やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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二話 そして彼らは対峙する。

 

―――自分でも、馬鹿やってることは知っている。

 

ひゅんひゅん、と左手一本で黒剣を回転させたり逆手に持ったり弄びながら、そんな事を考える。

 

アイツとの約束。それを守るため俺が選択した手段は、PKKだった。

まず、アイツとの約束は『ユキノとアスナを守ること』だ。そしてユキノが50層で死んだ、というのならユキノに関しては最も脅威度の高いモノは取り除いている―――と考えていい。

問題はアスナだ。アイツ曰く、あちらの世界ではアスナはPoHと呼ばれる殺人者(レッドプレイヤー)に殺されたということだった。

―――色々調べてみたものの、俺がいない間に《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》というPKギルドが結成され、そこのリーダーがPoHらしかった。

―――殺人者(レッドプレイヤー)。こんなギルドを見逃すほど攻略組は腐ってはいないはずだ。つまり、このままではそう遠くない未来に《攻略組》と《ラフコフ》は激突する。

 

そしてそれは、ユキノやアスナの戦死確率が高まること他ならない。

それは避けなければいけなかった。攻略組にいる以上は常に危険なのはわかっている。だが無用な危険は避けるべきなのだ。誰かが、《ラフコフ》を潰さなければならない。

 

最適解は1つ。最も信用でき、こちらの世界で最も強く、そして―――例え死んでも気づかれず、単独行動が可能。

 

 

つまり、俺だ。

 

 

......こちらの世界で【心意】は使えない。すでに試したが、【心意】システムが有効化(アクティベート)されていないようだ。まあ、あちらの世界でも95層から使えるようになったらしいし、これには納得した。

 

だが、【心意】は使えなくなっても、俺のカンストしたレベル、つまり100に達したレベルはそのままだった。

 

 

―――――――――

 

・Hachiman

・Level 100

 

・Skill

 

《片手直剣》1000

《投剣》 1000

《索敵》 1000

《隠蔽》 1000

《料理》 1000

《体術》 1000

《疾走》 1000

《武器防御》 943

《戦闘時回復》1000

《軽業》 1000

《簡易修理》 574

《短剣》 1000

《軽金属装備》976

《手裏剣術》 1000

 

 

・Equipment

 

隠者のローブ

隠者の仮面

穢れた聖骸布

玄豹王の黒革鎧

灰色のジーンズ

玄豹王のブーツ

 

 

―――――――――

 

 

初期スロット3に加えてレベルボーナスの10、そしてユニークスキル限定枠の1。合計14個のスキルスロットに割り当てられたスキルの熟練度は、ほぼカンストしている。装備に関してもあちらでユウキに貰った装備をいくつか身に付けているため、なかなか強い。

さらにレベル100の体力、筋力、敏捷値。加えてアイツから受け継いだ膨大な戦闘経験まであるのだ。ちょっとしたチートである。

 

 

「......一度、死んだしな」

 

 

おそらく俺の死を見たプレイヤーは何人もいるだろう。つまり、攻略組に俺が戻れば凄まじい混乱を招くに違いない。―――都合が良かった。「一度死んだ」俺はすでに死人として扱われている。

ならば、単独行動しようがどうしようが問題ない。姿さえ隠せば大丈夫だろう。

 

 

左手で操っている黒剣は、空中で回転しながらテーブル上のランプの火を反射し、鈍く光る。―――《求道者(Truth seeker)》。それがこの黒剣の名前だ。白剣の名前は《偽善者(Hypocrite)》。初めて見たときは、あまりにも俺らしくて笑ってしまった。

【心意】が使えなくなったせいか餞別なのか、あの白黒の陰陽剣は正式な武器として俺のアイテムストレージに放り込まれていたのだ。

 

ありもしない本物を求める《求道者》にして、殺人者を殺す《偽善者》。本当に、俺らしい。

 

 

「......凄い」

 

 

ぽつり、とシリカが呟く。俺はそれを聞いて、思考の海から現実へと帰還する。

 

 

「それ、何処で覚えたんですか?」

 

「ん......ああ」

 

 

一瞬、「それ」というのが何をさしているのかわからなかった。おそらく、左手で回転させたりしている黒剣のことだろう。

 

 

「最初は少し教わって、あとは独学だな。『俺』が磨きあげた剣だ」

 

 

もはや自身の体の一部のように染み付いてしまっている。が、違和感はない。あの時逆流してきた記憶は、『俺』であると同時に比企谷八幡のモノなのだから。

そう答えると、シリカはほう、と息を吐いた。

 

 

「......強いんですね、オクタさん」

 

「ああ、多分な」

 

 

オクタ。Θ(オクタ)。それが俺の名乗った偽名だ。別に深い意味はなく、ただ八番目を表すギリシャ文字からとっただけである。馬鹿正直に名前を名乗る必要はない。そして、本来この少女と行動を共にする必要もないのだが―――

 

 

「それで、その《思い出の丘》って......難しいんですか?」

 

「47層だから、そこそこだろうな。レベルが60もありゃソロでもいけるだろうが......」

 

俺が見ると、シリカはふるふると首を横に振る。

 

―――そう、俺はなぜか47層の《思い出の丘》にまで行かなければならなくなっていた。

まあ色々あったのだが、要約すれば、このシリカというプレイヤーはビーストテイマーだったのだがその使い魔が死んでしまった、だから生き返らせるためにプネウマの花を取りに行かなければならない。だがプネウマの花がある《思い出の丘》は47層にある、かといって悠長にレベル上げをしていれば《ピナの心》というアイテムが《ピナの形見》になってしまう。だから俺にパーティー組んでくれないか?と頼まれてここまで来てしまったというわけだった。

 

......正直、メリットは皆無に等しい。47層に行けば《攻略組》に見つかる可能性も高まるし、あと41人のラフコフメンバーを狩らねばならないのだから時間は有限ではない。唯一のメリットと言えば、俺の精神衛生上の問題だけである。

 

 

「......ごめんなさい。こんなことに付き合わせてしまって。オクタさんって強いし、《攻略組》なんでしょう?」

 

「いや、まあ、別にいい。というかガキ一匹でレベルも足りないのにダンジョンに挑む、ってのを見逃すほうが人道的にアレだろ」

 

 

俺はそう言って、溜め息を吐いた。年下に甘い自分が本当に嫌になる。おそらく、森で助けてしまった時点でこうなるのは確定だったのだろうが。

 

そう考えていると、シリカはむーっと膨れた。

 

 

「ガキじゃありません!」

 

「じゃあ何歳なんだよ」

 

「13歳です」

 

「......つまり、SAOに入った時点だと小学生だろーが。このゲーム年齢制限あったよな?」

 

 

小学生(ガキ)じゃねえか。

 

そう俺が言うと、シリカは全力で目線を逸らす。確かSAOって14歳以上とか言ってなかったっけ?

 

俺は溜め息を吐きつつも、チーズケーキを口に運ぶ。シリカに勧められて注文してみたが、なかなかに美味い。基本自分で料理するスタイルな俺だが、このような菓子の類は作れない。久しぶりに食べる甘味だった。......まあ、俺も料理なんて基本、ラーメンしか作れないんだが。

 

 

「ま、ガキはちゃっちゃと寝ろ。明日《思い出の丘》に行くぞ」

 

「わぷっ」

 

 

チーズケーキを食べ終えた俺はテーブルから立ち上がると、シリカの頭をわしゃわしゃと撫でる。目を白黒させるシリカにむかって、俺は言った。

 

 

「ピナ。生き返らせるんだろ?」

 

「―――はいっ!」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

―――47層。俺が嫌いな層の1つである。なぜなら―――

 

 

「リア充爆発しろ」

 

「なにか言いました?」

 

「......なんでもない」

 

 

俺は仮面の奥でうげぇ、と顔をしかめる。ちなみにこの仮面に関しては外に出るときには必ず着けるようにしている。シリカには不思議そうな顔をされたが、「目を隠すため」と言うと納得された。いや、納得しちゃうのかよ。

47層は別名リア充の巣窟、ではなくフラワーガーデンと呼ばれるくらい花だらけな層だ。ハナハナハナハナしててもはやロビンとかいそうなレベル。そういや最近、というかここ一年近くワンピース読んでないけど、結局ギア4はどうなったのやら。

 

そんな事を考えたり、花に群がる蜜蜂(リア充)どもに殺虫剤かけたいなーとか考えていると。

 

 

「―――ッ、シリカ、行くぞ」

 

「え、あ、はい」

 

 

俺はシリカに声をかけ、人混みに紛れるようにして足早に47層主街区《フローリア》のメインストリートを進む。

 

 

「......どうしたんですか?オクタさん」

 

「いや、少し顔をあわせたくない知り合いがいてな」

 

 

―――あの特徴的な白と赤の制服。間違いない、《血盟騎士団》だ。そして......

 

顔をあわせたら不味い、と俺は主街区を抜けて外に出る。こちらもハナハナしている。

 

 

「......なんでここにいるんだ、アスナ」

 

「オクタさん......?」

 

 

眉をひそめて、シリカが顔を覗きこんでくる。俺はとりあえずここを離れるのが先決だ、と考えて。

 

 

「―――ちょい手荒に行くぞ」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

 

ひょい、とシリカを小脇に抱える。端から見たら拉致だが、幸い今は誰もいない。そして俺は―――

 

 

「揺れるから掴まっとけよ」

 

「掴むもなにも抱えてるじゃないですか......て、ちょっと待って、まさか」

 

「―――大丈夫だ、問題ない」

 

「みぎゃああああああああ!?」

 

 

そう返して、俺は街道を爆走し始めるのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ひ、酷いです......うえっぷ」

 

 

シリカがげっそりした表情で地面にへたりこむ。俺は悪いことしたかもなーと思いつつシリカを見下ろした。

......若干死んだ目に、凄まじいスピードで爆走したせいか少し乱れた服。小柄なのもあって、犯罪臭が凄まじい。

 

 

「......あ、おい。多分あそこにあるぞ、プネなんとかの花」

 

「無視ですか」

 

 

若干シリカが睨んでくるが、俺は周囲を警戒するふりをしつつ目線を逸らした。いや、まあ、ね?途中フシギバナみたいなのとかモルボルもどきを蹴っ飛ばしたりしたせいでかなり揺れたからなあ......なまじ吐けないぶん、この世界で酔うのは最悪だ。まあ普通はまず酔わないんだけど。

 

そんなこんなでシリカ復帰を待つこと五分。

 

 

「......あれ、ないですよ!?」

 

「んなわきゃねーだろ......ほら、見ろ」

 

 

復帰したシリカが丘の頂上にある白い岩に近付くと、するすると蔦が伸び、美しい白い花が開いていく。

 

息を飲むシリカを小突き、俺はプネウマの花を取ってくるよう催促した。

 

 

「ほら、あれだろ」

 

「は、はい」

 

 

シリカが手で触れると、茎が砕けちる。そして白い花だけがシリカの手に残った。―――ネームウィンドウが開く。《プネウマの花》。

 

 

「これで......ピナを生き返らせれるんですね」

 

「多分な。その中にある雫をあの羽根にかければ生き返る......が、生き返って早々にMobに食われるのもアホらしいからな。主街区に帰ってからにしろ」

 

「はい!」

 

 

シリカがストレージに花を格納するのを見届け、俺は丘を下り始める。......いや、帰りも抱えて突っ走るのもいいんだけど、さすがにマジギレされそうだし。

とたたたた、と後ろからついてくる足音を聞きながら、俺は丘の景色を楽しむようにして下っていった。

 

 

 

 

―――幸いかどうかは知らないが、帰りはMobとほとんど遭遇しなかった。だが丘の麓、小川にかかる橋にさしかかったときだった。

 

「―――ふっ」

 

 

右手に三本、左手に三本のナイフつかんで木立に向けて投擲する。けたたましい金属音を響かせてナイフが弾かれた。

 

 

「へえ......何も言わずに攻撃するだなんて、コワイ人だね、仮面のお兄さん」

 

「待ち伏せするような奴がマトモなわけねえからな。臆病なんだよ―――」

 

 

そこまで言って俺は抜刀する。

 

 

「―――だから、そこをどけよ殺人者(レッドプレイヤー)

 

 

す、と赤髪の女は目を細めた。

 

 

「ふぅん......知ってるんだ」

 

「ラフコフの下位ギルド《巨人の手(タイタンズハンド)》リーダー、ロザリアだろ」

 

「アタシらを捕まえにきたってわけ?」

 

「わかってるなら話が早いな、殺人犯」

 

 

馬鹿みたい、とロザリアは吐き捨てる。

 

 

「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解らないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」

 

「―――そうだな」

 

 

俺は状況についていけてないシリカに「下がっとけ」とだけ囁き、す、と前に出る。

 

 

「正義とか法律とか、そんな下らないモノはどうでもいい。だがただひとつ、お前に言っておきたいことがある」

 

 

俺は仮面の奥で、嗤った。

 

 

「―――人を殺していいのは、人に殺される覚悟がある奴だけだぞ?」

 

 

そう言うと同時にとん、と地面を蹴る。《軽業》の効果と馬鹿みたいに高い敏捷値によって、一瞬で最高速度に達する。

 

 

「......な、」

 

「ああ、お前らを捕まえる、と言ったな―――」

 

 

瞬時に木立に移動した俺は、《偽善者》と《求道者》を振るい、四人のプレイヤーの首を撥ねる。

 

 

「あれは嘘だ」

 

 

さらにステップを刻みながら、残る六人の頸動脈を切り裂いた。

 

 

「な、あ、あんた......!?」

 

 

愕然としながらロザリアがこちらを見る。同時にシリカが真っ青になりながらこちらを見ているのが視界に入ったが、俺は目線を外した。

 

 

「どうした?同じ殺人者だ、仲良くしようぜ」

 

 

わざと陽気に嗤いつつ、俺は爆散するポリゴンの嵐の中を歩く。

......これが『俺』と俺の違いだ。俺は、殺人者ならば容赦なく殺そう。裁く者がいないこの世界で、俺は殺人者を殺す殺人者となろう。別に俺はこれが『正義』だと言い張るつもりはない。ただ、『俺』と俺自身のエゴのためだ。ただの偽善だ。

 

そして、PoHを殺す。ヒースクリフを殺す。アラヤを殺す。有り得ないほど強くなったこの仮想の体(アバター)で。

 

 

「ひ、ひいっ!?て、転移―――」

 

 

ロザリアが転移結晶を取り出す。だが、

 

 

「―――させると思うか?」

 

 

俺は瞬時にロザリアの前へ移動し、転移結晶を持つ手首を切り落とした。

 

ぴこん、と俺のカラーがグリーンからオレンジへと変わる。だが、もうどうでもよかった。

 

 

「さ、殺人鬼ッ......!」

 

 

ロザリアが震えながらへたりこむ。その瞳は、恐怖に染まっていた。

 

 

「《殺人鬼》、か。なかなか的を射ているな」

 

 

殺人者(レッドプレイヤー)殺しの殺人者(レッドプレイヤー)。故に―――殺人鬼(クリムゾンプレイヤー)

 

なかなか良いネーミングだと思いながらも、俺は《偽善者》を振り上げる。そして、ロザリアの首を―――

 

 

「―――駄目ですッ!」

 

「ッ!?」

 

 

ガキィ、と短剣が白剣を防ぐ。見れば、シリカが震えながらも俺の剣を受け止めていた。

 

「............」

 

 

一瞬、シリカの目と俺の目が交錯する。だが、俺はシリカの短剣を弾き飛ばした。

 

 

「あっ―――」

 

 

からん、と短剣が地面に転がり、シリカは地面に座り込む。そして俺は、今度こそロザリアの首を―――

 

 

「う、おおおあああああッッ!!!」

 

 

撥ねられなかった。

 

横合いから割り込む黒い影。ガキィ!と白刀と黒い片手剣が火花を散らして激突する。予想外に強い力。俺は黒刀で押し戻そうとするが―――

 

 

「はぁッ!!!」

 

 

白い光輝が横合いから放たれ、俺の仮面をかする。びき、と仮面に亀裂が入るのを感じながら、俺は飛び退いた。

 

 

「はっ、そういうことかよ......」

 

 

俺は苦笑しながら二人を睨む。ばきばきと仮面が砕け、ポリゴンとなって消える。

 

そこにいたのは―――

 

 

「久しぶりだな、ハチマン」

 

「久しぶりね―――ハチマンくん」

 

 

黒の剣士(キリト)閃光(アスナ)が、俺の前に立っていたのだった。

 


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