やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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六話 しかしハチマンの戦いは間違っていない。

「うおおおぉおッ!!!」

 

吠えながらキリトが放つ片手剣縦ニ連撃ソードスキル、バーチカル・アーク。

青い軌跡を描きながら放たれたそれを、ハチマンは同じソードスキルで、全く同じ挙動で迎え打った。

 

 

「.......『バーチカル・アーク』」

 

ガキンッガキィ!と凄まじい衝突音が響く。衝撃でお互いに後方へ下がりながらも淡々と隙を伺う。

 

それは先程の激突と同じく、奇しくも―――否。ほぼ同じ能力を持つ者同士の当然の帰結なのか、鏡像のように全く同じ姿勢での相対となる。

 

お互い再びアニールブレードを構える。そして足を踏み込み―――

 

「らああああああァッ」

「『レイジスパイク』」

 

限られた手札の中で双方が選択したのは片手剣突進技、レイジスパイク。ライトエフェクトを撒き散らしながら彗星の如く激突した二人はそのままつばぜり合いへと移行する。

 

膠着状態―――否。つばぜり合いは若干だが、キリトのほうが有利だった。ハチマンのほうが押されつつある。

同レベルとはいえどステータスの筋力値においてキリトのほうがハチマンを上回っている。その純粋な差が表に出つつあった。

 

「―――キリトくんッ!」

 

「アスナッ!?」

 

キリトの援護に現れたアスナ。それによりキリトの集中が一瞬だが、確実に逸れる。

 

たった一瞬、されど一瞬―――もともとぼっちだったから、という悲しい理由ではあるが人の変化を感じることに長けているハチマン。

戦闘という極限の集中の中でそれはもはや一種の予知能力となり、今この瞬間ならば雪ノ下陽

乃とすら互角に戦える状態に至っている。

 

そんな今のハチマンがわかりやすい隙を見逃す筈がない。キリトの援護に現れたアスナの存在は、皮肉にもハチマンの援護になってしまっていたた。

 

 

「『シャープネイル』」

 

 

押されつつあったハチマンにとっては起死回生の一手。キリトにとっては致命的な一撃。一瞬の硬直が敗北を確定させた。

 

片手剣三連撃ソードスキル『シャープネイル』。

 

光輝を纏ったそれはハチマンが脳裏に描くものと寸分違わずキリトの胴を三度切り裂き、吹き飛ばした。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

「ぐああああああッ」

 

凄まじい衝撃が腹部を貫き、背中に衝撃が伝わる。おそらくは吹き飛ばされたのだろう。

HPバーはイエローを通りこしてすでにレッド。完璧に直撃した三連撃は俺を瀕死にまで追い込んでいた。

 

「キリトくんッ!?」

 

アスナが駆け寄ってきて、回復結晶を口に突っ込んでくるのを見ながら俺は覆面男に内心で称賛を送ってしまっていた。

 

アルゴを殺そうとした存在。決して許せるはずのない男だが、純粋な1人のゲーマーとして俺は称賛せざるを得ない。

 

俺は自分で言うのもなんだが廃人ゲーマーだ。そして、攻略組の中でもトップに入る強さだと自負している。これは慢心でもなくなんでもなく、単なる事実。......そう思っていた。

 

だが、この男はなんの小細工もなしに俺を上回った。正面から堂々と、なんの小細工も無しに俺を越えた。完膚無きまでの敗北。ゲーマーとして、男としてその強さは称賛するしかなかった。

 

......もしかしたら慢心していたのかもしれない。攻略組のトップだからといってSAOの頂点に立っているわけではなかった。現にこの男は攻略組でもないのに俺より強かった。

 

「よくも、キリトくんを」

 

「駄目だアスナッ」

 

「......キリトくん?」

 

「......わかってるだろ。奴は強い、俺よりも」

 

アスナが息を飲むのを感じながら俺は唇を噛み締めた。

 

......アスナは対人戦をまだ知らない。知識では知っているかもしれないが、対人での駆け引きというものを知らない。

対Mob戦と対人戦は根本からして違う。それを理解できずに挑むなど愚の骨頂。ましてや奴ほどのプレイヤーならばアスナを人質に取られるという最悪の事態にすらなりかねない。

 

援護のはずのアスナの存在。それが足を引っ張る要因にすらなりつつある。

 

奴の視線が膝をついている俺とアスナを貫く。―――来るか。

 

しかし。

 

「え......?」

 

思わず拍子抜けしてしまい、変な声が出てしまった。

 

なぜなら奴はこちらを一瞥した後、剣を仕舞ってくるりとこちらに背を向けたのだ。―――まるで相手にする価値がないとでも言うように。

 

「......待ってくれ」

 

「なんだ?」

 

背中を見せたまま気怠そうな声が返ってくる。

失望されたのか。こちらを見る価値すらないと思われているのか。これ以上ない屈辱感で全身が強ばるが、それを抑えて問う。

 

「あんたの名前を教えてくれ」

 

「ハチマン」

 

 

ハチマン。ハチマンか。

 

ハチマン、それが俺を越えるプレイヤーの名前。俺が越えるべき男の名前。―――現時点で最強のプレイヤーの名前。

 

言うべきことは言ったとばかりに去ろうとするハチマン。俺やアスナどころか、アルゴすら見ずに―――アルゴ?

 

 

疑問が浮かぶ。こいつはなんのためにアルゴを殺そうとしたんだ?

 

 

「なあ、あんたはなんのためにアルゴを......?」

 

「あぁ」

 

ハチマンの足取りが止まり、首だけこちらを振り返る。濁った......いや、腐ったような瞳がこちらを見る。

 

「餌だよ」

 

「.........餌?」

 

「そ、餌」

 

お前を釣るためのな。

 

そんなことを嘯きながら彼は回復結晶を取り出してアルゴに放る。アルゴは茫然としながらそれを受け取っていた。.........え?

 

「.........え?」

 

「あー、悪かったな。だけど、もう用はねえよ」

 

じゃあな、ビーター。

 

そんな言葉を残して、彼は闇に溶けるようにして―――文字通り消えた。

 

 

「「「ッ!?」」」

 

いきなり消えた。システム外スキル?.........いや、これは

 

「隠蔽..........か」

 

俺の探敵すら捉えられないほどの隔絶した「隠蔽」。..........だが、彼はこのスキルを先程の戦いで使っていなかった。

 

つまり、本気ではなかったということだろう。.........本気でないのに、負けた。

 

腹の底から悔しさが込み上げてくる。越えるべき壁は高い。........だけど、悪い奴ではないのかもしれない。回復結晶をアルゴに渡していたし。

 

不思議だ。彼を越えたいとも思うが、彼と一緒に戦ってもみたい。敵なら最悪だか、味方ならこの上ない戦力となるだろう。次会えたら、攻略に誘うのもいいかもしれない。

 

.........正直、ハチマンは悪い奴じゃない気がする。回復結晶をアルゴに渡していたところや、俺が到着するまでアルゴを殺してなかったというところを見ると、そんな根っからの悪人ではない気がする。何か事情があったのかもしれない。たかが勘、と一蹴されればそれで終わりだけれども。

 

心配そうにこちらを見るアスナを見ながら、なんとなくハチマンとは長い付き合いになるかもな、と。そんなことを思った。

 




アサシン「なに、五十年剣を振り続ければこれくらいは誰でもできるようになるさ」

八幡「十八年も人間観察続けりゃこれくらいできるようになるさ」


YAMA育ちとCHIBA育ちって凄い(適当)

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