やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
色々強引ですが気にしないで下さい。後で編集し直すかもです。
ではドゾー。
ボス部屋の中に足を踏み入れた俺達を迎えたのは、膨大な冷気だった。
纏わりつく冷気。
地面は氷と霜で覆われ、まさに永久凍土のようだ。氷と霜の層は元の地面すら見えない程分厚く、吸い込まれそうな気すらする。靴で叩けばコツコツと硬質な音がした。
―――無駄にリアルなこの世界のことだ、重金属装備の奴等は滑ってしまうのではないだろうか。
そんなことを考えていると、白い巨大な狼のようなボスがのっそりと現れる。
視界に表示されるボスの名前はジ・アイシクルファング。
―――なるほど、今回のボスは25層と正反対。氷と雪の狼らしい。
「........さて、いっちょやりますか」
―――25層よりは楽だといいが。
早速取り巻きのボスより一回り小さな狼らしきMobが五体湧いている。そこへ駆け出していくキリトとアスナを追いかけて、俺も走り出すのだった。
※※※※※※※※
戦闘開始から30分経った。
「うぉおぉおお!」
これで何体目だろうか。キリトの片手剣がモフモフの毛皮を切り裂き、青い欠片の塵に返す。ちくしょうモフりたい。モフモフ成分が足りない。
「これくらいか?」
「そうみたいね」
ふうと俺達は一息吐く。
キリト、アスナ、俺のぼっちーズはいつも通りパーティを組んでいた。......あ、アスナはもうぼっちじゃねえのか。
これで攻略組のぼっちーズはキリトと俺だけになってしまった。キリト、お前だけが俺の仲間だ。
というかキリトは何度か誘われているけど断っている自発的ぼっちだけど、俺はどこからも誘われない必然的ぼっちなのはどゆこと?
いや、別に入るつもりとかさらさらないし気にしてないし別にこれっぽっちも気にかけてないし、って気にしすぎだろ俺。
「.......ま、慣れてるけどな」
「なんか言ったか?」
「なんでもねえよ」
振り向いたキリトに誤魔化すように返しておく。ぼっちは独り言が加速してしまうのが困りものだ。さすがにエア友達とかの領域には達してないが。
「凄いな」
「.......ああ」
何が、とは言わなかった。ボスのほうを見れば何を指しているのか嫌でもわかる。
まず目につくのはボスの攻撃を完璧に凌ぐ銀髪赤鎧のおっさんことヒースクリフと、怒濤の勢いで切り刻んでいくユキノ。
その他の団員も高度な連携を持ってボスの体力を削っており、ヘイトを稼ぎすぎたと思えば即座にタンクと入れ替わる様子はとてもじゃないが新米ギルドのそれではない。
「―――危なっかしいな」
だが、ユキノが突出しすぎている。そんな印象を受けた。
あれではヘイトリセットや、無差別攻撃といった特殊な攻撃に対処できない。また、ユキノ単体で遊撃している今の状態では、ナミングのような攻撃を受ければ非常に危険だ。
今のあいつは自覚あるなしに関わらず不安定だ。文化祭の時、無茶したように。
「―――行ってもいいわよ」
「..........................はぁ?」
こちらに向けられた言葉だと理解するのに数瞬の間を必要としてしまった。というかこいつ何言ってんだ、というか俺の役目は。
「ここなら別に私とキリトくんでどうにかなるわ。ここは私達に任せて行ってもいいわよ?」
「アスナ、それ死亡フラグ.......いやなんでもない」
ギィン、と再び湧いた雑魚の爪をシャープネイルで弾き、腹に斬撃を叩きこみながらキリトがこちらを向いて言い放った。
「ハチマン、確かにここは俺達で十分だ。―――行ってこいよ」
「.......ありがとよ、今度なんか奢るわ」
「ハチマンのラーメンでも食わせてれ」
ニッと笑うキリト。それに背を向けるようにして俺は隠蔽を発動させ、ボスのほうへ走り出した。
―――あいつが死んだら、由比ヶ浜も小町も、泣くだろうしな。
俺が最前線で攻略組として戦う理由。それが一つ生まれたのを感じた。
※※※※※※※※
ハチマンが走り出した直後。ついにジ・アイシクルファングのHPバーが一本のみになる。
「はっ」
あと少し。ユキノは愛刀である「細雪」を走らせながらボスへと単体で飛び込む。
―――慢心。そう、ボス戦を通して彼女は慢心していたのかもしれない。
SAOの中で随一の反応速度を誇るキリト。それには劣るものの、十分に通常を逸脱した反応速度と最速の剣技を持つユキノは自分ならばほぼボスの攻撃に対処可能だと判断していた。
―――それが過信であるとも気付かずに。
耳を伏せるようなモーションの直後に巨大な白狼は怒りを示すように咆哮する。
ボスを中心に、咆哮とともに広がる衝撃波。それはボスの周囲のプレイヤー達を停止させていく。
―――それはユキノも例外ではなく。
「くぅっ!?」
ナミング。麻痺効果を伴った咆哮は、麻痺に耐性を持たぬプレイヤー達を容赦なく行動不能にしていく。
動けなくなったプレイヤー達を一瞥したボスは、まず最も近くにいたプレイヤー―――ユキノを標的に見定める。
「く........ああああっ!?」
Mob専用ソードスキル・獣爪乱撃。
四回連続爪で敵を引き裂く強力なソードスキルは全て的確にユキノにヒットし、ユキノを吹き飛ばす。
「く...あぁ........」
地面を転がり、麻痺によって自由の効かない身体を必死に動かそうとするユキノ。その視界に映るユキノのHPバーはすでに毒々しいイエローに染まっている。
「―――あ」
ユキノに止めを刺すべく迫るボスの牙。それは彼女を噛み砕き、青いポリゴンへと変え―――
「―――雪ノ下ァッッ!!!!」
―――なかった。
抜き打ちのようにハチマンの指に挟まれ、腰のベルトから引き抜かれる三本の短剣、というよりは投げナイフのような刃物。
右手と左手、合計六本。それらは瞬時にエフェクトを纏い、敵を貫かんと飛翔する。
―――手裏剣術基本技、
本来、このSAOは武器は一つしか装備できない。否、装備は一応可能だが、一切のソードスキルが使用できないのだ。
だが、手裏剣術スキルを持つ者はそれを可能にしてしまう。
あくまで手裏剣術のソードスキルのみだが、使い手は武器を複数装備していたとしてもソードスキルの使用を可能にする。
ハチマンが放ったのは手裏剣術の基本ソードスキルであるソードバレット・マルチプル。
最大で六の武器を一度に放つことを可能にする基本技。
シングルシュートとは違い、剣弾は曲線を描くように飛来し、白い狼の目や関節へと突き刺さり、見事ボスの噛みつきのソードスキルをキャンセルする。
「―――前に出すぎだ馬鹿。飲め」
麻痺回復用のポーションをユキノの口に突っ込んでハチマンは内心呻いた。
正直、ユキノを助けるためとはいえ手裏剣術スキルは使用したくなかったのだ。
両手に武器を装備してなお発動できるスキルなどハチマンはこれ以外見たことも聞いたこともない。
さらにこのエクストラスキルらしきものは入手経路も入手方法もわからないときた。問題にならないわけがない。
幸いボスの咆哮による麻痺で今のを視認できるプレイヤーはいなかっただろう。―――問題はユキノだが、事情を説明すれば納得するはずだ。
ユキノが回復するまでの時間を稼ぐため、彼は短剣の代わりにグラディウス・アウルムを引き抜いて右手で構える。
「―――らァッ!!」
ボスの右爪の攻撃をホリゾンタルで全力で反らすようにして受け流す。右手首が痺れたように痛むが続く左の爪をステップで避ける。
僅かにかするボスの爪に顔をしかめながらもハチマンは剣を振るう。十数秒ほどそんな攻防が繰り返された。
「―――ありがとう、比企谷くん」
だが、ハチマンが些か不利だった攻防は後方からの斬撃の介入によって終わりを告げる。
「.......遅ぇぞ、雪ノ下」
「こればっかりは何も言えないわね」
ハチマンが振り向くと、そこには苦虫を噛み潰したような表情で反省した様子のユキノ、そして視界の端には麻痺から回復したヒースクリフ達の様子だった。
―――ヒースクリフ達と合流するには、ボスを迂回するようにして移動する必要がある。
現在、ユキノとハチマンはボスによってヒースクリフ達がいる本隊と分断された形になっている。―――それはつまり、ボスを挟撃している形にもなっている、ということだ。
HPバーはあと一本。ヒースクリフ達が復帰した今、挟撃という形でなら容易に削りきれるか。
「―――背中は任せろ、雪ノ下.......いや、ユキノ」
「ええ。任せたわ」
神速での抜刀。振るわれる刀は着実にボスを切り刻んでいく。
そして疾走しながらボスを切り刻んでいくユキノに追従する影―――隠蔽を発動させたハチマン。彼は
的確にボスの関節や急所に叩きこまれるシングルシュートは行動遅延を起こし、それに補佐された神速の剣は急所を切り飛ばす。
ユキノがヘイトを稼ぎすぎればハチマンがそれを指摘し、ハウルを使うことでヒースクリフ達がヘイトを稼いで気を反らす。
完璧な連携は、ハチマンが介入して五分もかからずにジ・アイシクルファングを青いポリゴンへと還したのだった。
ちなみにこれから少しの間亀更新になります。定期テストが近いのです。最低週一は更新できたらなあと思いますが、どうなるか。
これからもよろしくお願いします!