弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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本日更新2つ目です


喰らい合う世界1

 

 

走る、駆ける。凛と士郎は己のサーヴァントに抱えられ、高速で移動していた。半人前な士郎はともかく、一流と言っても差し支えの無い凛までも魔術の秘匿を考えずに、である。そこには、常に余裕を持って優雅たらんとする遠坂の魔術師ではなく、妹を想う姉としての焦燥があった。

「アーチャー、もっと速く!!」

「落ち着けマスター、冷静にならねば足元を掬われるぞ。」

「でも……」

アーチャーは諌めながらもスピードを上げ、セイバーも続く。

士郎達が家に着くのと同時に、小さな傷を大量に負ったバゼットが家から飛び出してきた。

「バゼットさん!」

創名(ハーヴェスト)が攻撃してきました。退避しましょう!」

「……っ!!」

バゼットの言葉に士郎は息を呑む、予想もしていなかった最悪の事態だった。

「つまり、騙されてたって訳ね。上等じゃない、たーぷっりお礼してあげなきゃね。」

固まる士郎を余所に、冷静さを取り戻した凛は口元だけの笑みを浮かべ、拳を握っている。

「凛、どうやら性質(たち)の悪い結界が張ってあるようだ。」

「……確かに、厄介ね。」

アーチャーに言われ結界を調べた凛は、舌打ちでもしそうな声で毒づいた。

「どんな結界なんだ?まさか、学校に有ったみたいなヤツか?」

「そう言うのじゃないの、寧ろ真逆、場所と聖域を区切るタイプの正統的な結界よ。」

凛は、結界の境に手をかざしながら説明する。

「何かを外界からずらして概念的に境を作ってるの、結界の中は魔術的に冬木の土地と言えないぐらい異界が出来てる。」

「それの何が問題なんだよ。」

「結論を言うと、この結界の中では聖杯の力が及び難くなってるの、サーヴァントを現界させる魔力の負担をほぼ全てマスターが負うことになるわ。」

凛の言葉に、セイバーは眉をひそめる。セイバーは現界する魔力を大量に食う。現在も士郎からの魔力供給はないが、パスを通じて現界の為の必要最低限の魔力は流れてきている。半人前の士郎の負担になっていないのは聖杯の補助が有るからで、それが無くなれば、士郎の魔力量ではセイバーを現界させ続ける事は難しい、確かにサーヴァントとマスター、どちらの戦闘力も削る厄介な結界である。

「サーヴァントが入らなければ大丈夫だから、突入は私と士郎、それに単独行動スキルがあるアーチャー、いくら工房に引き籠ってもサーヴァントが一体いれば充分倒せる。セイバーとケガをしてるバゼットはここで待機、逃走の阻止をお願い。」

「確かに、それが最良かもしれません。士郎、気を付けて。」

凛やセイバーは創名をただの魔術師として考えてそう結論を出した。魔術師殺し(ハーヴェスト)としての創名を知るバゼットはそれを伝え、突入を止めようとするが、出来なかった。創名と結んだ、“魔術師殺しとしての創名を士郎達に教えない”と言う契約《ギアス》がバゼットを阻害する。

「(これまで折り込み済みだったと言う事ですか、ハーヴェスト!)」

「気遣いは無用です。執行者として工房破りの経験は有るので、同行すれば力になれます。」

「分かったわ。」

「……創名は、何が目的なんだ?」

血を吐くような士郎の言葉に、アーチャーは僅かに顔を強張らせる。

「オーケー、行くわよ!」

颯爽と衛宮家に踏み込む凛達、家の中や庭が銀の砂に埋め尽くされていた。

「これは、創名の投影だ…」

「えぇ、彼はこの砂を操って攻撃してきました。」

「砂嵐による広範囲の攻撃か、しかも、ただの砂ではなく金属のようだ。」

解析魔術、特に剣に関する物の解析を得意とする士郎とアーチャーは、この場にある砂全てが粉砕された剣である事に気付いていた。

『復元開始、投剣始め。』

どこかから響いた詠唱に反応したのはアーチャーとバゼットだった。砂が三本の剣に修復され、射出されたものを双剣と拳で砕き落とす。砕かれた剣は再び砂へ戻る。

「へぇ、話し合う気も無いって事かしら?……いい度胸だわ。」

「遠坂、殴るのは良いけど、その前に話をさせてくれ。」

「はぁ!?殴るので済ませる訳ないじゃない!」

「そうか?遠坂は優しいし、理由があれば、何だかんだで赦してやれるだろ?」

甘い事を言う士郎と、優しいと言われて怒りか照れかで顔を赤くする凛、突然のラブコメ展開にアーチャーは少し引いていた。己の所業を客観的に見てしまったのはある意味不幸である。

『…う〜ん、士郎がラブコメってるけど、空気読んで攻撃しない方が良い?』

「そうやって声をかける時点で空気が読めるとは言えんぞ。」

「よ、余計なお世話よ!!」

創名とアーチャーに顔を真っ赤にした凛が食いつく。

『そう?じゃあ、遠慮なく。

復元開始、投剣始め。10度工程複製を命ず。』

玄関から居間に続く廊下の砂が舞い上がり、十の剣と成り水平に射出される。アーチャーが前に出て悉くを砕くが、砕かれたそばから剣に復元され再び襲い来る。

「キリがないな、マスター術者の所まで駆け抜けるぞ。」

「分かった。」

凛が頷き、士郎とバゼットも肯定する。

「…今だ!走れ!!」

四人が百本の剣を砕いた後、剣の弾幕が切れる。その瞬間、アーチャーの号令で全員が駆け、居間へ飛び込む。

そこには、旅行鞄を持ち、呆れたように士郎達を見る創名が居た。

「おかえり、と言いたい所だけど、予定より早すぎるよ。」

「創名…!」

人の如き剣(衛宮士郎)ツギハギ人形(衛宮創名)の平行してきた道行きは今、交わる。

殺し合いと言う互いに望まぬ場所で……

 

 




そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい」
どんどんぱふーとやる気が無い声で言うアヴェくん、先生巨大な三角定規を投げつける。
「うお!刺さった、刺さったって!」
「本日は、衛宮家の結界についてだね」
騒ぐアヴェくんをいつものようにスルーし、話を進める
「衛宮家の本来のお家芸は、時間の操作、今回の結界はあらかじめ切嗣が形成していた陣に起源弾って言うフィルターを通した魔力を注ぐことで発動しているんだ」
「あー、痛かったぁ。で、その効果は?」
「結界内の時間を0.01秒ずつ遅らせる事、これにより、結界外とズレを作り、世界から隔離する」
血を流すアヴェくんに絆創膏を渡しながら先生が続ける。
「隔離された結界内では、結界外から流れて来る魔力を妨害するので、聖杯のバックアップが無くなるんだ。」
「出てく魔力は良いのか?」
「魔力が飽和するのを防ぐ為に出てく分は出ていくように調整してあるみたいだよ」
「マスターを封じる意味もあるとか、鬼畜仕様だな」
「……聖杯戦争時の最後の砦だからね。
次回は、喰らい合う世界2
お楽しみに。」

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