固有結界の中で、創名と士郎が切り結んでいる時、結界の外、アーチャー達はアサシンの足止めを受けていた。
アサシンが最初に行ったのは、街灯の破壊だ。勿論、人工的に生み出された光がなくとも月の光が射し、十分な光源になっている。サーヴァントや魔術師にとってその程度の暗闇など、視力を強化すれば昼間と同じように見透すことができる。
そんな事はアサシンも百も承知だ。
「展開、小さき壁の黒い箱。」
月明かりの中、少ない闇に身を紛れ込ませたアサシンが、創名が用意した結界の発動キーを口に出す。直後にその場所に矢が打ち込まれるが、すでにそこにはアサシンはいない。
そして、結界が展開される。結界と言っても、対象を閉じ込めたり、害するほどのモノではない。むしろ、結界としての機能は低い。
その結界は、普通の人でさえ違和感なく通過できるほど弱い進行妨害の結界。極々限られたものを通さないモノだ。この結界によって弾かれるモノはただ一つ。光の粒子。月より降り注ぐその光を通さない結界。その中は一切の光が無い空間となる。
それと同時に創名がギルガメッシュと相対する時にも使われた、魔力を反射させ、魔力的知覚を妨害する結界も張られる。
そうして、アサシンは一段と深くなった闇にその身を隠す。
「っ！ちょっと待ちなさい！」
突如生まれた漆黒に凛は灯りを灯すための魔術を使おうとする、それは人として当然の反応であるし、ここで、目をさらに強化するという悪手を打たなかっただけ誉めらるべきだ。この結界に外部からの光が進入がなくなった以上、目の感度を強化する程度では、アサシンはおろか、横にいる自身のサーヴァントさえ見えない。
１工程の魔術によって、仄かな灯りが周囲を照らす。
人間というのは、ごく自然に行ってしまう行動がある。闇の中で目を凝らす。灯りが着けばその明るくなった範囲を注視してしまう。サーヴァントでも元は人間、無意識に行うことは止められない。そして、その行動こそが暗殺者の狙いだった。
「っ！凛ッ！！」
全員の注意が僅かに逸れた瞬間。最初に動いたの
凛の背後へと迫るアサシン。それに向かって聖剣を振るう。それに対してアサシンはあっさりと後退し、再び闇に消える。しかし、ただで退いた訳ではなく、凛達の足元には黒い物体が複数転がっている。
「まずい！目を・・・ッ！」
アーチャーの言葉の途中で物体が炸裂、太陽のように目を刺す光が溢れ出す。物体の正体は創名作製の閃光手榴弾だ。
光の進行阻む結界により、閃光は結界のなかを乱反射、闇によってアサシンの姿を隠していた結界は目も開けられない眩さによって、アサシンの姿を消させた。
通常、サーヴァントがこのように現代兵器やマスターの礼装を持つことは稀だ。サーヴァントへの攻撃には相応の神秘を伴っていなければ傷を付けることは叶わないし、何より、霊体化というサーヴァントの持つ基本機能の妨げと成ってしまうからだ。
しかし、この局面のアサシンに限っては霊体化の必要もなく、そして、傷をつけることができなくとも妨害として物理現象を起こすことによって自身の有利を築くことができる。それが、アサシンの狙いだった。
だが、アサシンは一人の少女を見誤っていた。輝かしい誇りを持つ宝石の少女、その苛烈さを・・・
「
少女の手の中で閃光の光を打ち消すほどに輝くのは真紅のルビー。勝利と情熱を表す輝きは魔力を伝播させ、浄化の炎を巻き起こし、アサシンを巻き込みながら結界を破壊した。
周囲を殲滅させる攻撃的な魔術に結界消去の効果を付属させたのは、彼女の天賦の才か、激しい怒りによるものか。
「創名君もアンタもそう、弱いものから狙う、それは戦いの中で有効だわ。それは認めましょう。けど、いつでもまっすぐに私を狙ってくる事を認められるほど、私のプライドは安くないのよ？」
結界が崩れ、光が乏しくなり元通りになっていく世界の中で、笑みを浮かべて彼女は言う。
牙を向く獣？否、それよりも優雅で美しい、悪魔の笑み。
「時間稼ぎ？足止め？上等じゃない。とことん付き合ってあげる。」
夜闇に立つ少女は可憐、しかし、その瞳に宿る意思は炎より苛烈。
「徴収の時間よ、アサシン。私が足手まといだなんて舐めた真似してくれたのは高くつくわよ。」
現代の魔女にして稀代の魔術師、遠坂凛は高らかに宣言した。
何回もサーヴァントの足止め目的で狙われて、アカイアクマがログインしました(