やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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次は目指せ1000!・・・ってのは欲張りすぎですかね。

では八話です。ドゾー。


八話 やはり彼は働きたくない。

 

 

「黒いポンチョを着たPK、カ」

 

「知っているのか雷電」

 

 

リズベットと別れてから一時間。時刻は6時を回るか、というところで俺はアルゴと夕食を食べていた。珍しく27層のNPCの店で、だ。

 

海鮮パスタもどきをつついているアルゴはうーんと唸った後に俺の疑問に答えた。

 

 

「.........二層で起きた詐欺事件を知ってるカ?」

 

「んなことあったか?」

 

 

二層と言えば、キリトに喧嘩売っちゃったくらいしか覚えてない。あとはあの体術のときのクソ親父くらいか。素手で岩割れ、とか鬼畜か。あれはもうトラウマだ。

 

 

「一時は情報屋やってたんダ、それくらい覚えておいて欲しいんだけどナ.....」

 

「知らねえのか?人間の脳ってのは無意識のうちに情報の取捨選択をしてるんだ。忘れるってのはその機能のひとつで、人間の脳がパンクしないようにするための一種の安全装置でもあってだな」

 

「うんわかっタ。ハチマンが忘れたってのはよーくわかったヨ」

 

 

うんざりした表情のアルゴが俺の言葉をぶったぎる。失礼なヤツめ。

 

 

「簡単に言えば、あるスミスによる強化詐欺ってヤツだヨ」

 

 

ぽつぽつとアルゴが説明するのを聞きながら、そーいやそんなことがあった気がしないでもないよーな、と俺は記憶の引き出しをひっくり返していた。それにしても、

 

「というかそいつアホだろ。そんだけやりゃバレるわ」

 

 

いくらネトゲで物欲センサー的なアレが発動することがあるにしても限度がある。いやまあぷそ2とか酷いけどな。ソースは俺。

 

 

「ま、結局キー坊とアーちゃんにバラさらて、改心したららしいけどナ」

 

「........あいつもつくづく甘ちゃんだよな」

 

 

そいつのせいで人が死んだ可能性すらあるというのに。―――恐らくは、人の命を背負うことが恐ろしかったんだと思うが。

 

冷静に考えれば、俺もそうだがキリト達も、世間一般の中ではガキだ。

ただの中学生のゲーマーが、覚悟を決めて命を奪うことなんて出来やしない。俺のようにどこか達観してるふりをしていても、ヒトの命を奪う重さなど背負いきれない。

 

 

人が人を適正に裁くことなど出来ない。誰もが納得するような罰を与えることなど不可能だ。―――それこそ、神でもない限り。

 

キリトが行ったことは、問題を先送りにしただけかもしれない。そのプレイヤーは、現実世界に帰れば裁かれることもあるだろう。―――まあ、俺とは関係ないと言えば関係ないが。

 

 

「そっちのことは置いといて、ダ。―――そのスミスに、強化詐欺のやり方を吹き込んだヤツがいたらしくてナ」

 

 

そいつ曰く、黒いポンチョを着た男だったらしいヨ。

 

 

そう言い切って、アルゴはグラスに注いだコーラを飲み干した。

 

 

「―――黒ポンチョの男、か。厄介だな」

 

 

PKプレイヤーの黒いポンチョの男。そいつがなぜ強化詐欺を斡旋したのかわからないが、恐らくろくでもない目的だろう。

 

アレらは恐らく狂人の類い、つまりいわゆるサイコパスというヤツらに分類されるだろう。人を殺しても罪悪感を抱かない性質を持つ、殺人の才能を持っている人間だ。

このSAOというゲームのシステムもまた悪い。プレイヤーの体力がゼロになっても、血を撒き散らして死ぬわけでもない。ただゲームのように、いやゲームそのものなのだが―――ポリゴンとなって砕け散るだけ。死ぬ、ということに実感が伴わない。

 

 

「一応、プレイヤーには広めておくヨ。複数だったのカ?」

 

「ああ。複数っつっても二人だったが、下手すりゃもっといるぞ、あれ。しかも攻略組―――俺と同じくらいには強い」

 

「........ハチマンと同格、カ。それはヤバいナ」

 

 

下層に拠点がある「軍」に警備を頼んだほうがいいかもナ.....とアルゴが呟き、俺は嘆息した。色々と問題が多すぎる。

 

 

「キリトの件もあるし、めんどくせえ.......」

 

そう俺が呻いて机に突っ伏すと、アルゴがなにやら面白そうな話を吹っ掛けてくる。

 

 

 

「あ、そーいえばキー坊とサチが同棲してるとの情報があるゼ?」

 

「........それ、マジ?アスナに知られたらヤバいんじゃねえの?」

 

「ちなみにアーちゃんとキー坊は付き合ってるわけじゃないからナ?多分」

 

「あ、そうなのか?あんだけ二人で行動してるからてっきりリア充謳歌してるのかと思ったんだが」

 

「キー坊はヘタレでチキンだからナ」

 

「....なんだそれ、体験談か?」

 

「んニャ!?いや、その」

 

「そうかそうか。まあ、なんだ。頑張れよ」

 

「え、ちょ、違」

 

「ライバル多そうだよな」

 

「ちょま」

 

「本命がアスナ、いやサチか?んで対抗馬がアスナ、ダークホースでアルゴ」

 

「にゃアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

そんなこんなで、虚構の夜はふけていく。

結論、アルゴは弄ると案外面白かった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「ああくそ、めんどくせえ」

 

若干うんざりしながらも俺は27層の主街区であるロンバールだかなんだかの中を歩いていた。暑い。今日は暑い。物理的にも、精神的にもガリガリ削られる。

.......確か、今はリアルだと夏だったか。ここまでシンクロさせなくても。ガリガリくん食べたい。

 

 

そしてさすが現在最前線の層の主街区、人が多いこと多いこと。もう視覚的にも暑苦しい。ちらほら見たことのある顔もある。恐らくは攻略組だろう。

 

 

集合場所どこだったかな....ときょろきょろ辺りを見回していると、トン、と肩を叩かれた。

 

なに?新興宗教の勧誘?と振り向くと、ぶすりと指が俺のほっぺたに突き刺さる。痛い。

 

誰だよ....と目を一層腐らせながら小学生並みのいたずらをしてきた犯人を見ると、そこにいたのは赤と白の制服を着て、クスクスと笑うアスナだった。

 

 

「んだよ....」

 

「ご、ごめんなさい....だけど、その、反応が猫みたいで面白くて......!」

 

 

振り向いてもまだ爆笑しているアスナを見てイラッとした俺はくるりとターンして歩き始める。付き合ってらんねえ。そーゆーのはどこぞの黒の剣士相手にやっとけってんだ。

 

 

「わー待って待って!というかそっちじゃないから!」

 

「......」

 

 

マフラーの端を捕まれて、俺は止まらざるを得ない。ギロッとアスナを睨むと、やや怯んだ顔でアスナが釈明する。

 

 

「その、ハチマンくんが全然違う方向に行こうとしてたから声をかけようと思って」

 

 

はぁ、と俺は溜め息を吐くとアスナが行こうとしていた方向の通りへと足を向ける。慌てて俺の横にきたアスナが、少し不安そうにこちらに話しかけてくる。

 

 

「........もしかして、怒ってる?」

 

 

はぁ、と俺は再度溜め息を吐いて答えた。

 

 

「―――別に怒っちゃいねえよ。俺はぼっちだからな、そーゆーノリがあんま理解できねえだけだ」

 

「そ、そう.....」

 

 

不安そうな目が、若干俺を哀れむような目に変化する。あるぇ?なんで?

 

 

「......んで、今日はなんで俺まで呼ばれてんだよ。正直かなりめんどくさいんだが」

 

俺は誤魔化すように話題を変える。秘技・話題転換。実はさらに絶技・「あ、ちょっと電話」と奥義・「俺の母ちゃんを馬鹿にするのか!許せねえ!帰らせてもらう!」の二つがある。ちなみにどれも平塚先生には通用しなかった。南無三。

 

 

「ちょっとね。今回のボスは、ハチマンくんが一番役に立ちそうだなって。..........あとあの中で一番頭が回りそうなの、ハチマンくんだし」

 

「あん?今までの作戦とかって、ほら、お前が立ててたんじゃねえの?」

 

「そうだけどね。........あと、そのお前って言うのやめて。アスナでいいわ」

 

「お、おう」

 

 

なんか最後らへんがマジトーンで思わず了承してしまった。そんなにお前って呼ばれるのが嫌なのか......なにかトラウマでもあるのん?

 

 

「まあ、推薦したのはユキノさんなんだけどね」

 

「何言っちゃってくれてんだあんにゃろ.......」

 

 

俺はうんざりしたが、それが思いっきり表情に出ていたのだろう。アスナが苦笑する。

 

 

「それだけ信用されてるってことじゃないの?」

 

「どうだか」

 

 

とりあえず俺は働きたくないのだ。働いたら負け、とまでは言わないが。―――限界まで働かない、それが俺の正義。

 

「ほら、ぶつくさ言ってないで入った入った」

 

「めんどくせぇ.....」

 

 

そんなこんなで働きたくないでござるぅー状態な俺は、国会議事堂に似た建物の中に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「さて、とりあえずみんな掛けてくれ」

 

 

 

青い制服を着た聖竜連合のリーダー(リンドと言うらしい。最近になって初めて知った)の呼び掛けに応じてばらばらと攻略組のメンバーが着席する。ちなみに俺はすでに着席して頬杖をついていた。いや、だって暑いしめんどくせぇし。割とグロッキーだ。

 

リアルが夏だからこの暑さなのなら、リアル時間によってイベントでもあったりするのだろうか。

会議を聞き流しながらそんな事を考えていると、ふと小町のことを考えてしまった。

まいりとるしすたー小町。俺の妹であり我が家のトップ、ではなく二番目に位置するハイブリッドぼっちである小町だ。ちなみに我が家のトップは猫のカマクラ。猫様だ。俺は言わずもがな最下位。いじめいくない。

あいつ、勉強しているだろうか。うちの高校はなかなかに偏差値が高いしなあ.....。

 

―――いや小町のことよりよく考えたら、俺ってこれ出席日数足りない子だよな?このクソゲークリアしたらどーゆー扱いになるんだろうか。留年とか嫌だ鬱だ.....コマチウム.....コマチウムが足りぬ......

 

―――と若干アホなことを考えていると、横から肘が俺のレバーをえぐって思わず「モルスァ」と奇声を発してしまった。ついでにリンドさんにギロリと睨まれた。怖い。更にユキノさんにも睨まれた。超怖い。

 

 

しぃましぇん.....と身を縮めると、俺を肘で殴った犯人を横目で睨む。案の定アスナだった。

 

 

「話聞きなさいよ。ハチマンくんも関係してるんだから」

 

「あいよ.....」

 

 

確かに俺が悪かったので何も言えない。あと更にユキノさんからの視線の温度が下がった気がする。

 

 

「......それで、だ。今回のボスは25層のボスと同様、飛行型のようだ。....そこでハチマンに働いて貰う」

 

なんで俺?と思ったが、すぐに納得した。というか、もうボス攻略会議ということは一週間そこらで迷宮区を攻略したのか。凄いのな。最近の攻略スピードは目を見張るものがある。その調子で俺の代わりに頑張ってくれたまへ。

 

 

「最も遠距離攻撃に特化しているハチマンをパーティーリーダーにして、投槍のスキルや、投剣スキルが育っているメンバーを中心に選抜、遠距離攻撃部隊を組む」

 

 

確かにこの中じゃ投剣スキルの熟練度を900に達するまで上げているのは俺くらいのものだろう。.....手裏剣術はちょこちょこ上げている。普段ソロなのがここで役に立つとは思わなんだ。他人に見られないように上げるのもやりやすい。パーティー組んでたりギルドに入っていたら、こうは行かなかっただろう。

 

それにしても、俺はなんでこんなに遠距離特化なのだろうか。八幡の名前の由来である八幡大菩薩が弓の名手だからだろうか。ドウモ、アーチャー八幡デス。

 

 

 

「ボスの名前はThe Load of dragonfly(蜻蛉の王)。―――誰も死なずに勝つぞ」

 

 

 

 

 




最近は4000文字を目安に執筆中。このまま文字数増やせたらいいなあ.....

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