やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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時間が少し跳びます。


七話 そしてキリトは自分を偽っている。

 

 

俺がキリトくんフルボッコにした事件から少し経った。.....四ヶ月くらいか?

 

 

今俺がいるのは20層。あの後から攻略はサクサク進んでいる。

 

ちなみにあの事件はアルゴが事後処理をやったらしく、俺はキリトからボス戦に誘われるようになった。

 

........あれれー?八幡、キリトくんフルボッコにした記憶しかないよー?なんでこんなに好感度高いの?

 

アスナさんはいまだに俺を警戒してるのか睨んできたりする。うん、これが普通の反応だと思う。だから追いかけてくるんじゃねえよキリト。ストーカーか。

 

 

あの事件はキリトの慢心を砕くという点では成功したが、目撃者が思いのほか少なく、またキリト達も広めようとしなかったため失敗に終わった。まあ、後から考えたら穴だらけだしなあ......反省って大事。

 

ただし俺がキリトを倒したという噂は何故か広まっており、色んな目で見られて大変肩身が狭い。やめて!そんな目で俺を見ないで!

 

 

「え、あんな奴が......?」「いや、あの目ぇ見ろよ!」「まさにこの世の地獄を見てきたような目だ」「キリト×ハチマン」「成る程、いい目をしてるね」「いいケツだ」

 

 

.........攻略会議とやらでもこんな会話がこそこそされたりして非常に居心地が悪かった。あれ以来キリトに誘われても行かないようにしている。

あとそこの俺の目より腐ってる奴でてこい。勝手にカップリングしてんじゃねえよ。というか最後誰だったんだよ!

 

まあ、そんなことはどうでもいい。.........いやよくないけど。特にホモォな人々。

 

 

今、俺は非常にご機嫌である。いまだかつてない程に。

 

そう。なぜなら―――

 

ついにッ

ラーメンがッ

 

完成したのだァ――――――ッッ!!!!!!

 

厳密には完成したのは昨日だ。

もうその時はひゃっほいと叫んで小躍りしたものだ。

あらゆる料理の頂点に立つもの、それがラーメン。あらゆる男子高校生が食すものでもある。そして人類のソウルフードと呼ばれることもある(適当)。

むしろ図鑑の生態には雑食やら肉食やらではなくラーメンとまで書かれているまである(ウソ)。

つまりアルファにしてオメガ。原点にして頂点なのである。

 

 

俺が料理スキルを取得したのも全てはラーメンのためと言っても過言ではない。

 

.........そして何故昨日完成させたのに今日テンションあげあげフィーバーしているのかと言うと、実はちょっと目を離した隙にアルゴに食われてしまったのだ。

ちなみにアルゴはその後OHANASHIしてアイアンクローして処刑した。

 

そんなこんなで今俺はスーパーハイテンションで家に帰る途中だった。.........アルゴ絶対許さねえ。

 

「―――あ!ハチマンさん!」

 

「............サチ、か?」

 

無駄にハイテンションな俺を呼び止めたのサチ。11層で出会った中層プレイヤーだった。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

「んで、なんの用だ」

 

「いえ、ハチマンさんが珍しく機嫌良さそうだったんで......嫌、でしたか?」

 

「.............や、別にそんなことねえけど」

 

......。

 

...............。

 

一言で言おう。俺はこいつが苦手だ。

 

いや、別に性格が変とかそんなことはない。むしろこんな目をした俺に話しかけてきたりとか最近珍しい良い子だと思うし。

 

 

―――だが、こいつの声が雪ノ下にそっくりなのだ。

 

それもそっくりとかいうレベルじゃない。まんま雪ノ下の声だ。

だからこそ敬語使われたりすると違和感が半端ない。

 

.........ぶっちゃけ雪ノ下の声で敬語使われたり殊勝な態度取られたりすると色々とほら、背筋がぞぞぞっとくるものがある。というかなんでこんなに似てんの?

 

現にさっきすげえ不安そうな声(雪ノ下ボイス)を出されてちょっと困った。性格とかは問題ないどころか中学までの俺なら惚れてたレベルなんだが、声がなあ.........

 

 

「よ、よかったぁ......」

 

 

......ヤバい今少しぐらっと来た。正直破壊力が凄い。

しかもこれを天然でやってるんだろうからタチが悪い。サチ、恐ろしい子......!

 

内心俺が戦慄しているのも構わずサチは話を続ける。

 

「お昼まだですよね?じゃあ、良かったら......」

 

「や、わりぃが今日は自炊するつもりなんだわ」

 

「へー、自炊ですか?ところで何を?」

 

「ラーメンだな」

 

「..................ラー、メン?」

 

ギギギッとサチの首がこちらを向くのを見て、しまったと思うがもう遅い。こいつ、目がマジだ......!

 

「御一緒して、いいですよね?」

「アッハイ」

 

目が据わっていらっしゃる雪ノ下ボイスに逆らえるはずがなかった。......俺の、ラーメン。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

「で、なんでお前までいるんだよアルゴ」

 

「細かいことは気にすんなヨ。ハゲるゼ?」

「誰がハゲだ鼠」

 

 

俺はハゲてないし、おそらくハゲない。え、ハゲないよね?嘘だと言っておくれよマイファーザー。

 

「へえ......良いホームですね」

 

感嘆したように言うサチ。そう、俺は20層にホームを買ってしまったのだ。理由としては一々借りるのがめんどくさいし、どうせ金が貯まれば上の層に移転すればいいかという考えによるものだ。いやぁ、自宅っていいなぁ......あと細心の注意を払って購入したというのに何故貴様はその日のうちにマイホームを発見できたんだアルゴ。

 

アルゴとサチがわいわい喋ってるのを見ながら俺はそんなことを思いつつ、ラーメンを黙々と啜っていた。うーまーいーぞー!

 

 

「あ、そういえば最近はキリトくんって人も一緒にレベリングを手伝ったりしてくれてるんですよ」

 

「......キリト?」

 

 

なんでキリトが?というかあいつアスナと付き合ってんじゃねえの?いつもパーティ組んでるからそうだとばかり思ってたんだが......まさか浮気?それともフラれた?前者なら処刑、後者ならざまぁなんだが......

 

うんうんと俺が唸っていると、サチが首をかしげる。

 

 

「あれ?ハチマンさんもキリトくんのこと知ってるんですか?」

 

 

いや、知ってるもなにも......と続けようとしたが止める。

 

―――キリトは、自分が攻略組だということを話していないのか......?

 

つまり、キリトは自分のレベルを偽るかなにかしてサチ及び、サチが所属する月下のにゃんこ団?とかいうギルドのレベリングに付き合っていることになる。

そりゃアスナも不機嫌になるわな。いちいちつっかかってきて非常に面倒臭い。......それはいつもか。俺、恨まれることしかやってないしなあ......自業自得とはいえ面倒臭いものは面倒臭い。

 

 

そして、どうやらアルゴも同じ結論に辿り着いたらしい。

アルゴと目が合うと微かに首肯される。

―――どんな事情があるかは知らないが、キリトが自分から明かしてないのであればわざわざ干渉する必要はない。

 

 

「や、ちょっと前に知り合ってな。ほら、お前らと会ったちょっと前だ」

 

2層と11層という差がちょっとかは知らんが、嘘は言ってない。

 

「へえー!私達はですね、11層でレベリングしてる途中にキリトくんに助けて貰って―――」

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

―――結局その後もわいわい喋りながらラーメンを食べ終えてお開きになった。まあ、俺はひたすら食ってただけだったがな!

何言われても「ああ」「うん」「そう」「ふーん」だけで返していた。俺愛想無さすぎだろ。

 

 

ふぅ......結論。ラーメンは至高。異論は認めない。

 

「ハチマン。今の話、どう思っタ?」

 

サチが帰った後、アルゴがぽつりと呟く。あとなんで勝手に紅茶注いで飲んでんの?

 

「......別に、キリトがやりたいようにさせりゃいいんじゃねーの?」

 

「そうカ」

 

 

ことり、とカップを置いてアルゴが俺を見上げる。

それだけか?と言外に問う視線に耐えきれず、思わず視線を反らしてしまった。

 

 

 

「......正直、危なっかしい気はするな。いつ崩壊してもおかしくない」

 

 

秘密というものはなんとなくわかってしまうものだ。例え具体的な内容が分からずとも、相手がなにか隠しているだろうことは雰囲気、会話、目線、行動のありとあらゆるところから察することができる。

 

現にサチもキリトになにかあることに薄々気付いているようだったしな。

 

......隠し事がある関係は脆い。たった一つの切欠から簡単に崩壊してしまう。文化祭のときの俺と、雪ノ下のように。

 

キリトが攻略組であると知ったなら、どう思うだろうか。それを予想することは容易い。

サチなら、別に気にしないだろう............表面上は。あいつはお人好しだから。俺に話しかけるほどの。

 

―――だけど、きっとどこかで感じることだろう。「キリトは私達のレベリングに付き合いながら、どこかで笑ってたんじゃないか」と。

 

屈辱感すら感じるかもしれない。それは人間ならば誰もが持ちえる可能性であり、感情だ。

 

 

―――そしてそんな仄暗い感情は徐々に蓄積され、修復不可能な傷を双方に与えることになる。

 

 

「ハチマン。頼ム」

 

「......わーったよ。俺も少し気になるしな」

 

 

 

 

 

 

「あ、ラーメン代は払えよ」

「金取るのかヨ!?」

 


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