やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
十二話です。ドゾー。
―――町が、燃えていた。
響きわたる怒号と悲鳴。砕け、崩壊する建物。さらに明らかに人のモノではない咆哮も響いている。
空には全てを吸い込むようや黒い太陽が浮かび、もはや街は地獄と化していた。
一瞬、何故アンチクリミナルコードが存在するはずの町にMobがいるのか、と混乱したがすぐに頭を振って自嘲する。―――今更何を言っている。■層から、圏内なんてモノは無くなったじゃないか。
―――俺が、奴の正体を看破していれば。
毎日のように襲ってくる後悔。だが、後悔なんぞしている暇はない。俺には救えなかった。
―――たった一人、俺が全てを犠牲にしても救いたかった■■■すら、救えなかった。
ならば、この手が届く範囲の全てを救ってみせよう。それが俺の贖罪であり―――■■■を救えなかった俺の義務だ。
「―――
■■システム。意志が力を生む、というふざけたシステムだ。強靭な、それこそカーディナルを上回るほど強烈な意志を持つ者に与えられる奇跡に等しい力。これがなければ、俺達は奴に対抗出来ないに違いない。
俺に与えられた■■の力は、模倣。武器の創造?否、創造と言うにはおかしい。これは、ただストレージにある武器、そして自分が記憶する武装を限定的に模倣するだけだ。
暗示の意味を込めた言葉を呟くと同時に、手の中で電子の光が走り―――深紅の槍が形成される。俺が模倣したのは、彼女の槍だ。
■■■■■が鍛え上げ、■■が使う死の槍。恐らく今は、彼と一緒に50層の防衛をしているに違いない。
「フッ―――!」
俺が立っていた時計台から跳躍し、上体をしならせるようにして―――全身の筋肉をバネにすることで全力の投擲をする。
俺が最も多様する剣技、ヴォーパルシュートだ。
紅の光を纏う深紅の槍は三体のMobを貫き、消し飛ばす。
「.....きりがないな」
再度投影した槍を投擲し、俺は最も使い慣れた短刀を両の手に再現する。そして逃げ惑うプレイヤーへと迫らんとしている牛型のMobへと地を蹴る。
「そこを、退け―――ッ!!!」
稲妻の如く放たれる剣閃は、牛型に反応する速度すら与えず切り刻む。白と黒の乱舞、ある種の完成へと至った技は、
「チィッ!?」
牛型を倒す、と同時に背後に気配を感じた。回転するようにして敵の攻撃を弾き、更にアッパーのように左の白剣で斬撃を見舞う―――が、回避される。
「やはり貴様か.......ッ!」
俺を後ろから斬りにきた敵を見た瞬間に、俺の脳が沸騰するような感覚に襲われる。こいつは、■■■の仇だ。こいつが、俺の目の前で、■■■を―――!
黒いフードの奥で輝く深紅の瞳。それが細められ、ぞっとする程の寒気が背筋を走り―――同時にそれを吹き飛ばす程の殺意が俺の全身から沸き上がる。
殺す。殺す。殺す。こいつだけは絶対に俺の手で殺す―――!
「
俺の■■は模倣。故に彼の剣技を模倣可能だ。成功など当然。もとよりこの身体は、そのためだけに特化してきたモノだ。
彼の剣、そして彼自身の思想思惑道徳信仰から彼の技、
「ぐ―――
右の黒刀が砕け、「
左の白刀が砕け、「
システムに拒絶されるのを■■の力で無理矢理抑えつける。全身に走る痛み、それを捩じ伏せて彼がいつもやる構えを模倣する。
さあ、
「
―――殺す!
「―――
※※※※※※※※
「―――なんか変な夢、見た気がする」
ぱちりと目を開けると、知らない天井。―――つまり、宿屋の天井だ。
俺は顔をしかめて上体を起こした。最悪、とは言わないがなかなかに悪い寝覚めだった。どんな夢かも思い出せない。
ぐぐぐーっと伸びをした後、はあ、と溜め息を吐いてベッドサイドから降りて俺は立ち上がる。
うあーとゾンビかグールのようなうなり声を上げながら洗面所に突撃し、顔を洗う。真冬の早朝の冷水の感覚が一気に目を覚まし、俺は思わず犬のようにぷるぷると首を振った。
備えつけられた時計を見ると、指しているのは午前五時半。うむと頷いて俺は窓を開く―――うお眩し!天津飯かよ!
アインクラッドは構造上、早朝と夕暮れにしか太陽を見ることは出来ない。久しぶりに見る太陽に俺は目を細めた。
手早く装備を着替え、鞘に納めていた剣を手に取る。10本ほどナイフを納めたベルトを腰に巻き、青色のマフラーを首に巻く。
さて、今日もクソゲー攻略頑張りますか。
※※※※※※※
早朝の鍛練を終えた後、俺は48層の主街区、リンダース?のレストランで朝食であるサンドイッチモドキをもっさもっさと咀嚼していた。うん、なんでNPCの作る料理って微妙なモノしかないのだろうか。普通サンドイッチに魚は挟まねえよ。不味くはない。が、旨くもなかった。見た目はアジっぽいのに味は鮭。違和感しかない。
なんつー微妙な味.....と、むしろ感嘆しながら朝食を終えてサイゼに似た店から出た。うん、今日も一日がんばるぞい。
と、そこで後ろからだだだだーっという音とともに聞き覚えのある声が響く。
「―――見つけたっ!」
「んだよ.....」
逃げようかと思ったが、先に前に回りこまれてしまってしまった。ハチマンは逃げ出した!しかしまわりこまれてしまった!どうする?
「あんた、またしょーもないこと考えてるでしょ」
「だからなんでお前は俺の思考読めるんだよ、リズベット」
ポケ○ンであればてれれってれれってれれってれれっと戦闘BGMが流れ出すだろう。そう、野生のリズベットだった。
「......何か用か?」
「あんた、ちょっと金貸してくれない?」
「カツアゲだぁ――――――ッ!」
「違うわよっ!?」
《悲報》リズベットがスミスからカツアゲに転職した模様。
俺が思わず叫ぶと、リズベットが顔を真っ赤にしながら否定する。うむ、ノリが良くてよろしい。
「で、何買うんだ?というかどのくらい必要なんだよ?」
「あ、あんたさらっと話戻すわよねえ....!」
なにやらこめかみを痙攣させるリズベット。や、だってこいつ律儀に反応返してくれるんだもの。芸人冥利に尽きる。芸人じゃねえけど。
「まあいいわ.....そうね、300万必要だから、」
「おいちょっと待て」
「?」
「わんもあぷりーず」
「300万」
「―――マジ?」
「マジ」
なん..........だと.............?
さんびゃくまん。英語ならすりーみりおんである。ざっと俺の貯蓄の五倍である。思わず硬直してしまった俺を誰も責めることはできないと思う。
「すまんが無理だ。生憎俺の貯蓄はその三分の一にすら届かねえ」
「ちょ、待ちなさいよ」
やべえこいつはやべえ、連帯保証人にでもされたら敵わんと俺は逃げ出したが、あっさりマフラーを捕まれて「くぴぃ」と絞められた鶏のような声が出てしまった。
「カツアゲどころじゃなかった!闇金だった!」
「人聞きの悪いこと言うなぁ!」
はーなーせー!と俺はジタバタしてみるも、通用しない。く、こいつ筋力値高い......!
「―――あれ?リズ.....と、ハチマンくん?」
「アスナ!助けてくれ!臓器売買される!」
「誰がんなことするかぁ―――!」
「は、はい?」
※※※※※※※※
「ふぅん、それであんな所でケンカしてたんだ」
「俺は悪くない」
「あんたが逃げようとするのが悪いんじゃない」
むぅ、と拗ねたように口を尖らせるリズベット。思わず子供か、と言おうとしたがよく考えたらバリバリ中学生やってたな.....と思い直す。ビリビリ中学生ではない。
けど、攻略の鬼ことアスナさんもリアルだと中学生なんだよなあ....やたらファンとかいるけど、リアルだとロリコン扱いされると思うんだが。ちなみに俺は雪ノ下や由比ヶ浜のお陰で美少女耐性は付いてるし、そもそも歴戦のぼっちたる俺はそんな餌には釣られクマー!.....あれ?この表現じゃ釣られてね?
そんなぼっち特有、もしくは俺特有の無駄無駄思考を現在進行形でしている俺は、またサイゼ感溢れるNPCレストランにいたりする。リズベットもアスナも朝食を食べてなかったらしい。二人とも、横でサンドイッチをはむはむしながら微妙な表情をしている。
「というか、アスナっていつも護衛?みたいなのがついてたよーな気がするんだが」
「今日はオフの日だから、いないよ」
あ、オフとかあるんですね。攻略の鬼でも休みはあるのね。
「へー、アスナでも休むことってあるのねー」
「私だって休みくらいするわよ。大体、二週間に一日くらいのペースかな」
「そ、そうなの....」
二週間に一日て。ハードすぎやしませんかね?
若干引き気味なリズベットと俺だが、気を取り直してリズベットの300万騒ぎについて話始める。
「で、結局なんのために300万も必要なんだよ。なに、親父が心臓病で緊急手術でも必要なの?」
「なんでそんな連ドラみたいな展開になるのよ......家よ、家」
「家?え、それで300万もすんの?」
「すんのよ、それが」
えー、俺の時は100万届くか届かないかレベルだったのに、ざっとそれの三倍はするのかよ。どんな豪邸だ。
「300万ね.....そんな大金集めるのも一苦労ね」
「俺でもちょこちょこ貯め続けて50、60万くらいしかねえな」
別に貸してやっても構わないんだが、なにせ金額が金額だ。返済やらの目処の前に集まりきるかというレベルなのだ。貸そうにも、なかなかに辛い。
「うぅ....ライバルいっっぱいいるのにぃ....」
「しかも時間制限付きかよ」
いや、それだけ人気のある土地だからこそ、高いのか。
はあ、と三人同時に溜め息を吐く。―――どうやら、今日はリズベットの集金作戦に時間を潰されることになるようだ―――と、俺は更にもう一度溜め息を吐くのだった。
キンクリしてもう48層。そろそろハーフポイント考えねば。やっぱ原作沿いのボスがいいのかな?