やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
※ついでにお気に入り四桁突破記念アンケートやってます。詳しくは活動報告で。できれば投票よろしくお願いします。じゃないと悲しみで泣きます。超泣きます。
ではツッコミ所多い13話です。ドゾー。
「ここか....」
「確かに良い雰囲気ね」
「でしょ。けど、300万もするのよねー」
48層主街区、リンダースの中心区....から、少し外れた場所にあるちんまりとした工房。そこまで広くもないが、狭くもなくむしろ十分。近くには小川が流れ、工房の横にある水車がごとごとと音をたてながら回転していた。
リズベット曰く「一目見た瞬間にびびっときた!」らしいが、成る程。確かに悪くない。あの水車もなんらかの動力源として使えそうだ。というか、300万もする理由って絶対あの水車だろ。
「......まあ、悪くはねえな」
「うん、だけど」
「たっかいのよね.....」
どよーんと肩を落とすリズベット。300万コルとか俺でも集めるのに3ヶ月はかかりそうだ。
先程のサイゼ(偽)で話をしていた時に聞いたのだが、リズベットがこの工房を見つけたのは二週間前。そしてその二週間でリズベットが貯めることができたのはたったの30万ぽっちだったらしい。このペースじゃ5ヶ月かかる、ということだった。
「無理じゃねえか?諦めようぜ」
「嫌よ。ここが良いもの」
「リズベット、マイソウルカントリー千葉にはこんな言葉がある。―――押して駄目なら諦めろ」
「無いわよ!?なんでそんなダメダメ県なのよ千葉!」
「ほう、貴様千葉を馬鹿にする気か。よかろうならば戦争だ......!!」
「はい!?つーかあんた千葉好きすぎでしょ!」
千葉馬鹿にするやつマジ許すまじ。
そんなこんなでギャーギャーとケンカする俺とリズベットの間に、呆れた様子のアスナが割って入った。
「はいはい落ち着いて。二人が仲良いのはよーくわかったから」
「「誰がこんな奴と!」」
がるるるるぅと、犬がやるように威嚇するリズベット。対抗して俺がフシャー!と返す。アスナは溜め息を吐いてどうどうとリズベットを落ち着けていた。
「なんでこんなしょーもないことでケンカするかなあ.....取り合えず、リズがどうやったら300万に届かせられるか考えないと」
「そーいやそうだったな」
「本題忘れてんじゃないわよっ!」
うがー!と再び噴火するリズベットを放置して俺は考える。うーむ。諦めるのが一番手っ取り早いんだけどなあ。
「こら、ハチマンくんも一々挑発しない。―――けど、どうするの?正直、私から貸しても.....」
「半分にも届かねえな」
俺が50万、アスナが60万。貸し出せる限界はこれくらいのものだ。リズベットが貯めた30万を足しても140万。目標額の半分である150万にも届かなかった。
「うー、他に貸してくれそうな所も無いし.....」
「この世界に銀行とか無いしな」
「そもそも、そこまでお金が必要な時ってなかなか無いしね」
見事にナイナイ尽くしだった。
俺の知り合いと言えばキリトだが、あっちも家具やらなにやら揃えるのとかで、最近はなかなかにカツカツだった気がする。なんかキリトが愚痴ってたような。
ちなみに28層での事件後、月夜の黒猫団は35層くらいから攻略組として参戦している。今ではなかなかに重要な地位を占めており、攻略戦でもダメージディーラーをメインとして活躍していた。......半分はキリトの功績だが、最近ではサチの力量も目を見張るモノがあるし、ギルドメンバー同士の連携も非常に高度だ。巷では黒の剣士と蒼の槍兵、と呼ばれたりもするらしい。もう立派な攻略組の要だ。
最近だとアスナは「閃光」、ユキノは「武神」、ヒースクリフは「聖騎士」と呼ばれている。1つ次元が違うのがあるが気にしちゃいけない。確かにわからんこともないが。
....この前のボス戦なんか、竜みたいなボスが放ったブレスを回避するどころか、斬ってたし。そりゃもう綺麗に真っ二つ、ついでに「軽業」のスキルを使ってボスの頭に飛び上がって首ちょんぱ。攻略組のみんなは唖然。ユキノさんは最近人間を止めつつあるようだった。
ちなみに俺は「暗殺者」「とりあえず武器投げるマン」「グール」「それ」とか呼ばれている。というか最後のって二つ名でもなんでもなくね?だからユキノさん、いつも「そこのそれ」って呼ぶの止めてくれません?
本題から逸れたが、取り合えず俺の知り合いに金を貸してくれそうな奴はいなさそ――――――あ。
「いたわ」
「へ?」
「や、ダメだなうん。あいつはダメだ」
「ちょっと、なに一人で自己完結してんのよ」
「誰かいたの?」
うわー、でもなー。絶対吹っ掛けて来るぞあいつ。
「で、誰が貸してくれそうなの?」
「アスナも知ってる奴だよ」
「私も?」
はてなと首を傾げるアスナと、早く言えとばかりに急かすリズベット。
そんな二人を見ながら、俺は答えを言った。
「アルゴだよ。鼠のアルゴ」
※※※※※※※※
「成る程ね。で、オレっちにいくら貸して欲しいんダ?」
「ざっと150万、くらいか」
「そうだナ―――トイチでどうダ?」
「鬼かテメエは」
コーラを飲みながらけらけらと笑うアルゴを見て、俺は呻いた。トイチ―――つまり10日で1割の金利のアレである。借りたのが100万だとすれば、一年後にら3091万にまで跳ね上がる奴だ。
「にゃハハハハ、冗談だヨ」
俺とアスナはほっと溜め息を吐いた。リズベットはなんのことだかわかってないようだが。
「ふふ、別に利子はいらないヨ」
「.......は?え、お前どうしたの?熱でもあんの?だいじょぶか?」
「まさかそんなガチで心配されるとは思わなかったヨ!」
なにやらアルゴがほざいているが、それくらいの出来事だった。え、マジ?あの金にがめついアルゴが利子を要求しないだと?
ちなみに俺が戦慄している横では、アスナがリズベットに懇切丁寧にトイチについて説明している。「トイチっていうのは10日に1割の利子がつくことでね」「おk、把握した」
.......絶対わかってねえなこいつ。というか話が長くなりそうだから逃げただろ。
「ま、ハチマンには結構な借りがあるしナ。これくらいで返せるとは思ってないけど、今回は利子無しでいいヨ」
アーちゃんに義理もあるしね、とアルゴは続けた。なんだかんだ言って、こいつら義理堅い奴だ。いや、金にがめついからこそ、借りとか損得勘定に敏感なのか?
「本当にいいのか?」
「どーしても気になるって言うなら、また今度なんか奢ってくれたらいいヨ」
そう言ってほい、とアルゴは金貨の詰まった袋を15個ぶんテーブルの上に
「....あー、ありがとな」
「あ、ありがとうございますです!」
俺とリズベットが二人して礼を言うと、「気にすんナ」とアルゴが手を横にパタパタと振る。これで今日中にでも買い取れるんじゃねえか?
ひゃっほうとテンションを上げるリズベットとそれを落ち着けるアスナを見て俺は苦笑するのだった。
ちなみに。
「アルゴって、どのくらい溜め込んでたんだ?」
「んー、ざっとこの五倍かナ」
「―――マジ?」
「マジ」
わーお。
※※※※※※※※
結局、残る10万コルをどうにかするべくアスナとリズベットは迷宮区に突入していき、俺はラーメンの具材を買って帰路に着いていた。
一緒に行かないかとは誘われたものの、大体のお誘いは断るのが俺。気付けば勝手に口が動いて断っていた。いつも通りの「いや今日ちょっとアレなんで」が口をついて出たのだ。
そう言う訳で、らんらん♪らんらららんらーめん♪と鼻歌を歌いながら俺は20層のマイホームへ帰る途中だった。
―――ところで、歌にはなにかしら惹き付けるチカラがあると俺は思うのだ。例えばアイ○スやら、ラブラ○ブやら、アニメで言えばけ○おん!とか。大体人気があるものだ。特にライバーが一時大増殖して、社会問題になったことまである(ないです)。
つまり、俺が何を言いたいのかと、だ。
「ふふ」
「―――ッ!?」
俺がラーメンの歌(自作)を歌っていたせいで、よくわからんモノを引き寄せてしまったかもしれない―――という荒唐無稽な考えが浮かぶほど、俺は混乱しているということだ。
―――なんの前触れもなく、索敵に引っ掛かることもなく突然目の前に現れた少女を見て、俺の背筋を悪寒が走る。例えるなら、クォーターポイントでのボスと相対した時に近い。人の域を遥かに越えたチカラを持つバケモノと対峙した際の感覚に限りなく近い。
気付けば、思わずバックステップで飛び退いていた。
「ふふ、怖がらなくてもいいのに。可愛いですね、兄さんは」
「―――索敵にも引っ掛からねえバケモノが何言ってやがる」
あと俺の妹は天上天下に小町一人のみだ。
そんな悪態を吐きつつも、俺は少女から目を離さない。いや、離せない。―――一瞬でも目を離せば、やられる。そんな予感が、俺の中にあった。
.....カーソルも表示されず、索敵にも反応しない。挙げ句の果てに幼女に限りなく近い少女。武器も防具も無し。もう怪しいどころの騒ぎではない。
......靡く黒髪に、夜風に翻るワンピース。整った、いや整いすぎた顔は超然とした笑みを浮かべてこちらを見ている。
その手に武器はない。素足で地面の上に立っている......いや、
―――こいつ、ド○えもんみたく地面の上に浮いてやがる―――ッ!
「―――お前、Mobか?」
「あんなのと一緒にしないで下さい、兄さん」
「そうか―――じゃあ聞くが、お前は
「それは、イエスかノーかで答えろと?」
「ああ」
「そうですか。なら―――」
その答えは、イエスです。
それを最後まで聞くことなく、俺は二振りの短刀を抜刀し、少女に斬りかかる。
瞬時に間合いを潰し、下段からアッパーのように斬り上げる。迫る金剣は残像すら残して少女の喉元に食らいつく―――
「危ないですね、兄さん」
「なっ」
―――ことはなかった。
神速の剣撃は少女の肌の数ミリ手前で静止していた。そして、肌と剣の間に挟まれるようにしてポップしている
「
「肯定です、兄さん。.....だけど、こんないたいけな少女に斬りかかるだなんて」
不味い。そう思考する暇もなく、次の瞬間に俺は吹き飛ばされた。
「―――ふふ。おしおき、です♪」
「ぐッ.......がァァああ!?」
少女の手の一振りで、凄まじい速度で吹き飛ばされた俺は民家の壁に叩きつけられる―――と同時に俺の四肢を剣が貫く。思わず呻くが、更に追い討ちをかけるように鎖が俺の体を縛り上げた。
「―――くそ、が」
「兄さんが酷いことするからです。―――ああ、安心してください。ここら辺一帯はシステムに干渉してプレイヤーが侵入できないようにしていますから」
何処にも安心できる要素がねえよ。
そう呟きかけたが、出てきたのは呻き声のみ。何気に痛い。剣が貫いている箇所がじくじく痛む......継続ダメージって痛いんだな。
「うーん、じゃあ剣は外しますね」
そんな此方の心を読んだのか、少女がパチンと指を鳴らすと剣が消え失せ、俺は地面に墜落した。痛い。ちなみにまだ鎖でぐるぐる巻きになっている。
「―――何のつもりだ」
「そう怒らないで下さい。別に私は兄さんを殺しにきた訳でもないし、兄さんと敵対するつもりはありません。プレイヤーとして見れば、私は茅場昌彦サイドの存在ですから、暫定的に敵だと言っただけですよ」
「.......そーかい。んで、何が目的だよ」
俺は至極あっさりと抵抗を諦めた。どうせこちらは何もできないのだ。そもそも、この空中から出現した鎖といい民家の壁から生えた剣といい、こいつはかなり高位のGM権限のようなモノを持っているのだろう。しかも不死身と来た。なにこのチート。
「........ふふ。やっぱり変わってますね、兄さんは。普通の人なら、理解はしても納得はしませんよ?」
艶然と笑む少女を見て俺は舌打ちした。一体何が目的なんだこいつは?判断材料が少なすぎてわからない。
「私の―――
「なに......?」
「ああ、私のことは―――そうですね、ユイとでも呼んで下さい」
少女―――ユイが再度指を鳴らすと、鎖が消滅する。
「―――
「―――What?」
唖然とした俺は何も間違ってないに違いない。急展開すぎてもうよくわからん。
もう色々とツッコミ所が有りすぎる爆弾発言を、この少女はするのだった。
大体5000文字です。え、少ない?これからに期待してください。
ユイが全然違う方向に。そう、これはキリアスじゃなくなったバタフライエフェクトなのよ!(無理矢理)