やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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よく見たら時系列滅茶苦茶ですが、気にしないでください・・・サチとキリトが出会ったときの最前線は28層だったんですね。


ではどうぞ。



九話 そしてついに攻略の足は止まり始める。

 

 

アスナに拉致られること二時間。

 

 

「あ、有り得ない......」

 

 

何故かorzのポーズを取っているアスナさんを見下ろしながら俺は困っていた。

 

「なんで全部クリティカルになるの!?おかしいでしょ!!」

 

「いや、そんなこと言われても」

 

 

これは感覚だからどうしようもない。なんとなくぽぽぽぽーいと投げたらサクサク急所に刺さるのだ。自分でもわけわからん才能があったもんだと思う。

 

 

「しかもパーティ組んでレベリングするより早いし.........」

 

「まあ、クリティカル当てりゃまともに戦うより早いし、隠蔽使えばヘイト外せるしな」

 

 

だからソロでも大体困らない。パーティを組むメリットがないのだ。

ぽんぽんダガーを死角から投げこむだけでいい。集団に囲まれてヘイトが貯まれば煙玉使った後隠蔽使って即離脱。その後ダガーぽいぽい投げればいいのだから作業ゲーに近い。

 

まあこの方法は森や広い場所でなければ意味は無い。洞窟などのトラップ仕掛け放題な場所だとさすがにソロじゃ辛い。

 

投剣と隠蔽の熟練度もバカみたいに上がっている。

というかそもそも俺のステータスは生存特化で筋力値なんて二の次、ひたすら敏捷と耐久を上げてついでに器用、といった具合だ。

 

このステータスは投剣とすこぶる相性が良く、大体の投剣のソードスキルは敏捷依存なのでクリティカル出せば筋力値が低くとも敏捷さえ高ければそこそこの威力は出てしまう。

 

ちなみに今の俺のレベルは37。大幅に安全マージンを取っている俺は階層+15レベル程度を目安にレベリングをしている。

 

スキルスロットは片手用直剣、投剣、体術、料理、隠蔽で埋まっている。40になったらなにを取ろうかと今悩んでいるところだが、ここはテンプレ通り武器防御か疾走だろう。

 

 

もはやorzどころか鬱全開で地面にのの字を書きだしたアスナ。どうしようめんどくせえなこいつ。というかここは一応Mob沸くんだから戦闘準備くらいはしていて欲しい。

 

 

「......あれ?」

 

「なんかあったか?」

 

 

鬱全開だったアスナがメールを受信したらしく、のの字を書くのを止めてウィンドウを開いていた。......というかその体操座り止めてください。その、なんというか見えそうで見えない角度が俺の視線を誘うんで。

 

「.....................ッ!」

 

しかし俺のそんな葛藤とは裏腹にアスナは真っ青になって立ち上がる。

 

「.........ハチマンくん、アルゴと連絡取れる?私はキリトくんに送るから」

 

「ちょっと待て一体何があった」

 

青ざめた表情でこちらを見るアスナ。もはや嫌な予感しかしない。

 

 

「―――『軍』が、フロアボスに挑んで全滅したわ」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

アインクラッド解放軍。

 

 

それはキバオウが所属するギルドであり、現在攻略組で最も大きなギルドでもある。シーカーというプレイヤーが率いており、通称「軍」。

 

 

「んで、それが勝手にフロアボスに挑んだ挙げ句にほぼ全滅した.......と?」

 

「そういう事になるわね」

 

 

―――なんだそりゃ。

 

勝手に突っ走って暴走した挙げ句に史上最多の犠牲者をだして撤退、煽った原因のキバオウとシンカーはだんまりで引きこもっているだと?

 

 

思わず呻く。呆れるを通りこして絶句した。

 

 

「ボスの名前はジ・イグニファトゥス・フェニックスロード。......戦闘開始数分で半壊、二十分程でほぼ全滅したらしイ」

 

「..........典型的な初見殺しってわけか」

 

拳を握りながらキリトが呟く。自分を責めでもしているのだろうか。

 

 

今俺が出席しているのは緊急召集された攻略会議。7層ぶりに出席した攻略会議だった。

軍が壊滅したという知らせを受け取ってはや二時間。ちらほら欠員はいるものの、攻略組と呼ばれているギルドのリーダーや副リーダーはほぼ揃っていた。

 

ちなみに俺はキリトと同じくソロ枠での出席。キリトを倒したというネームバリューがあるのか、7層ぶりだというのに誰も俺の出席に疑問を投げ掛けてこなかった。

 

まあそんなしょうもないことを言っている場合ではないのだろうが。いちいち突っ掛かってきていたキバオウも今はギルドホームに籠城してるし。

 

「.........生き残った軍のギルドメンバーからの情報だと、今回のフロアボスの攻撃力は今までの比ではないらしい」

 

 

なんとか連合のギルドリーダーの発言に触発されて他のリーダー達も発言しだした。

 

 

「他に情報は無いんですか?」

 

「ボスの攻撃方法は?」

 

「雑魚の取り巻きはいるのか?」

 

 

 

ざわざわと無秩序に発言が続き、会議自体が停滞し始める空気を感じた。......どうするってんだ、これ。

 

俺と同じくこの空気を感じとったのか、キリトが突然立ち上がり、会議の収集を取り始めた。

 

「みんな、とりあえず落ち着いてくれ。......アルゴ、なにか情報はないのか?」

 

 

キリトの発言によって徐々にざわめきが静まっていく。おお......これがリア充のみに許された技、ザ・ゾーンか。葉山以外に使える奴がいたとは......久しぶりに見たぜこれ。

 

 

「いヤ、今回はなんのヒントもなイ。...............この層全部のクエストを洗ってみたガ、ボスの名前も攻撃方法も、これっぽっちも情報がなかっタ」

 

「なっ......」

 

 

キリトの愕然とした表情を見て俺は逆に落ち着いた。

 

 

―――なるほど、25層。茅場昌彦が仕掛けてくるなら最適な層だろう。

 

攻略組は5層、10層と攻略してきたがボスの難易度に変化はなかった。1層で犠牲者を出したっきり、ただの一人も犠牲者を出すことなく攻略してきている。

 

しかしここは25層。全100層のうち4分の1にあたる節目。―――24層までほぼ犠牲らしき犠牲を出さずに攻略してきたプレイヤー達の慢心を砕くには丁度良い。全く良い趣味をしている。

 

ここまで攻略してきたわけだが、層のどこかには必ずボスに関する情報やヒントといったものがあった。しかしここにきて全く見つからない。

これを偶然と片付けるにはいささか楽観的すぎるだろう。

 

......ということは軍は何の情報もないまま25層のフロアボスに特攻したことになる。

むしろここまで考え無しだと逆に不信感が頭をもたげる。―――何が奴等をそこまで駆り立てた?

 

 

「......アルゴ、なんで軍はこんなことをしたと思う?」

 

 

疑問をアルゴにぶつけてみる。困ったときはとりあえずアルゴえもんに聞いてみるに限る。......アルゴえもんって言いにくいな。

 

 

「......多分、LAが目的だったんだろうナ。最近はキー坊が全部かっさらっていってたかラ」

 

 

てめぇのせいかキリト。

 

 

「けど、そんな理由でか?」

 

いくらなんでも情報ナッシンで特攻する理由にはならんだろう......と思ったが、アルゴが魔法の言葉で解消してくれた。

 

 

「キバオウだからナ」

「あっ(察し)」

 

 

 

あー、と思わず納得してしまった。まあキバオウだしなぁ................あのモヤッとボールろくなことしねえなほんと。よく俺にも絡んできてたし。

 

「つまり、何の情報もなく得体の知れない強力なボスに挑むことになるのか......」

 

 

そう言って歯噛みするキリト。確かに状況的には完全に詰んでいる。

 

 

「......どう思う?」

 

 

こちらを見ながらキリトが疑問を投げ掛けてきた。振り返ってみたが俺の後ろには誰もいない。え、俺?

 

テーブルの面子を見回してみたが全員なぜか俺を見ている。......え、なんで俺よ?

 

 

「.......それは、これからどうするべきか俺に言えってことか?」

 

 

そう聞き返すと全員が頷きやがった。だからなんで俺なんだよ......。

 

だがいくら無茶振りとは言え少数派どころかぼっちの俺に拒否権などあるはずがない。理不尽だろうがなんだろうが数の暴力の前では無理が通って道理が引っ込む。民主主義反対。

 

 

「...................これは一個人としての俺の意見だ。それを理解した上で聞いてくれ」

 

 

一斉に頷く攻略組の面子達。仲良いなお前ら。

 

数秒間を置いて俺は考えを纏め、改めて発言を再開する。

 

 

「普通ならここは数回に渡って偵察部隊を出すべきだろう。これじゃ余りにも情報が足りない」

 

そう、普通なら。だが、このクソゲーは普通ではない。

 

 

「......だが、このSAOはデスゲームだ。偵察部隊は多かれ少なかれ被害は必ず出るし、下手をすれば死者すら出るだろう。......それはデスゲームであるという点から容認できない。ここまではいいか?」

 

 

おそらくリスクなどを考慮すれば、偵察部隊を出すのがベスト。ある程度の被害を覚悟してでも情報をかき集め、討伐する方が総合的な点から言えばベストだろう。最小限の被害だ。

 

―――だが、それは被害が出ることが前提の作戦。その責任を背負うことができる人間はここにはいない。

 

SAOは良くも悪くもゲーム。全体的な平均年齢は相当低いだろう。そしてそのガキの中から必ず誰かが弾劾を始め、最悪攻略組の崩壊にまで発展しかねない。故にこの方法は取れない。

 

 

導き出される結論は―――

 

「―――一週間、レベリングと戦力増強に徹した上での完全な総力戦。これしかない」

 

 

惜しむらくは最も人数が多かった軍が脱落したことだ。その穴は大きい。一週間程度のレベリングじゃその穴を埋めることはできないだろう。中層プレイヤーに募集をかけた所でたかが知れている。

 

だが、一週間が限度だろう。士気を保てるのはおそらく一週間が限界。それ以上時間が経てば無駄に恐怖感が増し―――攻略組が完全崩壊する可能性もある。

 

 

「―――確かに、それしかなさそうだな」

 

なんとか連合のリーダーを筆頭としてちらほらと賛同者が出始める。しかし他のメンバーは考えこんでいるか俯いているかのどちらかだった。

 

そりゃそうだ。そんな簡単に納得できるはずがない。自分の命が懸かっているのだ。

 

 

「じゃあ、二日後に再び会議を開く。その時までにハチマンの案に賛成か、もしくは代替案を考えてきてくれ―――解散!」

 

キリトの閉会宣言によって俺は真っ先に席を立って外に出る。

 

 

 

―――デスゲームが始まって四ヶ月。こうしてついに攻略の足が止まってしまったのだった。

 


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