やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

20 / 51

テスト前になると突然沸いてくる根拠のない自信。あれってなんなんだろう。


五話 突然、彼は誤解される。

 

「―――ハッ」

 

 

 

剣を振るう。自身のイメージ通りに双振りの剣の軌跡が描かれる。

 

 

『ソードスキルがあるからと言って、基本を疎かにする理由にはならないわ。むしろ、いかにしてソードスキルを放てるだけの隙を作るかの過程が重要よ』

 

 

そこには舞うような美しさはない。しかし俺もそんな剣を目指しているわけでしない。

 

 

『いいかしら。ここは現実ではないことを理解しておきなさい』

 

 

そう、ここは現実世界ではない。この体は電子によって再現された擬似的なもの。

 

 

『現実ならば、鍛練というのは自身の肉体の動きと自身のイメージのすり合わせ、といったところかしら』

 

 

だが、この世界の擬似的な感覚出力機関は自身の思う通りに動く。そこには肉や骨の物理的な障害などない。

 

 

『だからこそ、この世界の鍛練は言わばイメージの最適化。どこまでも速く、無駄なく鍛え上げていく』

 

 

無駄を削ぎ落とせ。言わばこれはもはや作業に近い、剣の研磨に等しい。疲労すらないこの世界では剣は無限に振るえる。

 

―――反応が反射に。経験が予測に。考えずとも敵を圧倒するべく自らのイメージを最適化しろ。

 

 

『あなたの最大の敵であり、最大の武器と成りうるのは自身のイメージそのものよ』

 

 

常に最強の自分を脳裏に刻め。森羅万象の一切合切を全て切り捨てろ。

 

振るう剣から迷いを無くせ。双剣は舞踏だ。攻防一体の型、常に重心を意識することで舞うように連続する斬撃。

 

 

『あなたはあなたのやり方を変えないのでしょう?なら、押し潰されないように自分を鍛えなさい。あらゆる外敵から身を守るために。あなたに救われる人も、確かにいるのだから』

 

 

―――。

 

 

『―――私には、あなたを止められない。こうしてあなたに教えることくらいしか出来ない』

 

――――――。

 

『だけど、忘れないで。―――比企谷くん。もう、あなただけが傷つくわけじゃないのよ』

 

「―――んなこと、知ってるっつーの」

 

 

 

今にも泣き出しそうだったユキノの顔を思い出して、俺は嘆息する。剣を振る手もいつの間にか止まっていた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

―――イレギュラー装備状態。それはシステム上あり得ない武器の装備をした際になってしまう一種のエラーであり、その際にはあらゆるソードスキルが使用不可能になる状態である。

 

両手に剣を二つずつ装備するのもそれに該当する。手裏剣術のように一部使用可能なスキルもあることから、このイレギュラー装備状態というのがシステムに全否定された完全なイレギュラーではないということがわかる。というかこの世界は驚くほど融通が効くのだ。

 

 

 

ちなみにこの手裏剣術というのはユニークスキルとユキノに命名された。曰く、入手条件も分からずスロットが自動で増えるエクストラスキルなど聞いたこともないらしい。バグではないと思うのだが。

 

 

 

本題から逸れたが、つまりこのイレギュラー装備状態である双剣スタイルは通常のソードスキルを使えない。

 

ユキノ曰く、「手裏剣術を使わざるをえなくなった時に使いなさい」。まずボス戦やMobと戦うときは使わないだろう。

 

―――つまり、これは対プレイヤーを想定したもの。そんなものは要らない気もするが、最近はPKもちょこちょこ現れているため使えるようになっておいて損はないとのことらしい。

 

 

通常のソードスキル使えないのにどうやって戦うのか、と聞いてみると「至近距離ならソードスキルを発動させる間もなく双剣で叩き潰して、遠距離なら手裏剣術を使えばいいじゃない」と言われた。

 

中距離になれば剣を片方手放して片手剣ソードスキルを使えとのこと。

 

 

―――無理だ。無茶苦茶すぎる。そんなの出来るわけねえ。戦闘中にそんな悠長には考えられない。

 

 

 

 

「...........ま、ぼちぼち頑張るとするかね」

 

汗すらかかない自分の手を見つめて、俺はそう呟く。

 

 

 

 

俺が今いるのは22層。キリトを探して居住区をさ迷っていた。

 

 

そこの露店で買った団子を口に突っ込んでむぐむぐしながらげんなりする。よく考えたら索敵スキルを持ってない俺はキリトを探すあてがないのだ。そんなのでよく安請け合いしたもんだ、と自分ながら呆れた。みたらしうまい。

 

 

うん、ほんとどうしよう。なんかスキル捨てて索敵を入れるか。だけど何を?料理か?―――ダメだ、俺のアイデンティティーが崩壊してしまう。レベル上げるか。......間に合わない、というか最前線27層でレベル51なのだ、これ以上上げてどうする。というか経験値的に上がらない。

 

 

 

現在のスキル構成としては、片手剣、投剣、隠蔽、体術、料理、戦闘時回復、武器防御、そして手裏剣術。

 

 

 

―――武器防御捨てようか。戦闘時回復は捨てがたい。上げにくいけど。ダメージ受けなきゃ上がらないとかマゾゲーすぎる。

 

 

「......武器防御捨てて索敵入れますかね」

 

なんとかのなんとかってアイテムが必要なんだったけ。.......アルゴに聞いてみるか。ぼったくられそうだけど。

 

 

「―――ちょっとあんた」

 

 

というかあんだけラーメンたかられてるんだから少しくらいは割引きしてくれねえかな。.......無理か。無理だな。アルゴ=守銭奴の方程式が成り立っている。

 

 

「ねえ、ちょっと」

 

 

アルゴとラーメンの関連性を考えていると、俺の作るラーメンのほとんどは醤油だということに今更ながら気づいた。いや醤油も旨いけど、よく考えたら豚骨こそ至高じゃね?

 

 

「ちょ、待ちなさいっての」

 

 

醤油、豚骨、味噌。他にも色々あるがやはり頂点は豚骨ではないだろうか。ちなみに、最近流行りの野菜たっぷりのヘルシーラーメンとかいう代物を俺は認めていない。アレはラーメンの冒涜だ。や、冒涜的なラーメンってなんかかっこいい気がしないでもないがそうじゃない。

 

 

「あっ、ちょ」

 

 

ラーメンというのはあの明らかに体に悪そうなのがいいんだ。それをヘルシーだペルシャだあ?本末転倒もいいとこだ。

―――話が逸れたが、やはり豚骨こそ至高だということだ。これは材木座や戸塚、そして平塚先生に聞いても同様の結論だろう。つまり俺のラーメンは醤油であるが故に不完全で未完成なモノだったということだ。

 

 

「こ、の」

 

 

俺のラーメン道は未だ途上だったのだ。豚骨を制してこそラーメン道を名乗れる。今までラーメンラーメン言っていたことが恥ずかしい。そう、俺のラーメン道はまだまだ始まったばかりだz――――――

 

 

 

 

「人の!話を!聞けやあああああああ!!!!!!!!!!」

 

「ぶちゃらてぃッッ!?」

 

 

 

 

 

 

決意を新たにしたところで突然ぶん殴られた。なんでさ。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

俺が殴られた原因。それは霊鋼。

 

 

 

憤然とした様子で俺を睨んでくる少女。最近多用するダガーやらナイフやらもこいつの店で買ったものがいくつかあったりする、言わば顔見知りだった。

 

 

霊鋼のステータス画面を見て俺は溜め息を吐いた。

 

 

―――霊鋼の製作者、リズベット。というかユキノさんよ、これプレイヤーメイドじゃねえか。何さらっと俺にあげてんだよ。明らかに贈り物だよ。

 

 

...........どうせあいつのことだから、「有効活用したほうが武器のためにもなるし、本望でしょう。なによりこの武器の所有権は私にあるわ、つまりどう扱おうと私の勝手ね」とか言いそうだ。

 

...完全に脳内再現ができてしまって思わず顔をしかめる。

 

 

 

「―――で、なんであんたがユキノさんにあげた筈のあたしの剣持ってんのよ?」

 

「だから、本人に貰ったんだっつーの」

 

 

あ゛?と胸ぐらを掴み上げてくるリズベットに俺は視線をずらしながら弁解する。俺悪くないよねこれ。あと近い近い近い。

 

 

「なんでよ!?それ、あたしの最高傑作、とは言わないけどかなり強い筈よ!」

 

 

がっくんがっくんも揺さぶられながらも俺は反論する。のーみそが揺れる揺れる。

 

 

「いや、確かに強いけどさ .......あいつ刀使いだろ」

 

「........................................あ」

 

 

間の抜けた表情で硬直するリズベットの手から逃れた俺は思わずジト目(端から見れば睨んでるだけ)を向けた。なんでそんなことも考えず渡したんだこいつ。由比ヶ浜と同じくアホか。

 

 

「な、なによその目ぇ!いいじゃない、その時あたしが持ってた中で一番強かったのがそれだったのよ!」

 

「あ、うん........」

 

 

俺が向ける目がジト目からアホを見る憐れみの目に変化したのを感じとったのか、うーうー唸るリズベット。犬か。

 

 

「.......けど、あんたなんでその子使ってるの?キンピカのがあるのに」

 

「―――あー、スペアだよスペア。いざという時の」

 

「嘘」

 

 

ビシッ!と指を突き付けるリズベット。え、なんでわかんの?

 

 

「.......なんでそうだと思うんだ?」

 

「女の勘って奴ね。あとあんたのその答えで確定したわよ」

 

 

あ、しまった。そう思うがもう遅い。ジト目でこちらを見るリズベットから目を剃らす。

 

「ハチマン、ゼンゼン、ウソツカナイ。ホントホント」

 

「まるっきり棒読みじゃないのよ!?少しは心込めなさいよバカ!」

 

「―――あん?お前にだけはバカって言われたくねえんだけど」

 

「なによ!?」

 

「んだと?」

 

 

 

険悪な空気が流れ、数瞬の間リズベットと睨みあう。が、すぐにアホらしくなって目を剃らした。や、別にビビったわけじゃないから。ハチマン、ウソツカナイ。

 

 

「―――ん?でも、なんであんたがユキノさんからこの子貰ってるの?.......まさか」

 

「あー、それは」

 

「ユキノさんと付き合ってるの!?」

 

「いや違うけど」

 

「嘘だ ......!ユキノさんが、よりによってこんな目が腐った犯罪者っぽい男なんかと.......!」

 

「いやだから違うんだけど」

 

 

わなわなと震えながら俺を罵倒するリズベット。酷い言い種だなおい。

俺がメンタル弱かったら多分泣いてた。あと目が腐ってるのはデフォルトなんで。

 

 

「―――決めた」

 

「はぁ」

 

 

ぴたっ、と停止した後、キッとこちらを睨んでリズベットが言い放つ。

 

 

 

「あんた、あたしのレベリングに付き合いなさい―――そこであんたがユキノさんに相応しいかどうか見極めてあげるわっ」

 

「あの......だから違うんだけど ......」

 

「男なら四の五の言うなっ!付いて来なさい!」

 

「えぇー」

 

 

なにこいつ理不尽すぐる。というか人の話聞けや。

 

 

 

そんなこんなで、キリトを探しに来た筈の俺は鍛冶少女リズベットに首根っこ掴まれて引きずられていくのだった。

.......なんでさ。もうハチマン意味わかんない。

 

 






ソードスキルはあくまでも必殺技的な扱いで、普通はそこに繋げるまでが重要だったりするのかも、とか思ってみたり。技後硬直とかありますし。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。