百合子たちが注文するためにレジに並んでいるうちに復活した三人も自分の分を頼んでちょうど空いていたテーブル席に座った。
「まったく、もっと他にやりようはねえのか?」
「ねェ」
百合子がバッサリと叩き切るが諦めの悪い男どもはなおギャーギャーと騒ぐ。
「テイト君の言うとおりだぜい。オレと赤ピはしがない無能力者だってのに、上やんの突込みを喰らったら高速船で三途の川を渡り切っちまうにゃ~」
「あ、でも向こう岸できれいなお姉さんが僕を待ってるんだったらそれでもええなぁ」
「音速で渡らせてやるから帰ってくンな。それとインデックス、そいつにはもうシェイクは入ってねェ」
周りで抗議を申し立てる男どもを一蹴して百合子はすでに空になったシェイクをほんのわずかでも吸い取ろうと無駄な努力をしているインデックスのために追加のシェイクを買いに行くために席をたった。
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「すみません。ただ今当店は混雑しておりまして、空席はございませんが・・・・・・」
シェイクを買い終えた百合子が店員の困ったような声が聞こえてきて、百合子がそちらを向くと巫女服を着た少女が山のように積まれたハンバーガーをトレーに積んで佇んでいた。
「どォした?」
「席を探している。貴方は?」
「オレは追加のシェイクを買いに来たンだが・・・・・。それ食べれンのか?」
「・・・・・買いすぎた。クーポン券がたくさん余っていたから」
百合子がハンバーガーの山を指差すと少女がそう答える。
「余分な分を寄越せ。相席でいいなら座らせてやる」
「行く」
店員もホッとしたような顔をしてペコリと頭を下げると気恥しさからか百合子はわざとらしく舌打ちをして自らの席に向かう。
「むっはぁあああああああああああっ!!巫女さんやでっテイト君っ!!」
「なかなか巫女服もいいな。百合子も来てみねえ?」
「その口を縫いつけンぞ。オラ、さっさと向こうに行きやがれ」
帝督を強引に反対側の大男二人の方に移動させると、インデックスと共に空いた方の長椅子に座る。
「もっと詰めろって!!」
「無理ですたいっ!!これ以上いったら俺が落ちちゃうにゃ~」
「目の前に天国が広がってるんになんでこんな目に合うんや~~っ」
三人掛けの席とはいえ一人一人が一般人よりもだいぶ大柄な三人が並べばべったりと密着し無ければならない。
むさくるしい地獄絵図が目の前で完成しているが、そのおかげで小柄なインデックスと百合子、そして巫女服を着た少女は余裕をもって座ることができた。
「ちょっと百合子さん!?体格を考えたらアンバランスだと思うんだけどっ!!」
「テイト君に俺に赤ピはさすがに無理だと思うんだニャ~」
「そうやっ!!僕とインデックスちゃんが変わるべきやっ!!」
三人が抗議の声を上げると、百合子がスッとストローを三本摘んで音速の数倍以上の速さで三人に向けて投擲した。
投擲されたストローは空気摩擦によって発生した熱によって一瞬で溶けてしまったが、それでも一メートルもない範囲にいる三人の頬に一筋の傷を作るまでは持ったらしい。
「変態野郎ォ共はそこで大人しくしてやがれ」
「「「りょ、了解です・・・・・・・」」」
百合子にギロリと睨まれ力関係を再度思い知った三人は抗議をぴたりと辞め、互いに縮こまってなんとか椅子に座った。
「そういえば。これ」
静かになった三人を無表情で見やると巫女服の少女が思い出したかのように机の上に置いたトレーに積まれたハンバーガーをズイッと百合子に差し出した。
「あァ、それはこのシスターにでもやってくれ」
「えっ、いいの?」
「待て。そいつがいらない分だけだ」
いきなり飛びつこうとして百合子に止められたインデックスはまるでごちそうを前にした犬のようにソワソワと許可が下るのを待つ。
少女は数個手に取ると後をすべてインデックスの前に置いた。
「はい。あとはいい。食べて」
「いただきます、なんだよっ!!」
インデックスは両手でハンバーガーを掴むと包装紙を器用に開いて勢いよくかぶりついた。
「はい。これは貴方たちのぶん」
少女は手に取った数個のうちの一つを自分の前に置いて、1つづつ百合子たちに配った。
「お礼」
「うっひょーっ!!巫女さんからのお恵みやーっ!!」
「ありがたくいただくんだぜい」
赤ピと土乃門が感涙で頬を濡らしながら噛みしめている様に苦笑しながら帝督が食べようとした時、ほんの少しだが困ったような顔をした百合子に気が付いた。
「どうしたの?もしかして。嫌いだった?」
「あ、いや。こいつ小さいとき実験ばっかだったから、そんなに人から感謝されたことが無くてさ。別にいらないわけじゃなくてどうしたらいいのかわかんねえんだ」
「そう。じゃあこれは交換。電車代があと百円足りないから貸してくれる?」
「チッ・・・・・・・」
百合子は財布から野口さんを取り出すと少女の手に渡す。
「こいつとオレの分の代金だ。釣りはいらねェ」
「分かった。ありがとう」
「あァ」
ニコリと笑った少女に恥ずかしそうに百合子が顔をそむけて答える。
「じゃあそろそろ。っ・・・・・!!」
「どォした?」
「迎えが来た」
少女の目線の先の入り口から何人もの黒服にサングラスをかけた男たちが入ってくると、百合子たちの座っている席を半円を描くように囲みこむ。
どこか男たちは百合子たちをにらんでいるようにも見える。
いつでも動けるように百合子と帝督が身構える中、少女がすっと立ち上がり軽くお辞儀をした。
「じゃあ。また会えたら」
少女が出入り口に向かうと男たちの壁が道を譲り、その後ろにゾロゾロと続いていった。
少女と黒服たちの奇妙な行列が去って行ってから、帝督が肩の力を抜いた。
「なんだったんだあいつ等・・・・・?」
「あァ、変なかンじだったなァ」
「もしかしてどこかの深窓のお嬢さんやったのかもしれへんでっ!!そいで逃げ出してきたんかもしれんし。あぁ、僕と彼女の恋は阻まれる運命なんや」
「「「赤ピ。きもい(ぜい)」」」
三人に足蹴にされながらも妄想にふける赤ピを放っておいて、インデックスはハンバーガーの山を平らげて、シェイクを飲み干した。
「食べたんだよっ!!」
「晩飯食えンのか?」
「だいじょうぶかも。これぐらいなら夕飯の時間までぎりぎり持つんだよ!!」
「そォかい」
以前、夕飯前にもポテトチップスのパーティ用のサイズを何袋も開けてなおかつその他全員を合わせた分よりもさらに食べたブラックホールの胃袋を見せつけたことを思い出した百合子は要らない心配だったかと思い直すと立ち上がり食べ終わった後のゴミを片づける。
二人と別れ病院に向かおうとしたとき、帝督がふと思い出した。
「打ち止めちゃんたちに土産はどうすんの?」
「それを早く言いやがれェッ」
「理不尽っ!!」
「お菓子かってもいいかな!!」
「ダメだ。我慢しろインデックス」
「ええっ!!」
日が少しだけ傾いた昼過ぎの道を三人は歩いて行った。