弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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どうも、潤雨です。
衛宮創名の運命、改め弟くんがラスボスルート楽しんでいただけると幸いです。



第五次聖杯戦争
始まりの崩壊


右腕に走った激痛で飛び起きる。

視界に入るのは、電灯が消えた白い部屋とわずかな明かりを灯して動く機械、耳に入るのは自身の心音とリンクしたピ、ピ、という音。

一瞬、自分がどこにいるかを忘れ、右腕の痛みで自分が入院していること、ここが自分にの病室であることを思い出す。

痛む右腕を掴もうした左手が空を切る。

「………右腕、無いんだった。」

フラッシュバックのように浮かぶのは、事故の瞬間と右腕と右足に襲いかかった熱い激痛。

その事故によって、右腕の肩から先、右足の膝から下を切断し、こうしてベッドで安静にしては、それを幻肢痛に妨げられると言う生活を送ることになった。来月には、義手と義足が届いて、本格的なリハビリが始まる。ゆっくり落ち込んでいられるのも、あと少しの間だけだ。毎日見舞いに来ては、早く良くなれと言う友人達がリハビリを急かすのが予想出来て、小さく笑う。

彼らに寝不足の顔を見られたら、ここに持ち込んだ漫画やゲームを取り上げられるかもしれない。

そう思って再び眠ろうとしたとき、ソレは現れた。

病室の白よりも白い服、石膏のような滑らかで生気の無い肌、不吉さを感じる程美しい顔、人の形だが人ではない何かが気付いた時にはベッドの横に立っていた。

「正確にはヒトが我々の形だが我々ではない、なんだけどね」

男か女かも分からないソレは、どんな楽器よりも美しい声でそう言った。

「突然の来訪だ。もてなしの準備が出来てないぐらいには目をつぶろう。塵芥のような君よ。」

言っている内容は酷く身勝手で失礼極まりないが、何故かソレがそう言うのは当然のような気がして、何も言えなかった。

「さて、当然察していると思うけど、僕は神だ。」

神のくだりで、ソレが現れた衝撃で麻痺していた思考がもとに戻り、精神科の患者がどうやってかは分からないが病室に入って来たのだと判断し、ナースコールに手を伸ばす。しかし、

「ごめんよ。塵芥のような君が、愚かではないと思うなんて僕がどうかしてたみたいだ。」

そんな言葉と同時に体が動かなくなり、それは出来ないこととなった。

体が金縛りにあったように動かず、身じろぎも出来なくなり、やっとソレに対する恐怖が生まれた。もし動けたら、全身が震えていただろう。

「……お前は何だ?」

「さっき言っただろ?神だよ。」

唯一動く口から発した言葉は、心底呆れたようなため息の後、一言で返された。

「次に君が言うのは、“何しに来た?”かな?それは簡単、君の願いを叶えに来たんだ。」

願い?そう聞いて、思わず自分の右腕が“有った”場所を見る。しかし、神と自称するソレがこちらの考えを読んだように首をふる。

「ダメダメ、実は君はこの後死んじゃうんだ。だから、願いは来世ではこんな能力が欲しいみたいなの限定だよ。この後の死の回避も出来ない。」

嬉しそうにそう言って、ソレは促す。

「さぁ、言ってご覧。君が好きな漫画やゲームの能力でもかまわないさ。」

その時、ソレの言葉を信じる信じないの前に言って見ようという考えが浮かんだ。

「無限の剣製、Fateのアーチャーの能力が欲しい」

言ったとたんソレの笑みが禍々しい物になる。その笑顔に、どうしてか“口は災いの元”を書き初めとして書くことを強制してきた悪友の顔が浮かんだ。

「アハハッ、君ならそう言うと思ったよ。」

ソレは笑いながら何か呟き、次の瞬間世界が“捲(めく)れた”

世界が一瞬で姿を変えた。

そこは砂だらけの世界だった。どこまでも続く青空と白い砂丘、いたるところに様々な絵が存在し、風に吹かれては砂となり、砂丘に落ちては再び絵に組あがる。良く見れば描かれているのは友人や家族、彼らと一緒にいる自分だ。見たことも無いのに何故か懐かしい、そんな“世界”だった。

「ここは……?」

「君の精神世界さ、固有結界とも言う。まぁ、ただの人間じゃ心象風景を一定にするなんて出来ないから、僕がサポートしてるんだけどね。」

砂丘に倒れて呆然と呟けば、砂丘の砂より白いソレが愉しげに言う。

「風化と流転、流され、自身の意思を持てない君の世界としてはこれ以上なくふさわしいね。」

ソレは馬鹿にするように言う、だがその顔は遠足前の子供のような、何かを楽しみにする無邪気な笑顔だ。

「愉しいのはこれからだよ、ほら“unlimited blades works”」

ソレが宣言したのは赤い弓兵の世界の名、正義の味方を目指した英雄の宝具。

青空が日が落ちたように紅く染まって行く。砂丘に、散らばる絵を貫くように剣が刺さる。絵を貫く剣は砕け、風化するように欠片となり風に流されて消える。

「う、あぁぁぁぁぁ!!!!!」

事故の瞬間より強烈な痛みが体を駆け抜ける。身体の奥底から引き裂かれ、それを溶接されるような、不快さと熱を伴う激痛。

「アハハハハッ、心象風景を具現化する固有結界を使うなら、心象風景が必要だろう?他人の心象風景を移植なんてしようモノなら、ご覧の通り世界同士が喰らい合い、崩壊する。」

楽しくてしょうがないと言うように声をあげるソレを睨み付ける。悪態も付こうとしたが叫んだことで喉が裂け、血を吐くことしか出来ない。

「嫌だなぁ、対価なしに力が手にはいる訳無いじゃないか。どうせ、君は死んじゃうんだし、僕の退屈しのぎになってくれよ。」

ソレが笑いながら言っているが、もう何も分からない、激しい痛みの中で、自分の魂と言うべき物が軋み、崩壊していくのを感じる。

壊れていく

コワレテイク

こわれていく

こわれ……てい………く

なら、

修復(なおさ)なきゃ

 

砂になり、崩壊していた世界が砂の城を作るように集まり、再び世界を構成していく。

剣に裂かれていた絵は天に昇り、ステンドグラスのように空を彩る。剣は砕け、破片は砂丘の砂になり、白い砂丘は煌めく銀の砂漠へ姿を変えた。

「………崩壊した世界が修復された?否、無限の剣製を取り込んで再構成された?

風化と流転ではなく………」

ソレは、今までの笑いが嘘であるかのように眉をしかめ不機嫌そうに呟く。

どういうことか分からないが、ソレが嫌がることが出来たようで気が晴れる。

痛みが消え、代わりに右腕と右足が銀の砂で作られ、立ち上がれるようになる。さっき言えなかった悪態を吐いてやろう。

立ち上がり、以前と異なる右腕でソレを指差す。

「ばぁぁか」

口にしたとたん、空気が変わったのを感じる。同時に、新年の挨拶のときに「今年はこれな。」と、“雉も鳴かずば撃たれまい”と書かれた手本を持って来た悪友が頭の中で、「だから、言ったのに」とため息を吐いた。

「良くも言ってくれたな、塵芥がぁ!!」

ソレは美しさをかなぐり捨て、顔を醜悪に歪めそう叫んだ。

瞬間、命が消えるのを感じた。

 

 

目を覚ました場所は地獄のような場所だった。平和な街だっただろうが、今では焼け落ち、死に逝く者と死者で溢れている。

自分だけでもと助けを求める声をあげる人、子供だけでもと地面を這い赤ん坊の亡骸を差し出す人

全てを無視して何かに導かれるように歩く、生きようとする人を見捨てる事より、手足の左右で肌の色が違う事の方が気になる自分に寒気を感じながら、フラフラと歩き続ける。

やがて、目的地に着いたような達成感を得て、周りを見渡す。そこで、少年を抱きながら涙する男を見つける。

何故か、その男の涙は尊い物に見えた。


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