弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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魔術師の夜

 

 

夜になると士郎と凛が帰って来た。本来聖杯戦争は夜に行われるが、学校に結界を張ったサーヴァント、ライダーに狙いを定めた以上夜間に出歩いて、他のサーヴァントと戦闘になり戦力を削られる訳にはいかないからだ。

自分の予想通り、慎二が動いたようで基点の破壊中にライダーの襲撃があったそうだ。その際、また士郎が命知らずな行動で一般の生徒を救ったらしく、凛とセイバーが激怒しながらも士郎に好感を持ったようだ。

そして、何よりアーチャーが士郎の稽古をつけ始めたのだ。士郎が、夕飯を作るのを自分に完全に任せたのにも驚いたが、アーチャーが士郎に殺意を持ってないのに驚きすぎて、点検中の拳銃を暴発させそうになった。

自分では珍しい手の込んだ和食に、何時もの如くな手抜き料理と言う普段の士郎が作る夕飯に少し劣るレベルだった。普段は料理に文句を言って来る士郎が、何も言えないほど疲れていた。変わりにアーチャーが食べて文句を言って来た。

……食ってんじゃねーよ。見張りはどうした?バゼットさんがやってる?いや、任せんなよ鷹の目持ち。

驚きの三連鎖目、士郎の戦闘能力が恐ろしい速さでレベルアップしている。アーチャーと投影の剣で斬り合う事で、経験が流ているのかも知れない。投影で剣を作るのもアーチャーの指示らしいから原作とか完璧跡形もない。そして、士郎が眠った後、アーチャーから呼び出しをくらい、屋根の上に登る。

「呼び出しって懐かしいな。」

「告白でもされたのかね?」

「いや、先輩がゾロゾロ待ち伏せしてた。全員潰したけどね。」

自分の答えに呆れるようにアーチャーはため息を吐いた。

「さて、手短に済ませよう。衛宮創名、この世界の衛宮士郎は正義の味方にはさせない。」

呆気なく言われた一言、強い決意と後悔が混じっているように感じるその言葉に、自分はふーんと言うだけだった。アーチャーが原作とかけ離れていて当たり前だ。彼は自分の居た平行世界のエミヤシロウだったのだから。

「察しの通り、私は正義の味方として座に招かれた英雄、エミヤシロウだ。正確に言うなら、衛宮創名によって正義の味方にされた、と言うべきだがね。」

「自分、良い仕事するだろ?」

「あぁ、まんまとやられたよ」

愉快げに言った自分と正反対に、アーチャーは眉をしかめてそう言った。

「目的を諦めろ、とは言っても無駄なのだろう?」

「無駄と言うか無理だね。自分が衛宮創名である限り。」

「目的を達成するまでに多すぎる被害が出るとしても、か?」

「1の為に10を捨て、1を守るために100を殺し、1を救うために1000を滅ぼしても、自分が躊躇う理由にならない。」

分かりきった事を問答する。こんなやり取り、アーチャーが英雄となった世界での自分と終わらせているハズだ。あるいは、違う答えが返って来て欲しいと言う、祈りに似たものなのかも知れない。

「例え、その結果自身が滅びようともか?」

「世界が滅びようとも、だよ。」

自分の答えにアーチャーは、嘆く様に目を瞑り、次に開いた時には強い意思が宿っていた。

「お前が諦められないと言うなら、“俺”がお前を止めよう。何処にも至れず、果てろ衛宮創名(ツギハギ人形)

「自分の道行きの果ては決まっている。そこにお前はいない、邪魔するなら理想に沈む覚悟をしといてねエミヤシロウ(正義の味方)

少なくとも今やらかす気は無いようなのでその場を後にする。

「自分は理想を抱いた者(衛宮士郎)が沈まぬ海を創るだけ、その海でどれだけの人が溺死しようとも……」

 

「衛宮くん、ちょっと良いかしら?」

「なんぞ?」

屋根から降り、そろそろ寝ようかと縁側を歩いていると凛に声を掛けられた。近くの部屋には、セイバーの気配を感じる。これは、待ち伏せされたかと思い、いつでも戦えるように準備を始める。しかし、それは杞憂だった。

「士郎の事で聞きたい事があるの。」

「恋愛相談?」

「ち、違うわよ!今は聖杯戦争関連!」

今は、て事は、いつかは恋愛相談になるんだね。と思ったが、ガンドか八極拳のどちらかが来そうなので黙っておく。

「アイツの行き過ぎた自己犠牲の態度よ、自分がどうでもいいみたいに行動して、止めても聞かなくて…」

「あぁ、つまり士郎の行動原理みたいなのが知りたい、て事?」

「そう言うことね。」

成る程、マスターに関連することだから、セイバーもいるのか、それにしても自分はセイバーに徹底的に避けられている。恐らく、自分が切嗣に似た思想で、同じような行動をすると思い、衝突を避けようとしているのだろう。これは、親の因果を子が報い、と言うのだろうか?

「士郎はね、人間として欠けている。」

関係ない思考を止め、真面目に話す事にする。

「自分と士郎が、十年前の新都の大火災での生き残りだって言うのは知ってる?」

自分の問いに凛は頷く、士郎に聞いたのだろう。生存者ではなく、生き残りと言ったのは言峰綺礼によって人間電池となった“生存者”がいるからだ。

「士郎は自分達だけが助かったの事に酷い罪悪感を持った、それは誰かを助けなければ、という思いに変わり、切嗣との“正義の味方に成る”という約束で、士郎は自身以外の全てを救おうとしている。」

「自身をなげうってでも、て事?」

「そう、士郎は自身の命より人を救う事を優先する。そんな生存競争以前のポンコツは、最早人間なんて言えない。」

 

「士郎はね、“人の如き剣”なんだ。」

 

断定するような自分の言葉に、凛は息を呑んだ。

「人の様に見えても、人として生きる事が出来ない。」

それは、余りにも真っ直ぐで、余りにも悲しい生き方だ。

士郎は、命が平等だなんて幻想を信じている。確かに命に重いも軽いも無いかもしれない、けれど、命には人によって付加価値が違う。家族、恋人、親友、友人、誰もが誰かにとって、他人以上に優先させる物だ。それなのに士郎は愚直に多くを救おうとしている。その先に有るのは、10の為に1を切り捨て、100の為に10を殺す、より多くの為により小数を見捨てる、救いのない結末なのに……

「だから、自分は探してるんだ、“人の如き剣”を“剣の如き人”に変える魔法を」

言ってから自嘲がこぼれる。アーチャーに目的を諦めない事を告げ、凛には諦めきれない願いを告げる。

心では迷っているクセに、魂では決まっている自分を嘲笑う声は、頭の中にいつまでも響いていた。

 

 

 




そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい、てタイトル違うじゃん!前回、予告した俺の立場は?」
すがり付くアヴェくんを、黒板用のコンパスで殴り、先生はため息を吐いた。
「ライダーと戦う所まで書こうとして、夜の会話で力尽きたらしいよ。」
「あー、作者の考えなしのせいか」
アヴェくんと先生は頷きあい、次の話題に移る。
「後、アーチャーがかーなーり、原作と違うことだな」
「今回聖杯戦争に参加しているのは、創名の目的、士郎を正義の味方にする、が達成された世界のエミヤシロウだね。」
「その割りに、パラメーターの変化は無いんだな。」
「まぁ、知名度補正がZEROの上に、最適性クラスじゃないせいで宝具も原作のしか無いからね。」
イケメンな方のランサーが宝具の双剣を持ってないのとおんなじだよ、と先生は付け加える。
「原作と違って、磨耗してないから性格がかなり甘いね。イメージ的にはEXTRAのアーチャーが近いかも」
「抑止として働かされてる訳じゃないから、解放されるために自分殺しをしようとも思ってないんだな。」
アヴェくんの言葉に先生は大きく頷く。
「まぁ、エミヤシロウが英雄と認知されてる世界で最適性のクラスなら、狂化してないバーサーカーレベルのパラメーターになるけど……」
「オイ、ちょっと待てお前、アイツに何をした……!?」
「さて、次回、今度こそ、VS騎兵 お楽しみに」

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