やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
エピローグ、とは言ったもののまだSAO編は終わりませんよーう。現在3章「虚構の未来」を執筆中です。
というわけで今回は番外編。
50層主街区【アカツキ】。それは京都を連想させる、和風な作りの街並み―――と、現代の建物が融合したような、何処か超然とした街である。
現在の最前線でもあり、故に常に賑わっているため―――
「うっぷ......人、多すぎだろ」
人混みが苦手な俺が『人酔い』するのも、当然と言えば当然だった。
基本的に動物が好きな俺でも唯一嫌いなのが人間である。初代霊界探偵と同じなのだ。
そんなこんなでグロッキーになりながら俺はエギルの店目指して街を徘徊していた。いやマジで今の俺の姿はグール同然だろう。以前フィールドでMobを殺していた時に、プレイヤーと遭遇した際にMobと間違われたことさえある。そしてしばらく「Mob殺しのMob」の噂が出回ったという。......もう、泣いてもいいよね。
「―――よう。元気......ではなさそうだな」
「あん?......ああ、なんだただのハゲか」
「ハゲじゃねえよ!」
グール化した俺の肩に手を置いたのは、ただのハゲ―――もといただのスキンヘッド、ではなくエギルだった。どうやら、いつの間にか目的地であるハゲの店についていたらしい。
そしてエギルの後ろからひょっこり顔を出すへんてこなバンダナ。そう、クラ......クラ......
「クララ?」
「違うわ!クラインだよクライン!いい加減覚えろや!」
こうしてエギルと俺とクライン、なかなか珍しい面子でのお茶会が開かれることになるのだった。......うん、お茶会というよりかは面子的に飲み会だな。
※※※※※※※※
エギルと言えば、アインクラッドでサングラスかけたら怖い人ランキング1位(俺調べ)、アインクラッドで「やらないか」という台詞が似合う人ランキング1位(俺調べ)の2タイトルを奪取している王者でもある。中身は良い人なんだけどなあ......外見って大事。俺だって目さえ腐ってなくて中身まともなら―――うん、それ俺じゃねえわ。
「おい、今物凄い偏見にまみれた評価を受けた気がするんだが」
「細かいこと気にしたらハゲるぞ―――っあ。......すまん」
「ハゲてねえよ!?なんでそんな哀れみの視線向けてんだよ!?」
お前はどんだけ俺をハゲにしたいんだ!と吠えるエギルを無視して、俺は揺り椅子を揺らしながら息を吐く。あー、疲れた......。たぶん今の俺のSAN値はヤバい。SAN値チェックせねば。ダイスよこせダイス。
「エギル、マッカン」
「俺はジンジャーで」
「ここ、俺の店の筈なんだがなあ」
はあ、と溜め息を吐きながらもエギルはコーヒー瓶とミルクと砂糖とジンジャーエールを棚から取り出す。おお、よく持てるな。
「......んで、今日は何の用だ?」
「別に用はねえな」
そう俺が答えると、エギルとクララが驚愕の視線をこちらに向けてくる。
「......え、なにその目。なんでそんな生暖かい目線こっちに向けてんの?」
「いや、
「別名の一つが
なんだか引きこもりの息子が「......俺、働くよ」って言ったのを聞いた母親並みにエギルとクラウドが感動していた。そこまでかよ。......え、というか俺ヒッキーって呼ばれてんの?
ほら、俺だって他にも外出るときくらいあるっつーの。武器のメンテとか、コーヒー豆集めたりとか......とか......うん、他にはねえな。
「違えよ。ほら、なんか俺ん家でサチとかアルゴとかが女子会やってんだよ」
「女子会!?行ってみてえ!」
他にもリズベットやアスナもいたような気もする。俺の家なのに何故か俺の居場所だけないという現象が発生して、俺は急遽エギルが開いた店に避難して来たのだ。そしてクラウスはうるさい。
「女子会ねえ。お前さんは、そういうのは興味無いのか?」
「はぁ?」
つまり、俺も何かなんたら会とかを開けということだろうか。男子会......腐ってる匂いしかしねえな。二次会とかか?
二次会と打ち上げの違いはわからんが、大体そういうのは行ったことがない。文化祭だろーが体育祭だろーが俺は基本的にソッコーで家に帰ってモン狩やペルソナをしてた記憶しかない。むしろ中学の体育祭―――というか運動会など、始まる前から家に帰っていることさえあった。結局小町に蹴飛ばされるようにして家追い出された気もするけど。
と、俺は過去に思いを馳せていたが、エギルが手を横に振って「違う違う」と否定する。
「女子、というか異性に興味は無いのか、って意味だ。基本的にお前さんってそういう浮いた話、ないだろ」
確かにあまり聞いたことねえな、とクラリスが呟く。
「異性ねえ......」
ふむ、と俺は少し思考する。
異性。基本的に地雷臭しかしない単語である。というか俺の中学時代の地雷が起爆する単語である。俺の中学時代、地雷しかないからなあ......折本の件とか思い出したくもない。あの頃は若かったのだ。そう、今の俺は歴戦練磨のぼっち。幾度の戦場を越えて不敗なのだ。
「―――いや、ないわ」
「そりゃまたどうして?」
「いや、どうしてって、なあ」
確かにあの面子はかなりレベルが高い―――というよりは将来有望、という言葉が似合う面子だ。つまり、
「年齢的にアウト」
「「......あー」」
納得の声をエギルとクラインが漏らす。......あ、正解言っちまった。
そう、アスナやサチ、それにアルゴなどはそれなりにレベルは高いが、冷静に考えるとリアルじゃ全員中学生である。いや、アスナは前聞いた話では本来今年で高1だと言っていたが。それでも色々とアウトだった。
「そう考えると、アスナとかを祭り上げてるやつらってロリコンみたいなもんだなあ......」
「確かにそうだなクラリコン」
「俺はロリコンじゃねえ!ていうかその名前はさすがに無理があるだろ!?」
うん、自分で言っててネクロノミコンみたいだなーって思いました。さすがに長すぎるか......。というか、
「お前ロリコンだろうが。ほら、前にシリカ......だったか?可愛いとかなんとか言ってたじゃねえか」
そう俺が言うと、クラインはうっと怯む。
「いや、シリカちゃんは別だ!可愛いは正義なんだ!」
「エギル。そのシリカちゃんってのは何歳くらいなんだ?」
そう俺が聞くと、エギルが何やらファイルから紙を取り出す。......え、何よそれ。
「確か12歳らしいぞ」
「クライン、
「ちょ!?」
慌てるクラインに俺とエギルは冷たい視線を向けた。
12歳はさすがにアウトだろう。......余談だが、ネクロノミコンと根暗ロリコンって似てるな。あと、エギルのそのファイルはなんなんだ。裏にマル秘って書いてあったのが見えたんですけど?
「い、いや......そ、それよりエギルはどうなんだエギルは」
逃げたな、と俺は思ったが、目を左右させながら慌てるクラインを見て追求を諦めた。あまり追い詰めてもアレだろう。......よし、あとでアルゴに流そうそうしよう。
顎を撫でながらエギルがクラインの質問に答えた。
「いや、俺はリアルに嫁がいるからな」
「「爆ぜろ」」
完全に完璧に全壁に俺とクラインの意見が一致した瞬間だった。
「なんだよ嫁がいるって......俺なんか彼女いない歴=年齢なんだぞお......20越えるのにさあ......キリトとかおかしいだろちきしょう......」
「......その、なんだ。強く生きろよ」
テーブルに突っ伏すクライン。そしてその横にジンジャーエールの入ったコップを置くエギル。
その余りにも切実な願いを聞いた俺は、つい慰めの言葉をかけてしまった。うん、強く生きろよクライン(彼女ができるとは言ってない)。
「くそう......俺の何が悪いんだ......そうだ、俺が悪いんじゃない、世界が悪いんだ!」
「究極の責任転嫁だなおい」
憎むべきはディオッ!とか言っちゃいそうな勢いだった。
まあ、その手法は俺もよく用いるモノでもある。そう、俺は悪くない。社会が悪いんだ。ああ、マッカン旨い。
「―――ていうかなんか仲間面してるけどなあハチマン、てめえだってユキノさんがいるだろうが!」
「ぶっ」
予想外の攻撃に思わずマッカンを吹いてしまう。マッカンは綺麗なマイルドな茶色の霧になってエギルの顔を直撃する。そういやプロレスにこんな技あったような。毒霧だっけ?
「うわっぷ、汚ねえな!」
「すまんエギル......というかクラピカは何言ってんの?バカなの?死ぬの?」
「俺は
クラピカもといクラインがきゃんきゃん喚いてるが無視。え、何なのどういうことなの?
「違うのか?割と有名な噂なんだが」
「違えよ、事実無根だ事実無根。そもそもアレはそういう対象じゃねえよ」
エギルに向かってかぶりを振って俺は否定した。
「けどよ、あんな美人とリアルでも知り合いなんだろ?ほら、そういう関係とかはねえのか?」
そう言ってこちらを羨ましそうに見てくるクライン。だが、そんな甘っちょろい展開なんぞラノベの中にしかないのだよクラスター爆弾くん。
「アレはほら、高嶺の花どころかギアナ高地に咲く花だし。背伸びしようがどうしようが届かん」
さらに付け加えるなら花の回りに有刺鉄線やらトゲやらが満載だったりする。ついでに最凶の姉までいるのだ。パズドラならチャレダンレベル10を助っ人なしでクリアするくらいの難易度である。つまりムリゲー。
「じゃあ、ハチマンはどんな人が好みなんだ」
エギルがこぽこぽと湯を注いでコーヒーを作りながら尋ねてくる。のの字を書くようにして注ぐのがコツだったか。
「そうだな......と」
戸塚。
そう答えそうになって、慌てて俺は口をつぐんだ。
あっぶねー......危うく男に告白してフラれる変な奴になっちゃうところだったぜ。って、フラれるの確定かよ。いや今の戸塚の好感度ならワンチャンあるはず。......あるよね?
まあ、好感度マックスでも現実なら容赦なくフラれることもあるけどな!現実はギャルゲーではないのです。
「と?」
「と......年上だな」
戸塚の「と」まで言ってしまったことで変な方向に行ってしまった。なんだよ年上って。......いや、あながち外れじゃないのか?俺ロリコンじゃないし。
そう俺が俺自身の性癖について葛藤していると、再びクラインが口を開いた。
「俺は断然年下だな!......リアルに姉がいるし、年上はどうもなあ......」
「あー」
俺は思わず納得の声を漏らしてしまった。成る程、そういう考え方もあるのか......じゃあ、俺は小町がいるから年下にあまり興味がないのか?
「その論法からすれば、年上好きのハチマンには妹がいることになるな」
「いるのか!?」
若干食い気味なクラインに俺は引きつつも答えた。
「いやまあ、いるにはいるが」
「可愛いか?」
「世界一可愛い」
思わず即答していた。「シスコン......」と呟きながらエギルが若干引いていた。
だがクラインはあまり気にしてないようで、
「マジか、紹介してくれねえか!?」
「絶体やだ」
「そんなこと言うなよお義兄さん!」
「うるせえきめぇ!!お義兄さんって呼ぶんじゃねえ!」
大志(川なんとかさんの弟)なら百歩譲ってまだ良いとして―――いや良くないが―――クラインの兄になるとか絶体に嫌だ。ええい離れろ!小町に近付く羽虫は俺が許さん!
「じゃあうちの姉を紹介するからさ、な?......あれ?そしたら俺はハチマンを義兄と義弟、どっちで呼べばいいんだ......?」
「どっちもお断りだっつーの!結!滅!」
「......あー、元気にしてるかな、あいつ......」
取っ組み合う俺とクラインの横で、コーヒーを飲みながら黄昏るエギル。
―――そしてこの時の会話が外に隠れていたアルゴによってしっかり録音されており、それが原因で色々と揉めるのは、また後日の話である。
SAOヒロインには年下しかいない。。全部妹にしかならない・・・!