やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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決着。





十三話 対25層ボス戦③

 

 

―――彼が壊れるのは必然だったのかもしれない。

 

突然目の前で見せつけられる幾多の死。

 

あまりにも軽すぎる命の扱い。

 

初めて経験する、死と隣り合わせの命のやり取り。

 

それらのストレスに加え、ここ5ヶ月で毎日味わってきた無意識のストレス。

 

―――まともな人間なら、正気ではいられない。

 

 

それは彼も例外ではなかった。

 

だが、彼は良くも悪くも歪んでいた。

 

 

 

世界が理解できない。理解されない。わからない。

 

だからこそ自身の理解できる「論理」で仮に理解していく。

 

メリットとデメリットを挙げ、より良い選択を。大を救うため小を切り捨て、より犠牲のない選択を。

 

時には自身の理解の及ぶ「負の感情」すらも勘定に入れ。人の心すら天秤にかけて。

 

第三者の視点から利益不利益に振るいわけて最上の選択肢を導き、自分の切れる手札でそれを実現する。

 

人の心すら論理で弾き出す。常に神の視点で最適解を導き出す。

 

 

―――その最適解の中には、自分だけが居ないことから目を反らして。

 

 

故に「自意識の怪物」。故に「理性の化け物」。

 

膨大量のストレスから彼は狂う。理性の化け物は自身の存在意義の喪失を補填するべく、いかなる状況であろうと冷徹に、残酷に最適解を示す戦闘機械と化す。

 

「―――ジャベリンシュート」

 

 

投槍の如く回転しながらジ・イグニファトゥス・フェニックスロードの鍵爪を貫通するのはハチマンが投擲した細剣。

 

不死鳥は鍵爪を振り回して彼を襲おうとするが―――できない。その場で釘付けにされていた。

 

 

投剣スキルの一つ、ジャベリンシュート。

 

貫通の属性を持ち、継続ダメージを与えることができる―――投剣スキルの中でも最速を誇るソードスキルの一つ。また、その効果には「対象をその場に縫い付ける」というものも付与されている優秀なソードスキル。

 

硬直が解け、間髪入れずに再び放たれたジャベリンシュートはもう片方の鍵爪も貫いて固定する。

 

 

―――惜しむらくは、このソードスキルの拘束時間が武器耐久値依存であることだ。ただ触れているだけで耐久値を削る特性を持つこのボスに対しての拘束時間は非常に短い。

 

おそらくはもって十秒弱。―――だが、戦闘機械と化したハチマンの前ではその十秒はボスとは言えど致命的。

 

 

 

短剣片手用直剣片手槍両手斧細剣片手用曲剣両手槍―――

 

 

ありとあらゆる武器が矢継ぎ早に放たれる。全て投剣スキル基本技であるシングルシュート。

シングルシュートの特徴は技後硬直と呼ばれる時間が非常に短いこと。故に連射が可能。

 

―――威力の低さはクリティカルで補う。

 

目、眉間、胸、脇、うなじ。ありとあらゆる急所を彼は隠蔽を発動したことでぼやけた影のような状態でボスの周りをジグザグに走りながら的確に貫いていく。

 

 

ガリガリと削れていくボスの体力。いくら炎剣を放とうとも、ハチマンは臆することなく僅か数ミリ単位の差で避けて交わし様に短剣を放つ。

 

「っと」

 

―――投剣ソードスキル「パラライザーシュート」

 

 

ついに拘束が解除され解放された鍵爪に黄色の光輝を纏う短剣が突き刺さり、痙攣したように停止する。

 

パラライザーシュート。対象を二秒間停止させるスキル。これの特徴はスキル名とは異なり麻痺を与えるのではなく、あくまでスキルの効果で数瞬痙攣したようにして停止させること。

 

 

二秒。それだけあれば十分。

 

 

「―――ハァッ!!!」

 

 

―――投剣ソードスキル「トマホークシュート」。

 

彼が放ったのは投剣スキルの中でも上位に位置するスキル、トマホークシュート。緑の光輝を纏いながら水平に回転しながら巨大な両手剣は猛回転しながら飛んでいく。

 

ボス部屋の床を削りながら飛ぶ両手剣は、そのままボスの右足に着弾し―――

 

 

―――ズバンッ

 

 

キシャアアアアアアア!?

 

「なっ」

 

 

困惑するジ・イグニファトゥス・フェニックスロードと驚愕するキリト達。

 

飛翔する両手剣はそのままの勢いでボスの足を切り落としたのだ。本来ボスでは有り得ぬ部位欠損。いや、有り得なくはないがとんでもなく確率が低い。

 

 

―――グルルルルルルルァァ

 

 

激昂した、残り僅かなHPのボスはついに飛翔する。空中で徐々に回転していくボス。その様子はまさに炎の嵐。

 

 

―――だがハチマンは動かない。否、動けない。

 

 

当然と言えば当然だ。ボスであろうとかなりの高確率で部位欠損を与えるソードスキル。なまじ協力なだけにその技後硬直は長い。

 

 

―――グルルルルルルルァァァァァアアアアアアアア!!!!

 

そのままボス部屋の床を砕きながら猛然と体当たりを敢行するジ・イグニファトゥス・フェニックスロード。七秒間もの間加速しながら回転したボス。それは一つの巨大な炎槍の如く回転しながら横からハチマンに迫る。

 

 

八秒。長い技後硬直から解けたハチマンにメニューウィンドウを開いて装備を選択する時間などない。

 

 

「ハチマンくんっ」

 

 

回避動作すらしようとせず、淡々とボスを見つめるハチマンを見ていられずアスナが叫ぶ。―――だが、その目にはアスナの姿も、一欠片の恐怖すらも映っていなかった。

 

 

「―――クイックチェンジ」

 

 

呟いた彼の手にはアニールブレード。久し振りに主の手へと戻ったそれはボスの炎を反射して鈍い輝きを見せる。

 

迫る炎槍。だが彼はただアニールブレードを持った手を真っ直ぐ後ろに引き―――

 

 

「――――――『奪命射』(ヴォーパルシュート)

 

 

豪、というジェット機を連想させる音を纏い、黒と朱の雷のようなエフェクトを撒き散らすアニールブレードが凄まじい速度で放たれ―――こちらに迫りながら回転するボスの眉間を寸分違わず穿つ。

 

―――ヴォーパルシュート。

投剣スキル熟練度850で会得する、上級剣技の中でも高位に位置するソードスキル。この階層でそこまで熟練度を高めているハチマンは異常であるとすら言える。

 

爆散したボスのポリゴンに身を包まれながらハチマンはがくりと崩れ落ちた。

 

 

Cngratulation―――という文字がハチマンの目の前で踊る。

 

「―――ざまぁみやがれ」

 

 

最後に呟いたのは誰に当てたものだったのか。ジ・イグニファトゥス・フェニックスロードか。茅場昌彦か。それとも―――

 

 

 

 

「―――どうして、泣いてるの?」

 

誰かの戸惑うような声と暖かい感覚。それを最後に、ハチマン―――比企谷八幡の意識はブラックアウトしたのだった。

 




どうでしょうか。駆け足すぎたのと無理矢理感が否めないかもしれません。

ちなみに手裏剣術はユニークスキル。八幡に与えられたユニークスキルです。早すぎなのは後から気付きました。だってまだキリトが二刀流をてにいれる半年前ですもん。ごめんなさい。


今回は手裏剣術は使いませんでしたが、後々使っていくことになります。色々ピーキーなスキルにしたいなあ、とか思ってます。
さすがに無限の剣製みたいにはできないかなあ・・・あれ好きだからいつか出したいなあ・・・違うんですパクりじゃなくてこれはリスペクトなんです。



次回で1章・アインクラッド下層編は終わりです。ではでは。

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