やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》 作:あぽくりふ
結局大して文字数増えてないけど一話です。ドゾー。
一話 そして彼と彼女は相対する。
「..................」
「..................」
こうやって雪ノ下と向き合うのも久し振りだ。
俺は今、攻略会議が終わった後の誰もいない会議室で雪ノ下雪乃と相対していた。
「―――何も、言わないのね」
「俺が言うべきことなんてねえしな」
再び流れる沈黙。だが、こんな空気は嫌いじゃなかった。
ふっ、と雪ノ下が苦笑した。
「何も変わらないわね、あなたは」
「人間そうそう変わるわけねえだろ」
「その台詞を聞くのも久し振りね」
本当に久し振り、と雪ノ下は呟いてから再び押し黙る。
「........お前は少し変わったな」
「そう、かしら」
わかるの?と視線で問う雪ノ下に俺は肩をすくめて返した。
「そりゃお前、半年も一緒にいたらわかるだろ」
なんとなく。
ぼっちは人間観察に優れている。今の雪ノ下は、文化祭の時とは違って―――なんというか、目的でもできたのだろうか。落ち着いているというか、なんというか。よくわからん。
「―――やっぱり、あなたは何でもわかるのね」
「......んなわきゃねーだろ。人生知らないことだらけだ」
愛とか友情とか友人とか。知らないことばかりですはい。誰か!誰か教えて!
「けど、意外と言えば意外ね。あなたが攻略組にいたなんて」
「確かにな。俺らしくもない」
本当、らしくない。なんでこんなことになったんだか。最初は情報屋だったのに。
どこで道を間違えたんだろうか。
「.......それより、ボスを一人で相手したというのは本当なのかしら?」
声に若干怒気.....ではないが、なにかが混じっているのを感じて俺は身を固くした。え、なんで知ってんのこいつ。
「ああ.......まあな」
「そうやって一人で解決しようとする姿勢は止めなさいと以前にも言ったはずなのだけど―――」
う。
やっぱり来たかゆきのんのスーパー説教タイム。こいつぁ長丁場を覚悟せにゃならなさそうだ......。
そんなことを考えながら雪ノ下の話を聞いていたが、
「―――まあいいわ」
「へ?」
一瞬唖然とする。え、なに?こいつ変なもんでも食ったの?
「こうして生きているのだから、まあ良しとしましょう。どうせあなたのことだからいくら言っても聞かないでしょうし」
「はぁ......」
それに、と雪ノ下は続ける。
「やっぱりあなたのやり方、私は嫌いだわ。―――だけど、」
こちらに目線を向けた雪ノ下はくすりと微笑みながら、だけど少し悲しそうに告げた。
「あなたのそういう優しい所、―――私は好きよ」
「.......さいですか」
「ええ」
.......なんて返せばいいのかわからない。そんなつもりじゃないとでも言えばいいのか。
こいつの言っていることは、見当違いも甚だしいことだ。俺は優しくなんてない。俺は俺のためだけに動くし、そこには俺だけしかいない。どこまで行っても自分本位で自己の利益しかない。
―――だけど、そんな顔をしながら言うのは、少し卑怯だろう。
「...........お前、やっぱり変わったわ」
「そう?」
首を傾げながらこちらを見てくる雪ノ下。なんというか、丸くなった印象だ。今までは四角どころかハリネズミみたくトゲトゲだったのに。
......ま、なんだ。良いことじゃねえの。
そう思いながら会議室の扉を開けて外に出る。
「.......じゃあ、また明日」
「おう」
僅かに手を振る雪ノ下に頷くようにして返答し、雪ノ下が転移するのを見送る。その背中が青いエフェクトに包まれて消えるのを見て、ようやく俺は後ろに声をかけた。
「―――で、いつまでそこにいるつもりだ?」
「......わかってたのカ」
ガサガサと音を立てながら二人分の人影が現れる。........二人?
「お前もか、キリト......」
「ははは......ごめんハチマン」
ジト目(俺の場合は単に睨んでるだけ)をキリトに向けると、キリトは全力で目を逸らしながら謝ってくる。ちなみにアルゴは謝罪する気も反省する気もナッシン。おい。
「ハチマンとあの女は、知り合いなのカ?」
「あー、リアルでな」
へー、とキリトが間の抜けた声を出しながら相槌を打つ。
「凄く綺麗な人だったな、あの人。.......もしかして、恋人?」
やたら目をキラキラさせながら問いかけてくるキリト。だがその質問に関しては断固として否定させて貰う。
「違えよ。ただ同じ部活なだけだ。さらに言えば友人ですらない」
あいつ全力で否定しやがったからな。というか、あいつってなんて紹介すればいいんだろう........上司か?うん、なんかしっくりくる。
「そ、そうなのか......けど、やけに仲良さそうだったけど」
「俺はぼっちだからな。友達とか友人とか言える存在は皆無だ」
胸を張ってそう言うと、キリトからなぜか同類を哀れむような目線を送られてきて、アルゴには爆笑された。というかキリト、お前はバリバリ勝ち組だろうが。
「ま、そろそろ俺も帰るわ。じゃあな」
「あ、ああ。また明日」
「じゃあナー」
キリト達が手を振るのを見ながら20層へ。久し振りに我が家に帰る気がする。
―――そして我が家の前に立ってふと気付いた。
「仲良さそうだったって、おま............あの話聞いてたのかよ....... 」
※※※※※※※※
はあ、と俺はベッドサイドに座りながら溜め息を吐いた。
わけわからん。
朝っぱらからステータスウィンドウを開いたら見たこともないスキルが勝手に出現していたのだ。バグかよ。
しかもそれは見たことも聞いたこともないスキル、その名も「手裏剣術」。
おそらくエクストラスキルだと思うのだが、いかんせんそんなモノは手に入れた記憶などない。
今までちょこちょこ受けてきたクエストにもエクストラスキル関連のクエストは後にも先にもあの体術のやつだけだ。
ご丁寧にスキルスロットまで一つ増えてやがる。もう意味がわからない。考えられる可能性はバグか、25層のLAか、それとも茅場昌彦がなんらかの意図を持ってご丁寧に俺に与えたのか。
一番目はないな。
あいつは狂人だが天才だ。こんなミスを見逃すとは思えない。
二番目もない。
25層のLAはグラディウス・アウルムという名前の剣だった。・・・正直、破格だと思う。
その特性は「不滅」。耐久値も比較的高い値が設定されているが、この剣はぶっ壊れても再生するらしい。ぶん投げて壊れたらどうなるのかが気になる。
要求筋力値は低く、ダメージ補正はなかなかに高い。強化すればギリギリ50層あたりまでは使えるんじゃないだろうか。
惜しむらくは、このグラディウス・アウルムが割とちっちゃいことだ。普通の片手用直剣よりは短く、短剣よりは長い。分類するとしたら「短刀」だろうか。
というわけで考えられる可能性は三番目。なにかしらの意図を持ってこのスキルを俺に与えたのか。よくわからん。
だが―――一つだけわかるのは、このスキルは人に知られたら不味いだろうということだ。
ネットゲーマーは嫉妬深い。これは一時ぷそ2で流行った造語「憎しみが加速する」というものからわかるだろう。いや、あれ物欲センサーが発動したら地獄見るしなあ......。
こんなワンオフのスキルを持っているのを知られたら、絶対に面倒くさいことになるに決まっている。下手すりゃ茅場昌彦の仲間だとすら見られかねない。
「.......ま、後から考えて見るかね」
そんなことを呟きながら俺は家を出た。
※※※※※※※※
「あら、早いのね比企谷くん」
「お前のほうが早いじゃねえか、雪ノ下」
武器を買ったりなど色々やることがあったため、なかなか早くに俺は起床していた。だが、予想外に早く買い物が終わったので、必然的に早く集合場所に着いてしまったのだ。
「そう言えば比企谷くん、この呼び方どうにかしないかしら?」
「呼び方?.....................あ」
そうだ。
よく考えたら今俺達は互いにリアルネームで呼びあっている。これはいささか不味いんじゃないだろうか。
「あなたは.......ハチマンだったかしら?私はユキノよ」
「そ、そうか」
「.....................................」
「.....................................」
お互いに名前からとったプレイヤーネーム。なんというか、困った。
「..............えっと、その.......ハ、ハチマン?」
「お、おう.................ユキノ」
再び場を支配する沈黙。
というかなにこの空気。どこの初々しいカップルだ。いやそれはないけど。え、なんなのマジで。
若干ピンク色な場の空気を誤魔化すべく咳払いをしてから俺は言った。
「.........で、だ。なんでお前SAOにいるの?」
「い、色々あったのよ」
何故か全力で目を逸らして答えるユキノ。いや、こいつが言いたくないなら別にいいんだが。
「というかお前強いの?今回から攻略に参加するみたいだが」
そう言うとユキノは目を細めながら答える。
「愚問ね。私を誰だと思っているの?」
「や、まあそうだけど........」
そう俺が口ごもると、ふむと頷いてユキノがこちらを見据え、とある提案をしてきた。
「―――そうね。私も自分の実力が少し知りたかったのよ」
嫌な予感がした。
「比企谷くん―――いえ、ハチマン。私と決闘しなさい」
次は八幡vsゆきのん。