気分は炭鉱夫なのに、口ずさめば「ハイホ~ハイホ~」が出てくる。なぜだろう。ふと作業の手を止めて考えるも、自分で自分がわからない。
ま、いっか。自問自答は頭の隅に追いやって、一心不乱にピッケルを振り続ける。
ガキン! と小気味好い音を立てて、壁の岩がボロボロと崩れ落ちていく。足元にこぼれてきた岩を踏まないように、繰り返し続けていたら背後からドカーンやらバコーンと騒音が響いてきた。この音も何度目だろうか。ピッケルを肩に担いで、反転して相棒の待つスクーターへと戻る。見計らったように差し出された水をいっき飲みして一息ついた。
「ぷはぁ~、生き返る。サンキューな」
「ピカチュ」
「ちょっと休憩するから、ジャンボは一応向こうを見てきて」
「チャー」
相棒が音のする方へ向かうと、私はスクーターから折りたたみ椅子を取り出して座る。夕方頃から掘り続けてもう二時間は経っただろうか。足腰と肩がパンパンに張るくらいには頑張ったと思う。その間に取れた化石と思わしき岩は数十個。果たしてこの中に本物がどれだけあるのやら。物思いに耽っていたら、いつの間にかジャンボが戻ってきて、先ほど掘った岩を拾ってくれていた。何も言わないということは異常がない証拠。
私が一人で掘っている間、ジャンボはすぐ近くでスクーターと一緒に待機。その少し向こうに、野生ポケモンがこちらに来ないよう手持ちの二匹、カメックスのカロッサとフシギバナのバーナードを配置してある。先ほどの騒音は、二匹が野生ポケモンを撃退した音だ。二匹のレベルなら問題ないと踏んではいるが、念のために傷薬をリュックにつめたジャンボが定期的に様子を見に行ってくれている。本当にできた子だよお前は。
5分ほど休憩して、再びピッケルを手に立ち上がる。さて、もう一踏ん張りしますか。
「レッド、いっきまーす」
「ピッカー!」
力なく宣言すれば、相棒は元気に応援してくれた。
えっさ、ほいさ、父さん、バカやろー。
うーん……掛け声のバリエーションがいまいち。
わっせ、わっせ、バルス! ぐぅ~。
あ、呪文唱えたら腹の虫が鳴いちゃったよ。
それは相棒も同じだったようで、後ろから荷物を漁る音がした。ジャンボがおやつを出しているのだろう。想定どおり間食の許可を強請る声が聞こえてきたので、振り返らずに答えた。
「食べすぎ注意。あと、絶対に私の分も残しておいてよ」
「ピカー!」
「ピー!」
あれ、なんか今声が二人分聞こえてきたような……気のせいか。きっと疲れてるんだ、そうに違いない。よし、これで最後にしよう!
ピッケルを思い切り振りかぶって力強く壁に打ちつければ、なぜか天井から岩が降ってきた。慌てて回避するが、落ちてきた岩は結構な大きさで当たれば軽い怪我ではすまされないほど。しかし、その岩をよくみればただの凹凸とは違った模様がある。こ、これはもしや化石の可能性が高いのでは?!
「ジャンボ見て見て、落ちてきた岩……が……あれ?」
興奮しながら背後を振り返れば、そこには黄色い存在ともう一匹、見慣れぬピンク色の存在が仲良く揃って携帯食を齧っていた。これは夢?
突然のことに呆けてしまったが、またもや鳴った自分の空腹音で我に返る。腕時計で時間を確認すれば、おやまあもうこんな時間。そうだ晩御飯にしよう。
「君も食べてく?」
「ピィ!」
頭を撫でながら問いかければ、ピッピが人懐っこい笑顔で応えてくれた。あ、これ本物だわ。