弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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今回も補足説明のコーナーが有りますが、以前連載していたもののまんまです。なので感想を貰って~というのは気にしないで下さい_(._.)_


去り行く日常/裏

 

 

「あー、しんどかった。」

創名はそうもらして、抱えていた大きなトランクを丁寧に地面に下ろし、自分が登ってきた階段を見下ろす。

柳洞寺、それが創名の現在地であり、魔術の英雄たるキャスターの陣地である。

「よく来たわね、坊や。」

「迎えが欲しかった所だけどね。キャスター。」

創名は、敷地に入った途端に現れて声をかけてきたキャスターに、ぞんざいな返事を返す。

「さて、料理を教えに来たことになってるんだけど、なんかリクエストある?」

「まったく、料理を教えに、なんてもっと良い理由は考えつかなかったのかしら?」

「不正が嫌いな一成をメッセンジャーにしたんだから、言い訳が下手なのは予想しとけよ…」

二日前に一成がわざわざ創名の教室まで来た理由は、それが今の状況を作る為に利用されたからである。キャスターによる暗示で、創名に柳洞寺に来るように伝えさせられたのだ。

「葛木先生に協力を持ち掛けたら、一成で返事が来たからビックリしたよ。」

「よく言うわ。」

キャスターは、魔術師ではない自身のマスターに、キャスターと共闘したいと言ってきた存在にどれ程驚かされたか、と心の中で毒づきながらも、表面上は余裕の笑みを浮かべる。

「魔術師のサーヴァントである貴女なら確認済みだと思うけど、自分の兄衛宮士郎と遠坂凛がマスターとなった。

これで、互いが利用しあえるようになったと思うけど?」

「確かに、そうね。でも、キャスターである私が貴方ごときの約束を守ると思うのかしら?」

言葉と同時に、キャスターは暗示の魔術を行使する。対魔力の無い創名から、交渉の手札を奪わんとしたそれは、膨大な魔力で無効化(レジスト)された。

「その魔力…!成る程そう言う事。」

「バレた?まぁ、説明の手間が省けるからいいけどね。で、キャスター答えは?」

「…良いでしょう、聖杯戦争終結までの同盟よ。」

「良かったー。んじゃ、どーぞ。」

冷や汗が流れるのを感じながら、キャスターは頷いた。

「(あんな方法で魔力を増強するなんて、狂ってるわね。)」

創名は安堵の表情を浮かべながらキャスターにトランクを差し出す。トランクはキャスターの魔術によりキャスターの方へ引き寄せられ、独りでに開く。中には少女、間桐桜が入れられていた。麻酔で眠らされ、腕にある点滴の跡から、かなり非人道的に拘束されていたようだ。

「いくら軽量化の術式が刻んであるカバンでも、人一人“持ってくる”のは大変だったよ。」

「外道ね」

嘲るように言うキャスターに、創名は感情の無い透明な笑みで見つめる。

「お互い様だと思うけどね。1の為に10を殺す。例えそれが100になろうと、1000になろうと譲れない1の為に虐殺し尽くす。正義の味方からほど遠い所に居る。衛宮創名(自分)も、キャスター(お前)も…」

「ふん、分かったような口をきくのね。不愉快だわ。」

「それは、残念。ま、変える気は無いんで、この口が嫌ならさっさと聖杯戦争を終らしてよ。」

創名とキャスターの同盟、それはどちらも裏切る気で、どちらもそれが分かっている歪なものだ。

キャスターのメリットは、創名と桜、セイバーのマスター(衛宮士郎)アーチャーのマスター(遠坂凛)の身内の身柄を押さえる事で、キャスターが作り上げた神殿に誘き寄せる事ができる。

柳洞寺には、正面の門以外からの人ならざる物の侵入を防ぐ強力な結界が張られ、侵路が限られる為守り易い、その上山門には、キャスターがルール違反を犯し、召喚したアサシンが門番として構えており、セイバーとアーチャー、どちらかを足止めさせれば各個撃破も可能だ。人質を取られている以上、速やかに救出する必要があり、その状況で、サーヴァント二騎でアサシンを潰そうとするとは思えないからである。又、キャスターと相対するのがサーヴァント一騎なら、マスター権を奪える可能性も出てくる。

それに対し、創名が出した条件は、サーヴァントを潰す手段、潰した後に限らず、衛宮士郎の殺害を禁ずる事。

これにより創名が得られるメリットは、士郎が早い段階で聖杯戦争から脱落し、危険が減ること、聖杯戦争の勝者がキャスターならば呪いに汚染された聖杯でも問題無く使用でき、その際に10年前のような災害が起こらない事。

つまり、キャスターに取って創名はセイバーとアーチャーを下した後は用済みであり、約定など無視して構わない物であると言うこと、それに互いに気付いている。

そして、キャスターは創名が挙げたメリット、それらを創名が求めていない事を確信していた。神代の魔術師であるキャスターは、創名の魂の歪みを感じていた。創名の心はツギハギだ。本気で、真剣に愛と平和の尊さを語りながら、他人を虐殺出来る人間だ。本心からやりたくないと叫びながら裏切る事の出来る人間だ。

自分の想いや願いを泣きながら壊して、目的を達成するだろう。

創名は実際に、聖杯戦争が平穏に終われば良いと思っている。だが、平穏に終われば彼の目的が達成出来なくなる。

ゆえに、キャスターとの同盟も、目的の為であり必要なくなった瞬間、裏切りを行うだろう。

どちらが先に裏切るか、互いの思惑を読み合いながら、キャスターと創名は笑いあった。

「あ、そうだ。これオマケ。」

そう言って創名は、日光が入らないように処理したビンを投げ渡す。

「これは…」

「マキリ・ゾォルケン、桜ちゃんの心臓に憑いてた奴。自我壊して、記憶を抜いたせいで精神グチャグチャで使いもんに成らないけど、キャスターならそこから記憶を見たり出来るんじゃない?」

「これが御三家マキリの当主…醜悪ね。それにしても、わざわざ記憶を抜く為に精神滅茶苦茶にするなんて、半人前にも程があるわよ。」

「精神に変調を及ぼさずに記憶を覗けんのは兄が対象の時だけだよ。そんだけやって分かったのは術式2個とか、自分でもねーよと思ってるから言わないで」

精神に介入する魔術は、対象の意思と対魔力の強さで難易度が変わる。自我が崩壊して精神に防壁を張れない相手に、精神を破壊するまでしないと記憶を覗け無いというのは未熟過ぎる話だ。しかも、500年と言う年月で得ていただろう膨大な知識の極々僅かな物しか得られないというのは、根本的に才能が無いとしか言えない。

「キャスターなら、その状態からなんか情報搾り取れない?」

「出来るけど、精神と一緒に記憶も壊れているから時間が掛かるでしょうね。とりあえず受け取っておくわ。」

キャスターは受け取ったビンを虚空に消し、今後を話し合う事にする。

「この子、ライダーのマスターだったんでしょ、ライダーはどうしたの?」

「令呪を盗って、自分がマスターになったけどサーヴァント連れてたら流石にバレるから、令呪で仮のマスターから離れない用に命令しといた。」

創名の答えに、キャスターはそんな物でしょ、と頷く。

「キャスター、さっそく桜ちゃんを捕らえておく場所の罠とか仕掛けよう。自分は夕方に帰るから、それまでに。」

「はぁ、好きにしなさい。」

キャスターは監視と案内の為の使い魔を残し消えた。創名も、使い魔に案内されて寺の奥へ進んでいく、聖杯戦争を利用して自分の目的を果たす為に…

 





そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい」
黒板に無駄に上手いバゼットの似顔絵が描かれている。
「更新遅すぎ、暇だったー。えー大変お待たせしました。」
「多分、誰も待ってねーよ。」
ボソリとこぼしたアヴェくんに黒板消しが投げ付けられた。
「作者がもらった感想を見て、全く伝えたい事が伝わってない事に気付いて、露骨に伏線を加えた結果らしいけど……」
「見事に話しがごちゃごちゃになってるな。笑えるほどに…」
通夜のような重たい沈黙に教室が包まれる。
「じゃあ、解説行こーか…」
「えーと、創名が蟲じじぃの記憶を見た、てあるけど、創名は自分のオリジナルの記憶しか見えないんじゃなかったのか?」
「うん、その通りだよ。ただし、魔力任せにやれば、魔術に耐性が無い・自我が無い、とかなら見えるんだよ。ただし、昨日の夕飯のメニューを知るレベルで精神崩壊起こして、対象が廃人になるけど…」
先生は、覇気が無い声で説明し、ため息を吐く
「そもそも、属性が剣じゃ、基本的な魔術も難易度上がるし、その上特性が崩壊と再生だよ?そりゃ精神ぐらい壊れますよ。次に生まれるならアベレージワンになりたい」
「うお!先生から黒い障気が!えっ?次回、VS騎兵
楽しみに待ってろよ。」

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