やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
26層のボス戦から三日後。
26層のボス戦は無事終わり、俺は解放された27層に向かうこともなく22層のホームで寝転んでいた。
実はあの後ヒースクリフに礼を言われたりなど色々忙しかったが脱走気味にマイホゥムへと帰還したのだ。スピードワゴンはクールに去るぜ。
あとアスナの俺への対応が柔らかくなっていてむしろビビった。なんか小声で「少し、見直したかも」とか言われたり。
偶々機嫌でも良かったのだろうか。キリトがなんかやったのか。グッジョブキリト。
というわけでアルゴは27層の探索で忙しく、キリトは月夜のにゃんこ団とやらに付き合っているかレベル上げ。アスナは血盟騎士団のギルドホームにいるはず。
―――つまり今の俺はフリーダムでストライクでデスティニー。まあ俺はイージスが好きなんだけど。実は宇宙世紀こそ至高派だったりする。ユニバァァァァァァァス!!!!!
とりあえず最低でも今日はあの馬鹿や戦闘狂にラーメンたかられたりデュエルしようぜ!みたいなことにはならないということだ。
まあこれも束の間の休息なんだろうな........と思うと少し悲しくなってきた。あれ、なんか目から塩水が。
はぁ、と嘆息しつつ俺はポテチ(自作)を口に放り込みながら灼眼の●ャナの17巻を開く。
そう。驚くべきことにこの世界には本も存在するのだ。
太宰治やギリシャ神話、果ては昆虫図鑑やラノベまである。ちなみにこのシャ●の17巻は26層の街にあった図書館で借りてきたものだ。
ついでに言えば期日までに返さねば延滞金が発生し、放置しておけばオレンジプレイヤーにされてしまうとのこと。
ちなみにシ●ナやデュラ●ラ!などの電撃マークの例の文庫はあったものの、俺が愛読していた青い背表紙は無かった。解せぬ。
......贄殿なんとかとかいう刀はSAOにもあるのだろうか。あったらロマン。魔法の存在しないSAOでは自在法は無理だろうなあ。ソードスキルを自由に作れたりしないのかしら。.......無理だな、うん。
そんなことを考えていると、突然部屋にピンポーンと間抜けな音が来訪者の存在を告げる。
なんだよアマゾンなの?大切断しちゃうの?とか悪態を吐きながら俺はホームの扉を開けた。
「―――あん?」
「久しぶりね、ハチマン」
未知の来訪者は雪ノ下だった。
※※※※※※※※
「急に訪ねて申し訳ないわね」
「あー、別に何も用事なかったからいいんだけどな」
紅茶をちびちび飲みながら興味津々な様子で辺りを見回すユキノ。というか何のために来たんだこいつ。
「んで、何の用だよ」
「あら、用事が無いと来てはいけないのかしら?」
「俺の行動理念によるとな」
え、本当にこいつ用事ねえの?もしかしてギルドに居場所がなかったりするのかしらん。まあ、こいつの性格だしなあ......正しすぎて疎まれるというか。
さもありなん、と色々考察しているとギロリとユキノに睨まれる。ふぇぇ......怖いよぉ......
「何を考えているのかわかるのだけれど......別に避けられてる訳ではないわ。むしろ好かれている............を通りこして崇拝よ、アレは......」
「宗教じゃねえか」
途中から声がどよーんとなっていくユキノ(教祖)。いや、まあ、なんだ.......強く生きろよ。
「ごほん。...今日はあなたに礼をしに来たわ」
「礼ならあの後言われたけど...」
「本音を言うと、あなたに借りを作るのが嫌なのよ」
律儀な奴だ。まあ、単純に借りを作られるのは嫌なんだろう。借りを作るのは好きそうだが。
「―――それで、私に出来ることを考えてみたのだけれど」
ふんふん。
ポテチ(コンソメ)を口に放り込む。んまい。
「―――あなたに稽古をつけてあげようかと思って」
ふー.......ん!?
思わずポテチを詰まらせてげほげほごふごふぁまげわっぱ、とむせてしまった。
「......はい?」
稽古て。何をするつもりだ。
思わず思い出したのは体術スキルを取得する際にやらされた巨岩割り(素手)と髭を書きやがったおっさんだった。あれは辛い。
「私は武術も一通り教わっているから、役に立てるとは思うのだけれど」
「..........まあ、教えて貰うにこしたことはねえしな」
プレイヤースキルというのはなかなかに鍛えにくい。こいつのように、現実で武術の心得がある奴はかなり希少であり、教わるとなれば非常に稀だ。
という訳で、俺はユキノに弟子入りすることになったのだった。
※※※※※※※※
数分後。俺とユキノは居間とは別の、少し広い部屋で向き合っていた。
「―――成る程。それでイレギュラー装備状態でもソードスキルを使用できたのね」
納得したのか頷いているユキノ。結局誤魔化すことはできず、あの会話の後俺はユキノに知っていることを洗いざらい全てゲロってしまったのだ。
「手裏剣術ね.......スキル名が横文字ばかりなせいで凄く違和感があるけれど」
「それは思ったな」
手裏剣術とかバリバリ和風な感じを出してるのに関わらず全力の横文字ネーミング。なんだよソードバレットって。手裏剣要素ゼロだよ。
「ハチマンはこれを知られたくないのね?」
「そりゃもちろん」
万が一にもこんなのが知られたりしたら、面倒事がスキップしながらやってくるビジョンしか見えない。
「そうね........けれど、このスキルは強力よ。遠距離から一方的に攻撃を叩きこめるわ」
「武器の消耗量半端ないけどな」
「そこよね」
うーむと考えこむ俺とユキノ。正直武器を使い捨てにしていてはコルがいくらあっても足りない。回収方法でもない限り、ボス戦などでは役に立たない。
「まあ、これは追々考えていくとして......ハチマン、あなたは盾を持つべきではないわ」
「う.......まあそうだな」
盾系統のスキルすら取っておらず、かと言って盾を使いこなす程のプレイヤースキルも持ってない俺にとって、バックラーは一撃凌ぐためのものにしかなっていなかった。
ヒースクリフのようにボスの攻撃を完璧に捌くなど夢のまた夢だ。
「そこで考えたのだけれど―――あなた、双剣を使ってみたらどうかしら?」
「双剣ねぇ......」
双剣。
中2心を刺激するワードではあるが、ラノベやゲームに出てくるモノとは違い、現実的に両手に武器を持って使いこなすのは至難の技だ。
「イレギュラー装備状態でも使えるという手裏剣術のメリットを考えても、双剣が良い気がするのだけれど」
「や、けどお前それ教えれるのか?」
我流で頑張れとか言われたらさすがに泣く。
しかしユキノは俺の言葉に心外だとでも言わんばかりに眉を跳ね上げる。
「馬鹿言わないで頂戴。極めているとは言わないけれど、素人よりは相当マシと言えるくらいには修めているわ」
「万能すぎるだろお前」
思わず呆れると、どこか誇らしげな様子でユキノがドヤ顔してくる。材木座とは違ってそこまでうざくはない。
「そうね、一つはあの再生する剣を使うとして、もう一つはこれなんてどうかしら」
そう言って、ユキノはある剣を実体化させる。
見た目としてはグラディウス・アウルムより若干短めの黒い短刀。そのぶん刃は厚く、鉄色の刃が鈍い輝きを放つ。
その名は―――
「霊鋼、か」
タマハガネ。左手に装備し、その武骨さとシンプルな見た目から感じられる一種の機能美。
―――気に入った。
「私は使わないでしょうし、それはあげるわ。―――少し構えて見てくれるかしら」
「ん、ああ................こうか?」
何となく左足を半歩踏み込んで体を斜めに。右の金剣を縦にして自分の横に置き、左の鉄剣は右とは対称的に横にして自分の前に盾のようにして構えてみる。
「へえ....なかなか様になっているじゃない。どこかで習っていたの?」
「んなわきゃねーだろ」
少し驚いたように問うユキノに即座に否定を返す。俺はそういった武術のようなものを習っていたことなどない。見よう見まねでどこぞのマンガの真似をしてみたが、意外と様になっているようだ。
「じゃあ、少しアドバイスをしておくわ。あなたの目指すべきは攻めの剣ではなく、守りの剣よ。理想としては多数対一でも捌ききれる、くらいかしら」
「お前は何を想定してるんだよ」
多数対一って。だがユキノは俺の言葉に耳を貸さず、室内で刀を抜き放つ。
「―――私も上手く教えられる気がしないから、実戦形式で行きましょう。とりあえず私の剣を防いでみて。そこから悪い点を改善していきましょう」
結局俺はその日は日が暮れるまでユキノに滅多打ちにされるのだった。
遠距離特化で防御主体二刀使い(予定)なハチマン。将来的にはキリトと戦わせたかったり。