やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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五章 終焉へのカウントダウン
一話 そんなこんなで彼らはレベリングする。


 

 

 

 

「―――おいおい、無視するなよ」

 

 

ニィ、とソレは嗤う。

 

 

「ほら、聞こえるだろ?見えるだろ?オマエの欲望が、渇望が―――殺意が」

 

 

誘うように、囁く。

 

 

「所詮オマエもオレと同類さ。殺すことにしか価値を見出だせない。闘うことでしか真理を見出だせない」

 

 

Ha、と。ソレは凄惨な笑みを浮かべて、言った。

 

 

「闘争と殺戮。それがオマエ(オレ)の本質なんだよ―――比企谷八幡」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「............くそ」

 

 

またか、と思いつつ俺は上体を起こす。

ベッドサイドの時計を見ると、時刻は7時4分。もちろん午前の、である。

 

 

「......腹へった」

 

 

微妙な空腹感。顔を洗った俺はそれに従って部屋から階下へと降りていく。

 

 

「ありゃ。早いですね兄さん」

 

「おう」

 

 

エプロンを着けたユイがパンを焼いているのを見て、俺は欠伸した。まだ若干眠い。が、二度寝すれば目覚めなくなるだろうことから寝室に戻ることは断念した。

 

 

「暇ならシリカに修行でもつけといたらどうですか?」

 

「......そう、するか」

 

 

まあ、眠気覚まし程度にはなるだろう。

そう考えた俺はユイの薦めに従うことに決め、修行用の部屋―――というかリビングに繋がる一室の扉を開け、中に足を踏み入れた。

 

「―――ふっ!」

 

 

―――紫紺の斬撃。

 

美しい、とすら言えるような斬撃だった。

真横一文字に短剣が振るわれ、直後に右腕を引いて斜め下へ。さらに切り上げ―――短剣が掌の中で回転。短剣を逆手に持ち変えて切り返す。そして逆袈裟の要領で、短剣で空を引き裂いた。

 

―――短剣の5連撃ソードスキル《スター・エッジ》だ。

空中に描かれた美しい紫色の五芒星。それがかき消えると、シリカはこちらを振り向く。ぱたぱたと飛んできたピナが、俺の頭にかじりついた。

 

 

「おはようございます、ハチさん」

 

「おはよーさん」

 

 

相変わらずの白髪と灼眼。細身の肢体には簡易的なプロテクターと戦闘衣(バトルクロス)。ジャケットを羽織り、全体的に黒で統一した装備に透き通るような白髪はよく映えていた。

―――スキル構成的にも見た目的にも、もはや完全に盗賊(シーフ)である。

 

 

「......アレだな。基本的な動きは覚えたし、そろそろ実戦形式でやってみるか」

 

「ほんとですか!?」

 

「お、おう」

 

 

やたら食い付きが良いシリカに若干引きつつ、俺は剣帯を実体化させ、腰に巻く。白黒の陰陽剣を抜刀すると、部屋の中央に立つ。

 

 

「好きに打ち込んでこい。加減はしてやる」

 

「―――はいっ!」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「はーっ、はー...」

 

「かなり良くなってきたな。あとは繋げていくだけだ」

 

 

疲労から床にへたりこみ、息を整えるシリカを見て俺は言った。表示される体力は1割ほど減少している。ちなみに俺の体力は欠片も削れていなかった。

レベル差もあるのだろうが、まだ戦闘技術は(つたな)い。まだまだ鍛えなければな―――と思いつつ、俺は納刀する。ピナがぷくぷくと泡を吐き出し、シリカを回復させていく。

 

 

「常に次の動作に繋げられるように動け。回避、防御、攻撃、なんでもいい。なんでもいいから次の動きに繋げろ。これは1対1でも1対複数でも同様だ」

 

「はい......」

 

 

常に次の動作に繋げられるよう動く。これは必須技能と言えるモノだ。

さらに次の動作を意識して動くようにし、そして何十手も先の動きを考えられるようになれば一人前だ。そこまでいけば自然と敵の動きもわかるようになり、プレイヤー、Mob問わず勝てるようになるだろう。

 

―――そもそも、基本技と呼ばれるソードスキル達は基本であるが故に優秀だ。スキル後硬直は非常に短く、駆け引きなどが問われる超高速の対人戦、特に格上との戦いでは重宝されるべきソードスキルである。

そのため、まず俺は《短剣》のソードスキルを完璧に行えることをシリカに要求した。全てのソードスキルを高い練度で瞬時に使えなければ、格上との対人戦などでは瞬殺されかねない。

つまり、英語と同じだ。まともに単語を覚えていなければ、いかに文法ができようとも英作文や長文読解などできやしない。逆もまた然り、なのだが優先すべきは単語―――ソードスキルを覚えること。

英語も戦闘技能も一朝一夕ではなかなか伸びないのである。

 

だが―――

 

 

「......そうだな、そろそろレベリングするか」

 

「......!?」

 

 

驚いたようにこちらを見上げるシリカ。例えるなら、ニートの息子が外に出ると言い出して「お母さん嬉しいよ...」と呟く母親のような表情である―――ってなんだその具体的な例え。

 

と、自分で自分にツッコミを入れていると、リビングから声が響いてきた。

 

 

「ご飯ですよーう。七味と一味、どっちがいいですかー?」

 

「「ジャムで」」

 

 

いらんもんかけられたらたまらない、と。俺とシリカ―――そしてピナはリビングへと飛び出すのだった。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「レベリング、ですか」

 

 

はむ、とユイはトーストにかぶりつきながら言った。......毎朝トーストだと少し飽きるな、うん。米食いてえ......。

 

そう考えながら俺はブルーベリー(に似た別のもの)のジャムを塗る。ちなみにシリカはイチゴ(的な変な果実)のジャム、ユイはいつも通り真っ赤なアレだった。もちろんトマトソースではない。ピナは安定のピーナッツを犬のように貪っていた。......どう見てもドラゴンじゃねえよな、こいつ。もっふもふだし。

 

 

「無理じゃないですか?」

 

「いや、でもなあ」

 

 

即否定されてしまったが、俺としてもPoHに奪われた15レベルをどうにか補填したいのだ。これではいずれ攻略組に抜かされてしまう、というか抜かされつつある。どうしたものか。

 

 

「どうにかならないのか?」

 

「......シリカさんならともかく、兄さんがレベリングするのに最適なのは最前線しかありませんしねえ......もしくは、アレを使うか」

 

 

俺は顔をしかめた。アレ―――【簒奪】。なぜか俺を気に入ったらしい(・・・)【簒奪】だが、使う気には全くならない。というか使い勝手が悪すぎるのだ。唯一ユニークスキルを2つ所有しているというのに強くなった気が全くしなかった。

 

 

「基本的にユニークスキルは2つ所有できないんだろ?なんで俺は2つあるんだよ」

 

 

さあ?とユイは肩をすくめる。

 

 

「【簒奪】は例外ですよ。浮気性というかなんというか......ていうか、なら聞いてみたらどうです?なんで自分を選んだのか」

 

「誰にだよ」

 

「【簒奪】に」

 

 

ふむ、そうか。【簒奪】に聞けばいいのか。

 

―――うん。

 

 

「お前、頭だいじょぶか?」

 

「酷くないですか!?」

 

 

いや、だって。ねえ?

俺はシリカと顔を見合わせた。ついにバグったかこいつ。もとからポンコツだとは思っていたが、豆板醤食い過ぎて致命的なエラーでもでたのだろうか。

 

 

「いや、理由がわからなければ【簒奪】(本人)に聞けばいいじゃないですか」

 

「冷静に考えろよ、スキルが話せるわけねえだろ」

 

「できるんですってば!」

 

 

そうしてぎゃあぎゃあユイと言い争っていると、ふとシリカが疑問を発した。

 

 

「えっと......じゃあ、どうやったら【簒奪】...さん?と話せるのかな、ユイちゃん」

 

ふぁー(あー)ふぉふぃらはら(こちらから)ふぁあひはへるほは(話しかけるのは)ふひへふへ(無理ですね)

 

「食うか喋るかどっちかにしろっつの。なに言ってんだお前」

 

「......」

 

 

ユイはひたすら無言でむぐむぐし、飲み込む。そして二枚目のトーストに手を伸ばし―――

 

 

「いや喋ろよ」

 

「むぅ」

 

 

その手を叩き落とすと、ユイは唸った後に話し始めた。

 

 

「ですから、こっちからじゃ話しかけられないんですってば。向こうから話しかけてくれないとダメなんですよ」

 

「なんだそりゃ」

 

 

俺は顔をしかめた。要するに、ユニークスキルの気分次第ということか。......本当に、ユニークスキルに喋ったりするだけの知性があるならば、だが。

 

 

「......というか、喋るっつってもどんな感じなんだ?」

 

 

アレ口なんてないだろ。

そう俺が言うと、ユイはうーんと唸った後に答えた。

 

 

「どうなんでしょうねー。思念みたいな感じかもしれません。ニュアンスだけ伝わってくる、みたいな」

 

「喋るよりすげえな、それ」

 

「あ、もしくは精神世界で対話とかするのかもしれませんよ。BLEA○Hみたいに」

 

「斬月のおっさんかよ......」

 

「『退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。叫べ、我が名は―――』」

 

「「『斬月!』」」

 

 

いえーいとハイタッチするバカ二人。シリカはこいつらバカじゃないんだろうか、という目でこちらを見ていた。うん、なんかすまん。現実世界に帰ったら破面編まで貸すから。それ以後は蛇足。

 

 

「―――ってそうじゃねえよ。レベリングの話だっつの」

 

「いつの間にか全力で脱線してましたねー」

 

 

ユニークスキルが喋るだの喋らんだのという話はさておき、とりあえず俺のレベリングに適した場所探しだ。ついでにシリカも。

 

 

「Lv87の兄さんに、Lv64のシリカですよねー。フィールドボス周回狩りでもします?」

 

「いや、さすがにそれは辛い」

 

 

さすがにボスを二人で狩るには色々と足りない。

《ラフコフ》の残党狩りで若干レベルが上がった俺と、鍛練とちょこちょこのMob狩りで若干レベルが上がったシリカ。最前線が69層くらいだったから、せめてシリカは70程度に上げたいのだが―――

 

 

「......あ、隠しダンジョン的なのが68層にありますね。どうです?平均的にでてくるMobのレベルが70くらいですが」

 

「......そこにするか」

 

 

問題は見た目をどうするか、だが。

 

俺は隣でべろんべろんと皿を舐めているドラゴンもどきを横目で見る。皿舐めるとかどんだけ飢えてんだこのモフモフ。飢餓種かよ。......イビルジョーもドラゴンだからあながち間違ってない、のか?

 

 

「こいつどう隠すんだよ」

 

「そこですよねえー」

 

「あはは...」

 

 

乾いた笑いを漏らすシリカ。モンスターボールでもありゃいいんだが......もしくはパソコン。というかあのパソコンってどういうシステムなの?ポケモン電子化できるのかよ。ロトムならまだわかるけど。

 

 

「......アイテム(ストレージ)に納められませんかねー」

 

 

ぽつりとユイが呟く。

ものは試し、とばかりにシリカにウィンドウを開かせた。

そしてついに皿をかじりだしたピナを乗せてみる、と―――

 

 

「「「入ったァ――――――!?」」」

 

 

にゅるん、という感じでピナがウィンドウに吸い込まれ、消えた。

唖然とする俺とシリカとユイ。いや、まさか入るとは。

 

そしてウィンドウに表示されたモノを除きこむと―――

 

 

 

・ピナ(生)×1

 

 

 

「「「生!?」」」

 

 

生ってなんだよ。ナマモノなのか。いや多分生物の略称なのだろうが......。

 

 

「......なんか嫌ですね、これ」

 

「食材みたいだなおい」

 

 

シリカに至っては「ピナぁ...」と、若干涙目である。俺とユイは微妙な表情でウィンドウに表示された名前を眺めていた。

 

 

「......出してあげましょうか」

 

「だな」

 

「ピナ―――ッ!」

 

 

というわけで。

俺達はなんとかピナを隠す方法を考えつき(というか、ローブのポケットに突っ込む以外に方法がなかった)68層の隠しダンジョン、《ダイダロス》へと向かうのだった。


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