原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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ハナダシティ編


08

 目の前の巨大プールで緩やかに繰り広げられるジム戦を、私は監視台の上で寛ぎながら眺めていた。

 指示? ああ、うん今回はやってみようかなって思ってたよ。すぐに諦めたけど。

 出そうにも展開に追いついていけませんでした。皆頑張ってるし、私がすることは応援とアフターケアで十分じゃないかなって思う。

 

「ちょーっと挑戦者! 見てないで少しは真面目に戦いなさいよ!!」

「すんません、無理っス」

「はぁあああ!? アンタ何でうちに挑戦しにきたわけ!?」

 

 ぶっちゃけ成り行きです。黙る私を見て、更にジムリーダーのカスミがギャーギャー喚くが聞く耳持たず。

 こんなことになったのも、すべては父親が悪い。なんもかんも親父のせい。あー思い出したらまた腹が立ってきた!

 思い返せば、話は昨日の夜に戻る。お月見山から無事にハナダシティへと到着した私たちは、一直線にポケモンセンターへ向かった。そこで真っ先に大学に置いてある自分のボックスを開けておかなかったのが、今思えば口惜しい痛恨のミスだった。

 私は到着したことと、お月見山であったことを上司たる父親に電話で報告した。

 

「化石らしきものは見つけたよ。出ると思わなかった月の石も」

『マジで!? ちょ、見たい見たい! 持ってきて!!』

「もー、ロケット団とか出てきて大変だったんだからね。てか、父さん今どこにいるのさ?」

『ナナシマ』

「遠っ」

『丁度一ヶ月後に、クチバ湾港でサントアンヌ号の船上パーティに招待されてるからさ。勿論、研究室名義でね。そこで待ち合わせしよ』

「私、招待状持ってないんだけど」

『マサキが行きたくないって言ってたからチケット貰えばいいよ』

「取りに行けと?」

『近いからいいじゃん。ガンバ!』

「そういやさ、ニビシティでジムバッヂ取ったよ」

『お、やったね! おめでとうさん』

「ありがとさんさん」

『今はハナダシティだっけ?』

「うん、そうだよ」

『今回も忘れずに取りに行きなさいよ』

「えー、もう面倒くさい。いいじゃん、また今度で」

『そんなこと言う子にはバーナードを返してあげません』

「はぁ!? ちょ、嘘だろ!!」

『残念でした~! もうボックスにロックかけちゃったもんねー!』

「んの、クソ親父ぃいいい!!」

『シンク、口調がお下品』

「知るかボケッ!!」

 

 そこで電話を叩き切った後、急いで自分のボックスを確かめたら父親の言ったとおり、大学側からロックがかけられていた。ああ、バーナードぉ……。

 悲しみに咽び泣く私に、相棒が遠慮がちに見せてきたポケギアがトドメを刺した。

 

《From:パパ

 Title:シンクに伝言よろしく♪

 Message:ブルーバッヂゲットしてきたらちゃんと返してあげるから安心してね! それまでバーナードはちゃ~んとお世話してあげるよん。ファイト~☆ミ》

 

 無意識にポケギアを真っ二つに折ろうとしたところを、ジャンボが電気ショックで止めてくれなければ危ないところだった。主に私の財布が修理費で大打撃。いや、真っ二つなら間違いなく買い替えだから余計な出費をするはめに。あっぶねー。

 とりあえず、親父はボコる。そして早急にバーナードを奪還せねば。

 そんなこんなで、人質? ポケ質? を取られた私は、翌朝一でハナダジムに走る結果になりましたとさ。幸い午前中の予約は一人も入っていなくて、飛び込みだが挑戦を受けてくれることになった。

 

 回想終了。今は巨大プールのバトルフィールドにて、2対2のダブルバトル中だったりします。ジムリーダーのポケモンは、スターミーとアズマオウ。対するこちらは、ラプラスとピカチュウ。相性で選んだ訳ではありません。というか、また選ぶ前に勝手に出てきちゃったからさ……。

 うん、メルシュは久々に思いっきり泳ぎたかったんだよね。最近泳がせてなかったからな、ごめん。ボールから飛び出し嬉々としてプールで泳ぎだしたメルを、相棒が心配して追いかけていったところで選出が自動で終了。トレーナーの出番はどこにもありません。いいんだ、これが私の通常営業なんだ。だってこれからもそんな気がする。

 現在の戦況は……なんといいますか、非常に申し訳ない。メルが背中にジャンボを乗せて、歌いながらプールを泳いでいます。勿論相手は攻撃してきているのだけど、すいすいと泳いでかわしちゃってるから当たっていないんだ。あ、ついにアズマオウが眠っちゃったよ。スターミーなんかは十万ボルトやサイコキネシスとか、結構珍しい技を当てようとしてきたのだけど、ジャンボが光の壁で全部相殺しちゃってるし。傍目から見ても全く試合になっていないのだ。

 全く指示を出さないトレーナーに、プールで遊んでいるような挑戦者ポケモンたち。私がそんな奴らとバトルしたら間違いなく発狂する自信がある。怒るカスミの反応は正しい。本当にごめんなさい。でも私にはどうしようもできないんだ。許せ!

 時折ジャンボがこちらをチラリと見てくるのには、手を振って返している。そんなに心配そうな目で見なくても一人で大丈夫だってー。ただ座ってるだけだから、結構楽なもんだよ。願わくば、早く終ってくれると嬉しいがな。

 そんなジャンボの手には、黄色のサーフボードが抱えられていた。あれ、いつの間に作ったんだろう?

 

「スターミー! いい加減にあいつらなんとかしちゃって!」

「ヘアッ!」

 

 おいおい無茶振りもいいとこな指示だな。空中で回転し始めたスターミーが、勢いをつけてメルに向かっていく。それを避けようとしたメルが、眠りながら浮かんでいたアズマオウに気づかずぶつかり倒れてしまう。意図せずのしかかりが発動したようだ。仰向けに浮かび全く動かなくなったアズマオウに、メルが心配そうにつんつんと小突いている。どうしちゃったの? みたいな顔してるけど、それお前がやったんだぜ。

 そういえばジャンボの姿が見えない。先ほどメルが転倒した拍子に、プールに落ちてしまったのか。どこだろうと探していたら、突然水面から弾丸のようにジャンボが飛び出してきた。サーフボードを足元に、水面下から一気に高波で空中へと自身を押し上げて宙にいたスターミーの背後を取った。その右拳からは目を焼くほどの光電が発せられている。ジャンボの必殺右ストレート、通称雷パンチがスターミーに炸裂した。

 

「ヂュウウウ!!」

「△×●□ーー!!!!」

 

 閃光の後、フラフラと落下していくスターミーを足蹴りにして、ジャンボは先に水面に落ちていたサーフボードに着地した。それを操りメルのもとまで行き、諭して今度は私の方へと戻ってくる。……あれ、終わったの?

 審判もジムリーダーも、何も発しない。これでは降りて二匹の傍に行くこともできない。どうすればいいのさ。暫く待っていると、ようやくカスミが反応を示した。唇が戦慄き、怒号がジム内に響き渡る。

 

「………………な、何よそれぇえええ!?」

「と、言いますと?」

「何でピカチュウが波乗り使ってんのよ!! おかしいじゃない!?」

「そんなピカチュウがいてもいいじゃないですか」

「別に悪くはないわよ!! ちょっと驚いただけで……あーもうっ! いいわ、アタシの負けよ! アンタの勝ちを認めてあげる!!」

「はぁ。どうも」

「ほんっとやる気ないわねアンタ!!」

 

 こればっかりは性分なんです。よし、無事に判定も出たことだし。いそいそと監視台から降りれば、待ってくれていたジャンボの前に座り視線を合わせる。お待たせー。

 すると、『一人でよくできました』と笑顔に書いてある相棒から頭を撫でられた。あれ、立場逆じゃね? アフターケアされてる側になっちゃってるよ私。

 とにもかくにも、これでブルーバッヂをゲットだぜ。待ってろよバーナード、すぐに迎えに行くからな!!




この小説は、番外編の技考察と一部リンクしています。

【メルシュ】
種族:ラプラス
性別:♀
アレコレ:メルと縮めて呼ばれることが多い。のうてんきな性格。フシギバナと仲が良く、昼寝をする時はいつもくっついている。

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