのに、理解が出来ない。

何故?どうして?

主人を殺した暗殺者はその疑問に答えること無く姿を眩ましていた。

 

「・・・士郎、・・・約束・・・は、、また、、・・今度、、な・・・。。。」

 

途切れ途切れにそう告げて、最後に泣かないで、そうかすれた声で言って、創名の息は止まり、死亡した。

 

 

               ROUTE COMPLETE!





そこは虎なししよーや、ロリでブルマな弟子の道場の真上から2つ横の教室、その教壇に二人の少年が立っていた。赤毛で白い右腕の少年は白衣を着て、赤毛白衣と同じ顔だが肌も髪も黒い少年は学ランを着ている。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい!」
二人はいつにも無くハイテンションで手を叩く。最後の機会だと知っているかのようだ。
「いやー、久々だわー、何年ぶり?」
「体感時間が全てだとは限らないんだよ、アヴェくん。」
適当に難しい事を言って誤魔化す気が見てとれる先生は、アヴェくんの疑う視線を黙殺する。
「にしても、何か教室揺れてね?地震?」
「あぁ、もうすぐ教室が崩壊するから仕方ないね。」
アヴェくんの疑問にさらりと答える先生。
「元々この教室は、聖杯に接続された創名が無意識で作り上げた、アンリ・マユの精神の封印場所だからね。聖杯が壊れれば教室も消えるよ。」
「なにそれ!初耳なんだけど!?」
「桜ちゃんからハートキャッチしてからこのコーナー始まっただろう?そういう事だったんだよ。」
「前にも言ったけど、こんな所で本編に関わる伏線を張るなよ!」
先生のぶっちゃけにアヴェくんが叫ぶ間にも教室の揺れは激しくなる。
「さぁアヴェくん、下校時間だキミは教室から出ていくといい。」
「先生は?」
「自分は今回は選ばれなかった未来におけるアンリ・マユ。そうである以上この世界線では消えるだけだ。」
微笑みながら教室のドアを指差す先生。
「お行きなさい。」
「そのネタ、今時どれくらいの人に伝わるんだよ!」
最後まで叫ぶアヴェくんを蹴り出して、先生は一人残った教室で、教卓に座る。

「感謝を」

誰にとも、何にとも言わず教室ごと消えていった。
その空間は、もう何処にもない・・・

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