疾走しつつ逃げ回ること数分、突然のほぼ直角の急転換によって生み出された強大なGに引っ張られブチブチと体の中で嫌な音がする。
「な、なんだっ!?」
その原因を知るために当麻が顔を上げるとマグマが噴出したように炎の巨人が現れ、当麻の肌を発せられる高熱でチリチリと焦がす。
「これは・・・・・、イノケンティウス・・・・・?」
法王級に指定される大魔術はその強力さと必要とされる能力によって必然的に使用者は限られてくる。
アキの手をすり抜けて地面に足を下した当麻が驚いて周りを見渡すと、物陰などにうまく隠された見たことのあるルーンを見つけた。
「どういうつもりだステイル?」
「ある人にあなたを捕まえてくれと頼まれたんでね。しょうがないから僕と神裂で捕まえに来た訳さ。そしたらちょうど今学園都市では面白い祭りが催されているらしいからさ」
「・・・・・・・・」
イギリスには当麻の知り合いは多く、特に『必要悪の教会』に所属している彼らを強制的に動かせるほどの人物と言ったら二人しか思いつかない。
そしてその二人のどちらもが当麻にとって最上級の危険人物である。
冷や汗が滝のように背中を濡らし第六感が警報を鳴らすので当麻が応援を呼ばれる前に慌てて路地裏に逃げ込もうとする。
「危ないっ!!」
建物に光が遮られてできた闇の向こうからいきなり現れた剣が当麻の肩口を切り裂く直前、間一髪でアキが間に入りその剣を受け止めた。
「っ!?」
「ひさしぶりだし当麻」
「・・・・・・・久しぶりだな・・・・」
その声には数日前に会った記憶があるのだがそこは触れないほうがいいだろうと思った当麻がその声に応えると、闇からまるでネズミを狩る猫のような顔をして見るからに上機嫌な真っ赤なドレスを着た女とそのわきに立つ高級感漂うスーツを着こなした男が現れた。
「キャーリサ・・・・に騎士団長・・・・・。なんでここにいんだよ、つか止めろよ」
「許せ。キャーリサ様に突然簀巻きにされたかと思うと気が付いたらここにいたんだ・・・・・」
騎士団長の独白に当麻は唖然としながらその隣に非難の視線を送る。
しかしキャリーサはそんなのどこ吹く風のように手に持った剣をゆらゆらと揺らしながら獰猛な笑みを浮かべていた。
「そんなことより、今日は標的を捕まえればそいつを奴隷にしてもいいらしいな」
「ダメ。アキがさせない・・・・・・」
バチバチとにらみ合う二人の間で火花が散る。
徐々に殺気があたりに満ちていくのを肌で感じながらどうしたら始末書を一枚でも減らせるかと考えていた時だった。
「おいおい。私を除け者にして始めようとするなよ」
今にも戦場と化しそうな場に堂々と現れたのはこの場にとても不釣り合いな見た目の小柄な少女。
しかしその少女から発せられる覇気はキャリーサに匹敵する。
「バードウェイ・・・・・・。お前もか・・・・・」
警備はどうなってんだと呟くがおそらく強引に突破してきたのだろうと予想してため息を吐き、蟻が象に立ち向かうがごとくわずかながら抵抗をしただろう警備の方々に手を合わせる。
「ん?なんだ、国政ほっといてこんなとこで油を売っていていいのか?」
「お前こそなんでこんな極東にいる?お前の本拠地は向こうだろーが」
「当麻はアキが守る・・・・・・」
一人一人が世界でも化け物クラスの強さを持つ三人が互いの得物に手をかける。
ほとばしる殺気と高濃度の魔力の余波をもろに浴びてひびが入っていくアスファルトを眺めながら当麻は何とか被害が最低限で済むように願う。
と言っても学園都市が全壊か、その一歩手前かの違いだが。
そんな時、当麻に救いの神が舞い降りた。
「とうま~!!」
「ん?」
「上だよとうま~」
「上って・・・・?」
当麻が上を見ると手を振っているインデックスが長身で髪をポニーテールにしている女性に抱きかかえられて近くのビルの屋上ぎりぎりにいた。
「お願いかおり」
「ご武運を」
「って、おいっ!?」
女性はインデックスを片腕で持ち上げるとそのままインデックスを空中に投げだした。
当然、自力で魔術を使えないインデックスがなんのすべもなく真下に落ちていくまさかの光景に当麻は慌てて落下地点に駆けだした。
「とどけっ!!」
当麻は地面に叩き付けられる寸前のインデックスに体当たりするようにして受け止めると体を入れ替えてエネルギーのすべてを自らの肉体で受け止める。
「ぐふっ!?」
一気に空気が肺からおしだされ苦しげな悲鳴を当麻があげるが幸いインデックスにも当麻にも大きなけがは無かった。
「ったく。なんでこんなことしたんだ?」
「えへへへへ。だってとうま・・・・・・」
『上条当麻アウト~。ってかインデックスちゃんズルいですよ!!』
陽夏のズルいコールが続く中、ゴチャゴチャしている頭をようやく整理し終わって答えを導き出す。
「あ・・・・・・」
鬼ごっこのことなど完全に抜けていた当麻は自分のあまりの必死さに苦笑する。
「ごめんねとうま。私がとうまを捕まえるのはこうでもしなきゃ無理だったから」
「それよか怪我が無くってよかったよ・・・・・・。で、悪いな二人とも、捕まっちまった」
「まったく、ここまで来て徒労とは。今度何かで償え」
「お前はうちの最終兵器だろーが。こんな無茶なことは二度とするなよ」
先ほどまで対峙していた二人はともに目的が喪失したためにため息を吐いてそのまま去っていく。
当麻もこれでリタイアとなったためにまだ逃げ回っている他の者たちに謝りながらインデックスと一緒に立ち上がる。
「さて。どこかに行くか?」
「いいの?じゃあ・・・・・・・・」
インデックスが希望を言おうとした時、電撃や炎が当麻に襲い掛かった。
「なにっ!?」
「げ・・・・・。忘れてた・・・・」
飛んできた方向には二人の修羅が仁王立ちしており、その後方には何十人もの能力者が並んでいる。
「ちょっと~。なんでちびっ子と一緒にいるのかな~?」
「ロリコンは犯罪ですよぉ?今のうちに私の修正力で脳内をいじっときましょうか☆」
「えっと・・・・・。もう上条さんはリタイアしたのでその攻撃はダメじゃないでしょうか・・・・・・・・・」
「「知らないわ(よ☆)」」
その声と共に当麻めがけて雨のように降り注ぐ能力の数々。
「その数は軽く上条さんが死んでしまいますっ!!」
「あっ!?待てやゴラァッ!!」
「みなさ~ん。あのうに頭をこんがりの焼きウニにしちゃうんだゾ」
当麻は絶叫しながらインデックスを抱きかかえると二人に背中を向けて猛ダッシュで逃げ始める。
その背中には美琴を先頭に、食蜂に操られた能力者たちが続く。
「行け~っ!!走るんだよとうま号!!」
「上条さんはお馬さんじゃありませんよインデックスさん!?」
「いいから逃げるんだよ!!」
当麻の背中に移動したインデックスはキャッキャと笑いながら前を指差す。
「ったく。行くぞインデックス。落ちるなよ?」
「分かったんだよ」
当麻の服をしっかりとインデックスが握りしめたので当麻が全力で逃げ始める。
「追えっ!!追うんや!!あのリア充を、ワイらの敵を八つ裂きにするんや!!」
「「「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」」」
「なんか新しい人たちも来たんだよとうま!?」
「先頭に立ってるの青ピじゃねえか!?」
「おのれ上やん・・・・・。今朝のことといい、銀髪美少女背負って、女子中学生二人に追い回されて・・・・・。うらやましいから一発殴らせてくれへんか?」
「お前には小萌先生がいるだろうが!!」
そう絶叫する当麻は逃げながらふと口元に笑みを浮かべる。
あの頃と比べれば当麻の周りには馬鹿をやったり厳しくしかってくれる友人がいる。
慕ってくれる人や心配してくれる人もいる。
こうした騒動に巻き込まれるのも度々あるが当麻はこの日常がとても大切で大事にしているのだ。
「どうしたの当麻?」
「いやなんでもない。はやく逃げ切って晩飯の食材を買い込まないとな」
「それは一大事なんだよ!!急いでとうま!!」
当麻とインデックスは後ろから聞こえてくる怒声を置き去りにしてスーパーまで逃げて行った。