やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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確かに色々アレだな、ということで変更しました。では。



三話 そして彼らは激突する。

 

 

 

 

「―――ハチマン」

 

 

じゃり、とキリトのブーツが地面を踏む。

 

 

「聞きたいことが沢山あるんだ。だから―――」

 

「おとなしく捕まりなさい。言っとくけど、私もキリトくんも強くなったんだから」

 

 

す、とアスナがレイピアを構える。

 

 

「......まさかお前らがいるなんてな」

 

 

そう言いつつ、俺は瞬時に戦力差を計算する。

―――俺の敏捷値ならば、離脱は可能。だが《索敵》を持つキリトがいるなら少々厄介だ。おそらくキリトの《索敵》の熟練度はカンスト済み、ならばカンスト済みの《隠蔽》を使ったとしても十中八九看破される。《追跡》を使われたら地の果てまで追ってきかねない。

......しまった、想像以上に厄介なことになった。せめて素顔が見えなきゃよかったが、こうなったらどうしようもない。というか、どうやって俺の所在を掴んだのやら。......あの情報屋だろうか。

まったく、情報屋って奴等はこぞって顧客のことを売りやがる―――

 

 

「......ハチマン。なんで殺した」

 

「なに言ってるんだ、キリト」

 

 

俺はわざと頬を吊り上げる。くそったれ、こうなったらなるようになれだ。徹底的に煽って冷静な思考をさせず、各個撃破して麻痺毒かなんかぶっかけて離脱するしかない。

 

 

「―――そこにいるのは殺人者(レッドプレイヤー)だぞ?」

 

「だからと言って、殺す必要はないだろ!?黒鉄宮に......」

 

「だからお前は甘いんだよ、キリト」

 

 

は、と俺は笑ってみせながらポーチを探る。

 

「もし―――もし現実に帰還したとき、そこの殺人者(レッドプレイヤー)が罪に問われると思うか?」

 

 

煽れもっと煽れ。これは手品と同じだ。冷静な思考を奪い、視線を外してタネを仕掛ける。―――あった、麻痺毒のビン。転移結晶もと思ったが、よく考えたら今の俺はオレンジだった。内心で舌打ちしつつ、話を続ける。

 

 

「答えは否だ。『極限状況下で正常な判断ができなかった』と言えば済む話だからな。十中八九無罪放免に決まっている。すべての罪は茅場晶彦に帰着する」

 

 

最悪なのは仲間を呼ばれること。それだけは避け、どうにか一対一、もしくは一対二に引きずりこむ。

 

 

「なら―――誰が裁く?誰もやらないなら、俺がやろう。俺が裁こう。俺が殺そう。目には目を、歯には歯を、そして悪には悪を」

 

 

さあ、こいキリト。俺はお前のその甘い心を、正義を信じる純粋な子供の心を知っている。お前は唇を噛むような挫折を、心を折られるような屈辱を、どうしようもない現実の非情さを知らない。だからこそ、純粋でいられる。

 

 

「俺はこれを『正義』だと言い張るつもりはない。むしろ『悪』だと言おう。命を奪う行為は等しく悪だ。―――だから、そいつをこちらに渡せ。可及的速やかに、この世から退場させてやろう」

 

「間違ってる―――それは間違ってるッッ!」

 

 

激情に燃えるキリトの瞳。それを見つめかえしながら、俺は満足していた。これならいけるだろう。―――だが、何故。アスナ、お前は何故―――

 

 

「なら来い。ここは剣がモノを言う世界だ。俺が間違っていると言うのなら、俺を力で捩じ伏せてみろ―――キリト!」

 

 

―――そんな哀しそうな眼で、俺を見るんだ?

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ちッ......」

 

 

ハチマンは舌打ちした。ギィン、と白刀が黒剣を弾く。返す黒刀と白刀が乱舞する。

 

一方、キリトは戦慄していた。恐ろしい程に速く、重い。さらに手数まで多いのだ。明らかに自分とは一つ次元の違う強さだった。

跳ね上げる白刀の角度が。振るわれる双刀のタイミングが。絶え間なく続く連撃の速度が。その全てが緻密に計算されている。おそらく、自分一人ならば数十秒で決着がついていただろう。だが―――

 

 

「く―――!?」

 

 

連撃の隙間を縫うようにして放たれるレイピア。空間を貫きながら侵食していく、《ピアッシング・ペネトレイター》の連続する光輝。だがハチマンは尋常でない双刀捌きでそれを全て弾いていく。

 

その様子に薄ら寒いモノを感じながらも、キリトはアスナの援護に感謝した。かつてのパートナーとの即席コンビだが、神業的なコンビネーションは健在だ。―――それを全て的確に防ぐハチマンもハチマンだが。というより、ここまで隔絶した差が存在していただろうか。

 

 

「......」

 

 

分が悪いと判断したのか、ハチマンは地面を蹴って後方へと退避。同時に双剣を投擲。凄まじい速さで迫る双剣をギリギリで弾く、が―――

 

 

「しまっ、」

 

 

キリトは驚愕に目を見開く。すでに、ハチマンの指には六本のナイフが握られていた。さらに一本一本に麻痺毒が塗られているのか、薄黄色に染まっている。―――駄目だ、間に合わない。剣を返すには遅すぎる。

そして、目にも止まらぬ速度でナイフが放たれ―――

 

 

「―――《神経加速(タキオン)》」

 

 

その全てを、一本のレイピアが叩き落とした。

 

 

「なっ」

 

 

ハチマンは驚愕に顔を歪めながらも再度投擲。だがそれも全て叩き落とされる。寒気すらするほど正確な刺突。

 

 

「......準備して、キリトくん。十秒なら、時間を稼いであげるから」

 

 

そう言い放つアスナの瞳は、金色の光輝を放ちながら輝いていた。さらにアスナは詠唱する。

 

 

「《固有時加速(タイムオルター)―――三倍速(トリプルアクセル)》ッ!」

 

 

明らかに剣速が跳ね上がり、金色の光を纏う細剣(レイピア)は神速へと至る。三倍にまで跳ね上げられた敏捷力(AGI)―――それは、一時的にアスナをハチマンと同格にする。

 

 

「聞いたことないな―――ユニークスキルか!」

 

 

ブーメランの如く戻ってきた双剣を構え、ハチマンは神速の剣撃を迎えうつ。僅か一秒間の間に交わされる斬撃の数は二十を越えていた。

―――もはや、人の領域の戦闘ではない。そう考えながら、キリトは一本の剣をストレージから取り出す。

 

 

「はああああああッッ!!!」

 

 

レベル100とレベル70という、30にも及ぶレベルの差は、三倍に跳ね上げた敏捷値で。

二人のハチマンを合計した、四年間という膨大な戦闘経験の差は、加速した思考で。

 

ユニークスキルの力によって、アスナはハチマンと同じ領域にまで登りつめる。

 

 

「厄介な......!」

 

 

ハチマンは上下左右から無数の斬撃を双剣で叩きこむが、アスナはその全てをレイピアで凌いでいく。それどころか剣撃の応酬の隙間を縫って、ハチマンの腕を斬りつけてくる始末だ。視認不可能な速度の刺突が《偽善者》の側面を削り、火花を散らした。

 

―――「突く」ことに特化したレイピアは、防ぐことが困難な武器でもある。両手剣などは斬撃線上に障害物を置けばすむが、レイピアは刺突―――すなわち点である。そして神速に至った刺突は、もはや弾丸に等しい。秒間十二を越える速度で放たれる刺突は、着実にハチマンにダメージを与えていく。

 

 

「ぐ、ぅ―――!?」

 

 

そして加速した状態で放たれる《ピアッシング・ペネトレイター》。ソードスキルの恩恵によりさらに加速する剣速。十一の音速を越えた刺突がハチマンの肩や腕を貫いていく。

 

「―――くっ」

 

 

―――だが、ついにアスナのレイピアから、金色の光が失せる。《三倍速(トリプルアクセル)》までになると、10秒しか効力はないのだ。

 

十秒間のみの超絶強化。それが終了した今、アスナはハチマンの敵にはなりえない。

十一連撃を凌ぎきり、勝利を確信したハチマンはレイピアを叩き落とす。だが、アスナはふっと笑った。

 

 

「今よ、キリトくん―――」

 

「おおぉぉぉおオオオオッッッ!!!」

 

「な、に―――!?」

 

 

―――二刀流上位剣技《スターバースト・ストリーム》。

 

アスナに続く二度目の驚愕。ハチマンは慌てて双剣を引き戻したが、徐々に押されていく。

 

一撃目。引き戻した黒刀で打ち払う。続く二撃目は白刀で叩き落とし、三撃目は黒刀で剃らし、四撃目を返す白刀で受け止める。

 

 

「ふっ―――」

 

 

五撃目を黒刀で斜めに弾き、六撃目は白刀の背を利用して凌ぎ、七撃目を黒刀でかち上げる。八撃目は防ぎきれず頬をかすり、九撃目が髪を切り飛ばし、十撃目を白刀の柄で剃らす。

 

―――だが、終わらない。

 

 

「ぐ―――」

 

 

十一、十二、十三でハチマンは肩を斬りさかれる。十四で黒刀を叩き落とされ、十五で白刀を弾き飛ばされる。そして―――

 

 

「らぁぁぁぁあああアアアアアッッ!!!!」

 

「お、おぉおおああああアアアッッ!!!!」

 

 

恒星のプロミネンスのごとき剣閃。《スターバースト・ストリーム》の十六連撃、その最後の剣撃。

そして、下段から切り返す黒い《求道者》がそれを受け止め―――

 

 

「なっ!?」

 

「ッッ!?」

 

 

 

―――爆発とともに、煙が場を覆いつくした。

 

 

 

突然溢れだした大量の煙。複数箇所から溢れだした煙は、瞬く間に川辺を覆いつくした。

 

「げほ、うぇっぷ......なんだこれ―――ってうわ!?」

 

 

いきなり誰かに手を握られたハチマンはすっとんきょうな声をあげる。すると、人影はイラついたようにハチマンの膝裏を蹴りつけた。思わず呻く。

 

 

「転移―――アイゼンナッハ」

 

 

人影呟くと同時に青い光が舞い―――ハチマン達は、忽然と姿を消すのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「いっつ......って、ここ何処よ?」

 

 

俺は足をさすりつつ、周りを見回した。―――見たことのない街だ。

すると、謎のローブがローブを抱えて走っていくのが見える。マトリョーシカかよ。

 

 

「おい、待てよ―――」

 

 

だが俺をここに連れてきた謎ローブは、とある一軒家に飛び込んだ。俺は少し躊躇いつつも、続いて一軒家の中に入る。

 

 

「......?」

 

 

謎のデジャヴ。何処かで見たことのあるような内装。そう、これは―――

 

 

「ええ。貴方の家です」

 

 

右を向くと、抱えたローブ―――気を失ったシリカをベッドに横たえる謎ローブ。そしてそのローブはこちらを振り向き、フードを外した。

俺は驚愕に息を飲む。何故、お前が―――

 

 

「お久しぶりです―――兄さん」

 

 

ポンコツAI辛党少女、ユイ。そこでは彼女が微笑んでいた。





色々感想を貰いましたが、もう開き直ります。好き放題やりますはい。もうここまで来ちゃったし?とりあえず完結目指して突き進む所存です。かなり批判食らうだろうことはわかってますし、面白くないだろうことも自覚しています。けど今から投稿し直すのもなあ、ということで。

では。

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