やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
「間に合え.........!」
全力で地面を蹴って進む。
狩りをしていたプレイヤー達は凄まじい速度で走っていく彼を見て目を丸くしていたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。一緒にレベリングをしていたアスナも置いて、彼は全速力で走っていた。
「アルゴ......!」
彼―――キリトは自身の過失を責めながら走っていた。
1層のボス撃破後の自分の発言。自分がビーターだと宣言した彼は後悔などしていなかった。おそらくキバオウ達とは完全に敵対してしまっただろうし、攻略に参加していなかったプレイヤーにもこのことは伝わっているだろう。
現に、ここ数日間で彼に決闘を仕掛けてくるプレイヤーや、彼に対して敵意の視線を向けてくるプレイヤーなども大勢いた。
だが、自分以外のプレイヤーに危害が及ぶことは彼の本意ではない。ましてや、あんな発言をした後であっても自分を信じてくれたアスナやクライン、エギルやアルゴ。彼らを失うことは到底許せることではなかった。
.........いや、彼らに害が及ぶことは予想できたはずだ。そこまで気が回らなかった自分が悪い。せめて、警告だけでもしておくべきだった。
プレイヤーキラー。略してPK。こんな下層で、もう現れるなんて―――
「........!こっちか!」
フルで使っていた索敵スキルに二人のプレイヤーの反応が引っ掛かる。まだ、間に合うはず。間に合わせる。間に合え―――!
数分前にアルゴから届いたメール。それを見たとき、一瞬頭が真っ白になった。
『PK 助け』
まだフレンドに表示されているアルゴの名前は灰色ではない。まだ、助かる。
―――フードから零れた金髪。鼠の異名の原因となった髭のペイント。
そして、地面に転がる彼女に片手剣を降り下ろそうとしている覆面の男を見た瞬間、彼は叫びながら同じ片手剣、アニールブレードを叩きつけていた。
「らああああああああああッ!!!」
※※※※※※※※※※
危ねEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!
叩きつけられたアニールブレードを同じアニールブレードで受け止め、後方へ吹き飛ばされながら冷や汗をかく。
アルゴを守るようにして立つ真っ黒くろすけな姿。聞いていた通り、おそらくキリトだろう。
想像していたのより数段子供っぽい顔のイケメン。だがそのイケメンフェイスは俺への憤怒で歪み、ぶっちゃけ超こわい。殺気ぽいのがめちゃくちゃでてる、気がする。ふぇぇ、怖いよぉ.......
ま、俺が煽ったんだけどネ☆ミ
というか早くね?アルゴがメール送ってから5分経ってねえよ?
キリトが突っ込んでくるのを見ながら、俺は数日前の会話を思い出していた。
※※※※※※
「簡単だ。噂のキリトくんが悪い奴じゃないこと、そしてキリトくんの慢心を叩き折ってやればいい」
「でも、どうやっテ?」
こてん、と首を傾けるアルゴ。おいやめろ地味にちょっと少し可愛いとか思っちゃっただろうが。雪ノ下といい、なんで女子ってナチュラルにこういう行動しちゃうの?
「ちょっとした小芝居を打つんだよ。主人公はキリト、ヒロインはお前、悪役は俺って感じだな」
......まだわかってないみたいだな。そしてこいつはクッキー食いすぎだ。なんで遠慮とか慎みとかないのこいつ?
「食いすぎだバカ。......つまり、俺はお前を殺そうとする悪役。そしてキリトはお前を助ける王子様。ここまででキリトくんが良い奴だと証明できる」
リスみたくクッキーを貯めこんで頬を膨らましているアルゴから皿を取り上げながら説明する。
「オレンジプレイヤーとグリーンという視覚的に分かりやすい補助もつくしな。まあ、観客が必要だがそこらへんはどうにかするしかない」
「むぐ。..............けど、そこからどうするんダ?慢心を叩き折ル........って、まさカ」
頬を引きつらせながらこちらを見つめるアルゴ。はっはっは、おみゃーの想像どおりさ!
「そこまでは勧善懲悪の物語。......だが俺は空気を読まない」
後から聞いた話だが、この時の俺は相当悪い顔だったらしい。ドン引きされながら教えられた。
「助けにきたキリトくんを完全に完璧に全壁に叩き潰す。これでみんなハッピーエンドだ」
※※※※※※
以上回想終わり。
今のキリトと俺は同じアニールブレード。また、PKを恐れてそれなりに俺がレベルを上げていたことでレベル的に差はほぼない。
エクストラスキルである体術もアルゴに前倒しで入手できる場所を教えて貰い、熟練度もそこそこ上げている。他の戦闘スキルは勿論同系統の片手剣。
つまり、俺とキリトは今のところステータスではほぼ互角。ここから先はプレイヤースキルが物を言う世界だ。
「くッ!?」
キリトが振るう剣を辛うじて反らしながら、再び冷や汗をかく。―――こいつ、反応が早すぎる。
こちらから打ち込んでも的確に防御、もしくは避けられ、さらに高速での反撃が襲ってくる。
幸いアルゴから伝え聞いたところからこいつのステータス振りやスキル構成、よく使うソードスキルや戦法などは一通り知っている。......知っていて、これだ。
ソードスキルも使わせていない。ソードスキルはあるモーションをとる必要性がある。つまり、そのモーションさえ崩せばソードスキルを発動させることはできないのだ。
「......なんだ、この程度か?」
内心を抑えつつ、わざと低い声でキリトを煽る。
お互い決定打を打てないまま、俺とキリトの戦いは膠着状態に陥りつつあった。
※※※※※※※※※※
「くそっ!」
またソードスキルの発動が防がれる。
ぱっと見では、キリトがスカーフの男を押しているように見えるだろう。そう、ぱっと見では。
だが、キリトは内心焦っていた。攻勢なのはこちらだが、決定打と呼べるものや、まともな攻撃は只の一撃すら通っていない。
ソードスキルは全てモーションに入る途中でキャンセルされている。まるで、未来でも見ているかのように。
......その時、偶然つばぜり合いなった瞬間、キリトはスカーフの男の目を見てぞっとした。
それはまるで、沼のように濁った目。深淵に引き込まれそうなほど暗い瞳はこちらの全てを見抜くかのようにキリトの目をじっと見ていた。
どんな経験をすればこんな目をできるのか。いや、いつの間に俺はこんな男の怨みを買っていたんだ―――
だが、目を反らそうとしたその時、スカーフの男が初めて口を開いた。
「......なんだ、
あらゆるものに絶望し、濃密な殺意を秘めたような低い声。その囁きを聞いた瞬間、思わず身を引いてしまった。
「くそッ........!」
謎の覆面男との戦闘。それは膠着状態に突入しつつあった。
やったね八幡!ついに目が役にたったよ!(勘違い)