やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
それでは連日投稿です。ドゾー。
「速すぎでしょ、あのバカ....!」
ハチマンに置いてきぼりにされたリズベットは悪態を吐きながらも、ハチマンが走っていったであろう通路を追走していた。
レベル差が凄まじいのもあるが、基本的に敏捷特化のビルドなのだろう。リズベットがあの速度を出すには、疾走スキルを持っていたとしても無理だ。
「なんだってんのよ、もう!」
先程の悲鳴らしき声は恐らくプレイヤーのものだ。プレイヤーがMobに殺されかけているか、下手をすればMPKかPKの可能性もある。
........さらっとこちらをディスったり屁理屈ばかり言ったり目が腐ってたり笑いかたが卑屈だったりするが、こうして助けに行ったりする限り、実はあいつ良いヤツなのかもしれない。
けどまあ、あいつのことだから「プレイヤーという枠内に収まっている限りあいつらが死ぬことはデメリットにしかならねえだろ。茅場を敵だとすればプレイヤーは概ね味方だ。味方をさっくり見捨てるヤツは戦場で真っ先に死んでいく................って漫画に書いてあった気がする」とか言いそうだなあ――――――と、たった2時間と少ししかハチマンと関わってないはずのリズベットは、既にハチマンを理解しつつあった。
そうして走るリズベットの目に入ったのは、半開きの扉。おそらくそこにハチマンがいるだろうと当たりをつけたリズベットは扉の内側に足を踏み入れるが―――
「なっ―――」
部屋の中に響き渡る金属音。細身の剣を持った、子供のようなプレイヤーと両手に剣を装備した目が腐ったプレイヤー―――つまりハチマンが凄まじい速度で剣の応酬を繰り広げていた。
両手に剣を装備している―――まずこの時点でリズベットは混乱した。
これはすなわちイレギュラー装備状態、虎の子のソードスキルが使えない状態に他ならない。―――だが、ハチマンは一方的に剣を叩き込んでいるかのように見える。
どちらとも敏捷特化なのか、その剣速だけでも目を見張るモノがある。
―――が、一番おかしいのはハチマンだ。両手の金の短刀と黒の短刀―――つまり霊鋼を巧みに操り、先じてソードスキルのモーションを潰すことでソードスキルを使わせず完封しているのだ。
「凄い.....」
思わず感嘆の呟きが口から漏れる。
ハチマンの動きは言わば舞踏に近く、左右の剣による連撃を僅かな間もなく繋げている。
剣の舞踏を見ているうちに、リズベットは気付いた。―――ハチマンの動きは、攻撃と防御が一体となっている。そして、守りが主体だ。
右の金で敵の斬撃を弾けば、体を回転するようにして左の黒でカウンターのように袈裟懸けに斬り、さらに連続して繋げていく。
―――攻撃と防御をくるくると入れ替えるようにして敵を翻弄しているのだ。両手に武器を持っている最大の利点、手数の多さを最大限活用している。
そこでふと、リズベットは恐ろしくなった。
―――ソードスキル無しでこの強さならば、もし双剣のようなソードスキルがあれば、どれだけ強くなるのだろうか。
そんなことを考えているうちにハチマンの金剣が少年の剣を手から弾き上げ、霊鋼が少年の胸に突き刺さる。さらに追い討ちをかけるように金剣が胸を貫くようにして少年の小柄な体躯を吹き飛ばした。
黒いポンチョを着た人物が少年を受け止め、少年が何かしらハチマンに向けて叫んだ。同時に黒いポンチョの人物が懐から転移結晶を取り出して砕き、消える。
「あんた.......今の、なに?」
色んな意味を内包した問いかけ。だがそれを聞いてこちらを振り向いた彼の表情を一言で表すなら、「うへえ」といったものだった。
―――よし、こいつ殴る。
自分を置いてきぼりにした挙げ句、その表情はなんだ。
内心では、レベル差によるしょうがないことであり、おそらく一刻を争っていた―――とはわかってはいたものの、女とは感情的なイキモノである。そんなコトは関係なかった。
とりあえず、リズベットは拳を握りしめながらハチマンに近付くのだった。
※※※※※※※※
PK。プレイヤーキル、もしくはプレイヤーキラーの略称だ。
PKが許されているゲームはFPSなどではよくあるが、他ではなかなか少ない。SAOのようなRPGではなおさらだ。ここでも茅場昌彦の悪辣さが滲み出ているのを実感できる。
また、MPK―――モンスター・プレイヤーキル、もしくはキラーというのも存在している。簡単に言えば、湧いた大量のMobを擦り付けてプレイヤーを殺すのだ。わざとだろうとわざとでなかろうと、正直、これは普通のPKより質が悪い。
とまあ、ここまで説明したんだが―――
「おい、なんで俺は殴られたんだ?」
「自分の胸に聞いてみなさい」
つーんとそっぽを向くリズベット。俺、なんかやっただろうか。置いてきぼりにしたことを根に持ってたりして。
ふむ、胸......胸ねえ。そこでまな板標準装備の某氷の女王を考えてしまって少し悪寒が走った。ダメだ、あいつのことを考えてはダメだ。
ふむん、ガハマさんはメロン、アルゴは―――あいつはお察しだな、うん。じゃあリズベットは―――
「からどぼるぐッ!?」
ごすっという音と共に脛を蹴られる。痛い。超痛い。こんなとこまでリアルにしないでも。
「あんた、今なんか失礼なこと考えてたでしょ」
「め、滅相もない」
「思いっきり目が泳いでるんだけど......」
リズベットに睨まれて明後日の方向を向いて誤魔化す。いや、確かに今のはナチュラルにゲス思考でしたはい。けど、なんでこいつはナチュラルに俺の思考を読めるのん?
「あんた、考えてることがわかりやすいのよ。よく言われない?」
「いや、初めて言われたんだけど」
「そーなの?目とか見たら、わかりやすいと思うんだけど」
目の腐り度とかで判断できたりするのか。なんだそりゃ。
「そーねえ。案外、相性が良かったりするのかもね」
「...........や、その言い方はどうかと思うんだが」
「何が?」
どうやら本当に分かってないみたいで、小首を傾げるリズベット。よく見たらこいつも何気に可愛いと呼べる顔なのがわかる。ユキノとは違ったベクトル、どちらかと言えばガハマさんか。
ユキノが高嶺の花どころかギアナ高地に咲く花レベルなのに対して、リズベットは手の届きそうな感じだ。何気にこいつモテるんじゃないだろうか。
「というか、聞かないんだな。俺の......ほら、戦いかたとか」
「別に、ちょっと疑問が解けたくらいよ。なんであんたがあたしの霊鋼を持ってたのか、とか」
攻略組だし、あーゆー戦いかたもあるんでしょ?と尋ねてくるリズベットを見て、俺は言及されずにすんだことに胸を撫で下ろした。
良かった、こいつが攻略組をやたら超強化仕様で想像してくれて。
「.........まあいいや、そろそろ帰ろうぜ。結構熟練度もレベルも上がっただろ?」
「あ、そーね。今日はありがと。........けど、あれはどうするの?」
「ん......まあ、アルゴにでも言っておくわ」
PKに関しては、アルゴに言って、プレイヤーに警戒するように促すことぐらいしか出来ないだろう。恐喝などをするオレンジプレイヤーどころではなく―――あいつらは言わば、レッドプレイヤーだろう。しかも実力も高い。
あの黒ポンチョに袋を被ったガキ。警戒するにこしたことはない。
「へー、あんたあの『鼠』のアルゴとまで交流あるんだね」
ほえー、と感嘆の意を示すリズベット。
.......うん、まさかラーメンたかりに来る仲だとは言えない。
「ちょっとした知り合いってやつだよ。攻略組に居れば、嫌でも関わることになる」
「そーゆーもんなの」
「そーゆーもんだ」
がしがしと頭を掻きながら答えると、ほーん、とわかったかわかってないのかわからない返事が返ってくる。
「―――そうだ、あんたあたしの店紹介してくれない?最近売れ行きが伸び悩んでるのよ」
「えーめんどくさい」
「いーじゃない。10層からのよしみだということで」
そう言えばそうだ。こいつとの関係.....というのもなんだが、こいつと知り合ったのも10層でこいつの露店で、武器を褒めたのが始まりだった。やたら感激してたのを覚えている。―――まさか、武器の名前が妙に中ニ心をくすぐっただけだとは言えない。
「お願いっ!武器のメンテとか、割り引いてあげるからっ!」
「タダにはしてくれねえのな。......まあいいけどよ」
アスナとかに紹介してみるか。どちらも数少ない女プレイヤー同士、気が合うかもしれない。
「ほんと!?ありがと!」
「あー、まあ別に大した労力じゃねえしな」
ぱぁっと明るくなったリズベットの顔を何故か直視できなくて、思わず目を逸らした。
リズベットが少しきょとんとするが、何故かくすり、と笑った。
「あんたって、案外良いヤツだよね。目が腐ってるけど」
「あん?いきなりなんだ、あと目については余計だ」
そう返すとリズベットがくすくすと笑う。一体なんなんだ。
「―――うん、やっぱりあんた、良いヤツだよ。あたしは好きだな」
『―――ううん、ヒッキーは優しいよ』
何故か、その笑顔はどこぞの団子頭と重なって見えた。
「―――あ、もちろんloveじゃなくてlikeよ?」
「わかってるつーの。百戦錬磨のぼっちなめんな」
そう返すと なによそれ、とリズベットがまた笑った。
「そ。じゃ、またあんたに頼むかもしれないけどよろしく」
「ああ、じゃあな」
いつの間にか転移門にまでたどり着いていた。俺はアルゴに報告しなければならないから、ここで別れることになる。
俺が上層へ向かう転移門へ歩いていこうとすると、後ろからリズベットの声がかけられた。
「―――今日は楽しかったわよ。またね」
「――――――」
思わず振り向いたが、すでにリズベットはいなかった。思わず苦笑する。―――言い逃げは、卑怯だろう。
―――失ったモノもあるが、得たモノもあるのかもしれない。失ったことを忘れてはならないが、得たモノから目を逸らすのも、間違っているのかもしれない。
まあ、なんだ。このクソゲーも、悪いところばかりじゃねえ。
どこかすっきりした気分になっている自分を自覚して再び苦笑した俺は、どこか軽い足取りで上層へと向かうのだった。
うん、なんかもう完全にオリジナルだなこりゃ。だが私は謝らない。
アスナが攻略の鬼になるのに対して、八幡はこの事で少し救われたりして肩の力が抜けます。女友達キャラって貴重。