やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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三話 そして彼は辿り着く。

 

 

 

 

「いける?」

 

「ああ」

 

 

【心意】を足に纏い、地面をイメージして空中を蹴る。圧倒的な加速感。そのまますれ違いざまに鷹のようなMobを黒剣で切り捨て着地。

 

 

「―――フッ」

 

 

さらに白剣を投擲し、暗示する必要すらなく即座に白剣を再度【投影】する。角の生えたオークの斧の一撃を双剣で受け止め、【心意】で操作した白剣でオークを背後から心臓を貫く。

同時に俺の背後に殺気。叩きつけられる刀の一撃を黒剣で防ぎ、カタカタと嗤うしゃれこうべを【心意】で強化して蹴りとばす。蹴りつけながら投擲した黒剣が頭蓋骨を割り砕いた。

 

さらに翼の生えた蛇が横合いから飛びかかってくる―――が、鋼の蛇がそれの頭を貫く。

 

「サンキュ」

 

「お前なら今のは軽く凌いでいただろうに」

 

俺が礼を言うと、ランは肩をすくめてひゅん、と右手を振るう。藍色の炎を薄く纏った蛇腹剣が金属音を立てながら片手剣へと戻る。

 

「全く、日に日に師に近づいていくな......戦い方からなにまで、師と瓜二つだ」

 

「しゃーねーだろ、俺もそいつも『ハチマン』なんだから」

 

「どうだか。......ユウキ、行くぞ」

 

 

ランがユウキに声をかける。見ると、一回転するようにユウキが放ったソードスキルが、3体のMobをポリゴン塊に変えたところだった。

 

 

「ん。あ、姉ちゃんドロップアイテムいる?」

 

「いらん、どうせろくなモノはないだろう」

「豚レバーあるよ?」

 

「いるか!」

 

 

ちぇー、とユウキが口を尖らせながら納剣する。俺が3体、ランが3体、ユウキが4体。やはりユウキの戦闘能力がトップか。

 

 

「......10体の混成Mob集団、ね。こりゃソロじゃ無理だわ」

 

「《魔王軍》らしいからな。集団で行動もするだろうさ」

 

 

しかも1体1体が洒落にならない強さ。AIの学習能力も高いし、【心意】を使って速攻で片付けなければ辛い。【心意】がなければ話にならない、というのも頷ける。

 

 

「《魔王》ヒースクリフ......か」

 

 

信じられない、という思いが大半を占めている。「他人のやるRPGを端から見るほど面白くないものはない」とはキリトの言らしいが、成る程。ヒースクリフ(茅場晶彦)は特等席からデスゲームを観戦していたというわけだ。

 

 

「よし、行こう。キリトとサチも98層に突入したみたい」

 

「ああ......」

 

 

俺は青い稲光を再度足に纏わせる。ここ三週間の成果だ。約五倍にまで引き上げられた機動力は、強力なMobが徘徊する迷宮区においては必須だ。

 

―――現在俺達がいるのは98層の迷宮区。なぜ俺達がここにいるか。それは、数時間前に届いたある知らせが原因だった―――

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「98層が、攻略されたぁ!?」

 

 

エギルの店の二階にユウキの声が響く。俺はラーメン(エギルの店の厨房を借りて作った)を啜りながらユウキに目を向けた。

 

 

「え、でも《黒猫団》と《聖竜連合》は下層にいるし、《軍》と《風林火山》は75層でしょ?じゃあ、誰が......」

 

「......フロアボスを一人で攻略するような可能性があるのは師くらいしかいない。しかも師は音信不通だ。現在地が特定できない」

 

 

苛立たしげにランがポップした(ウィンドウ)を閉じる。ユウキは誰かにメールを送っているのか、忙しそうに空中を指で叩いている。

 

 

「......ダメ。キリト達は黒鉄宮から地上に侵入してきたボスと戦ってるし、75層は死霊術師(ネクロマンサー)に使役されてるリーパーが暴れてる。つまり、今手が空いてるのは」

 

「50層を担当する私達だけ、か」

 

 

よくわからんが、深刻な話をしているようだった。俺はラーメンの汁を飲み干していく。美味い。

ランはこちらに目をちらりと向けて、ユウキに言った。

 

 

「......エギルさんにはここを任せるとして、こいつは使い物になるのか?」

 

「結構イイ線いってるよ。多分、近接戦じゃボクと同じくらいかな」

 

「ほう......」

 

 

感嘆と驚愕、そして何処か納得したような視線をこちらに向けられる。よくわからないが、とりあえずラーメンは完食。ごっつぁんでした。

 

 

「よし―――じゃあ、三人で99層まで行くぞ。目的は師の探索と99層の情報収集だ」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「......というかなんでいちいち迷宮区登る必要があるんだ?」

 

「しょーがないよ、95層以降は転移門が無いし」

 

 

俺は愚痴をこぼしつつ、98層のボス部屋の扉を開く。フロアボスがいたであろう空間には何もなく、ただ抉れた地面が激闘を物語っていた。

 

 

「......」

 

 

地面に刻まれたブーツの跡の横に、今自分が履いているブーツを踏み込んで足跡を刻む。―――同じだ。

 

 

「どうした?」

 

「......いや、なんでもない」

 

 

ランにそう返しつつ、俺は99層に至る階段に足を踏み入れた。―――ここにいたフロアボスを一人で倒したのが本当に俺なのだとしたら、目的がわからない。リスクとリターンがまるでつりあっていない。

 

―――まあ、不可解と言うなら今の状況全てが不可解だ。俺自身に会ってみる他ない。

 

そう思考しながら、俺は99層に踏み込んだ。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

―――99層に侵入してから、2時間が経過した。

 

 

「あっつぅ......」

 

「右に同じく、だ」

 

 

ユウキはうべーっとしており、ランもかなり憔悴していた。かくいう俺も頭からぷすぷす煙が上がっているだろう。多分カービィみたいな感じだ。

 

 

「......火山とか、悪辣すぎだろ」

 

 

マグマ、マグマ、マグマ、マグマ。周囲にはひたすら、マグマが冷えて固まった黒い岩石の陸地とマグマ溜まりが広がっていた。めちゃくちゃ暑い。俺は皮袋の水筒に入った水を飲み干した。

 

マグマの中から跳ねてきた赤いカエルを、ユウキが斬る。ついでに道を塞いでいたサラマンダーの頭を黒剣が貫いた。

 

 

「......不味いな。水がない」

 

 

ランが忌々しげに空の水筒を睨む。ユウキは約10分前に水を飲み干しており、先程俺のもなくなった。別に水が無くとも現実とは違って死ぬことはないだろうが、精神的にもたない。ユウキはすでにグロッキーになってるし。

 

 

「主街区に向かうか、それとも引き返すか......」

 

「引き返すにしても、もう水が足りないだろ。つっても何もねえけど......」

 

 

俺は周囲を見回して溜め息を吐く。やっぱりマグマしかない。煮えたぎるような熱気にさらされた肌がちりちりと疼く。所詮は電脳世界における錯覚なのだろうが、ここまで再現されているともはや現実と大差ない。このマグマに飛び込めば、容易く死ねるという事実も同じだ。ただ、死体が残らないか、それとも脳が沸騰した死体になるかの違いしかない。

 

その点では茅場晶彦(ヒースクリフ)は現実と変わらない、真の異世界を作りあげたと言えるだろう。褒める気はないが。

 

 

「キリト達の合流を待つ......というのはリスクが高すぎるな」

 

 

ランが自分で自分の意見を却下する。

ちなみに、熱で膨張した空気によって、視界の確保すらままならないのも火山の欠点だ。......欠点しかねえな火山。蜃気楼も見えそうな気がする。

うへー、とユウキが息を漏らした。

 

 

「水が欲しい......」

 

 

それな、と俺は内心激しく同意する。今はマッカンよりも冷えた水が欲しかった。

 

 

「―――ったく、こう暑いときに限ってMobは湧いてくるしよ」

 

 

飛来するマグマの塊を察知し、俺はステップで避ける。サラマンダーが4匹ほど固まっており、びゅんびゅんマグマを吐いてくる。

 

 

「ちっ」

 

 

【投影】した黒白の双剣を投擲し、2つほどマグマ弾を潰す。1つは避け、1つは心意を纏った蹴りで叩きおとす。【心意】はこういった触れてはいけないアレみたいな攻撃に対して真価を発揮する。簡単に言えば武装色の覇気みたいなモノだ。

そして俺はひび割れた大地を蹴りつけて、陰陽剣を再投影。一瞬で20メートルの距離をゼロにした俺は2体の首筋を切り裂き、もう1体の喉に白剣を突き刺す。呻くサラマンダーの額に黒剣を叩きつけて脳を破壊した。

 

振り向くと、残る1体のサラマンダーはちょうど八つ裂きにされるところだった。ユウキは片手剣用七連撃ソードスキル《デッドリーシンズ》の技後硬直を終えると黒長剣をぱちん、と鞘に納める。そして、ふと前方を指差した。

 

 

「ていうかさ......あれ、迷宮区じゃない?」

 

 

戦闘直後故か、俺とランは緩慢に振り向く。そこにはいつのまにやら紅蓮と黒で彩られた巨大な塔が立っていた。

 

 

「......あんなの、あったっけ?」

 

「どうやら、蜃気楼によって見えなくなっていたようだな」

 

「......つまり、俺達は主街区を素通りして迷宮区に直行していたか、この層には街がない―――ということか」

 

「水......」

 

 

全員が同時に呻く。

 

 

「......まあ、迷宮区は一応建物内だし、少しは涼しいんじゃねえの?」

 

「そうであることを、願うしかないか......」

 

「みぃーずぅー」

 

 

水が欲しい。

 

そう切実に願いながらも、俺達は未知の迷宮区に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

―――99層迷宮区突入から、30分経過しただろうか。

 

 

「水!うま!水うま!」

 

「............ぷは」

 

 

かたや歓喜に叫びながら、かたやひたすら無言で水を飲み続ける。そんな様子を見ながら、俺は口元をぬぐった。

 

 

「それにしても、ボス部屋にフロアボスがいないとはな......」

 

 

そう、驚くべきことだが99層にはフロアボスがいなかった。いや、強いて言えば―――

 

 

「あの鏡がボスなんじゃないの?」

 

 

―――巨大な鏡。それがただ、巨大な湖となっているボス部屋の中央に存在していた。

 

ふむ、と俺は唸って鏡にぺたぺたと触れる。

99層ボス部屋は、巨大な湖とその中央に浮かぶ島によって構成されている。そしてその中央の小島に巨大な丸鏡が鎮座しており、俺達はそこの近くに座っていた。―――というか。

 

 

「上層に続く階段がないってのは、どういうことなんだ......?」

 

「確かにな」

 

 

水飲みタイムから復帰したランが同意の言葉を返してくる。もしかすると、湖の底に―――いや、上層に繋がる階段なのだからそれはないか。つまり、茅場晶彦はゲームをクリアさせる気がないか、この鏡がキーだということだ。だが、それにしても......

 

 

「『俺』は何処に行ったんだ?」

 

 

95層からここまで来たが、まるで痕跡がない。死んだということはないだろうが、もしかするとまだ99層をさ迷っていろのか。

 

はぁ、と溜め息を吐きながら、俺は鏡の表面を撫でる。見ると、そこには腐った目をした少年、つまり俺がいた。

それをじっと見つめていると、ふと自分の存在が曖昧になっていくような気がした。果たして今ここにいる自分は、本当に自分なのだろうか。胡蝶の夢、なんてことは言わないが、今起きていることは全て夢なのではないか―――。

 

 

どくん。

 

そう思考しながら、鏡の中の自分を見つめると、ふと鏡が脈打ったような気がした。

 

どくん。

 

......俺は驚愕に息を飲む。鏡の中の自分の像が変質していく。黒髪は白髪に。灰色の防具は赤色に。

 

どくん。

 

そして、腐った目が―――死んだ目へと変わり。

 

どくん―――。

 

鏡の中の自分がこちらを見つめ、嗤う。

 

 

その瞬間、鏡が粉々に砕けて、散った。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「―――遅かったな......本物(オリジナル)

 

 

男が薄く笑った。夕方なのか、空は赤い。

 

 

「―――ッ」

 

 

俺は男に焦点をあわせ、驚愕に息を飲んだ。―――標示されたのはプレイヤーを示すマーカーではない。

 

 

魔王(The Devil)

 

 

100層フロアボス。全プレイヤーの目指すべき敵。ラスボス。......そして茅場晶彦(ヒースクリフ)。そのはずだった。

 

だが、俺は愕然としていた。唇が震える。なぜ、お前がそこにいる。そこに立っている。お前は―――

 

 

「―――俺、なのか......?」

 

 

男は笑みを深めた。

 

 

Exactly(ご名答)

 

 

比企谷八幡が、そこに立っていた。





これを書くためにこの章を設けたのさ!反省は若干してる。

次回、全ての解説+あのシーン。いい加減にしろと言われようともやめないぜ!そう、この小説は私の自己満小説なのだから・・・!




あ、ごめんなさい蹴らないで!

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