やっとテストも終わり、時間に余裕が出来たのでこれからは、週に1、2回の更新をしていきたいと思います。
聖杯戦争の果てに、
「その子、治って良かったね。」
突然、そう声をかけられて顔を上げる。
そこに立っている少年を見て目を見開く、少年は自分が救われた、自分の腕の中で気を失っている少年と瓜二つだった。髪の色、瞳、顔立ちが全く同じだが、その少年の手足が意識の無い少年とは違っていた。
半袖、半ズボンから覗く右腕と右膝から下の肌が血が通っていないように白い。肌の移植でもされたように唐突に変わっている。
そして、
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
少年が一歩近寄って来たとたんに、身体の中の呪いが騒ぎ出す。
見れば少年は傷一つ負っていない。地獄だった場所で、そんなことがあり得るだろうか?
ここに生きていた人々の平穏を、未来を、焼き滅ぼした呪詛を受けて、今後この地に残留するだろう死者の怨念を感じて、何の傷も無く、普通に笑っていられるのはいかなる存在か?
切嗣は悲鳴を上げる身体を無視して魔術回路を起動させる。
「……君は何だい?」
切嗣の問いに少年は盛大に眉をしかめる。憎悪する人物と似ていると言われたかのような反応だ。
「見ての通り、人間だ。」
まるで、人間以外に勘違いされているのが堪えきれないと言うように、少年は力いっぱいに答え。直後、その場に倒れ伏した。
「あ、夢か」
目を覚ますと最近見慣れた病院の天井が目に入り、ほっとため息を吐く
「神とかないわ~、いや、最後とかFateだったし、小説の読み過ぎかな?」
あははと笑い、右腕で頭を掻く。にしても、あの夢あの後どんな展開になるのか少し見たかったかもしれない。きっと突拍子もない超展開が有っただろう。
想像すると笑いがでる。こんな愉快な気持ちになったのは、事故後初かも知れない。
「あれ?」
さっき自分は“右腕”で頭を掻いた気がする。
グーパー、動かしている感覚がある。右腕を見る、そこには作り物のような白い腕が有った………
「夢じゃ、なかった?」
咄嗟には気付かなかったが、病室も違う。
ベッドは大きいし、部屋自体も広い。そこでまた違和感、視界に入っている自分の体が縮んでいる気がする。というか縮んでいる。手のひらが、子供特有の紅葉のお手てだ。
一回深呼吸して、その直後に子供のかん高い声で悲鳴が響く、喉が痛くなってからその悲鳴は自分が上げている物だと気付いた。
悲鳴と言うナースコールによって召喚された医師と看護師による。診察を受け、記憶障害と言われた。確かに、どこに住んでたのか?とか、答えられなかったし、何より創名(きずな)君と呼ばれて、誰?と言ってしまったのが決定打だった。
あわてて否定してもますます墓穴を掘り、大火災以前の記憶が無いことになったのだ。お兄さんと同じね、と言われたが一体誰のことだ?もしかしたら、創名と言う名前の少年に憑依したのだろうか?そうだとして何故創名君は個室にいる?記憶が正しいなら、火災で生き残った子供は同じ病室に入れられていたはず、そして衛宮士郎となる少年以外は外道神父によって魔力電池として捕らわれる。
そこまで考えたときに感じた不思議な感覚に思考を止める。身体がざわめくような、共鳴する感覚。それは少しずつ大きくなり、
「やぁ」
衛宮切嗣がノックもせずに入って来た。片手でドアを開け、右手はくたびれたコートのポケットに突っ込んでいる。
「目が覚めたって聞いてね。元気そうで何よりだよ。」
「…誰ですか?」
フレンドリーな割に背筋が凍るような気がするのは、この生きる事に疲れたような男の所業を知ってるからだろうか?取り敢えず惚けてみるが、目を細められるだけだった。
「どうやっても君の戸籍が見付からなくてね。新都に住んでた子供の名前を使わせてもらったんだ。」
……お前のせいか!?自分の記憶喪失扱いは!あぁ、本物の創名君ゴメンねリアル
と言うか、副音声で、お前がただ者ではないのはわかってんだよ。みたいなのが聞こえるのは、被害妄想だろうか?
士郎を迎えに来たシーンを見た時も思ったけど、あの大火災後でどうやって名前とか調べたのだろうか?
「自分、名前も思い出せないので、創名が名前かも知れないね。」
「そうかい」
そんな思考は置いといて、あくまでしらを切る。切嗣は大変だね、と頷いた。
今、気付いたけど切嗣は病室に入ってから一度も右手をポケットから出していない………意識をポケットに向けると、何故かその中で銃を握っていると確信できた。
あ、何でかは知らないけど殺しに来たんだ。
そう思っていると、切嗣の右手に僅かに入っていた力が抜ける、銃を放したのだ。
「僕は、衛宮切嗣。突然だけど、僕の子供にならないかい?」
「……」
病院から連れ出して始末する気?と言いそうになったのを堪える。頭の中で悪友がサムズアップをした。
ここにこのまま居ても、人間牧場逝きだと言う事を思いだし、切嗣に頷いた。
「それは良かった。」
切嗣はそれなら、急いで用意しなくちゃと呟いて、病室から出て行こうとし、途中で振り替える。
「そうそう、言い忘れてたけど、僕は……」
「知ってる、魔法使いでしょ?」
士郎を助けてくれた。名言を遮ってそう言えば、切嗣は一瞬毒気が抜かれたような顔をして、その後泣きそうな顔をした。
これが、自分が衛宮創名になった瞬間だった。
自分の外見が衛宮士郎と同じなのに気付いて、再び悲鳴を上げるのはこの十分後のトイレでだった。
衛宮切嗣は、かつての聖杯戦争で拠点とし、自分の帰る場所となった武家屋敷の縁側で息子達と月を見上げていた。
双子の兄弟士郎と創名
始まりは贖罪だった。自分の理想を叶えようとした結果、生じた地獄で唯一自分が助ける事が出来た、自分を救ってくれた少年、士郎。彼を守り、育てる事がせめてもの罪滅ぼしになると思っていた。だが、彼は自分の家族になってくれた。10の為に1を切り捨て、理想の為に自分の大切な人々を犠牲にし、血と呪詛にまみれた自分に人並みの幸せを教えてくれた。
始まりは恐怖だった。地獄の中で普通であった壊れた少年、創名。自分の救いだった士郎と同じ姿であり、彼の側では身体に残留する呪いが活性化して、罪を忘れるなと言われているようだった。それは呪いの泥に触れ、創名の魂が変質してしまった事が原因で、創名からすれば迷惑な被害妄想だっただろう。しかし、彼もまた自分の家族だった。教えた魔術で呪いに蝕まれた自分の体を治療し、
自分の罪と贖罪、そして救いの象徴である息子達とも、もうお別れだ。自分はきっともうすぐ死ぬ。
元々、呪いを活性化させる創名と暮らしていたことで、少なかった自分の寿命はますます削られていた。それが今まで生きていられたのは、寿命を削っている原因である創名の天才的な治療のおかげだった。だが、そのマッチポンプももうもたない。
これが、息子達との最後の時間だ。
「子供の頃、僕は正義の味方に憧れていた。」
理不尽な運命に弄ばれ、涙する人を無くしたいと思った。がむしゃらに頑張って、犠牲を0にする事は不可能だと悟った。そして、より多くを救う為に少数を切り捨てる作業が始まった。
「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ。」
士郎が少し不機嫌そうに聞いてくる。創名は聞いているのかいないのか、空に浮かぶ美しい月を見上げている。
「うん、残念ながらね、ヒーローは期間 限定で大人になると名 乗るのが難しくな るんだ。そんなこと、もっと早くに気が 付けばよかった」
そうだったら、彼らは血の繋がった家族や友人達と、今も平和に暮らせていただろう。
「そっか、それじゃしょうがないな」
「そうだね、本当に、 しょうがない」
後悔しても意味がない。より少数に犠牲を強いて、多くの死を積み上げて来た。それは自分の
言葉が途切れ、月を見上げる。美しく、優しい月だった。
「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ」
普段と変わらないように士郎は言う。
「爺さんは大人だからもう無理だけど、 俺なら大丈夫だろ、 任せろって、爺さんの夢は俺が現実にしてやる」
無邪気に、けれど真剣にそう言ってくれた。
「何か士郎だけだといつまでも叶わない気がする。」
「なんだよ創名、俺には無理だって言いたいのか?」
「そうじゃないよ。一人じゃ大変そうだから、手伝うって言ってるんだよ。」
月を見たまま、創名が言う。唄うように、誓うように…
「自分が、衛宮創名が衛宮士郎を正義の味方にしてみせる。」
笑って見せた創名に士郎が照れながら感謝するのを見て、切嗣は心が安らぐのを感じた。
「あぁ、そうか…安心した。」
彼らと家族で良かった。そんな思いを最期に、切嗣は安らかに息を引き取った。
同じ場所から始まった二人の道、その先如何なる
視点がコロコロ変わってて申し訳ないです。
しばらく話が進めば視点の変更とかは少なくなります。