やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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ネタバレになりかねないため、感想返信は控えております。全部読んでますけどね。好き放題言いやがって!
ではドゾー。


十九話 そして終わりが始まりを告げる。

 

 

 

「―――万物は流転する」

 

 

しゃらん、と鈴が鳴る。

 

 

「アレが死んだのは想定外―――だが、やはりアレはイレギュラーなようだ。まさか、あちらに跳ぶとは」

 

 

闇夜に、黒い衣が翻る。

 

 

「下手に干渉すればアレが崩れる、か。......ふむ、ならば引き合わせるのもまた一興」

 

男の口角が歪んだ。

 

 

「すでにアレが持つモノを含めて5つが目覚めている......残る5つも時間の問題だろう」

 

 

男は嗤う。

 

 

「さあ見せてくれ―――この矛盾した、螺旋(セカイ)の果てを」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「......50層、だよな」

 

 

俺は呆然として呟いた。

カツ、とブーツと石畳がぶつかって音をたてる。NPCの看板、和風な作りの家屋、何処からどう見ても50層の主街区【アカツキ】だ。

何がどうなってるのかさっぱりわからない。俺はぐしゃぐしゃと頭を掻いて記憶を整理していく。

 

......ありのままに今起こったことを言うぜ。阿修羅ボスに切られたと思ったら、いつのまにか50層の主街区にいた。何を言ってるのかわからねーと思うが(以下略)。

 

まあ、百歩譲って50層の主街区に俺がいることは納得しよう。いやできないけど。キングクリムゾンでもいたのかよ。

だが、何故―――

 

 

「―――こんなに壊れてんだ?」

 

 

カツ、とブーツに砕けた石畳がぶつかって音をたてる。

吹き飛んだ屋根瓦、半壊した家屋。看板はひしゃげて道の真ん中に転がっている。プレイヤーはおろか、NPCすらいない様子は世紀末を連想させる。

 

......全くもって意味がわからない。クエストかなんかか?現在位置を調べたらNo Dataだし。ちなみに武器もない。アイテムストレージもからっぽ。何が起きてんだ?

 

しょうがないから俺は道端に転がっている鉈チックな武器を拾って即席の相棒にすることにした。これがもし何かしらのクエストだとしたら、武器が無いのは戴けない。体術はあるにはあるが、アレもそこまで使い慣れてる訳ではない。

 

―――ガツン。

 

 

「......?」

 

 

向こうの通りから、何か物音が響いた。

......ひょっとして、俺以外にも人がいるのか?

 

そんな淡い希望を抱いて俺は進んだ。だが、そこには―――

 

 

「......マジかよ」

 

 

仁王のような、Mobがいた。

 

仁王の目がぎょろり、と蠢いてこちらをロックオンする。うわあキモい。

ギギギ、と軋むようにして仁王の身体がこちらを向く。というか、なんで―――

 

 

「圏内に、Mobがいるんだよ!」

 

 

仁王が石畳を砕いてこちらに迫る。両手棍(スタッフ)のような武器の端が防具をかすめた。ちり、という嫌な感触。仁王が両手棍を回転させるのを見て即座に逃走を放棄。迎撃を選択する。

 

 

「くっ―――」

 

 

鉈を逆手に構えながらステップで続く連撃を回避。さらに弧を描いて迫る両手棍を上体を反らして避け、上体を跳ね上げて仁王に突貫。逆手に構えた鉈で右腕下部、すなわち肘のすぐ上を切り裂く。そのままの勢いで左にステップし距離をとる。

 

 

「......ふう」

 

 

―――こいつ、強い。

 

そこで一息吐くと、俺は仁王を睨んだ。見たことのないMobだから行動パターンもわからないが、人型である以上は急所の位置はそう変わらない筈だ。あの両手棍の連続する攻撃は厄介だが、両手武器である以上は超至近距離は死角のはず。

 

ある程度方針を決めると、俺はだん、と石畳を蹴って前へ。突き出される両手棍を避けて右へ跳び、《スラント》を繰り出す。だがAIが優秀なのか、合わせるようにして鉈が弾かれた。

いや、それどころか―――

 

 

「ファ!?」

 

 

ガキィン、という音と共に鉈が刀身半ばから折れ飛んだ。

思わず変な声が漏れる。予想外の出来事に一瞬反応が遅れ、両手棍の一撃が肩をかすめて少しよろめいた。

 

後方へ跳んだ俺の頬を冷や汗が流れた。まさか折れるとは。というか脆すぎだろ。アレか、やっぱり拾得物だからか。

......どうやらこの鉈は耐久値が予想外に低かったらしい。もしくは、あの両手棍に武器破壊効果でもあるのか。

 

俺の脳内が瞬時に戦力差を計算し、最適解を弾き出す。―――逃走だ。武器もないままで、知らない敵を相手するには仲間も時間も回復薬(ポーション)も足りない。

 

しかし、攻撃的(アクティブ)になってしまったMob相手に逃走するのはアイテムも無い今ではなかなかに辛そうだ。いや、俺の敏捷値ならば可能だろうが―――

ちらりと折れた鉈を見る。......ちくしょう、武器さえあれば。

 

 

―――あの金色の短刀のような。

 

警告(Error)】【当システムはロックされています】

 

―――あの黒鉄の短刀みたいな。

 

警告(Error)】【第一次制限解除】

 

―――こいつに対抗できるような、強い武器が。

 

警告(Error)】【第二次制限解除】

 

―――夢の中で見た、『アイツ』みたいな......

 

警告(Error)】【全制限解除】

 

―――『アイツ』が持っていたような、

 

【心意システム//有効化(アクティベート)

 

―――強い、武器が!

 

【心意《投影》発動―――】【失敗】【不純物確認】【消去開始】

 

 

「あぐっ!?」

 

警告(Error)】【警告(Error)】【警告(Error)

 

 

俺の右腕に激痛が走り、思わず折れた鉈を取り落とす。何が起きたのかと右腕を見ると、バチバチと紫電を放ちながら......右腕が『ブレて』いた。さらになにやら赤い【警告】の文字がいくつも右腕の周囲を取り囲んでいる。

 

 

「なっ―――」

 

 

俺は驚愕と痛みに息を飲んだ。直後、折れた鉈の末路を見てぞっとした。

鉈が、右腕と同じように『ブレた』後、モザイクがかかったようになり―――消滅したのだ。

幸い、右腕はブレはすぐ収まり、【警告】の文字も消えた―――が、奇妙に身体が痺れて動けない。そしてそんな俺の隙をMobが見逃すはずもなく、俺は仁王の丸太のような足で蹴り飛ばされた。

 

 

「がっ」

 

 

民家が崩れたような瓦礫の山に突っ込む。蹴られた衝撃で息が詰まった。が、まだ動けない。麻痺状態とも違う、何かに拒絶されるような―――

 

だがそう思考したところでさらに何かが俺を吹き飛ばす。

別の民家の壁に叩きつけられ、そちらに目をやると、俺が仁王の両手棍に吹き飛ばされたことをようやく理解した。

 

......ああ、死ぬのか。

 

やっと少し謎の痺れが解けてきたが、仁王はすでに両手棍の投擲体勢に入っている。直感だが、次くらいで俺は死ぬのではないだろうか。

ちくしょう、死ぬ前に一人くらいは友達が欲しかった―――いや戸塚いるじゃん。

......あれ、もう未練なくね?うふふ、天使(戸塚)が俺を呼んでるぜ......!

 

 

「―――《七大罪(デッドリーシンズ)》」

 

 

―――だが、天使は訪れなかった。

 

禍々しい、紅いエフェクトを纏った片手剣の七連撃が仁王を切り裂く。哀れ仁王は文字通り八つ裂きにされてポリゴンへと還される。

すたん、と仁王を倒した小柄なプレイヤーは着地し、言葉を発した。

 

 

「......ふー、まだこんなとこにもいたなんてね。そこにいた人、大丈夫だった?」

 

「―――ん、ああ。助かった」

 

 

初めに目に入ったのは、パープルブラックの髪だった。

赤い髪留めがパープルブラックの髪に映え、全体的に黒を基調とした装備は何処かあの黒ずくめ(ブラッキー)を彷彿とさせる。

その少女と思われるそのプレイヤーは、黒い片手直剣をぱちん、と鞘に納めると、こちらを振り向いて......硬直した。

 

 

「―――え?ウソ、なんで?」

 

「はい?」

 

 

俺は小首を傾げた。え、俺の後ろに何かある?

だが俺の言葉を無視し、黒い少女はゆっくりと助走をつけると、あろうことか―――

 

 

「ししょ――――――う!!」

 

「へぶ!?」

 

 

突っ込んできた。

 

 

「師匠師匠師匠ししょ―――う!!なんでこんなとこにいるのさ!?まさかボクに会いに来てくれたの!?」

 

「落ち着け、離れろ、というか誰だお前人違いですっつの!」

 

 

誰と勘違いしてるのか知らないが、突然突っ込んできた少女Aを俺はひっぺが―――せない。なにこいつ滅茶苦茶力強いんだけど。あと柔らかいいい匂い柔らかい、というかこいつ誰よ?

 

突然のことにかなり俺は混乱するが、そんなことはお構い無く少女は子猫のようにうりうりうりーっと頭を擦りつけてくる。いや、その、邪魔なんだけど。それともこの国での挨拶は俺の知らない間にこんなのになったのん?

 

 

「そのアホ毛に腐った目!人違いのわけないもん!」

 

「いや、もんって言われても俺は知らないですしおすし」

 

 

ひょこん、と少女が頭を上げてにゃーにゃーわめく。というか近い。

......だが、その特徴からすれば確かに人違いではなさそうだ。俺は知らないけど。ちょ、マジで離れろっつーの!責任者呼べ責任者!

 

そして俺の祈りが天に届いたのか、青い影がとん、と俺の数メートル手前に着地する。

 

藍色の髪に紺色を基調とした装備。こちらも青い片手直剣らしきモノを手にしており、同じように鞘に納める。

 

 

「......どうしたユウキ、何かあったのか?」

 

「姉ちゃん来て来て!師匠がいるよ!」

 

「おいおい何を言ってるんだ、師がこんな下層にいるわけない、だろ......」

 

 

こちらに歩いてきたものっそい青々した少女は責任者......ではなくこの謎の少女Aの姉らしい。―――ええい匂いを嗅ぐな離れろ!くっそこいつ力強っ!?

俺は全力で「こいつどーにかしろ」的な意味を込めた視線を全身真っ青な少女に向ける。......が、少女はこちらを見た瞬間に硬直した。

 

 

「............師、なのか?」

 

「ごめんなさい人違いです」

 

「師匠の匂いだー」

 

 

で、師匠って誰なの。あとふんすふんす匂い嗅いでんじゃねーゆ離れろ。そこの人は姉なら、妹のこの変態的行動をどうにかしてくんない?

俺は「頼むどうにかしてくれ」的な懇願の視線を姉(仮)に向けるが、超絶ブルー(色彩的な意味)な少女は硬直したまま動かない。

 

......なにこれ混沌(カオス)。全く展開についていけないんだけど。

 

 

―――これが、この黒紫の少女ユウキと、藍色の少女ランと、俺との初めての遭遇なのであった。

 

 




ユウキ生存!

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