弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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本日3回目の更新です。


喰らい合う世界2

 

敵は、英霊に英霊候補、執行者と稀代の魔術師、創名は溜め息を吐く。

「本当に、早すぎだよ。バゼットさんが脱出してから異変を知って、そこから駆けつけたらもぬけの殻、みたいな計画だったんだけど……何がいけなかったのかな?」

「ライダーだよ、衛宮創名。彼女が、マスターだった間桐桜の異変について消滅間際に言い残した。」

「あー、士郎を庇う為に契約切ったから令呪が無効になったのか、なら、今回の失敗原因は桜を救わんとするライダーの想いかな?

全く、反英雄なんてとんでもない、立派な英雄だよね。」

ライダーの意志を讃えるようにそう言った創名を凛は強く睨み付ける。

「で、桜をどうしたの?」

「生きてるよ。まぁ、起きないように意識を封印してるらしいけど、知ってどうするの?御三家の約定で、貴女は彼女に関われないんでしょ?」

「……つ!!」

からかいを含んで言われた言葉に凛は宝石を握り締めるが、感情に振り回されて出鱈目に魔術を使う事は無かった。ただ、さらに強く創名を睨み付ける。

「本当にツイてない、自分は誤魔化しようが無くなるまで、こうやって士郎達と戦う気は無かったのにさ。」

「……創名!どうしてだ?何がしたいんだお前は!?」

また溜め息を吐く創名を士郎が詰問する。

「何がしたいか?他愛ない事だよ、士郎。自分は約束を果たすだけだよ。」

「ふん、その約束を歪めているのはお前だろう。」

「約束は歪んでないよ。今も昔も真っ直ぐに自分の道行きを示してる。歪んでるなら、自分だろうね。貴方と同じでさ。」

皮肉気に言ったアーチャーに創名は嘲笑で答える。その笑みは果たして、アーチャーへ向けた物か、自身へ向けた物か……

「御託は結構。アンタが何をしたいかなんて知らないわ、桜の居場所を吐きなさい。」

「さすが遠坂さん、野良犬位なら焼き殺せそうな眼力…」

凛の殺気の籠った言葉にも創名は茶化して返す。それはどちらかと言うと、そうしなければやってられないという開き直りである。

「はぁ、勝ち目が無いからやりたくないけど…」

「言ったでしょ?御託は結構って!」

「復元開始!」

凛のガンドの嵐が創名を狙い、創名が復元した大剣を削る。

「踊れツギハギ人形。剣舞を見せよ。」

僅かな詠唱で室内に砂嵐が吹き荒れ、詠唱を行おうとしていた凛と、その側のアーチャーを襲う。舞い上がった砂は剣へ転じ、再び襲い掛かる。

魔術師の詠唱は、世界に訴える物と自身に訴える物がある。

前者は世界と自身を繋ぎ、魔術基盤にアクセスする儀式としての詠唱。

後者は自身を魔術に適した体に作り替える自己暗示としての詠唱。

一般的に、前者の詠唱は長いが大規模な魔術が使え、後者は詠唱は短いが大規模な魔術は難しくなる。

創名の魔術は、詠唱の長さとその効果が合っていない。短い詠唱で、簡易儀式魔術と同規模な魔術を起こしている。

それは、創名が現在扱っている魔術が創名が持つ固有結界からの派生で有ることが原因である。固有結界とは即ち自身の心象風景(精神世界)の具現化、術者以外扱えぬ魔術基盤を持つことと同意であり、知る者が少ないほど効果が上がると言う魔術の理の通り、一見して魔術における等価交換の原則を無視したように見える、理不尽なまでの魔術を振るう事ができる。固有結界が、最も魔法に近い魔術と言われるゆえんである。

創名は、士郎達との圧倒的な質 の差を、反則的手数で埋めていた。しかし、攻撃を緩めれば即座に反撃を喰らい、敗北する。創名は、自身の工房と言う遥かに有利な場でさえ、押し切るか、負けるかの綱渡りを強いられていた。

舞い上がった砂が、足下の砂が大小様々な剣となり。全方向から攻撃し続ける。

「繰り返す。踊れツギハギ人形。」

「…切りがないな。私の宝具を使い、衛宮創名を隔離する。その間に基点か、魔力炉を破壊しろ。衛宮士郎。」

「分かった。」

 

「I am the bone of my sword 体は剣で出来ている」

 

そして世界を具現させる大魔術が紡がれる。錬鉄の英雄の最奥にして最大の切り札。

「させるか!」

「獲った!!」

アーチャーの詠唱を防がんとし、攻撃をアーチャーに集めた隙に、凛が宝石を投げ込み爆発させる。

 

「Steel is my body,and fire is my blood 血潮は鉄で、心は硝子」

 

「ふん!」

爆発から身を庇った創名の両腕は服が弾け、血が流れている。そこに距離を詰めたバゼットが、ストレートを放つ。それを転がり無様に避ける。その場所には既に士郎が待ち構えていた。

 

「I have created over a thousand blades.Unaware of loss.Nor aware of gain 幾たびの戦場を越えて不敗。ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし」

 

「安心しろ刃は潰してある。」

「出来るか!形骸よ、命をなせ。」

降り下ろされる刃より、創名の魔術が効果をなす方が早かった。

 

「Withstood pain to create weapons.waiting for one's arrival 担い手はここに孤り。剣の丘で鉄を鍛つ」

 

銀の砂が、二メートルほどの大蛇となり士郎に絡み付きその動きを止める。

それはアイリスフィールが夫と肩を並べる為に編み出した攻撃的錬金術、オリジナルは針金を鷹の形に編む物だが、創名は自身の属性である“剣”で死と転生つまり、特性である“崩壊と再生”のシンボルである蛇を造り出していた。

 

「I have no regrets.This is the only path ならば、我が生涯に意味は不要ず」

 

同じように大蛇を造りだし、アーチャーへと向けるが、それが到達するより先にアーチャーの詠唱が完了する。

 

「My whole life was "unlimited blades works"この体は無限の剣で出来ていた」

 

発動する大禁呪、世界を捲りかえす結界はアーチャーを中心に凛と創名を巻き込んで心象風景無限の剣製を具現化した。

それは剣群の丘、空は希望を奮い立たせる朝焼け、そして、この世界の中心にして王はただ一人

「ここは私の固有結界、無限の剣製(アンリミデット・ブレイドワークス)

御覧の通り、ここにある剣はすべて贋作。しかし、この世界は無限に剣製を行い続ける。

さて、世界を敵にする覚悟は出来たか?痛みの体現(衛宮創名)

世界の王(アーチャー)はそう宣言し、世界の敵(創名)を挑戦的に睨み付ける。

それに対し、創名は淡く微笑んだ。羨むように、哀しむように……

「自分にこの固有結界を使うって事は、本当に貴方の世界の自分は上手くやったんだね」

「あぁ、誤魔化しきれなくなるまで誤魔化され続けたよ。」

「はぁ〜、せめて後5年有れば完璧に暗躍しきれたんだけど。」

「私の世界の君も言っていたよ。5年早ければ完璧には行かなかったと」

アーチャーの世界において、創名は第五次聖杯戦争から十年後の第六次聖杯戦争で表舞台に出てきた。それも、完全に姿を現したのは最後の戦いでのみだった。

「だから、貴方は自分に問いを投げ掛けてきた。貴方の世界の自分は、何も語らなかったから…」

「……その通りだよ。私は創名が本当に望んでいたことを最後まで気付けなかった。最後になるまで誤魔化されてた。

だからこそ、俺はここに在る。お前を、救う為に……」

その言葉に、創名は“人間”を見た。衛宮士郎の誰もを救いたいと言う思いは、“剣”としての思いであり、自分に還らない願いだ。しかし、アーチャー(エミヤシロウ)の目には誰かの為の願いではなく、自分の願いを持つ“人間”特有の強く、尊い光があった。

創名はその事実(エミヤシロウが“人”であること)に、狂喜した/恐怖した

「じゃあ、教えてあげよう。自分は衛宮創名。

痛みの体現であり、罪の証明

魔術属性を剣、特性に崩壊と再生。その起源は……」

 

「輪廻」

 

創名の言葉と同時に、創名の周囲の剣が砕け、銀の砂と成って創名の周りを舞う。

 

(からだ)は剣で出来ている」

 

創名の表情が変わる。右目からはハラハラと涙を流し、左目は愉快そうに細められ、唇の右側は嘲笑するように歪められ、左側は堪え忍ぶ如くに歯を食いしばる、ツギハギの表情。

 

「葬送に意味は無く 葬列は無人」

 

目的の為に自身の願いを踏みにじる事に涙し、自身の行いに涙する自分を嘲笑する

 

「幾千の命を摘み 幾万の屍を積み 不滅」

 

アーチャーが、その表情に目を見開き、剣群に攻撃させる。しかし、創名は最低限致命傷を避けるだけで、腕を刺されようが、足を深く斬られようが詠唱を止めない。

 

「ただ一度の誠実もなく ただ一度の背約も無し」

 

刺さった剣も砕け、創名が纏う銀の砂になる

 

「誓者は此処に、独りきり 破片の砂漠で血を流す」

 

創名の詠唱に怯えるように、剣群が震えだす。

 

「ならば、我が生涯に理解は不要」

 

そして、世界が紡がれる。剣群の世界を喰らうツギハギの世界が……

 

「我が道行きの果ては 無限の剣の墓所だった」

 

「起動しろ。無限の剣骸(けんがい)

 

 





そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい」
黒板に祝・最長の文字を書いて、先生とアヴェくんが話し始める。
「おー、ついに固有結界がでたな。」
「創名の固有結界は、次話で説明するから、今回はアーチャーの固有結界の変化した所を解説しようか」
「えーと、詠唱が原作アーチャーのじゃなくて、士郎の方なのと、空の色が変わったんだよな。」
アヴェくんの言葉に先生は頷く。
「そう、空が朝焼けに成ってるんだ。これは、エミヤシロウが希望を担う英雄だった事を表したかったらしいよ」
アヴェくんが納得したように頷く
「では、次回 無限の剣骸《unlimited blades junk》
お楽しみに」

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