弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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本日2話目の更新です。


クランの猛犬2

「では、これを……」

創名は自らの首に巻いていたウァレンティヌスの聖骸布を外し、ランサーに投げ渡す。

受け取ったランサーは一目でそれが如何なる物なのかを察し、瞠目する。

「――いいのか、坊主。こんなモンを敵である俺に渡してよ」

「いったはずだよ。貴方の最後に相応しい物を、と。」

ウァレンティヌスの聖骸布、その効果は身に付けた者への暗示や命令(ギアス)を完全に防ぐ事。それは絶対の命令権である令呪をも無効にする。

詰まり、ランサーに与えられた令呪による命令と枷が消え去るのだ。

「礼は言っとくぜ。お前等を殺して、あのいけすかねぇ神父を葬らせて貰う。」

ランサーの言葉を聞いて、創名は笑みを深める。ランサーの言葉は、今現在において言峰綺礼がランサーと感覚を共有していない事を示していた。

聖骸布の代価として見逃せと言えば、今回は見逃してくれるだろう。しかし、それで再びバゼットとかと再契約されるのは創名にとって避けるべき事態だ。だからこそ創名は決めていた、ランサーはここで殺す。

「起動しろ、無限の剣骸。

制限展開。」

創名の表情が変わる。それは葛藤するツギハギの顔ではなく、全てを否定する嘲笑。

「この身は剣。朽ち果て、砕けようとも敵を切り裂くモノなり。」

続いて唱えられたのは強化の魔術、基本魔術と言える物だがそれに使われている魔力の量にランサーは顔をしかめる。大量の魔力によって創名の体が強化されるが、強化し過ぎている。身体能力がサーヴァントのパラメーターに準じて言えばC程までに上がっているが、そこまでの負荷に体が耐えられていない。ランサーの目には、強化の歪みで肉体が壊れていくのが見えたが、すぐに修復されていく。

「成る程な、捨て身の策かと思えば回復能力持ちか。少しは楽しめそうだな。」

「楽しむ暇なんてあげるつもりは無いよ。」

創名は嘲笑のまま走り出す。その速度は人間離れしていて、一歩ごとに創名の脚はひしゃげ、次に踏み出すまでには元に戻る。常識外の速さでぶつかる空気の抵抗で体の骨は砕け、次の瞬間には傷痕さえ無い。地獄の責め苦にも似た痛みが全身をさいなむが創名の嘲笑が崩れる事は無い。

「ハ、上等じゃねぇか!!」

それに迎え撃つのは神話の槍、数多の英雄や怪物の命を奪ってきた紅き呪いの槍。ランサーは躊躇い無く突き出す。高速の突き、けれどランサーにとってはそれは様子見に過ぎない。かわされるのが前提で、その後に繋ぐ為の布石。

「――何ッ!!」

だから予想外だった。創名はランサーの一撃を回避しなかったのだ。ただ笑みを深めながら右胸を貫かれ、強化した腕力で槍を動かないように握り締める。

現在の創名は自身の固有結界を体内に展開している。無限の剣骸、その効果は創名自身の再生と武器の崩壊。ランサーはその中に己れの宝具を突き入れてしまったのだ。その結果、ゲイ・ボルグには無数の罅が入り、穂先から砕けた。

「言ったじゃ無いですか、楽しむ暇なんて上げるつもりは無い、て」

聖骸布を渡すことも、派手な強化も創名の布石。最初の一撃を確実に体に受ける事こそが創名の策。初手で真名を解放されない為に令呪による命令を無効化させ、戦いを楽しもうとするように仕向け、最高速度で接近する事でランサーの行動を後退か、素早く繰り出せる突きに絞らせた。

「アサシン!!」

「あいよ。――秘剣・燕返し!」

創名の叫びが終わる前にアサシンはランサーに接近。体の持ち主である佐々木小次郎の必殺の秘剣を放った。平行世界から斬撃を持ってくると言う滅茶苦茶な剣技によるタイムラグ無しの三つの斬撃は、ランサーの命を奪うかに見えたがランサーもまた英雄、砕けた槍の残骸を迷い無く手放し空中にルーンを刻む。二つのルーンは同数の斬撃を止め、残る斬撃は全力で後退したランサーの体を浅く切りつけただけに終わった。

「縛れ。剣鎖の射手。」

英雄に相応しい能力に内心舌を巻きながら、創名は追撃を行う。銀の砂嵐が吹き、柄に鎖が付いた短剣群が空を駆ける。

剣群の射出は鋭く、全方位からランサーを狙い、とっさの回避で体勢を崩し回避することが叶わないランサーの守りのルーンを貫き、数本がランサーの手足に深々と突き刺さりその動きを阻害する。

舌打ちをするランサー、それを見ながら、創名は自身の右胸を指で抉り、紅い欠片を取り出す。それは砕かれた呪いの槍の欠片、そして、創名は使いなれた魔術の詠唱を行う。

「復元開始。」

創名の詠唱に応え、復元されるのは先程砕かれたゲイ・ボルグ。

神話においてクー・フーリンは奪われたゲイ・ボルグによりその命を断たれた。真名を解放出来なくとも、ランサーに確実にトドメを刺すのにこれ以上無い選択だ。

「(令呪において命じる。拘束を振りほどき、敵マスターの心臓を奪え。)」

敗北を悟ったランサーに念話によって伝えられた命令。いつから気づいたのか途中から見ていたのだろう言峰綺礼による命令。これによりランサーの意思とは関係なく、創名を殺す為に体が動くはずだった。しかし、ランサーは拘束を振りほどくことすら出来なかった。理由は簡単、ランサーが身に付けたウァレンティヌスの聖骸布だ。この聖骸布はあらゆる命令、暗示を無効化する。その際、例え命令(ギアス)が対象に利をもたらす物でも無効化する。故に、ランサーへの令呪による命令は不発となった。

「そっちの手は読めてんだよ、外道神父。」

ランサーを通してこちらを見ているだろう言峰綺礼に凄惨な笑みを見せつけ、紅の槍でランサーの心臓を貫いた。

「……見事だ。坊主、あの神父の裏をかくたぁな。最期に良いものが見れたぜ。」

愉快そうに笑い、ランサーは空気に溶けるように消えた。残されたのは赤い聖骸布だけ……

「アサシン、行くよ。」

「予定通りに、ですね。」

聖骸布を再び首に巻いた創名はアサシンに一声かけ、マンションの屋上から夜の街へと飛び降り、アサシンもそれに追従する。

目指すは教会。言峰綺礼。

 




そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい!!」
久々の為、テンションが上がっているらしく、いつもより号令に力が入っている。
「はい、今回は人間がサーヴァントを倒すと言う、驚きの展開です。」
「はーい、先生、未来の邪神は人間のカテゴリに入るんですか?」
茶化すアヴェ君に発砲しつつ、先生は黒板に奇襲の文字を書く。
「今回、ランサーを倒せたの一番の要因はコレです。まぁ、それまでのトラップによるダメージもあったんだろうけど、意表を突く捨て身の罠、知らなきゃ対応出来ない、武器破壊……」
「トドメが、ゲイ・ボルグなのも大きいだろうな。アレじゃなけりゃランサーは生き残って撤退が可能だったろうな。」
「実際、あんだけやって生き残ってたらもう倒せなかっただろうしね。」
二人は、さすがサーヴァントと頷き合う。その顔は振り切れた強さへの呆れのようなものが浮かんでいた。
「次回は、ついに登場元祖黒幕。
正義から遠き二人
ではでは。」

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