やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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テストが近いのでしばらく更新できないかもです。




四話 やはり彼は苦悩し続ける。

 

 

 

―――剣の丘。一言で言い表すならば、それだった。

 

 

短剣。長剣。片手剣。両手剣。ツヴァイハンダーに日本刀。捻れた剣に曲がった剣。槍もあれば斧もあり、あろうことか旗まである。

ありとあらゆる剣が、刀が、武器が、そこにはあった。地平線の果てまで、延々と武器で埋め尽くされている。

そして、そのどれもが血と錆にまみれ、大地に突き刺さっていた。

轟く雷鳴。上空には暗雲がたれこめ、ところどころオレンジ色の斜陽がさし込んでいる。

 

ふと見上げると、丘の頂上に双剣が突き刺さっているのが見えた。

―――白と黒の、陰陽剣。

 

 

 

 

 

......視点が変わる。

 

 

 

 

 

気付けば、目の前には男がいた。

 

何かを目の前にして立っている。目の前には、墓標のようにして突き刺さっている剣。

だが1つではない。白と黒の長剣。日本刀。細剣。短槍。戦鎚。戦斧。短剣。

 

強風に、樹が揺れる。周囲には鬱蒼と生い茂る樹木。

 

―――ぽたり、と。地面に染みが1つ生まれた。男はフードを被ったまま、空を見上げる。雨だった。

 

 

―――紅い、雨だった。

 

 

 

 

 

......視点が変わる。

 

 

 

 

 

男が、嗤っていた。

 

黒に埋め尽くされた大地。だがよく見れば、その黒はどす黒い赤だった。乾いた血だった。

大地には無数の人間が横たわっていた。

 

黒い髪の少年。

茶色の長髪の少女。

長い黒髪の少女。

黒い短髪の少女。

ピンク色の髪の少女。

バンダナをした男。

スキンヘッドの黒人。

 

他にも数えきれぬほどの人間が。

 

 

そして、その向こうでは男が嗤っていた。血濡れの双剣を持ち、哄笑をあげる。弾みにフードが外れた。顔が露になる。

 

 

 

 

 

 

俺だった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「............」

 

「落ち着きました?」

 

 

目を開くと、こちらを覗きこむ少女。数秒後に焦点があうと、それがユイだということがようやくわかった。

 

 

「兄さん、かなりうなされてましたよ」

 

「......すまん」

 

 

上体を起こすと、俺は周りを見回した。どうやらソファで寝てしまっていたらしい。悪夢を見てしまったせいか、寝覚めは最悪だった。

俺はそのままふらふらと起き上がると、洗面所へと歩いていく。そして胃のムカつきをおさめるために水を一杯煽るが―――それがいけなかった。

 

 

―――無数の屍。乾いた血。そして、嗤う俺。

 

「がっ!?......がはっ、げぇ......」

 

 

思わず吐いた。水を洗面台に吐き、それでも収まらない吐き気。胃液など存在しない仮想体(アバター)では、吐き気だけが連続して襲ってくる。

 

ひゅー、ひゅーと間抜けな呼吸音を漏らしながら、俺は鏡を覗きこんだ。

 

 

「......はは、ひでぇ顔」

 

 

ひきつった笑いを浮かべ―――俺は、もう一度吐いた。

 

 

 

 

 

......十分後、ようやく吐き気が収まった俺は、再びリビングのソファに座りこんだ。ユイがこちらの顔を覗きこんでくる。

 

 

「......兄さん、大丈夫ですか」

 

「ん......今は、多分。シリカは?」

 

「シリカは買い物に行ってます。今日は朝食無しで?」

 

「そうしてくれ」

 

 

俺は溜め息を吐きながらそう答えた。今は、何かを食べる気分じゃない。

 

とたた、と足音を立てながら、ユイはキッチンに向かっていく。シリカとユイ自身の朝食を作るつもりなのだろう。

......窓から差し込む光。それに手を透かしてみる。

 

―――47。それが、俺が今まで殺した数だ。

 

は、と俺は自嘲の笑みを浮かべた。おそらく、俺はこの世界で誰よりも人を殺している。いや、PoHがどれほど殺しているかはわからないが、同じようなものだ。

殺人鬼を狩るものが殺人鬼になる。ミイラ取りがミイラになる、というのとは少し違うか。......大量殺人者(クズ)という点では、俺も奴等も同じ穴の狢だ。

 

だが、50近くも殺したというのに、いまだにラフコフの構成員は30人近くもいる。PoHのカリスマ性が余程高いか、それとも。

 

 

「............」

 

 

殺人、というものは凄まじいストレスだ。

別に殺すこと自体はさして難しくなかった。少なくとも、俺は。血も出ないし罪悪感も湧きにくい。ただ感情を凍らせて、作業的に処理する。ただそれだけのことだ。

 

問題は、その後だった。

自分が殺したのは、果たして本当にクズだったのか。これが正しいのか、間違っているのか。これ以上殺す意味などないのではないか。

答えのない問いばかりが頭を回り続け、時には悪夢すら見る。ぼっち故の思考の速さが仇となっていた。人を殺し続けてわかったことだが、おそらく殺人の才能というモノは、いかに思考停止できるかなのだと思う。

敵の立場など考えてはいけない。可及的速やかに、圧倒的な偏見をもって殺す。そして、忘れる。それができなければ精神的に壊れてしまうか、人格が変貌してしまうに違いない。

 

―――今日の悪夢で見たアレは、このまま行けばああなる、という無意識下の警告なのではないか。

 

そんな思考をしながら、俺は透かした手を見つめる。その手が一瞬、血にまみれているように見えたのは果たして幻視なのか。

 

 

「......駄目だ、くそ。今更なに言ってんだ」

 

 

ぎり、と拳を握る。ふざけるなよ、比企谷八幡。お前はもう躊躇わないと決めたんだ。もうここまで来たんだ。こんな所で立ち止まれるわけがない。一人や二人ならまだ戻れた。引き返せた。だが、47人も殺したのだ。もう、引き返せない。止まれない。止まることなど許されない。

 

―――PoHを殺し、ヒースクリフを殺すまでは。アスナとユキノを守り、救うまでは俺は戻れない。

 

やるかやらないかじゃない、やるしかないのだ。勝てば俺は救世主(メシア)だが、負ければ俺はただの殺人鬼(サイコ)

 

俺が進んできた道が間違ってないと肯定するためにも、奴等は殺さなければならない。

 

何かを守るためには、何かを捨てなければならない。それが俺だとしたら、安いものだ。俺を捨てて彼女達が救われるなら、儲けものに違いない。

 

―――だから。そんな哀れむような目で見るな、アスナ。

 

 

「............くそったれ」

 

 

詭弁と偽善と殺戮に満ちた道の果てに何があろうと―――俺は進むしか、なかった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ただいまです―――あ、ハチさん起きたんですか」

 

「ん、ああ......」

 

「お帰りなさい、シリカ。あ、パン焼いてますから」

 

「ありがとう、ユイちゃん......でも七味はいらないかな、うん」

 

「そうですか......」

 

 

どさどさと食べ物をストレージから出すシリカと、それを片っ端から収納していくユイ。俺の足元にころころと転がってきたトマト(的ななにか)をユイに手渡しつつ、俺はシリカに尋ねた。

 

 

「で、どうだった?」

 

「やっぱりキリトさん達は言い触らしてないようです。【ハーミット】についても情報統制してるみたいですね」

 

「......キリト達については予想通りだが、情報統制ねえ」

 

 

まあ、十中八九アルゴの仕業だろう。あいつは情報屋どもの中でも謎のカリスマ扱いされてたし。......キリトがアルゴに俺のことを話した可能性もあるが、情報統制を仕掛けてきているということはつまり―――

 

 

「こちらの動きを黙認してる、ってことか」

 

 

情報が流れるということは、すなわちパパラッチ的な輩も現れる可能性もあるしラフコフ連中の警戒を招くことにもなる。俺―――【ハーミット】がラフコフ狩りをすることは【攻略組】としてもメリットになるからこそ、情報統制という形で協力の姿勢を見せてきたということなのだろう。

 

 

「......攻略組に動きはなかったのか?」

 

「はい。......あ、59層が攻略されたというのは聞きました。ちなみにLAはキリトさんだそうです」

 

「だろうな」

 

 

さすがは黒の剣士、といったところだろう。あの戦いでも、一時的とはいえ四割も削られて驚いた。この防具は特殊効果よりとはいえそこそこ防具力も高いのだが。

......ユニークスキル【二刀流】に【神速】。完封できるかと思ったが、やはり公式チートなだけある。というか俺の【手裏剣術】だけ微妙すぎない?

 

 

「んなことないですよーう。兄さんの手裏剣術も大概チートです。というか兄さんの存在自体チートです。ま、攻略組のトップはレベル80に到達してますし差は段々埋められてますけど」

 

「だからお前はナチュラルに心読むなっつーの」

 

 

若干イラッとしたのでユイの頬をつまんで伸ばした。おお、やわこい。

「いひゃい、いひゃいれす」と抗議するユイ。そんな俺とユイを見て、シリカは苦笑した。

 

 

「......とりあえず、朝食にしませんか?」

 

シリカの羽織った外套のポケットから頭だけだしたピナが、きゅい!と同意するように鳴く。

 

 

「だな」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

尾行さ(つけら)れてないだろうな?」

 

「あ、その点は大丈夫だと思います。隠蔽使った後、読唇さ(読ま)れないようにして飛びましたから」

 

「お、おう」

 

 

俺はマッカンを飲みながら頷いた。二週間前までの純粋なシリカさんはどこかに行ってしまったようだ。というか適応力高くないか?

そんな事を考える俺の横ではちゃっちいドラゴンがガツガツピーナッツを食い散らかし、そのドラゴンの正面ではトーストに七味とタバスコをかけたわけわからん物質をもっさもっさて食べるユイ。俺の正面かつユイの左隣にいるシリカは、チーズを乗っけたトーストをむぐむぐやったあと飲み込んだ。

 

 

「......それにしても、髪と瞳の色を変えるだけでわからないものなんですね。全く気付かれた様子もありませんでしたし」

 

 

そんなことを呟く今のシリカの髪は、白のロングだった。ついでに瞳の色を赤くしているため、ぱっと見でシリカだと判断するのはなかなか難しいに違いない。もはや別人だった。

 

 

「まあ、人間は主に色とかで判断してるしな」

 

 

人間というのは、インパクトのあるものに引きずられやすい。白髪ロングロリと、茶髪でピナを連れていたシリカでは全く印象が違う。アレだ、イメチェンして地元から放れた高校で高校デビューをはたす!というのも似たようなものである。......うん、多分違うな。

 

ふと、シリカが何故俺達についてきているのかと考える。それは―――

 

 

「......強くなりたい、か」

 

 

二週間前に、俺がアイゼンナッハという圏外村にあるこの家に連れてこられて一通りユイと話し合った後。目覚めたシリカは開口一番に『私も連れていってください』と言ったのだ。

なんでも、理由は『強くなりたいから』とのこと。

 

思わず笑ってしまうほど単純で、純粋な願いだが、それはある種の原点でもある願いだった。

 

強くなりたい。力が欲しい。

相手を上回れる力が。

自分を守れる力が。

相手から奪う力が。

仲間を守れる力が。

 

ありとあらゆる欲望の原点。ただ、純粋な『強さ』を求める願い。

 

 

「......『強さ』、ねえ」

 

 

『強さ』。肉体的な強さ。精神的な強さ。権力的な強さ。たった一言の中に無数の意味を内包する言葉だ。そこに定義などない。なにが基準かなどわからない。

俺が持つこの異常な『力』が、果たして『強さ』なのかも。

 

 

「どうしました、ハチさん?」

 

「......や、なんでもない。後で短剣の使い方教えてやるから、2階に来い」

 

「あ、はい、わかりました!」

 

 

シリカが何を感じて『強さ』を求めたのかは知らないが、彼女が様々な面で役立っている以上、俺が彼女に色々と教えるのは義務でもある。

そんな言い訳じみたことを考えながら、俺は階段を登っていくのだった。

 

 

 

―――この日から丁度一週間後。攻略組によって【ラフィン・コフィン討伐作戦】が決行されることになる。





最近、感想にBADつけて遊んでる人がいますけど、やめて欲しいですね。

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