やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
―――
【手裏剣術】の熟練度が1000に達してようやく出現した、
「......自分でやってなんだが、すげえなおい」
俺は呆れて呟いた。
吹き飛ばされた看板。灰塵となったタイル。空爆でも受けたかのように穴だらけとなった地面。―――そして、地面の至る場所に転がる、砕けた武器達。
「とんだ金食い虫だな......」
合計682の武器が、見るも無残な状態で破壊され、転がっている。まあそりゃそうだろう、破壊不能オブジェクトである建物本体にぶち当たればそうなるのが道理である。
一発装填するごとに300くらいの武器を集めなければならない大砲。一本5000コルと換算して、150万コル。アホみたいな費用だった。
......
―――と。視界の端に何かが引っ掛かる。
「おいおい......」
砕けた剣の上を歩きながら、俺はソレへ歩いていく。
ソレは―――
「あれでまだ生きてたのかよ、PoH」
―――無数の剣に四肢を貫かれながらも、こちらを睨むPoHだった。
「よく生きてたな」
「Ha......ふざけんじゃねえぞ、なんだアレ」
俺は肩をすくめて返した。逆の立場なら、俺だってそう言うに違いない。
「安心しろ、あんなモノそうバカスカ撃てねえからな」
「鍛冶屋に、土下座しやがれ」
全くだ。多分リズベットがこれを見たら全力で脛を蹴り上げてくるだろう。
俺は苦笑しながらもPoHに歩み寄った。こちらを睨むPoHに、俺は尋ねた。
「言い残す言葉は?」
「............」
PoHは、俺と目をあわせる。直後―――あろうことか、ニィ、と。
まるで、長いこと探していたモノを見つけたような。よもすれば、恋い焦がれるような。
そんな笑みを―――その美貌に、浮かべた。
「ああ―――そうか、そうだったのか」
「何を言っている...?」
もはや恍惚としたような笑み。俺は背筋がぞっとするのを感じながらも、PoHの言葉を待った。
「
「............!?」
ダメだ、と自分の中のナニカが叫ぶ。これ以上聞くな、と。聞いてはダメだ。殺せ。これ以上喋らせるな。
―――だが、凍りついたように、左手が動かない。
「その目を探してたんだよ。―――この世の何もかもに価値が見出だせないんだろ?」
PoHは、苦痛と狂喜にまみれた笑みを、浮かべる。
「この世の全てが何一つ信じられないんだろ?何を探しているのかも、何を欲しているのかも。......だろう?」
―――
「―――黙れッッッッ!!!」
俺は咆哮する。神速で左手が跳ね上がり―――
驚いたように、PoHは目を見開き、笑った。
「―――はは」
......十秒後、そこには墓碑の如く、大地に突き刺さる包丁があった。
抜き放つ、と同時に表示されるネームウィンドウ。―――《
「......最悪のネーミングセンスだな」
そう呟きながら、地面に転がる包丁の鞘を拾いあげ、そのまま鞘に納めてホルダーに突っ込む。
―――使い手がアレだったとしても性能は申し分なかった。
「......俺は、お前じゃない」
ぎり、と。歯を食い縛り呟く。
胸中に残るしこり。凄まじい後味の悪さだった。
だが、今向き合うべきは当面の問題だ。俺は道を埋め尽くす武器の残骸に目を向け―――逸らした。どうしろってんだ、これ。
まあそのまま放置するしかないだろう、と開き直って背を向ける。これだけ大騒ぎをやらかしたのだ、一刻も早く街を出なければ―――
「どこに行くつもりですか?」
「ユイ、か」
俺は苦笑いしながらユイを見る。ユイははぁ、と溜め息を吐いて《
「......私はAIです。その意義はプレイヤーをサポートすることであり、兄さんを止めることはできませんし、今さら止めようとも思いませんから安心してください」
「......そうか」
相変わらず、的確にこちらの心中を見抜いてくるやつだ。
......PoHを殺した今、次の目標はヒースクリフ。仮にもGMだ、てっきり創造主に敵対する行為を見咎めるのかと思いきや―――そうでもないらしい。
「わ、私も行きます」
さらに、通路の角から現れる
「シリカ、お前は残れ」
「嫌です」
「死ぬ気か?」
「いいえ。けど、強くなるって決めましたから」
―――だから、あなたについていきます。
シリカはそう言って、バイザーのようなモノを取り出して被り、さらにフードを被った。ユイも同じようにフードを被る。そしてこちらに仮面を放ってくる。
「ほら、行きますよ。このままくっちゃべってたらユキノさんとかに見つかって計画パァです」
「......ああくそ、好きにしやがれ」
俺は溜め息を吐いて仮面を被る。見事に怪しい団体だった。
「ふーむ、裏をかいて上層に行くほうがいいかもですねえ。奪われたぶんレベル上げないといけませんし」
「見てたのかよ、おい」
「カーディナル経由すりゃ余裕です。さすがに直接的な干渉はできませんから、ヒヤヒヤしましたよ」
―――と、まあ。
一人は打倒ヒースクリフを。
一人は強くなることを。
一人はより完全なAIへ至るのを。
それぞれ目指すモノの違う、即席のチームが、ここに誕生したのだった。
《You got an Extra skill―――【簒奪】》
『―――Ha』
一人の中で。
ナニカが、嗤った。
《四章・完》
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[解説コーナー]
ユイ「というわけで字数的に余ったので解説コーナーです☆」
八幡「滅茶苦茶後味悪い終わりかただったなおい。なんなんだよアレ」
ユイ「うふふ。五章からが本番ですよーう。てことで、四章までに登場したユニークスキルの解説です!」
・【手裏剣術】
ハチマンが所有するユニークスキル。投剣スキルの発展型スキルであり、複数放つことも可能。
そこまで強力な訳ではなく、使い勝手はいいが他のユニークスキルと比べれば見劣りする。
だが熟練度1000で取得できる《
「剣を投げる」という性質上、武器を使い捨てにしてしまう傾向があるため、金食い虫。ついでに鍛冶プレイヤーには嫌われる、因果なユニークスキルである。
所有条件は【投剣スキルを用いてMobのLAをとった数が最多のプレイヤー】。
・【簒奪】
PoHが所有していたユニークスキル。体力、レベル、スキルといったものを奪うユニークスキル。
強力な反面そのリスクは高く、【奪う対象の急所に触れなければならない】という条件があるため、必然的に喉を掴む、こめかみに触れる、などという動作が必要とされる。Mob相手では無用の長物となる。
レベルを奪う《階位簒奪》は自分より上のレベルの対象でなければならず、経験値に関係なく数値のみを奪うため、結果的には自分と相手のレベルを平均する、という効果になってしまう。
スキルを奪う《能力強奪》は【急所に触れる】という条件さえ満たせばあらゆる対象に可能。奪うスキルの選択もできる。ただし確率は【熟練度÷20】。
体力を奪う《体力略奪》は制限が緩く、【間接的に対象に触れる】ことさえできれば可能。対象の残体力の2割を奪い、吸収できる。
所有条件は【最もPK数の多いプレイヤー】。
・【神速】
アスナが所有しているユニークスキル。思考や速度を加速させるユニークスキル。
所有条件は【最高到達速度が最も速いプレイヤー】。
・【二刀流】
キリトが所有するユニークスキル。ユニークスキルの中でも最もバランスの良いスキル。
連続技故に、使用後の隙が非常に大きいという弱点以外の弱点らしき弱点はない。非常に優秀なスキルであり、熟練度1000で取得できる《ジ・イクリプス》は驚異の27連撃。
所有条件は【最も反応速度の早いプレイヤー】。
・【抜刀術】
ユキノが所有するユニークスキル。【二刀流】と対になるユニークスキルである。
【二刀流】が連撃に特化したユニークスキルであるとするならば、【抜刀術】は単発攻撃に特化したユニークスキル。熟練度1000で取得する《
所有条件は【最大単発ダメージ値が最も大きいプレイヤー】。
・【神聖剣】
ヒースクリフが所有するユニークスキル。防御に特化したユニークスキルであり、プレイヤースキルの高い人間が持てばまさに無敵と化す。
防御用のソードスキルが多いが、熟練度1000で取得する《
所有条件は【茅場昌彦であること】。
・【暗黒剣】
ユウキが所有するユニークスキル。【神聖剣】の天敵とも言えるユニークスキル。
毒や麻痺といった状態異常などに加えて《武装透過》属性のソードスキルまで存在する。また、熟練度1000で取得する《
所有条件は不明。
・【無限槍】
サチが所有するユニークスキル。詳細不明。
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ユイ「というわけで、解説コーナーでした~」
八幡「【無限槍】雑すぎんだろ......それはともかく、五章《終焉へのカウントダウン》もよろしくな」
ユイ「ではでは!」