やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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・・・これ、SAOだよね?自分でもなにかいてるかわからない。


二話 そして彼は心意を学ぶ。

 

「............」

 

 

俺は慎重に煉瓦を積み上げていく。

すでに地上からの高さは約6メートル。次で60個目。

慎重に、慎重に―――

 

だが、そこで煉瓦を乗せた瞬間、俺は自分がミスをしたことに気付いた。重心が、二ミリずれている......!

だがすでに遅い。60個の煉瓦が積み上げられたタワーは、凄まじい轟音を立てて崩壊する。―――通算87回目の失敗である。

 

 

「あー、またやっちゃった。んじゃ、100個積み上げれるまでがんばろー」

 

「............」

 

 

ユウキののほほんとした声をバックに、俺は空を見上げた。光照明で照らされた奥には、青空ではなく次の階層の底しか見えない。

 

俺は乾いた笑いを漏らした。ああ、本当に―――

 

 

「やってられるかくそったれがァァァァアアアアアアア!!!!」

 

 

叫んだ。そしてキレた。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「おー、【心意】に目覚めるまで遅かったね。普通適性あるなら30回くらいでいけるんだけど」

 

「......うっす」

 

 

俺は憮然としながらも手を開く。バチッ、と一瞬だが、青い光が稲光のように発生する。なんでも、これが【心意】らしいが。

 

 

「あとはこれを維持することかな。足とかに【纏う】ことができたら速力とか跳ね上がるし、水の上だろうが空中だろうが走れるね。......まあ、空中は少しコツがいるけど」

 

 

ほへー、とそれを聞き流しながら俺は再び【心意】を発生させようとする。

【心意】。ココロの意見、と書いて【心意】である。

 

よくわからないが96層が解放されて、突然使えるようになったらしい。基本的に感情の爆発を切っ掛けにして使えるようになるとのこと。......さっきぶちキレた俺みたいに。

だがこの【心意】。維持するのがなかなかに難しい。というかくそムズい。

 

 

「―――」

 

 

イメージするのは、雷。手を覆うようにしてバチバチと音を立てる電撃。つまり、 カカシ先生の使う千鳥をイメージする。

 

掌から放電するようにして青い光が発生する。そのまま腕を覆うようにイメージするが―――

 

 

「くっ......」

 

「あー、消えちゃった」

 

 

失敗。維持できずに消えてしまう。

ユウキがうーん、と唸った後に言った。

 

 

「多分、雷をイメージするのがダメなんじゃないのかな?炎とか、光のほうが良いと思うよ。炎なら自分の手を火種にして燃やす、みたいなイメージもしやすいし、維持しやすいと思う」

 

「成る程」

 

 

俺は納得した。そうか、炎、炎か......。

 

炎。ファイア。俺はキャンプファイアーのような炎をイメージする、が―――

 

 

「......小さくないか?」

 

「うん、ちっちゃいね」

 

 

掌か出たのは、ローソクの火くらいの大きさの【心意】。ぶっちゃけショボい。燃え広がるようにイメージしてみるが、揺らぐだけだった。

 

 

「炎じゃなくて火だろこれ」

 

「吹いてみたら?」

 

「むしろ消える気がする」

 

 

その後、何回も炎をイメージするのにチャレンジし、ついでに光も試してみたものの―――

 

 

「......おっふ」

 

「なんでだろうね......?ここまで全くできないのは初めて見た気がする」

 

 

無理だった。いやもう本当に無理。全く使い物にならない。光とかは一瞬輝いて消えるだけだし。......多分太陽拳代わりになら使えそうだが。

俺のイメージが貧弱すぎる。

 

 

「うわあもう諦めたい」

 

「元の世界に帰るんでしょ?」

 

「いや、まあそうなんだけど」

 

 

はー、と俺は溜め息を吐いて掌を見た。イメージすると、雷に似た【心意】がバチバチと音を立てながら手を覆っていき―――消える。炎や光よりはマシだが、まだ実用化には程遠い。

 

 

「......なあ、【心意】って他の使い方もあるのか?」

 

「んー、色々あるよ。【心意】を紐みたいにして相手を縛る【縛意】とか、盾にして防ぐ【想盾】、武器を持ち上げたり手を使わずに操作したりする【念動】とか。姉ちゃんはこの【念動】が得意かな。姉ちゃんの武器は【念動】を使うこと前提だし」

 

「そうなのか?ただの片手剣だろ?」

 

「んーん。姉ちゃんのは片手剣じゃなくて、蛇腹剣だよ。中にワイヤーが通ってるし」

 

 

ほーん、と俺は相槌を打つ。蛇腹剣か。現実では不可能な武器だが、【心意】を使うことで意のままに、それこそ蛇のように操れるのだろう。

 

 

「あとは......そうだね、【投影】かな」

 

「【投影】?」

 

 

投影。イメージを転写したりするのだろうか。それ、何処のハーミットパープル?

 

 

「【投影】っていうのは、武器をそのままコピーして作る【心意】かな。ボクも一応できるけど......」

 

 

そう言うと、ユウキの掌から紫色の炎が出現し、そのまま剣の形になったかと思うと、ユウキが腰に刺している片手剣と同一のモノへと変化する。

 

 

「んなっ......」

 

 

だが、それは二秒経った直後に崩壊し、すぐに元の炎に戻って消えてしまった。

 

 

「見ての通り、ちょっとしかもたないよ。まあ、今師匠が知ってる【心意】の中でも最優先は【纏心】。ほとんどはあれの応用だから」

 

「そうか......」

 

 

【心意】に大事なのはイメージだよー、と言いながらユウキはエギルの店へと走っていった。昼飯でも取りにいくのだろうか。

 

 

「イメージ......イメージね......」

 

 

【心意】の発動には極度の集中が必要だ。具体的なイメージをしなければ【心意】は使えないからである。イメージ。つまり、実物を見たことがあるものほどイメージがしやすい。

―――【投影】。それが少し気になった。もしかすると、俺が散々使ってきた二本のあの短刀、あれなら作れるのではないだろうか。

 

 

「――――――」

 

 

グラディウス・アウルム。

 

金色の短刀。大きさにして約50センチ。刀身のみならば30センチほど。厚みは3センチ、刀身の表面には金色の炎のような溶けた鉱石の渦が各所にあり、峰には紅い火のような線がすっと通っている。鍔はなく、柄から広がるようにして刀身がある。柄は金属製のグリップのようで、革や紐は巻かれていない。

 

―――駄目だ。足りない。

 

外面はイメージできる。だが、足りない。これでは外側のみで中身がスカスカだ。もっとイメージしろ。想像しろ。遡れ。グラディウス・アウルムという剣の原点を。根源を。全てを模倣しろ―――

 

『―――嗚呼』

 

【逆流】【警告(Error)

 

―――金色の鳳凰を。

 

『―――いつだってそうだ。失ってから、その尊さに気づく』

 

警告(Error)】【侵食確認】

 

―――絶対的な熱量を。

 

『......力が、欲しかった』

 

警告(Error)】【警告(Error)】【警告(Error)】【侵食―――【適合(Adapt)

 

 

「―――!?」

 

 

違う。イメージが変質していく。何かが流れこんでくる。これは何だ。これは―――

 

『絶対的な力が』

 

これは、

 

『全てを守れるような力が―――違う』

 

誰かの、

 

『もう、何も喪いたくない』

 

記憶、

 

『そうだ―――奪われる前に、奪うしかない』

 

なのか―――?

 

『何を勘違いしていた。単純じゃないか。俺のせいで―――■■■は死んだんだ』

 

溢れだす激情。

失望と絶望と悔恨と悲嘆と憤怒と憎悪と殺意が頭頂部からつま先までに満ち、たった1つの渇望へと収束する。

 

『感情も生命も魂も肉体も理想も―――そして本物も』

 

黒と白の短刀。二つで一つの陰陽剣。

 

『全てくれてやる。......だから、』

 

 

「【投影(trace)開始(on)】―――!」

『力を、寄越せ―――!』

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

―――これは、誰の視点なのだろうか。

 

定まらない意識の中、俺はそんなことを思考する。

 

 

「ほう。偽りの存在がその領域に至るとはな」

 

「......お前は、誰だ」

 

 

声だけが、暗い世界に木霊する。一人は男の低い声。そしてもう一人は......俺の、声?

 

「誰でもない。すでにこの身体はこの世界のモノとなっている。あえて言うならば―――そうだな、【阿頼谷識】から名を取って、アラヤとでも呼べ」

 

「......何の用だ」

 

 

徐々に視界が明るくなっていく。ぼんやりと浮かび上がってきたのは、項垂れる男とその前に立つ男だった。

 

 

「―――力が、欲しいのだろう?」

 

「......ああ」

 

 

男―――アラヤは嗤う。

 

 

「何のために?」

 

「復讐のために」

 

「復讐は何も生み出さないと聞いたが」

 

「知ったことか」

 

 

そう吐き捨てる男に、アラヤは満足そうに頷いた。

 

 

「ただのシミュレーションに過ぎなかったが―――成る程、此処まで逸脱するとはな。壊れることなく最後まで走りきるか。もはや一個の独立したモノと化している」

 

「......何を言っている?」

 

「なに、貴様が何処までもイレギュラーな存在だと再認識しただけだ」

 

 

そう言うと、アラヤは手をかざす。掌の上には光の球が浮かぶ。

 

 

「欲しいのだろう―――ならばくれてやる。まだ未完成だが、貴様ならばそれを完成に導けるやもしれぬ」

 

「......なんだ、これは?」

 

 

男は怪訝な声を漏らす。光の球は男の胸に吸い込まれた。

 

 

「とあるシステムだ。【心意】、とでも呼ぶがいい。それは『感情』という、極めて曖昧かつ単純なアルゴリズムに基づいて作動するモノだ」

 

「『感情』、だと?」

 

「いかにも。まだ未完成だがな」

 

 

人の感情とは、単純なようで非常に複雑で不可解なモノだ―――とアラヤは呟いた。

 

 

「感情とは、高度な論理的思考能力さえあれば模倣(エミュレート)できる。それが俗に言う高度なAIであり、我々が作り出した【カーディナル】の一部にもそのような機能はある。―――が、あくまで模倣に過ぎない」

 

アラヤは再び嗤う。

 

 

「それは何処まで行っても模倣に過ぎず、水面下で計算される論理的思考を覆い隠したとしても、模倣の枠を出ない―――はずだった」

 

 

アラヤが手を振ると、空中から二振りの短刀が出現した。黒い剣と、白い剣。

 

 

「果たして、偽物が本物になるか。表と裏、陽と陰、白と黒。さあ、私に示してみろ―――」

 

 

比企谷八幡。

 

 

そう言うと同時に、世界は砕け散った。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 

はっ、と意識が鮮明になる。

辺りを見回すと、あるのは瓦礫と煉瓦の残骸のみ。そして俺の手の中には、白と黒の陰陽剣があった。

 

 

「なん、だったんだ......?」

 

 

俺は呆然としながら陰陽剣を見下ろす。だが陰陽剣は砕けて青い粒子となり、消滅する。

......今の白昼夢らしきモノは、なんだったんだ。自分の掌を見て、俺は溜め息を吐いた。......疲れているのだろうか。

だが―――

 

 

投影(trace)開始(on)

 

 

知らないはずの文言。だがそれはするりと俺の口からついて出た。まるで、長年唱えつづけた呪文のように。

そして、青い稲光の中から黒と白の双剣が構成されて両手に収まった。これの構造はなぜか脳に焼き付いている。見たこともないし聞いたこともない―――だがいつでも呼び出せる、という確信だけがあった。

 

少し双剣を振ってみる。双剣はまるで俺の身体の一部のように馴染んでいた。今まで何千、何万回と振るってきたかのように。

すっ、と右手の黒剣を水平に凪ぎ、ついで斜め下から白剣で斬り上げる。即座にステップを踏みつつ白剣を反転させる。

 

数瞬の間に双剣が何十と舞い、空を切り裂く。ひゅんひゅんという音は加速していくにつれて鋭くなっていく。

―――一切の無駄のない連撃。身体に刻みつけられたかのように、ごく自然に両手が閃き、足が動く。俺はここまで巧みに双剣を操れていなかったはずだが―――もはやこれは、理想形だ。俺が目指したもの完成形だ。

 

 

......どれだけの間、双剣を振るっていただろうか。ふうと息を吐くと、俺は【心意】を解除し、双剣を消した。......このやり方も知らないはずだが、ごく自然に行える。なんなんだ、これは。

 

 

「......ねえ、それって何処で習ったの?」

 

唖然としたユウキの声に俺は振り向いて苦笑し、言った。

 

 

「―――さあ。俺にもわからん」

 

 




後々解説はします。意味わからないだろうけど、あと二話くらいでこのお話は完結します。

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