原点にして頂点とか無理だから   作:浮火兎

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06-2

「これよりニビシティジムリーダータケシと、マサラタウンのグリーンによる公式バッジ戦を行います。両者、礼!」

「お願いします!」

 

 審判の号令が発せられると、グリーンは大きな声で応えて90度腰を曲げた完璧な礼を見せた。さっきの不躾な振る舞いからは考えられない礼儀正しさに呆気にとられる。あいつ、こういうところはきっちりしてんのな。無駄に顔は整ってるんだから普段からそうしたらいいのに、勿体ないやつめ。

 

「よろしく頼む。俺のポケモンはこいつからだ」

 

 タケシが取り出したモンスターボールからは、先ほどブルーが戦っていた時と同じくイシツブテが出てきた。対するグリーンも、落ち着いた様子で自らのポケモンを出す。

 

「ほう、サンドか。岩使いの俺に同じ系統でくるなんて珍しい」

「俺は常識に囚われない男なんで」

「いいね。そうこなくちゃ」

 

 挑発して余裕を見せるグリーンにタケシは笑う。お互いのポケモンが出揃ったところで、審判が開始を宣言した。

 先に行動を取ったのはサンドだ。予め指示を受けていたのだろう、イシツブテとの距離を一気に詰め腕を勢いよく振りかぶった。

 

「先手いただき!」

「避けろ、イシツブテ!」

 

 タケシの指示は間に合わず、サンドの繰り出した攻撃はイシツブテの脳天に直撃した。だが、一瞬怯んだだけですぐにサンドを振り払い後退するイシツブテ。

 さすがだ、やはり岩ポケモンは硬い。それでもサンドの攻撃は結構効いていたようで、イシツブテの頭部に罅が入っているのが見える。岩ポケモンに有効打を与えている技となると、格闘タイプかな。見る限り岩砕きか、瓦割りあたりと予想をつける。

 

「やるね。でも、勝負はこれからだ。イシツブテ、ロックカットからの体当たり!」

「っ、まずい! サンド、回避!」

 

 タケシの指示を受けたイシツブテは、先ほど受けた罅割れから表皮を落とし、岩タイプとは思えない速度でサンドに向かって走る。

 その勢いに驚いたサンドは避けるのに一瞬遅れが生じた。重量のあるイシツブテから繰り出された体当たりをもろに食らってしまう。吹き飛ばされるほど強く打ち付けられた身体をなんとか起こして、サンドはイシツブテを睨みつけた。

 

「サンド、まだやれるか?」

「ギャウ!」

「よし、作戦通りいくぞ。砂嵐!」

「させん! 転がるだ!」

 

 グリーンから指示が出されるとサンドは両手を大きく真上に広げた。腕を頭上で回転し始めると、それに合わせてフィールド上に撒き散っていた砂が動き出す。円をかくように動く砂たちは徐々に空中へと舞って行き、あっという間に肉眼で確認できるほどのストーム状へと育った。フィールドを大きく囲み、トレーナーでさえ目元を伏せるほどの大きさとなった砂嵐の中に取り残された互いのポケモン。外側からはまったく見えないが、中では一体どうなっているのだろうか。

 グリーンは何も発しない。先ほどの言葉からするに、すでに作戦とやらは始まっているのだろう。一度砂嵐を起こしてしまえば数十分はその状態を保っていられる。サンドの特性は砂隠れだ。回避力の上がったこの機に、一気に勝負へと持ち込むつもりか。

 イシツブテの転がるは砂嵐の完成に一歩遅く、サンドに届く前に私たちの前から姿が見えなくなったので、当たったのかどうかも分からず仕舞いだ。このままでは転がっていても拉致があかないのは誰の目にもわかる。タケシはイシツブテへと大声で硬くなるを指示した。いくら岩ポケモンだから砂嵐の影響がないとはいえ、何も見えない状況でも相手は何かしらの攻撃をしかけてくるだろう。それを耐える自信からくる防御姿勢か。さすがジムリーダー。

 だが、グリーンの顔は笑っていた。嫌な予感がする。

 

「ブルー、鞄で頭を抑えて伏せて」

「え?」

「いいから早く!」

「はいっ」

 

 言われた通りに行動したブルーを確認して、私も同じく自分の頭を庇いジャンボを抱えて地面に伏せる。数秒も立たないうちに、ドォン!! と大きな音が響いて爆風が襲った。フィールドの特性からか、そこかしこにばら撒かれていた石ころや砂粒が身体を打ち付けるが、予め予想していたためなんとかなった。

 落ち着いたかな、と思ったところで顔をあげる。霧のように少しだけ砂が舞ってはいたが、どうやらもう安全らしい。相棒を放すと、ブルーに声をかけて引っ張り起こす。

 

「大丈夫?」

「は、はい……びっくりしました」

「だろうね。イシツブテが自爆したんだから」

「自爆ですか!?」

 

 驚いたブルーは慌てて首をフィールドへと向ける。そこには吹き飛んで荒れたフィールドの中心で、放射模様を描きぐったりと倒れこんでいるイシツブテがいた。審判がカウントを取るまでもなく、戦闘不能なのは一目瞭然である。倒れる直前の足掻きか、はてまた堪忍袋の緒が切れたか。

 基本的にイシツブテは我慢強い性質を持っている。登山道などでは道行く人が気付かず踏んでもまったく気にしないほどへっちゃらなのだから。そのイシツブテが耐えられなくなって爆発したのだ。 相当なダメージを受けたのは間違いない。

 対するサンドの姿は見えない。審判が不審に思ってグリーンの方を見た。

 

「もう出てきていいぞ、サンド」

「……ンギャ!」

 

 地面からひょっこりと顔を出したサンド。そうか、地中に回避していたのか。

 

「すごい。あのサンド賢いんですね」

 

 ブルーは感心したように言うが、どうだろう。私は逆に考える。

 確かにサンドは特性の砂隠れで砂嵐の中では回避力があがる。レベルが高ければ自爆回避は自力で可能だろうけど、グリーンのサンドを見る限りそんな芸当が出来るとは思えない。あのタイミングでトレーナーの指示もなく、咄嗟に潜ることができるのか?

 

「イシツブテ、戦闘不能!」

 

 審判がそう告げるより早く、タケシはモンスターボールを手に取っていた。イシツブテを回収すると、今度は別のモンスターボールをグリーンに向ける。

 

「驚いた。一体どんな作戦だったのか凄く気になるな」

「種明かしはバッジを頂いてからですよ」

「なら残念だけど、自分で答えを見つけることにしよう。いけっ、サイホーン!」

 

 出てきたのは大きな体躯から威圧感を感じさせるサイホーンだ。一声嘶いてサンドを見据えるその姿は、やる気に満ちている。そのせいか、少々顔が強面になりすぎて隣のブルーが私の背中に隠れちゃってるけど。

 

「今度は、さっきのようにはいかないよ」

 

 タケシの雰囲気が一転して厳しさを増す。そして、再び審判の開始を告げる宣言が放たれた。




イシツブテについての説明を(今更)変えました。
2015/01/19

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