やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
まずはアバター作成か。
「アバター」とは、ゲーム内における自分の姿である。アバターは自由に設定でき、高身長であったり、イケメンであったり、美人、虚乳、色黒、赤髪、澄んだ眼、鋭い眼、腐ってない目などと自由に設定できる。現実でいくら腐った眼をしていようが、ゲーム内では腐ってないことにできるのだ。
こうして澄んだ眼をしたイケメンアバターが誕生した。雪ノ下にバレたら軽蔑されたりしてな……いや憐みの目で見られる気がする。むしろ小町が現実逃避する俺を見て泣かれるまである。
ソードアート・オンライン、略して「SAO」。
基本的に武器は接近戦用武器のみで、魔法なしのMMORPGである。
澄んだ目でゲーム内を見渡せば、そこは現実と言われても不思議じゃないほど美しいグラフィックの世界が広がっていた。いや、たぶん現実よりも美しい風景かもしれない。よくもここまで作り出せたもんだ。
景色を楽しむのもいいが、とりあえず町に入ってみるか。ああ、歩いていても本当に現実と変わらないな。もうここが現実でいいんじゃないかな。目が腐ってないし。町の中もRPGゲーのような町並みがしっかりと作られているみたいだ。
しばらくは、黙々と街中を探索した。
このゲームを少しやってみてわかった事がある。それは情報の有用性とその格差だ。戦闘をする前に始まりの町をぶらついて情報を集めようと思っていたが、NPC以外に、特定のプレイヤーが多くの情報を持っていることがわかった。
それはβ版テスター。奴らはサービス前からSAOをプレイしているから、一般プレイヤーよりも多くの情報を持っている。もしかしたらβ特典の装備なんかもあるかもしれない。まあそれはネットゲームにはよくあることだし、とくに不思議にも思わない。それに、こんな大型MMOなら、差なんてすぐに埋まるはずだ。
だから、俺はまず情報集めに専念することにした。βテスターだったり、ガイドブックだったり、NPCからも多くの情報を仕入れる。これが一番ゲームを進めるのに効率がいい気がする。ボッチパーティーならこんな地味な作業が許されちまうんだぜ!
ボッチ最強!
「また聞きたいことがあったら、いつでも呼んでくれ」
「ああ、サンキューな」
思い立って情報集めすること4時間、俺の持つ情報処理能力(笑)が火を噴いた。まあ、実際結構な量の情報が集まったわけだが、”支えな豆知識”から”討伐・攻略方法”までと幅広い情報である。
この調子で集めていけば情報屋でも開けるかもしれないな……。
とりあえず情報集めはこんなもんにして装備をそろえるべく、武器屋に入った。いや、入ったはずだったが、俺は武器屋ではなく、広場にいた。
……バグか?
と、思ったがそうじゃないらしい。広場には俺の他に、たくさんの数のプレイヤーがいた。うわぁ、人がゴミのようだ。どうやらSAOの管理者によって集められたらしいな。だが、みんな口々に「ログアウト」と言う言葉を発しているのが気になった。……ログアウトバグでも発見されたのか?
あれ? メニューにログアウト自体なくね? さっき見たときはあったはずだぞ。
ははあ、この不具合についての説明があるわけだな。SAO管理者もついてないな、初日からこんなバグが出ちまうなんて。
いや、俺が怪我人でよかったよ。現実でも別に約束も用事もない。怪我してなくてもないけどな!
そうこうしていると、上のほうから”warning”と書かれた無数のウィンドウが現れた。
うわ、空、赤!エフェクトが気持ち悪い感じになってんぞ。恐怖を助長してどうするんだよ、つーか怖いんでやめてください。これじゃプレイヤーを逆なでしちまうんじゃねえか?全然謝罪のふいんき(なぜか変換できない)じゃねえんだけど!
「プレイヤーの諸君、わたしの
ふぇぇ......怖いよぉ.......なんだこの演出......上空にでっけえアバターが浮いてんだけど。……ん?”わたしの世界”?
「私の名前は茅場晶彦。今この世界をコントロールできる唯一の人間だ」
なんでそんなに偉そうなんだよ! 不具合の謝罪しろよ!詫び石!
ってあれ?茅場ってあれか?このゲームの……ええっとあれだ、開発者だ。
……なんだか嫌な予感がする。
俺の危険回避センサーがさっきからずっと振りきっている。アホ毛のことではない。
周囲もざわついていて、「イベントか?」とかいってる連中もいた。こんな現実に支障をきたすイベントがあってたまるかよ。
「プレイヤーの諸君は、メインメニューからログアウトボタンが消滅していることにすでに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。SAO本来の仕様である」
「…………?」
つまり、どういうことだ? ログアウトできなくしたってことか?
集団催眠による監禁かなんかか? 俺の親、身代金払ってくれるだろうか……。いや、落ちつけ俺。とりあえず最後まで聞こう。
「諸君はゲームから自発的にログアウトすることはできない」
周囲のざわつきが一層大きくなった。
やはり、ネットワーク監禁みたいなものか。新しい技術が生まれるたびに犯罪の方法が増えるんじゃ人類の発展は難しいな。
だが、まてよ。自発的じゃなくて外発的ならいいんだろ?
一人暮らしだと無理かも知れんが、現実で誰かがヘルメットはずしてくれりゃログアウトできるじゃねえか。はっはっは、甘いな茅場、お前の監禁方法には穴があるぜ!
「また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除もあり得ない」
「もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
穴無くなっちった。
……え?ちょっと待てそんなんじゃ外部の人間が無理やりはずしたら死ぬってことだろ? こんなに数がいりゃ絶対何人か死んじまうんじゃねえか?
周囲のざわめきがうるさくてろくに考えられない。頭をフル回転させて現状理解しようとするが、茅場は間を空けることなく淡々と話を続けた。
「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族・友人などが警告を無視し、ナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、 その結果、213名のプレイヤーが、
アインクラッドおよび現実世界からも永久退場している」
「……は?」
ちょっとまて。いや、何を言ってるんだこいつは。永久退場って、死んだってことか?
……ふざけんなよ。なに人のせいみたいなこと言ってんだよ。どう考えても殺したのはお前じゃねえか。ここまでの間の213人はまるっきり無駄死にじゃねえのか。誘拐かなんかは知らねえが人質を取るにしてももっと安全なやり方はなかったのかよ。
茅場の周りに数個のウィンドウが浮き出した。ニュース画面のようだ。
「御覧の通り、多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが報道している。よって、すでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっているといってよかろう。諸君らは、安心してゲーム攻略に励んでほしい」
人が無意味に死んでるのに、何が安心できるっていうんだよ。いや待て、今こいつは何と言った? ゲーム攻略?
こんな状況でゲームやるわけねえだろ。何を言ってんだ?
「しかし、十分に留意してもらいたい。今後一切ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」
だから、何いってんのこいつ。ゲームなんてしねえって…………いや、もしかしてこいつ……
「諸君らが解放される方法はただ一つ、このゲームをクリアすればよい」
……なんてこった。
こいつの目的は監禁して身代金をとる事じゃなく、人間を使った本格的RPGをさせるためって事か。人を殺すのに躊躇ない分、誘拐犯よりもたちが悪いじゃねえか!
俺たちは、こいつの快楽に命がけで付き合わされるということか?
.................ふざけんじゃねえぞ。
無理やり人を捕まえずに、遊び相手くらい自分で探しやがれ。俺はボッチだが、遊び相手がいなかったからと言って無理やり付き合わせたことはねえぞ。
周囲から「ふざけんな!」とか「いい加減にしろ!」といった声が聞こえてくる。もっともだ。しかしそんな言葉が届くとは思えない。こんなことをやってのける人間の頭が正常なはずがないからな。
そして周囲から「アイテム?」「プレゼント?」という声も聞こえてくる。やべえ話聞いてなかった、何の話?
そう思った瞬間、周囲が光に包まれた! って、俺もかよ……!
数秒後、光が収まり、周りを見渡せるようになった。
いったい何が起こったんだ? と、考える間もなく、周りが騒ぎだした。
「なんで?俺の顔がアバターじゃなくなってる!?」
「お前男だったのかよ!」
「17って嘘かよぉ!?」
「お前キリトか!?」
「お前はクライン!?」
「俺の美貌を返して!!」
つまり、アバターが現実の姿に変えられたということか。プレイヤー間による公開処刑。
俺はここで初めて、ボッチでよかったと思った。鏡を見るまでもなく、俺の目は腐っていることだろう
…………ギャップを知る人間は俺の周りにいない。
だが、何のためにだ?ゲーム鑑賞したいならアバターは現実世界のものじゃ意味なくねえのか?いや、現実的にさせるためにそうした、と考えるのが妥当か。
「私の目的はすでに達せられている。この世界を作り出し、観賞するためのみ、私はSAOを作った」
「そして今、すべては達成せしめられた」
おい待てよ、好き勝手言いやがって! 手前の目的なんか知るか! 俺は部屋に戻るぞ!
何を考えても口から言葉になることはなかった。むしろ、まったく動けなかった。
「以上でSAOのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
茅場のアバターは煙とともに消えた。俺を含めて周りのプレイヤーは、そのまま虚空を見上げて呆然としていた。
……いったいどうしてこんなことに、なってしまったんだ。
小町のやつが心配しちまうかもしれないな……外部にメッセージ送る方法はないんだろうか……。
周りは徐々に絶望の声をあげ、騒ぎ始めていたが、俺はその場から動くことができなかった。