弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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衛宮創名の一日/裏

夢を見る

月下の誓い。最初は恐怖を、最期に愛情を、自分に抱いてくれた父親の死に際に贈った約束。

切嗣の夢を引き継ぐ(士郎)の味方であり続け、諦めないであろう彼が道半ばで倒れないように支え、理想(正義の味方)までの道を(つく)る。

例え、この魂を■■させても。

士郎がその道を拒もうとも。

衛宮創名の道行きは……

 

「詩的表現が足りない。」

自分の夢においての表現力の無さにダメ出しを喰らわし、衛宮創名は目を覚ました。

和室だと言うのに、畳が見えない程パズルのピースが撒き散らされた部屋、布団や箪笥、学校の勉強道具以外に私物がほとんどなく、やけに達筆な文字で『雉も鳴かずば撃たれまい』と書かれた紙が天井に貼られている。

そんな部屋とは言えない有り様の和室が、創名の私室兼工房でいる。

「うん、しょっと。」

小さく気合いを入れながら部屋との隅の畳を捲る。

そこには地下へと続く梯子が有った。

地下は士郎が工房のように使っている土蔵と似た作りになっている。違う所を挙げるならば、向こうにある物はほとんどガラクタだが、こちらに有るのはほぼ全てが魔術関連の物である事だろう。

切嗣の表向きの遺産は士郎が相続し、魔術関連の遺産は創名が相続したからである。

何故なら、切嗣は創名に本格的な魔術の手解きを施したが、士郎には初歩的な物しか教えていないからだ。

士郎と創名に差がある理由は、切嗣が創名を、自分の息子にした訳に起因する。

切嗣が創名を引き取ったのには訳が有った。1つ目は、士郎とほぼ同一の外見だったこと。

2つ目は、切嗣が創名を恐れ、手元で監視しようとしたことだ。

保護対象(士郎)監視対象(創名)を二人きりに出来ず、イリヤを奪還擦るべくアインツベルンへ挑戦する時、切嗣は創名を同行させた。その内に創名の治癒魔術への適正が見つかり、切嗣が監視対象だった創名に魔術と関わらず、平和に生きて欲しいと言うハズもなく、切嗣は自分でも出来る簡単な治癒魔術を教え、それを皮切りに創名は切嗣を真似て行くようにして魔術を学んで行った。

切嗣が、創名を士郎と同じように見るようになった頃には既に知識が無ければ危険な域に達していたのだ。

幾度もアインツベルンに挑む内に、銃や爆発物といった近代兵器の扱いを覚え、魔術師殺しの技を継承していた。

そうした理由により、創名は父親の裏側と言うべき物の多くを引き継いでいる。

「確か、ここに…」

創名は、私室と違い整理の行き届いた地下室に入るとすぐに1つの箱を開ける。中に入っていたのは、二冊の本だった。

一方は切嗣の手記、第四次聖杯戦争についてが書かれている。もう一方は画集である。

手記の方はまた箱にしまい、画集を取り出し、パラパラと捲る。

やがて、手触りが他のページと異なるページで手を止めた。

「起きろ」

短く呟かれたのは、魔術回路を起動させる呪文。創名の魔術回路が活発になるのに合わせて、ページに描かれていた絵が消えていく。

残ったのは一画の令呪。

画集は、令呪が保管されてい人間の皮膚で作られたこの1ページをカモフラージュするものでしかない。

このページの元になったのは、第四次聖杯戦争のランサーのマスターの1人、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリと言う魔術師の右手だ。

腕ごと奪った令呪を、いざというときの為に保管していたらしい。

『もし、大聖杯が無力化する前に第五次聖杯戦争が始まった時、これを役立て欲しい。』

切嗣の言葉が思い出される。今、自分と士郎は高校2年生で季節は冬、聖杯戦争がもうすぐ開始される。

「聖杯の聖痕を縛る縄よ自壊し、切れよ。」

令呪に手をかざしながら封印の解除と委譲の呪文を詠唱する。

「聖痕よ我が手の中に、英雄を縛る手綱となれ。」

ページから令呪が剥がれ、創名のヘソの左側に張り付く。

「腕や手じゃなく、何でそこ?まぁ、上手くいったから良いか。」

能天気そうに呟きながら、聖杯戦争が始まってからの事を考え、創名は小さく笑みを浮かべた。

 


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