創名を中心に銀の砂が広がっていく、砂に呑まれた剣は砕け砂となる。
それは、銀の砂漠だった。空は夜に蝕まれ、天上にはステンドグラスが浮かび、約束の夜のように美しい月が輝く。
「御覧の通り、この世界は崩壊と再生の剣の墓所。貴方の世界の天敵。
さて、世界に溺れる覚悟は出来たか?
そう宣言した創名の姿も変わっている。剣群による傷は消え、代わりに縫合痕が体中に走り、それを境に肌の色が変わる。その姿はさながらフランケンシュタインの怪物のようだった。
その姿を見て、アーチャーが動揺する。それと共に、凛にアーチャーの記憶が流れ込む、宝具を使用した事で魔力を渡す為のパスが強化され、動揺の元になった記憶が白昼夢のように浮かぶ。
それは、成長した創名の姿だった。今と同じツギハギの姿で、体中から血を流しながら清々しく微笑んでいる。
「ん?この姿は固有結界の副作用だよ。心象風景を具現化するときに、自身の姿も魂のイメージが反映ちゃうんだよ。」
創名はアーチャーと凛が自身を凝視するのを、不思議そうにしながらそう言った。ケラケラと笑う創名に正気に戻るアーチャーと凛。
「
アーチャーが投影を行い構えるが、次の瞬間に投影した干将・莫耶が砕けた。
「何!?」
「言っただろ、この世界は貴方の世界の天敵だって……
この世界では、全て武器が崩壊する。ナイフから伝説の聖剣まで例外無くね。」
それが無限の剣骸の特性、あらゆる武器を破壊し、その破片を内包する世界。
「宝具を破壊できるって無茶苦茶じゃない!」
「しょうがないよ、武器は壊れるのがこの世界の理なんだから。
まぁ、形勢逆転って事で。」
創名はそう呟いて、右手を挙げ降り下ろすと、それに合わせて、砂漠の砂から数十の剣が復元され敵を滅さんと飛ぶ。
「
だが、串刺しにするはずだった剣の空軍は、アーチャーが投影した花弁の如き盾に弾かれ、砕け散る。
「やはりな。」
「……もうバレた?初撃くらい当たってよ。」
「悪いな。生前も弟に空気が読めないとよく言われた。」
溜め息を吐きそうな創名に、アーチャーがニヒルに笑いかける。
「武器が崩壊する固有結界、お前自身もその理に縛られる、今の剣群は随分と脆かった。
それにこの固有結界、武器は壊せても防具は壊せない。違うかね?」
「その通りです。なんで、初見で気付くかな〜?」
「防具が崩壊するなら、これもそうなっているだろう。だから気付いた。」
アーチャーはそう言って、右手のガンドレットを示す。
創名は今度こそ溜め息を吐いた。
アーチャーの言う通り、固有結界内では創名の持つ武器も崩壊してしまう。だから固有結界を使う可能性を考え、アンコール等の礼装を持っていなかったのだ。それにしても、自分が贈る装備が原因とは……
「ある意味自業自得?」
「ククッ、確かにこれを造ったのは平行世界の衛宮創名だな。」
互いに余裕を見せ付ける様に笑い、それが止んだ瞬間。
「フッ!!」
「
アーチャーが砂漠を疾走し、創名がそれに剣を飛ばす。しかし、剣達はアーチャーが右腕を振るたびに砕かれ、砂漠の砂へと還る。
そして、アーチャーが創名の前まで距離を詰め、創名が避けるより速くガンドレットの拳で殴り付ける。
「グッ!!」
グシャァ、と言う音を立てて体を庇う為に出された創名の左腕が限界を超えて軋む。筋力Bの英霊の拳を受けて創名は吹き飛び、砂漠で数度バウンドして止まった。
「やったの?」
「それはフラグだよ遠坂さん。」
凛の言葉にふざけて返しながら創名は立ち上がった。その体には、殴られた傷は無かった。
「成るほど、再生とはそう言うことか。」
「そう、この世界では自分は崩壊しただけ再生する。」
高速自己再生、それが無限の剣骸のもう一つの特性。たとえ心臓を潰されても、刹那で再生を完了するほどの効果を発揮する。
「その分、固有結界自体の攻撃力が低いようだがな。」
「……意地悪だ。」
気にしていたのか少し凹んだように返す。砂嵐による攻撃では、概念武装のコートを突破できず、復元した剣は砕かれる。確かに、英霊を相手取るには決定力が足りない。
「奥の手使って逆転、てパターンじゃないのかな?普通。」
「私も奥の手をあっさり破られたから、お互い様だろう。」
創名が手数で攻めようと、百本以上の剣の復元を用意し、アーチャーがそれをさせまいと、再び拳を握った時、世界が軋んだ。
「魔力炉壊されたか、あ〜あせっかく格好つけたのに。」
自分の勝機が無くなり創名は肩を落とす。
そして、無限の剣骸が蜃気楼のように消え、世界が元に戻る。既に、士郎、セイバー、バゼットがそれぞれの武器を持ち、待ち構えていた。
「あはは、この面子対一人とか、オーバーキル狙い?」
「随分と余裕のようですね、キズナ。それとも、まだ何か隠してるのですか?」
「隠し事なら一杯、ほらよく言うよね、人には知られたくないことの一つや二つや八百万ぐらい有るって。」
「いや、それ多すぎるぞ。」
朗らかに言う創名をセイバーは睨みつける。しかしそれはまるで、創名を通してその先の誰かを睨んでいるようだった。だから、セイバーは気付けない。衛宮切嗣と衛宮創名を重ねて見ている内は、その策を防ぐ事が出来ない。
「さて、一応選ばせてあげるわ。大人しく降参して、傷を最小限にするか、このままやって最悪死ぬか、どっち?」
「どっちも嫌かな。」
「そう、じゃあ……」
その瞬間、戦闘が始まった時部屋に置かれた旅行鞄が閃光と凄まじい音を立てて破裂した。
魔術で作られた特製スタングレネード、創名の魔力で起爆ができ、旅行鞄と言うサイズのお陰でかなりの制圧力を持つ。
閃光と音が止んだ後には、創名は庭に移動していた。
「あれで、誰も気絶してないとかチート過ぎです。」
そう呟いて、庭の死角に隠されていたスーツケースを取り出す。
「……これで逃げられると思ってるのかしら?おあいにく様、逃がさないわよ。」
凛がふらつきながらもそう宣言するが、創名はそれに笑って言う。
「思ってるよ。……キャスター。」
「はいはい、呼んだかしら?」
創名の呼び掛けに答え、虚空から現れたサーヴァントに、全員が固まる。
「今日は迎えに来てくれたんだ。」
「えぇ、感謝して頂戴。」
創名は、笑いながらそう言ってキャスターの手に掴まる。
「創名ッ!!」
「じゃあ、またね。」
士郎の叫びを無視して、創名はキャスターと共に虚空に消えた……
そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。
「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい」
「さて、今日は創名の固有結界の説明、のつもりだったんだけど……」
「なんか、問題あったのか?」
アヴェくんの言葉に、先生は頷く
「次の次ぐらいに、また補足説明入れるからその時に纏めてやるんだって。」
「あー、無駄なぐらい説明すんの有るしな」
「てな訳で、今日はここまで。
次回、アーチャーから語られる衛宮創名との因縁
英雄エミヤ
お楽しみに。」