やはり俺のVRMMOは間違っている。《凍結》   作:あぽくりふ

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お気に入り数三桁!

こんな駄文小説をお気に入りしてくれる人が100人以上もいてくれるなんて・・・感無量です。精進します!



今回は短いです。








十話 そして火蓋が切って落とされる。

「よっと」

 

 

蜘蛛っぽいのが吐いた糸を上体を反らして避け、交わし様にアニブレに代わる片手剣、「ブラッディマンティス」を蜘蛛の胴体に突き立てる―――と同時に蜘蛛Mobがポリゴンとなって四散。

 

てれれれっててーみたいなレベルアップ音を聞き流しながらステータスウィンドウを開く。表示されるレベルは42。正直十分だとは思うが念には念を。警戒しておくにこしたことはない。

 

ついでに一つ増えた俺のスキルスロットを埋めたのは武器防御でも索敵でもなく、戦闘時回復。なるたけ生存率を上げるべくその結論に落ち着いた。

 

 

「あ、ハチマンもレベルアップか?」

 

「ああ」

 

「私もよ」

 

 

今の俺はキリトとアスナとパーティを組んでひたすらレベル上げの最中だった。レベルで言えばキリトが一番高くアスナが一番低い。

 

「............ハチマンってこんなに遅かったか?」

 

なにやら小声で呟いているキリト。

聞こえてるからな?遅いってなにがだよ。剣速か?

 

というかお前らが速すぎるだけだから。もはや目で追えないし。キリアスは人間を止めていることがわかった。

 

うーんうーと唸っているキリトの横ではアスナがこちらに微妙な目線を向けてきていた。

 

 

.......投剣スキルを使えばこれを遥かに上回る速度で虐殺できるが、今はボス戦のため片手剣の熟練度を上げる必用がある。なによりあれは人様にあまり見せたくない。

 

ちなみにアスナにはあれは言わないように頼んでいる。ピンチになれば容赦なく使うつもりだが、できるだけ知られたくないのだ。

 

―――もしもキリトに知られたら絶対「マジか!そんなこと(レベリング)よりデュエルしようぜ!」とか言われるに決まってるし。

 

俺がキリトに無茶ぶりさせらたあの会議からすでに一週間ほど経過している。

 

あれから三日後に開かれた会議では、俺の案は実にあっさりと通った。

 

......その時にキリトに声をかけられて今に至っているわけだが、正直ありがたかった。心許なかった片手剣の熟練度もそれなりに上がった。

 

 

「―――アルゴから連絡が来たわ」

 

だが、レベリングの期間は今終わる。―――そして25層ボス攻略がついに始まろうとしていた。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

アルゴに連絡を受けて出席した、三度目の25層ボス攻略会議は作戦の打ち合わせ程度ですぐに終わった。

 

......まあ、作戦と言えるような作戦なんてないが。ろくな情報がないままで緻密な作戦なんぞ立てようがないし、すぐに崩壊してしまう。

だからこそ、役割分担など至極簡単なものしか決められていない。あっちはダメージディーラー、こっちはヘイト集める役、といった具合だ。

 

ちなみにキリト、アスナ、俺は限りなく前線よりの遊撃らしい。要するにガンガン攻めて自由に暴れろということだろう。

 

今俺達がいるのはボス部屋の前。キリトが音頭を取っているのを見ながら、俺は自嘲した。

 

 

「―――はっ」

 

 

ガチガチと音がしているのを聞いて、一瞬遅れてそれが自分の歯の根が合わずに鳴っていた音だと気付いたのはつい先程のことだ。

 

 

―――怖い。

 

怖い。恐い。怖い。

自分が死ぬことが怖い。

自分が死ぬ可能性があることが怖い。

この戦いで何人死ぬのだろうか。そこに自分が入っているかもしれない。次に生命の碑に刻まれる名前は俺のものかもしれない。

自分が立てた案によって犠牲者が出ることが怖い。―――そしてその責任が自分に負わせられることが、怖い。

 

 

俺はそんな自分の醜さに辟易としつつ、若干の安堵を覚えていた。

 

なんだかんだ言って斜に構えていようと、俺は人間だ。

自分が死ぬことが怖いし、今も手が震えているのもわかる。犠牲者の一人になることが怖いし、生命の碑に自分の名が刻まれることなど考えたくもない。なまじぼっち故に許された思考力が考えたくもないのに俺が死ぬ瞬間を何度も何度も試行する。

 

『君は理性の化け物だよ』

 

俺はそんな高尚なものじゃない。

本当に理性の化け物とやらなら俺はとっくにこの恐怖感を克服しているはずだ。

現に俺は今、となりのアスナに震えがわからないように必死で恐怖を表面上に現れないよう誤魔化すことくらいしかできていない。

 

 

所詮は我が身が可愛い醜い人間の一人に過ぎない。

 

自身が特別だと?思い上がるな。俺はどこまでいっても人間以下でも以上でもない。その他大勢のモブキャラから逸脱することができない、代替可能な人材の一部に過ぎない。

 

 

―――恐怖が表面上に現れないよう気をつけていたはずだが、わずかに漏れてしまったのか。

 

 

「―――ハチマンくん?」

 

 

アスナがこちらに何故か振り向く。

眉をひそめるその整った顔に向かってなんでもねぇよ、と返そうとするが。

 

 

「―――」

 

 

声が出ない。恐怖の余り、声すら出なくなったか。

余りにも情けなくて、自嘲に口角が僅かにつり上がる。

 

キリトが拳を振り上げ、それとともに周りの攻略組が雄叫びを上げる。

 

俺は、どこか現実感がないままの様子を眺めていた。

 

キリトと聖竜連合のリーダーがボス部屋への扉を開く。

―――25層ボス戦がついに始まった。

 




次回、オリボス登場。

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